プロローグ「精霊金髪幼女で八倒」
「お兄ちゃーん!!起きてよー!!」
少女が兄を呼ぶ声が響いた。
兄はいつも通りにもやのかかった頭を叩き、強引に体を起こす。
「もう朝かよ……。学校の準備……」
そんなことを言って、少年は体を起こし大きく伸びをした。
「時計時計……」
まだ寝ぼけた頭で青年は現状の把握につとめるべく、目をつむったまま手探りで時計を探し、呟いた。
「おかしい……」
先ほどから手探りで動き回っているはずの右手に、物が当たる感覚がまるでない。
(あっ……、昨日掃除をしたからか?)
寝ぼけた頭でそんなふうに当たりをつけ、少年は重い瞼を開いた。
「何じゃこりゃ?」
少年は最初に、自分の目を疑った。
次に、自分の頭を疑った。
最後に、自分の精神を疑った。
視界が、ただただ白かった。
「はははは、こりゃあ夢だ……、間違いねぇ」
少年は、目の前の現状をそう解釈した。
少し涙のようなものが見えたが、ご愛敬である。
「こういう時は頬っぺたを抓れば良いんだっけか?」
そう言うと少年は右手で思い切り頬を抓った。
「痛ぇ……、ってことは夢じゃねえ」
そうつぶやくと頬を抓った右手をグーに握りかえた。
そして、渾身の力で頬を殴る。
突然頭を襲う衝撃
少し遅れて口の中に鉄の味が広がる。
そして、この衝撃で完全に目が覚めた。
「マジかよ……、ハハハ、寝よう」
現実を知ったはずの少年は、その現実を捨てて再び眠りにつこうとする。
(最近、いろいろあったからな……、疲れてるんだろう)
「お兄ちゃーん!! 起きないのー!!」
再び、妹の呼ぶ声がした。
(これは夢だ。これは夢だ)と少年は自分に言い聞かせて眠りの世界に堕ちようとする。
そもそも、俺に妹なんかいないじゃないか
「いいもんね。お兄ちゃんがその気なら、こっちにも考えがあるもーんだ!!」
はははは、何でも来い。どうせこれは夢なんだ。そうでもなければ真っ白で壁も岩も水も見えない世界なんて、広がっていてたまるか!!
そう少年はおざなりに意識を手放「幼女ぼでーぷれーすっ!!」せなかった。
「いってぇな、何しやがる!!!!」
突如腹を襲った鈍痛に飛び起き、少年は勢いよく起き上がった。
そして、痛みの元凶である金髪の幼女をギロリ睨みつける。
その幼女はと言うと
「おはよう、お兄ちゃん。今日も相変わらずのフウセンウナギフェイスだね☆見てて飽きないよ」
などと、失礼甚だしいことを
(コイツはフウセンウナギを知って言ってるのか? いや、俺は確かに水泳部で『二中のアナゴ』と呼ばれていたことがあったが……)
少年の体がぷるぷると震え出す。
「ってことはお兄ちゃんは半魚人って分類になるのかな?」
(半漁人だと!! こいつは俺の何を知っているんだ)
少年はトラウマと言うトラウマを頭の中から引っ張り大してあばばばばば
つまり、少年の被害妄想は留まることを知らなかった。
「かくなるうえは!!!!」
少年は左手で金髪幼女の頭を掴み持ち上げる。
「でも、人間の要素が見当たらないから、フウセンウナギ100%?」
少年は無言で右腕を引くと、
「わかったよ!! フウセンウナギとフクロウナギのはーふでばきばきばきばきごきばきあばばばばばばばばば!!!!」
とりあえず先程から失礼極まりないことをほざきたおす幼女を思い切り殴り飛ばした。
何だか地面にぶつかって曲がったらいけないところがボキバキ音を立てて曲がったようだが、そんなことは関係ない。
「痛たた」
少年は無言で殴り飛ばされた幼女に向かって歩いていった。
そして十分近づくと、うずくまっている金髪幼女を見下ろし、睨みつけた
「ひどいよお兄ちゃ」
少年は握りしめた拳を後ろに引いた。
幼女は
「ごめんなさいごめんなさい、調子に乗りましたごめんなさい。殴らないでくださいごめんなさい」
「現状の説明」
「えっ、はい!! 現状の説明ですね少し待ってください!!」
このあと、右腕を振り上げながら話を聞く少年と、怪我をして涙を流しながら質問に答える幼女という、お巡りさんが見たら、まず放っておけないような光景が完成した。
その数分後。
そこには、宝石があしらわれた黄金の椅子に座り、睨みを効かせている少年と、その目の前で平伏している金髪の幼女の姿があった。
「つまり、簡単に要約すると、『俺は死んだ』ってことだな?」
「些か簡単にしすぎているような気がしないでもないのですが、その通りでございます」
金髪幼女はそのまま続ける。
「地上に下りた天使の暴走とでも言いましょうか……精霊の仲たがいに巻き込まれて、貴方様は死んでしまわれたのでございます。本来ではその場で精霊によって蘇生が行われなければならないのですが、その場に居合わせた精霊はいかんせん未熟な者でして、蘇生の魔法が完成したときにはすでに貴方様は灰になられていまして……」
金髪幼女は申し訳なさそうに目を伏せた。
「で、俺はもう、向こうの世界には戻れないってことか。じゃあ、とっととお前の言う天国だとか地獄だとかに連れていってくれよ」
「しかし、本来お亡くなりになる予定でなかった貴方様を死後の世界に連れて行くのは些か問題があるのでございます」
金髪幼女は頭を深々と下げて言った。
それを見た少年は肩をすくめて
「それはお前の都合、これは俺の都合ね。OK?」
「しかし……」
グシャ!!と、大きな音を立てて地面にこすりつけられている金髪幼女の額を踏み抜いた。
「で、俺はどうなる?このままテメェと一緒に末永く暮らしましたとかいうばかけたオチはごめんなんだが?」
「ううぅ」
額を踏み付けられた幼女は、頭を上げて少年を見た。
「この鬼畜!! 人外!! 人で無し!!」
「はははは、何とでも言え!! 俺は今から実際に俺が死ぬまでの何十年もの間ここにいろって、自分勝手なことを言う精霊にムカついてるだけだからな!!」
「ううう……、この格好で出てきたらみんな優しくしてくれるのに」
「運が無かったって諦めるこった。で、返事はどうしたよ?」
少年はニコニコと笑いながらじわりじわりと泣き出した金髪幼女に近づき、対照的に金髪幼女は引き攣った笑顔と凄まじい速度で後ずさる。
「ほらほら、おチビちゃん。お兄ちゃんが優しく頭を撫でてあげるからさ、こっちへおいでよ。」
「ひっ!!貴方様がここに残るほかに元の世界で新たな命を授かるか別の生き物として生まれ変わるか別の世界へ転生するかなどの方法がございますです!!!!!!!!!!!!!!」
金髪幼女はそう一息で言い切ると顔をふせて丸まり、だからもう許して……と、消え入りそうな声で呟いた。
「別の世界?」
「はいぃ!! 世界にはあなたさまがおられた世界の他に様々な世界がございますです!! 科学が異様に発達した世界、龍が空を飛び人々との死闘を繰り広げる世界。魔法が広まり、魔法使いや魔獣が行き交う世界など、様々でございます!!」
幼女が震えた声で出来るだけ少年の興味を引くように、自分に怒りがまわらないように言いきった。
少年はそれを聞くと、少し考えたそぶりを見せて言った。
「ふうん、面白そうだ。どこかに俺を飛ばせ」
場所は変わらず、どこまでも白が続く空間。
死ぬべきでなかった少年は白いカプセルの中で寝かされていた。
金髪の幼女はその横に、寄り添うように立っている。
「本当によろしいのですか? 転生先や憑依の対象や自己ステータスなども決めることが出来ますよ」
「そんなの決めちまったらつまらないだろ。前世だって生まれて来るまで、生まれてきてもわからないことだらけだったんだ。その時その時、自分にある力で、乗り越えて行くさ。」
「ずいぶん自信があるんですね」
少年はにやりと口を吊り上げて、
「そう見えるか?」
「はい」
「まぁ、自分の力も、どこに飛ぶかも、全部ランダムの大博打だ。せいぜい楽しませてもらうさ。」
「御健闘をお祈りしております」
「そうだな、さようなら」
「さようなら」
金髪の幼女の精霊はぺこりと少年に対してお辞儀をすると、笑顔でカプセルの横にある機械に近づいていく。
そして、その機械に小さな白い手をおくと、そのままその手を押し込んだ。
ーーピー。コード29564824異空間次元転送システム作動。続イテデータノ所得ヲ行イマス。ーー
カプセルが機械音を立てた。
ーー世界データ“魔法先生ネギま!”取得完了。転送ヲ開始シマス。ーー
少年は目をつむり、カプセルの中は煙に包まれていく。
ーー転送完了シマシターー