釘宮円で葛藤   作:NANA@

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楽しんでいただけたら幸いです。


第十二話「彼女達で思考」

 

 

 そんなこんなで黒龍を倒した俺たちは、またそんなこんなでテンペテルラへと戻ってきた。

 

 黒龍は無事に運ぶことができた、というのも美砂の力あってのものだ。

 

 あいつ、40mもある黒龍を素手で引きずって20km以上も歩きやがった……

 

 バケモンだろ……

 

 まぁ、そのおかげで俺と椎名は楽ができたのだから良いとしよう。

 

 そして、黒龍の角や甲殻などによって元手ができた俺たちはしばらくこの街に腰を落ち着けている。

 

 あいつの革や角は結構いい値で売れたんだが、あいにく何年も遊んで暮らせる程の値段でもなかった。

 

 せいぜい生活の元手になった程度だったな。

 

 桜子のギャンブル運に頼ってカジノにでも行こうかとも思ったのだが、あいにくここにはそのような娯楽がない。

 

 そうなると自分たちで稼ぐしかないんだよなぁ……

 

 それと“創造主(かあさん)”のことだが、まだ何も情報が手に入れられていない。

 

 美砂と桜子はまだ俺には話さないでいるみたいだし。

 

 俺もそれでいいと思ってる。

 

 第一、いくら美砂と桜子が強くても、“創造主(かあさん)”を相手に勝てるとは思えない。

 

 つまり、俺がそれを知っているからといってどうこうなる問題でもないんだ。

 

 知っても知らなくてもどうにもできないんだから、考えても無駄だろう。

 

 “鬼神の童謡”についてもいい情報は入ってきていない。

 

 やっぱり、珍しい魔法具みたいだ。

 

 メガロとかの都会に行けば情報が入ると思うのだが……

 

 まあ、ないものねだりをしても仕方がない。

 

 「おーい、エンちーん!! “もえもえラーメン”注文入ったよ!!」

 

 「がってん、桜子!! お時間頂きまーす!!」

 

 なかなか充実した毎日だしな!!

 

 

 

 

 

 

 テンペテルラの大集会所であるテント。

 

 その中央広場から離れた位置に建つ一軒の店。

 

 その看板に書かれた文字はこうだ。

 

 “冥土殺気”

 

 漢字が違う上に読みすら違う気がするのだがいいとしよう。

 

 なんせここは魔法世界。

 

 漢字を読めるやつなんて居やしない。

 

 それは赤い屋根の華やかな雰囲気の店だった。

 

 扉の前には可愛らしいイラストが書かれていて、無理やり通行人の目を引き寄せる。

 

 その中の雰囲気もとても華やか。

 

 猫耳の元気メイドが出迎えてくれる。

 

 経営者の人数は三人で、コックが一人、ウェイターが複数人だ。

 

 矛盾しているように聞こえるかもしれないが、矛盾はしていないぞ!!

 

 

 

 

 

 

 「エン様!! 外にありえないほどの長蛇の列が!! なんなんですかこれは!? なんでこんなぼったくり料金で客が入るんですか!?」

 

 そう言いながら外から戻ってきたのは柿崎美砂。

 

 彼女自身もきらっきらのメイド服にふりっふりのフリル。

 

 それはもう見てるこっちが暑くなってくるような服装だった。

 

 「俺の料理がうまいからだろー。あー、うれしいなー」

 

 エンは悲鳴にも似た柿崎の言葉に棒読みのセリフで返す。

 

 「私がとっても可愛いからだと思うよ」

 

 一人で複数人の分身を操り、注文を受けては運んでいる桜子がそう答えた。

 

 数人がケチャップでハートを書いたり、萌え萌えジャンケンなどをしているのはご愛嬌だ。

 

 それにため息をついた柿崎は無理やり営業スマイルに戻り、ウェイターの仕事をこなす。

 

 そんな二人の様子は、意外なほどにその仕事ににあっていた。

 

 それもそのはずで、彼女たちは何を隠そう、少し前までとあるお城で本物のメイドとして働いていたのだ。

 

 そんな二人の美人店員と声だけ聞こえるコックの噂は街中に広がり、その売上は中央酒場に大打撃を与えているのだが、そんなことエンは知らない。

 

 「メイドさん!! これ一つ」

 

 「かしこまりましたご主人様。 エンちーん!! “愛があちゅいぜ!! ぺぺろんスパゲッティー”一つ!!」

 

 「任せろ!! お時間頂きまーす!!」

 

 エンの少し霞んだ姉御ボイスが、街の男どもの脳を刺激し、コックのエンという存在がどんな女性かを妄想させていることなど、エンは知らない。

 

 それが店の人気の秘密になっているなどエンは知らない。

 

 なんせ彼女、この店のメニューを一人で切り盛りしているのだ。

 

 忙しくないわけがない。

 

 そんなことを考えている暇もない。

 

 同時に四つのフライパンに手をかけ、片手間でパフェを作り上げていく。

 

 まさに神業、どこで覚えたんだと問い詰めたい。

 

 そんなエンは、ラーメンとかスパゲッティとかオムライスとか、もうホテルのコック顔負けの手早さで次々に作り上げていく。

 

 ひと品10分ほどで出来上がる簡単料理なのに、8ドラクマもするのだから驚きの値段だったりする。

 

 それでも注文がやまないのは、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか……

 

 どちらにしろ店が終わったあとに金を数えてニヤニヤしているエンの姿が目に浮かぶ。

 

 金の亡者め……

 

 地獄に落ちろ……

 

 まあ、そんなエンだが彼女は自分が人前に出て何かするのが苦手なことをしっかりと理解している。

 

 よって、この厨房の仕事を引き受けたのだ。

 

 人前に出ることはもうあがり症なエンにとっては地獄のような状態なのだ。

 

 「エン!! “こっくたんと十分おしゃべりストロベリー”入りました!!」

 

 「はい、ただいま……………………………………………………………………………って、ちょっとまて……1000ドラクマも払ってまで俺と話したいと思ったバカはどこのどいつだ……」

 

 「ここにいるみんなに割り勘を提案してみたんだけど、みんなエンちんに会いたいんだって!!」

 

 「余計な提案してんじゃねぇぇぇぇえええええええええ!!!!」

 

 エンの悲鳴はとてもよく響いた。

 

 

 

 

 

 

 顔を真っ赤にして恥ずかしがったメイド姿の女の子に、お客さんはたいそう萌えたという。

 

 

 

 

 

 

 まぁそれはおいといて、

 

 

 

 

 

 

 一日の仕事を終えた夕方。

 

 エンたちはその店の後片付けをしていた。

 

 こんな生活をはじめてから二週間が経ち、ようやくお客さんが入ってきた頃。

 

 三人(エン一人?)で恥ずかしがりながらも頑張ってビラ配りをしたかいがあったというもの。

 

 収入も右肩上がり。

 

 修行も順調。

 

 そんな中の情報だった。

 

 「メガロからの輸入船が途絶えたって?」

 

 「うん……テンペテルラからも調査団を派遣したみたいだけど帰ってこないって、新聞に書いてあったよ……」

 

 驚くエンに対して、椎名桜子が重々しくそう答えた。

 

 「そりゃまた……食べ物とかが来なくなるんじゃないのか?」

 

 「テンペテルラの食料は周りの農地と桃源方からの輸入に頼っているから……それは大丈夫だと思う……」

 

 椎名が口を開く。

 

 桃源とはテンペテルラの南西に位置する集落だ。

 

 テンペテルラの優れた鉱山資源と桃源の農作物とを海上貿易によって交換している。

 

 どちらも温厚な街で比較的治安がいい。

 

 メガロメセンブリアは無私の心で世界の人々のために力を尽くすことを使命とした、技術の最先端をいく大都市だ。

 

 その政治機関の最上位に位置するのは“メガロメセンブリア元老院議員”であり、民主主義を掲げた国である。

 

 「困るのはどちらかというとメガロメセンブリアの方だと思いますが……あの国はここの鉱山資源に頼りきっているはずです」

 

 「えっ、南の方にも鉱山くらいあるだろう……」

 

 「ヘラス帝国もメガロメセンブリアと交流しているとは思うけど……それでも何も音ざたがないのはおかしいんだよ……」

 

 エンはイマイチ状況がわからないまま話を続ける。

 

 「メガロメセンブリアまで行ってみるか……。そうすりゃ流石にわかるだろうし」

 

 そんなエンの言葉に桜子の耳が反応した。

 

 その瞳が、いつもなら透き通ったガラス玉のように爛々と光っているはずのその瞳が、エンにはなぜかとても濁って見えた。

 

 それを見かねたのか柿崎が、

 

 「船を買いましょう。とびきり逃げ足の速いマンタがいいですね……」

 

 「船……飛行艇か?」

 

 「そうです。精霊炉のついていない燃料を積むタイプなら、そんなに高くもないですし、操縦士にもよりますが、そこそこスピードも出ます」

 

 「まぁ、お前がそう言うなら……」

 

 エンはその何とも言えない雰囲気に、ただただ息を呑むばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 エンは一人、シャワー室に立っていた。

 

 もちろんこの時代のこの場所に温かい電子機器などない。

 

 本来ならあるはずのないものだ。

 

 そう、本来なら……

 

 「このためだけに、美砂は水を召喚してくれて、桜子は温度調節用の“樹”を作ってくれたんだから、感謝しないとな……」

 

 エンはその目隠しで目を塞いだままの状態で、体のすみずみまで洗っていく。

 

 この時間は彼女が一人で考え事ができる時間。

 

 何にも邪魔はさせたくないのだ。

 

 もちろん自分の煩悩にも。

 

 その光景は少しえちぃ気がしないでもないのだが……

 

 「メガロメセンブリエアの連絡が途絶えた……かぁ……」

 

 エンは深々とため息をついた。

 

 その表情にあるのは困惑。

 

 彼女の思考はまだ18歳のそれだ、知識も経験も圧倒的に少なすぎる。

 

 そんな彼でも思いつく可能性がある。

 

 「メガロメセンブリアによる武力行使……」

 

 そう、メガロメセンブリアがテンペテルラにたいして戦争を仕掛ける可能性だ。

 

 彼はこの世界の未来を知っている。

 

 テンペテルラはこの魔法世界の北に属する集落だ。

 

 原作の時には“メセンブリーナ連合”と言われるメガロメセンブリアを盟主とした集団の一角を担うことになる。

 

 今現在、そんな連合はない。

 

 つまり、これから、テンペテルラはなんかしらの理由でメセンブリーナ連合に取り込まれることになる。

 

 その方法をエンは知らない。

 

 それが武力行使によるものか、話し合いによるものか、エンは知らない。

 

 「まあ、流石に戦争なんてしないと思うが……」

 

 エンの考えは、結局そこに落ち着く。

 

 メガロメセンブリアのこと、“創造主”のこと、金髪幼女のことに魔法の修行のこと。

 

 考えることは山積みだ。

 

 しばらく店を閉め、メガロメセンブリアに向かう準備もしないといけない。

 

 明日は買い出しに行こう。

 

 とにかく難しそうなことから逃げ、現実逃避的に出た、エンの結論だった。

 

 

 

 

 

 

 椎名桜子も悩みを持っていた。

 

 「メガロメセンブリアに……エンちんが行く……」

 

 彼女はベッドの横で寝ているイルカのぬいぐるみを形が崩れるほどにまで抱きしめた。

 

 やり場のない恐怖が椎名桜子を襲った。

 

 あそこには、“アレ”がある……

 

 私が“アレ”だと知られてしまえばエンは私を嫌いになるかもしれない。

 

 一人だけ幸せそうに生きている私を、のこのこ生きて自由気ままにやっている私を、エンは拒絶するかもしれない。

 

 エンにも柿崎にも言えてない秘密

 

 それが知られること自体は怖くない。

 

 それを知った二人が自分を拒絶するのが怖い。

 

 椎名はお思い切りイルカのぬいぐるみの頭に噛み付いた。

 

 強く噛み付きすぎて、イルカの頭が破れる。

 

 その綿は、嫌なほど味わった清潔な味がした。

 

 それが桜子を暗い暗い深淵へと引きずり込む。

 

 「あぅ……おぁっ……」

 

 たまらず椎名の口から嗚咽が漏れた。

 

 暗い過去は感情を蝕み、その心を蝕んでゆく。

 

 それを擦り付けるように、破れたイルカのぬいぐるみを抱きしめる。

 

 「嫌だよぉ……」

 

 桜子は拒絶する。

 

 彼女は過去を拒絶する。

 

 それでも、明日になれば笑わなくてはならない。

 

 彼女は今の居場所を壊さないために、必死に仮面をかぶる。

 

 

 

 

 

 

 柿崎美砂が空を舞う。

 

 全てを台無しにする悪質な魔法の使い手。

 

 世界に轟く“水の泡(クラッシャー)”。

 

 そんな彼女が一対の翼で空を舞っていた。

 

 その羽に見えるのは皮膜。

 

 真っ黒な二枚の羽から連想できるのは蝙蝠の羽。

 

 彼女は吸血鬼ではない。

 

 「また面白いことになってるなぁ……」

 

 そんなことをあたかも他人事のように嘯く柿崎。

 

 その目にはどこから現れたのかわからないがコミカルなハートがくっついている。

 

 「ヒャハハハハハハハハ!!!!

 

 柿崎は突然笑いだし、頭を抱えた。

 

 そのまま頭を抱えてうずくまる。

 

 そして、体を思い切り反らして発狂する。

 

 「勝手に……人の体を貪り食ってんじゃねぇええええ!!」

 

 その目には先ほどまでの余裕はなく、ギラギラじた眼差しで、その羽を睨みつける。

 

 そして、思い切り自身の羽を掴んだ。

 

 「ウガッ!!」

 

 そのまま力任せに引きちぎる。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 柿崎はその翼を一瞥すると、クラクラする頭を思い切り殴りつけ、頭を覚醒させる。

 

 「クソッ!! 時間がない……」

 

 そして、彼女もまた、無表情という仮面をかぶり、守るべき日常に戻ってくる。

 

 

 

 

 




何かが動き出したようです。

エンはかなり弱っちいです。

これから強くしようとは思いますが……

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