釘宮円で葛藤   作:NANA@

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楽しんで読んでください。


第十四話「氷龍之王で破壊」

 

 

 

 

 そのすぐあとの夕方、テンペテルラから30kmほど離れた場所でエンたちは待ち構えていた。

 

ここは岩陰で、テンペテルラへと向かう“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”が、おそらく通ると思われる場所だ。

 

 「ぶっちゃけ、三人で逃げちゃったほうがいい気がするんだけど……」

 

 桜子がそうぼやく。

 

 「いやぁ、俺もそうしたいんだけどさぁ……多分、ほっとくとあいつら死ぬじゃん……」

 

 エンはなぜか悲しそうにそんなことを言った。

 

 その目線の先には、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”が来ると思われる谷が見える。

 

 あいつらとは、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”と戦うことを決めたメガロメセンブリアの艦隊のことだ。

 

 先程の戦いでは、凍りつかされた戦艦は多かったが、それ以上の攻撃がなかったため、今のところ死亡者は()()()()出ていないらしい。

 

 それでも戦艦へのダメージはかなりのものがあったらしく、ここから10kmほど後ろでテンペテルラの戦艦も動員し“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を待ち構えている。

 

 統率のなさと、戦意の低さを考えると状態は万全とは言えないだろう。

 

 つまり、ここでケリをつけないとあのバケモノに人間が立ち向かい、最悪の場合テンペテルラが壊滅する。

 

 「で、何をどうすればいいんだ?」

 

 まぁ、なぜかエンたちのあいだには中年のおっさんが一人混ざっているのだが……

 

 「って、おっさん!! まだいたのかよ!!」

 

 エンが大振りのツッコミを決める。

 

 「はじめからいたわぁああああ!! だいたい俺はおっさんじゃない!! ナント・ラマテスだ!!」

 

 「何と!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒューヒュルルル……

 

 乾いた風が木の葉を運んだ。

 

 

 

 

 「ごめんエンちん……今のはない……」

 

 「エン様……」

 

 「頼む……可哀想なものを見るような目で見つめないでくれ……、本当に死にたくなるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、俺はどうしたらいい?」

 

 先ほどの空気の冷たさはなくなり、そこにあるのは戦いの前の独特の緊張感。

 

 体格通りの派手な剣を肩にかけたおっさん、ナント・ラマテスがそう聞いた。

 

 柿崎の説明を聞き、彼なりに考え、数人の少数精鋭の部下たちを引き連れてやって来たらしい。

 

 「はぁ……死んでも知らないですよ……」

 

 柿崎がそんな彼らをかわいそうなものを見るような目で見る。

 

 「いやいや、嬢ちゃん、考えても見てくれ。善良な一般市民が前面にでて戦おうってのに、我々メガロメセンブリアの“偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”が指くわえてて見てるだけってのはさすがにまずいのよ」

 

 ラマテスがそんなことを言った。

 

 「そしてきっと本国によくわからない栄光を称えられて、家族は慰霊金をたんまりもらって幸せに暮らすんだね♪ なんかそんな気がする♪」

 

 「桜子、やめておけ。お前の勘は冗談じゃ済まされねえ……」

 

 エンは桜子を制した。

 

 そんな緊張感がないのか、空気が悪くなるのを防いでくれているのかよくわからない桜子を一瞥するとエンは、

 

 「ほんじゃ、手を貸してもらうわ。そのほうがこっちとしても都合がいいしな……俺たちはあんまり目立ちたくないし、テンペテルラを救った英雄なんて肩書きは、“偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”の方がずっとお似合いだろうよ」

 

 「手を出させてもらえるならなんでもいい。俺たちに出来ることがあるなら手を貸そう。あの艦隊も自由に使ってもらって構わない」

 

「戦艦の射程距離はどれくらいだ……」

 

 エンがラマテスに問う。

 

 「あれだけ的がでかいと3kmくらいあれば狙えるはずだ」

 

 エンは頭の中で作戦を組み立てていく。

 

 心は違えど、頭の構造はアーウェルンクスだ。

 

 戦闘に関することなら、様々な情報が詰め込まれている。

 

 「俺の作戦を説明する。多少の無茶は覚悟しておいてくれ……」

 

 「……分かりました」

 

 ラマテスの後ろにいた女性が答える。

 

 ラマテスもそれに異論は無いようでエンの言葉を待つ。

 

 「まずはじめに、桜子。この中で奴と真っ向からぶつかれるのはお前くらいだ。できるだけ攻撃魔法は使わずに奴の注意を引きつけてくれ……」

 

 「わかった」

 

 椎名が力強く頷いた。

 

 「そのあとに美砂。おそらく、あの氷は単純な光を遮らないはずだ。精神系の魔法も通用する。お前の“幻想空間(ファンタズマゴリア)”に俺と奴を引きずり込め。そうしたらとにかく逃げ回っていて欲しい」

 

 「分かりました」

 

 柿崎も頷いた。

 

 「最後に“偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”、遠見の魔法は使えるな?」

 

 「おう。魔法学校で習う基礎魔法の一つだしな……使えねえやつはいねえはずだ」

 

 「おそらく、どこかに魔法陣が書かれているはずなんだ。人間よりも何十倍も知性の高い古龍があそこまで動き回るのに、自身の意思で動いているとは考えられない。おそらく、誰かが操っている。なにかがあるはずなんだ……」

 

 「わかった」

 

 ラマテスたちも頷いた。

 

 「奴を操っている魔法を解くことが最大の目的だが、それは“幻想空間(ファンタズマゴリア)”で確認する。それで、もしも何もない場合、奴の氷を引き剥がす。その時の備えとして、戦艦の精霊砲を打ち込めるようにしていて欲しいんだ」

 

 それに対して、ナント・ラマテスの部下たちが頷いて、連絡を取り始める。

 

 その中には若干不満そうなものもいたが今は緊急時、そしてエンたちの実力は先ほどの戦いの中で証明されている。

 

 「それじゃあ、いっちょやりますか。大丈夫、なんかうまくいきそうな気がするし」

 

 椎名桜子は立ち上がり、うーんと体を伸ばす。

 

 「桜子がそういうのは……心強いですね」

 

 柿崎美砂もその長い髪を束ね、戦闘に備える。

 

 「油断すんなよ……俺は“幻想空間(ファンタズマゴリア)”に飛ぶからいいけど……まあ、俺と奴を引きずり込めれば何とかしてやれる。()()()

 

 エンのその顔にも笑が浮かんだ。

 

 「最強種が相手かぁ……勝ったら武勇伝だね……」

 

 「テンペテルラに感謝料をいただきましょう。そしてお肉を買いましょう」

 

 「いいな。とびきり高い肉と酒で祝杯をあげようぜ」

 

 そんな三人の戦士をナント・ラマテスは複雑な気持ちで見つめていた。

 

 どうしようもない劣勢。

 

 準備も兵器も何もかもが足りない、完全な負け戦。

 

 それでも、負ける気はしない。

 

 そんな確信にも似た予想が生まれてしまうほどの何かがその三人の背中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いっやあ、さっきぶりだねえ……」

 

 桜子はもう一度“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”と対峙した。

 

 正面から桜子に襲い掛かる圧倒的な威圧感。

 

 その殺気は桜子に滝のように襲いかかっている。

 

 それでも、先ほどのような恐怖は感じない。

 

 エンに打開策があるというのなら、それに任せ、自分に出来ることをやる。

 

 瞬間、桜子の足元から氷の柱が上がる。

 

 それを予想していたのか、桜子は横っ飛びに飛んでかわす。

 

 桜子を追うように凍りついてゆく地面。

 

 どうやら“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”は桜子のことを覚えていたらしい。

 

 「きゃは♪ 嬉しくないし死にたくないし!!」

 

 桜子は凍りついている“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の周りを回りながら攻撃をかわしてゆく。

 

 その動きは身軽そのもので先程のように切羽詰ってもいない。

 

 桜子は“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の気を引くだけでいい。

 

 その時点で桜子が攻撃する意味はない。

 

 足止めには十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 柿崎美砂は浮遊術によって空を飛んでいた。

 

 体を“水精霊化”し、流れるように空を舞う。

 

 その胸にはエンが抱えられていた。

 

 気を失っているようで目をつむっている。

 

 柿崎は“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”が椎名に気を取られている隙にその前に躍り出た。

 

 そして、その瞳を射抜き、魔力と精神力で無理やり“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の精神を“幻想空間(ファンタズマゴリア)”に引きずり込んだ。

 

 不思議と抵抗はなかった。

 

 柿崎が一息つく。

 

 それでも、それでも

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”は止まっていなかった。

 

 柿崎の体が凍りつく。

 

 異変を感じた柿崎はその部分をすぐさま引きはがした。

 

 しかし間に合わない。

 

 体に取り込んでいたはずのエンを持って行かれた。

 

 凍ったエンが、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の氷の鎧の中に取り込まれていく。

 

 「クソ!!」

 

 今までで一番の大失態。

 

 柿崎はその拳に炎を纏わせて鎧を砕こうとする。

 

 しかし逆効果。

 

 その鎧は柿崎の魔力を吸い取り、成長する。

 

 柿崎は必死に撤退し、難を逃れた。

 

 椎名が隣にいる。

 

 「すみません!! やられました……」

 

 「みたいだね♪」

 

 椎名が少しはにかんだ笑みで柿崎に答えた。

 

 「美砂、私たちの主は“任せろ”と言ったんだ。信じるしかない、全力で自分の仕事をやろう」

 

 桜子は笑顔でそんなことを言った。

 

 柿崎もそれに頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここが柿崎の“幻想空間(ファンタズマゴリア)”かぁ……」

 

 エンは真っ白なその空間にいた。

 

 彼には秘策があった。

 

 少しズルが混ざるかもしれないが、おそらく成功するであろう秘策が……

 

 以前は眠っている時だったし、死んだあとも出会うことができたあの少女。

 

 だから、おそらくここでも会えるはず。

 

 「おーい!! 金髪ロリ!! どこかで見てるんだろー!!」

 

 エンは何もない真っ白な空間で叫んだ。

 

 「いるなら返事をしてくれー!!」

 

 そんな感じで呼びかけるが、返事はない。

 

 「よし……それなら……」

 

 エンはその呼び方を諦め、口に手を添えて思い切りこういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お兄ちゃんはなんだかかわいいかわいい妹を抱っこして愛でたい気分だなー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとなく可哀想なやつな気がしても突っ込んだらいけない。

 

 これも作戦のうちなのだ。

 

 「わーい!! お兄ちゃんなのー!!」

 

 どこから現れたのかわからないが、いつの間にかエンに金髪のロリっ子が抱きついていた。

 

 「おーよしよし、かわいいかわいい」

 

 エンがそんなことを言って、金髪ロリを撫でる。

 

 あ、ちょっとかわいいかも……なんて思っているのは内緒だ。

 

 「よお、金髪ロリ」

 

 「くぅぽん!!」

 

 「はい?」

 

 「くぅぽん・まいるどぴぃたん!! 私の名前なのら!!」

 

 金髪ロリ、もといくぅぽん・まいるどぴぃたんがそんなことを言った。

 

 「わかったよ、くぅぽん。しばらく暇なんだ。少し遊ぼう」

 

 「わーい!! お兄ちゃんと遊ぶのー!!」

 

 エンの提案にくぅぽんは跳んで喜ぶ。

 

 何しろこの“幻想空間(ファンタズマゴリア)”は一時間が三日にまで伸びるとんでもない魔法なのだ。

 

 そのせいで、柿崎がエンを取り込んでから“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を取り込むまでの十分間が十二時間にまで伸びてしまうのだ。

 

 その間、エンはひたすらに金髪ロリと戯れて遊んだという。

 

 

 

 

 

 

 オオ、オニイチャンスゴイナノー

 

 コレクライアサメシマエダゼー

 

 

 なんだかんだで十二時間

 

 

 

 

 

 うわぁ……ついに来たか……

 

 この白い世界であの巨体は緊張するなぁ……。

 

 二百メートルだぜ二百メートル。

 

 俺が魔力なしだったら走りきるのに三十秒かかるぜ……

 

 やべえ、そのあいだに十回は殺される自信があるわ……

 

 とまぁ、こんな感じでヘタレっぷりまるだしのエンとそれを横から眺めるくぅぽん。

 

 その目の前には、真っ白な巨体が君臨していた。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”だ。

 

 エンは震える足に喝を入れて無理やり立ち上がる。

 

 くぅぽんもいる。

 

 戦うわけじゃない。

 

 あくまで話し合いをするんだ。

 

 そう言い聞かせる。

 

 そして、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を見た。

 

 「おい、人間……ではないのか……何やら人工的なものを感じるな……」

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”がエンにそう口を開いた。

 

 「俺の名前は“釘宮円(くぎみやまどか)”だ。お前を助けに来た」

 

 エンはしっかりと震えを止め、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を見つめる。

 

 「助け……とな、小さきものよ。なぜそう思う?」

 

 エンは震えそうになる体を叱咤する。

 

 怖い怖い怖い怖い……

 

 そんなエンをかばうようにくぅぽんが前に出た。

 

 「なぜって、そんなのあんたが誰かに操られているかららしゃ……何人かを人柱にして召喚した悪魔が、さらに何人もの生贄を使ってやっと召喚してるみたいなのー……。魔方陣は尻尾の付け根っぽいね……あってる? 龍さん」

 

 そう言って睨みをきかせる。

 

 「ほう、そこまで見抜くか小さきものよ……」

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”が愉快愉快と笑う。

 

 「あはははは、図に乗るなよ古龍風情が……。頭が高いぞ……」

 

 くぅぽんが笑いながら冷たくそう言った。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”が笑いを止めた。

 

 「頭が高いぞ……」

 

 くぅぽんがそう言うと、まるで何かに押さえつけられたかのように“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の体が地面へとめり込んだ。

 

 エンにはくぅぽんが何かしたようには見えなかった。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”が生存本能のまま反射的にひれ伏した……という表現が正しいのかもしれない。

 

 「馬鹿な……」

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”はその自身の状態に息をのむ。

 

 ありえない

 

 自分が、言葉だけでひれ伏すなんて……

 

 そんな葛藤など知ってか知らずか、エンとくぅぽんは仲良く話し始める。

 

 「すげぇな……お前……」

 

 「お兄ちゃん大好きだから。もっと褒めて!! もっとなでて!! もっと舐めて!!」

 

 「褒めてやるし撫でてもやるが、舐めるのはやめとくわ……人としていろいろと終わりそうだし……」

 

 「お兄ちゃん人じゃないじゃん」

 

 「それもそうだな」

 

 なんだかんだ言って、このふたりはなかなかいいコンビだったりする。

 

 「そなたら、何者だ……」

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”が二人に聞いた。

 

 「うーん、正義のヒーロー?」

 

 「俺は悪の大魔王の娘だな」

 

 くぅぽんとエンはそんなことを答えた。

 

 それを聞いた“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”は一瞬ポカンとした表情になる。

 

 そして、

 

 「フハハハハハハハハハハ!! 面白い、面白いぞお前たち!! この“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を圧倒するほどの言葉。その決意。お前たちが切り開く正義と悪!! この目でしかと見届けてやろう!!」

 

 堂々と立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椎名と柿崎は未だに“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の相手をしていた。

 

 体にあるかもしれない魔方陣は見つからず、戦闘は均衡状態を保っている。

 

 「やばいかもね……」

 

 「相手が相手ですが。もう少し粘りましょう……」

 

 それでも椎名と柿崎は人間だ。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”と永遠に戦い続ける程のスタミナを持ち合わせてはいない。

 

 その一瞬一瞬に全力を注いでいた。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の鎧を砕く方法も思いついてはいる。

 

 吸収できない密度、そして速度での魔法を打ち込めばいい。

 

 現に、椎名桜子は収束した蔦の一撃、“薔薇の塔(ローズウィップ・タワー)”で氷をくだいてみせた。

 

 鎧を砕き、その隙に直接攻撃をすれば攻撃が通るかもしれない。

 

 しかしそれは最後の手段だ。

 

 今、やすやすと使っていいモノではない。

 

 それにそれだけの攻撃をすれば消耗も凄まじいものになるはずだ。

 

 椎名と柿崎を取り囲むようにその空間が凍りつく。

 

 二人は無言でその場を離れて避難した。

 

 氷による攻撃は休まることがない。

 

 彼女たちのスタミナにも限界がある。

 

 そして、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぉぉぉおおおおおお、やべぇやべぇ……

 

 戻ってきたけど、冷た!! 体中冷た!!

 

 えっと、なんで俺氷漬けになってんの!?

 

 美砂に任せてなかったっけ!?

 

 じゃあ何!! 美砂がやられたってことか!?

 

 などと不毛なことを考えながら、エンは辺りを見渡そうと……

 

 無理だった。

 

 体中氷漬けなのに体が動くわけがないじゃないか。

 

 エンは頭の中でここから出る方法を考える。

 

 そして思いついた。

 

 非常に痛い方法だが仕方がない。

 

 おそらく出ることはできるだろう。

 

 死ぬかもしれないが。

 

 そんなことを考えながら、エンはその体に魔力を込めてゆく。

 

 そして、それを思い切り放出した。

 

 

 

 

 

 

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の鎧は魔力を吸収し、氷に変える。

 

 それは中でも外でも変わらない。

 

 では、中から多過ぎる魔力を放出するとどうなるか。

 

 答えは簡単だ。

 

 

 

 

 

 耐え切れない容量の氷が生成され、鎧は()()()()()()

 

 

 

 

 

 ごきごきと重々しい音を上げ、エンのいたところの氷が砕け散った。

 

 もちろんそれをしたエンも、その氷による圧力を受けてしまうのだが……

 

 そこはもう根性の問題だったりする。

 

 「ははは……やってやったぜ……」

 

 エンは氷が消えた隙にすぐさま逃亡し桜子と美砂に合流する。

 

 「美砂、どんな感じだ!?」

 

 「エン!! はじめより現状維持。何も変わっておりません」

 

 柿崎がそう言った。

 

 エンは振り返り、氷の中で君臨する白龍を見据える。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の本来の性格は比較的穏やかであることは、“幻想空間(ファンタズマゴリア)”の中で確認が出来た。

 

 そして、くぅぽんによれば、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”は尻尾の付け根あたりにある魔方陣によって精神を操作されている。

 

 だったら、それを弄って精神操作を止めてしまえばいい。

 

 「桜子!! 美砂!! 俺が“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の氷の鎧を引き剥がす。その隙にしっぽの付け根にある魔方陣を無効化しろ!!」

 

 「なんで!!」

 

 桜子が聞いたときにそのあたりが凍りつき始めた。

 

 三人はすぐさま飛びのき、その攻撃をかわすために走り出す。

 

 「でも、鎧を引き剥がすって、どうやって……」

 

 (今は考えている場合じゃないわ。エンがやると言ったらやるはずよ)

 

 柿崎から来た念話を聞き、桜子は自分を叱咤する。

 

 今は非常時だ、リーダーはエン。

 

 自分は言われたとおり行動する、優秀な駒であればいい。

 

 

 

 

 

 一方、エンは浮遊術で空中に浮かび、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の上を飛んでいた。

 

 もうすでにナント・ラマテスには指示を送った。

 

 内容は『戦艦内の魔法装置を全て解除し、全員戦艦内から退避せよ』だ。

 

 そして、ナント・ラマテスから『完了』との返事があった。

 

 「さて、成功するかどうかは半分半分の大博打だな……」

 

 氷の鎧は内部から大量の魔力を発生させることによって氷を生成させ、その圧力に耐えられなくなった氷が内部から破損。

 

 吸収しきれない濃度で放たれた魔力の攻撃により、破損。

 

 この二つの方法で破壊できるのはエンと“薔薇の塔(ローズウィップ・タワー)”によって証明できている。

 

 しかし、前者の方法は、内部に入ったものが一定のダメージを受けてしまう。

 

 それに入るまでが大変だ。

 

 後者は一瞬は破壊できるもののすぐに魔力を吸収し、再生してしまうので、全体を破壊するのは難しい。

 

 そこで、エンの思いついた秘策はこうだ。

 

 “別に……魔力を使って攻撃する必要なくね……”

 

 「派手にやるか……戦艦も、好きに使っていいって言われてるし、いいよな!!」

 

 エンは勝手な判断をくだし、大空に、自身の得物である十手で魔方陣を書いてゆく。

 

 それは、先程戦艦をテンペに送り込んだとき、戦艦に描いたものと同じものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナント・ラマテス達“偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”は“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の体を観察していた。

 

 といっても、その体は氷で包まれており、細部まで観察することはできていない。

 

 そのため、どちらかというと観戦に近かった。

 

 「にしても……すげえな……」

 

 彼らは目の前の柿崎と椎名の戦いをみて、そんな言葉を漏らす。

 

 本国に行ってもあれほどの戦いができるものはそういない。

 

 片方は奇妙な植物を『創造』し、攻撃、防御、移動など様々に使い分け、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”気を惹きつける。

 

 もう片方は体を精霊化することで、人間の限界を超えた速度で飛び回り、時折大いなる『破壊』を生み出す。

 

 臨機応変な『柔』の戦いを見せる椎名桜子に、自身の高すぎるスペックで相手を力づくでねじ伏せる『剛』の戦いを見せる柿崎。

 

 そして、その二人を従えるエンという少女。

 

 対抗心なんてものはそもそもわかず、その少女たちの戦いに彼らは惹かれていた。

 

 そんな中、黒髪の少女が浮遊術で大空に何かを描き出す。

 

 その魔法陣は召喚魔方陣。

 

 かれらとて、メガロメセンブリアに認められた“偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”だ。

 

 それくらいならわかる。

 

 そして、彼らの目線は召喚されるものに惹かれていった。

 

 次は何を見せてくれるのか……

 

 彼ら自身それが不謹慎であるとは気がついていたが、そのあふれる感情を止めることはできない。

 

 そして、魔法陣から何かが現れる。

 

 機械的な構造の白い鉄製のボディ。

 

 高速移動と精霊砲や魔法の矢による攻撃魔法との両立を実現した最新科学の賜物。

 

 そして、彼らにも少なからず愛着のあるそれ……

 

 「「へっ?」」

 

 彼らがそう漏らしてしまうのも無理はない。

 

 なぜならそれは。

 

 三隻のメガロメセンブリア製の戦艦だった。

 

 “偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”達が困惑する中、その三隻は万有引力の法則に従って地面に自然落下してゆく。

 

 それを“偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”はもはや諦め、清らかな心で見ていた。

 

 そしてそれは、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の鎧とぶつかり合い、お互いに崩れていく。

 

 「あはは……壊れてるよ……」

 

 「そうだね……壊れてるね……あはははははは……」

 

 彼らは乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄の塊である戦艦の激突にとって、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の鎧を引き剥がすことに成功したエンはガッツポーズを浮かべていた。

 

 これで、あとは美砂たちが奴の魔方陣をいじれば任務終了。

 

 帰ってお肉を食べられる

 

 

 

 

 

 

 ハズだった。

 

 そんな希望を

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”は

 

 

 

 

 

 

 

 翼を広げることだけでなぎ払った

 

 

 

 

 時間が止まった音がした。

 

 

 気づけば吹き飛ばされていた。

 

 

 大いなる余波による破壊はあたり一面に広がっていた。

 

 地面はわれ、植物は折れ、あの椎名の“樹”でさえ、無残に砕かれていた。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”はただ翼を広げただけ。

 

 その頃になってようやくエンは気がついた。

 

 自分はとんでもない化物の足かせを外してしまったのかもしれない。

 

 今ここに、最強の名を欲しいままにする龍が君臨した。 




最強種はチートです。
次回、そのチートっぷりにエンはどう立ち向かうのか……
すいません調子乗りました頑張って考えます……

強くしすぎたかもしんない……

でも、エヴァとおんなじランクの化物だし……
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