釘宮円で葛藤   作:NANA@

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 とりあえずクギミーに頑張ってもらいました。
 


第十五話「釘宮円で決着」

 エンあらため、釘宮円は一瞬、何が起こったかを理解できなかった。

 

 気がついた時には凄まじい衝撃が体を襲い、真横に吹き飛ばされていた。

 

 何度かバウンドして、地面に叩きつけられる。

 

 喉から鉄の味が吹き上がった。

 

 全身が熱い。

 

 どれほどの速度で叩きつけられたかわからないが、意識も朦朧とする。

 

 幸いというべきか、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”はまだこちらに向かってきていない。

 

 着地しようとした足は、衝撃を受け止めきれず、すねが変な方向にひしゃげていた。

 

 これでは、歩くことすらできないだろう。

 

 「畜生……『我が足を剣に』」

 

 釘宮は足に仕掛けた魔方陣を発動させ、膝から下を剣へと取り替える。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”が何をしたかはわからない。

 

 勝てるかどうかはわからない。

 

 もしかすると勝利の可能性は塵のように小さいのかもしれない。

 

 しかし、ここで止めないと、この先にはテンペテルラがある。

 

 あんなバケモノを人里に向かわせるわけには行かない。

 

 「エン様!! 申し訳ありません!!」

 

 「失敗失敗……」

 

 十手を手に取り、立ち上がった釘宮のもとに、柿崎と椎名がやってきた。

 

 “水精霊化”している柿崎は体が四散し、少し小さくなっていた。

 

 椎名もところどころ傷が目立つが、すぐに消えていく。

 

 「大丈夫か?」

 

 「「あんまり……」」

 

 「大丈夫だな」

 

 とりあえずの無事が確認できた三人は、三つに分かれて走り出した。

 

 釘宮は地面を駆けて“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”に近づき、

 

 柿崎は空を舞ってその後ろに回り込もうとしていた。

 

 そして、椎名はそんな二人を援護するためにそこを動かず、種を構えた。

 

 攻撃は来ていない。

 

 「美砂!! 魔方陣はどれくらいの時間で破壊できる!?」

 

 釘宮が柿崎にむかって叫んだ。

 

 「一瞬でも触れることができれば!!」

 

 柿崎からの返事を聞き、釘宮は微かな笑みをこぼす。

 

 触れるだけなら、可能性はあるかもしれない。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”がこちらに向き直った。

 

 釘宮は逃げることなく、さっきの攻撃を見極めるために“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”へと正面から近づいて行く。

 

 このまま自分を狙ってくれれば僥倖。

 

 その隙を柿崎はついてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 それほど甘くもなかった。

 

 

 

 

 

 

 再び柿崎と釘宮、そして離れていたはずの椎名でさえ先ほどと同じ方向に吹き飛ばされた。

 

 何の衝撃か、先ほどと同じように体が焼けるような痛みに襲われる。

 

 何かにぶつかったような衝撃ではない。

 

 後ろから思い切り、体をまるごと引っ張られているかのような衝撃だった。

 

 釘宮の体は数回地面を跳ね、

 

 

 

 

 やんわりと受け止められた。

 

 

 

 釘宮は目を開ける。

 

 数秒遅れて、柿崎が何かにぶつかる、パフゥと言う何とも間の抜けた音が聞こえた。

 

 釘宮はこの衝撃と背中にあるこの感触を知っている。

 

 「……“こっとんくっしょん”か」

 

 椎名桜子による“樹”の一つ。

 

 莫大な増殖力と全ての衝撃を吸収する力を兼ね備えた綿だった。

 

 それは真っ白な壁となって、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”と三人を取り囲んでいた。

 

 「薔薇の鞭の壁バージョン“薔薇の壁(ローズウィップ・ウォール)”に“こっとんくっしょん”を敷き詰めた特性の衝撃吸収材だぜ!! 椎名桜子なめんなよ♪」

 

 必要以上の綿に包まれながらそんなことを漏らす椎名に、釘宮は苦笑い。

 

 本当に、いい意味で空気を柔らかくしてくれる。

 

 釘宮は地面に着地し、すぐさま走り出す。

 

 先ほどの二回で、吹っ飛ばされる方向は一緒。

 

 そしてその衝撃も同じものように感じた。

 

 「だとしたら……桜子!! この壁を上にも展開しろ!!」

 

 釘宮は叫んだ。

 

 おそらく間違っていないだろう。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の首はすでに上を向いている。

 

 椎名の反応も早く、すぐさま“薔薇の壁(ローズウィップ・ウォール)”と“こっとんくっしょん”は上空にも展開されてゆく。

 

 柿崎も、エンの行動の意味に気がついたようで、すぐさま“水精霊化”を解き、衝撃に備えていた。

 

 「グゥゥゥゥ…………ゥゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の咆哮が、天に響く。

 

 地面が、空が震える王の咆哮。

 

 そして、

 

 三人は目に見えないほどの、ありえない速度で天へとぶっ飛ばされた。

 

 「かはっ!!」

 

 “こっとんくっしょん”の展開は間に合った。

 

 そのはずなのに、釘宮の体はその衝撃に耐えられなかった。

 

 それほどのスピードだった。

 

 体を確認する。

 

 腕は爆ぜ、肋骨が折れて横隔膜にでも突き刺さっているのか、息をするもの苦しい。

 

 手足の感覚は既にない。

 

 足の剣がどうなったのかすらわからない。

 

 横を見れば、柿崎と椎名も同じような状態だった。

 

 「……く……そ……」

 

 釘宮は唇を噛み締める。

 

 何をどうすればいいのかわからない。

 

 体は地面に向かって重力に従って落ちてゆく。

 

 地面にぶつかった。

 

 痛覚が麻痺しているのかもしれない。

 

 それでも、

 

 「ははは……」

 

 釘宮はそのボロボロの体で走った。

 

 ぼんやりと見える“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”めがけて突き進む。

 

 そして、

 

 体が空へと飛ぶ。

 

 また壁に打ち付けられる。

 

 どこが壊れたかはわからない。

 

 体の内側に何かどろりとした感触を感じた。

 

 内蔵が溶けているのかもしれない。

 

 生きていることが信じられなかった。

 

 それでも、釘宮の中で“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の扱う力についての結論は出た。

 

 「“慣性力”か……」

 

 そう、慣性力を操っているのだろう。

 

 例えば、電車に乗っているとする。

 

 走っている電車が急ブレーキをかけたさい、私たちの力は電車の進む方向に引っ張られるのは経験があるだろう。

 

 あれだ。

 

 あれが慣性力だ。

 

 その日常的な力を、目の前の巨龍は天体単位で行っている。

 

 釘宮達を横の方向に弾き飛ばしたのは魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の天体の自転の慣性力。

 

 たての方向に吹き飛ばしたのは、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の天体の公転の慣性力。

 

 その速度はテンペテルラの場所を考えると、前者が時速433km、後者に関しては()()24kmだ。

 

 “薔薇の壁(ローズウィップ・ウォール)”と“こっとんくっしょん”が無ければ、地面から宇宙の塵になれる速度。

 

 椎名桜子によって魔力を供給された“樹”の魔力が切れたらもう助からないだろう。

 

 音速の72倍だ。

 

 マッハ72。

 

 どこぞのサイボーグも真っ青の速度だ。

 

 魔法障壁を張った程度の人間が耐え切れるものではない。

 

 釘宮は、その速度ですら耐えられる可能性を見つけた。

 

 しかし、それができる主人公はここにはいない。

 

 もしかするとという可能性もある。

 

 しかし、うまくいくかはわからない。

 

 そして、

 

 公転の力が、再び釘宮に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 もはや息をする気力もない。

 

 柿崎と椎名も虫の息だろう。

 

 もう死んでいるかもしれない。

 

 何回音速を超えたことか。

 

 体中が、妙な音を立てて軋み、崩れる。

 

 ははは……こりゃ、死ぬな……

 

 釘宮はかすかな意識のなか、そんなことを思った。

 

 一度は妖精同士の喧嘩に巻き込まれるという、理不尽な死をうけた。

 

 くぅぽんにもその時にであった。

 

 そして、知らない城に転生した。

 

 これが走馬灯か……

 

 釘宮は薄れゆく意識の中、その感触を心地よくすら感じていた。

 

 全身が焼けるように熱い。

 

 例ではなく、本当に熱いのだろう。

 

 そして、彼女が最後に感じた思いは……

 

 「死にたくねぇな……」

 

 そんな単純な願いだった。

 

 「美砂にももっと……うまいもん食わせてやりたかった……」

 

 彼女の『諦め』に、微かな亀裂が走る。

 

 「桜子が、毎晩毎晩泣いてる理由も……力になってやりたかったな……」

 

 亀裂は大きくなる。

 

 「死にたくねぇな……」

 

 そして、“磔の城の輪廻(釘宮円)”のなかの何かが崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 釘宮は立ち上がった。

 

 言い直せば、立ち上がることが出来た。

 

 折れ曲がった両足を気でガチガチに固めて、無理矢理にでも、立ち上がった。

 

 そして、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”に立ち向かう。

 

 「諦めきれねえよな……」

 

 釘宮円はそのかすかな声で心を込めて精霊に願う。

 

 「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト……」

 

 発動キーは普段の自分のものとは違う。

 

 自然に口からこの言葉が出た。

 

 「我が血肉を憑代にしろ……交換魔法……『光あれ』……」

 

 そのつぶやきは……

 

 間違いなく精霊に届いた。

 

 

 

 

 

 

 「まったく、お兄ちゃんはひやひやさせてくれるのらしゃ♪」

 

 そんな光景を全く緊張感のない様子で見ていたのは、金髪の幼女。

 

 その頬を赤く染め、釘宮円の戦いをそっと見守る。

 

 体をくねくねとくねらせているのはご愛嬌だ。

 

 場所は旧世界、地球のどこか。

 

 そんなところから遠見の魔法、さらには念話が使えるのだ。彼女の実力も相当なものなのだろう。

 

 彼女はハート型の、奇妙なスティックを振り回し、その遠見の魔法を解除した。

 

 金髪ロリこと、くぅぽん・まいるどぴぃたんは立ち上がり、その小さな足で、小さな歩幅で歩き出す。

 

 その頬に笑みを浮かべて……

 

 「今回は相手が相手だから、少しだけ力を貸してあげたけど、あまり私を頼りすぎないで欲しいらしゃ」

 

 くぅぽんはそのピンク色をしたスティックを手に取り眺めて、名残惜しそうに背中へとしまいこんだ。

 

 「私はお兄ちゃんの力になりたいとは思うけど、お兄ちゃんが私に頼ったら、私にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃなくなっちゃうのー」

 

 くるくると周り、周りに笑顔をまき散らしながら、くぅぽんはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 釘宮の姿が変わった。

 

 その体は光り輝き、髪の毛は蛇のように長くまとまっている。

 

 傷はなくなり、服すらまとわぬ光の化身。

 

 その胸の部分に、かすかにだが彼女たちの核と呼ばれる部分が見える。

 

 その色は、黒。

 

 その瞳も、黒。

 

 普段の得物である十手も、今は手に持っていない。

 

 ただただ釘宮の体が太陽のようにその場を照らした。

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”はそんな釘宮を見つめる。

 

 釘宮はその透き通るような眼差しで、椎名と柿崎を見つめた。

 

 かろうじて息をしてはいるが、危ない状態。

 

 なぜかわからないが、苦しそうな柿崎に対し、怪我があるはずの椎名はすやすやと寝息を立てていた。

 

 どこまでも、と釘宮は思う。

 

 どこまでも緊張をほぐしてくれる。

 

 そして、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”に向き直る。

 

 「さてと……、もうこれは正当防衛ってことでいいよな……」

 

 光の化身となった釘宮は、一瞬で“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”に肉薄する。

 

 途中で慣性力による干渉は受けた。

 

 受けたが、秒速24kmなんて速度は、秒速30()kmで進む光の速さにとってみれば、誤差でしかない。

 

 思考のスピードも速くなっているのか、慣性力を感じた後からでも、その力を含めた攻撃の方向を割り出すことができる。

 

 「うぁあああああああああああああああ!!」

 

 釘宮は雄叫びを上げ、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を殴り、殴り、殴る。

 

 その間は、本当に一瞬。

 

 魔法の中で、光の特性は『破壊』。

 

その力はたしかに“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の体を削り取ってゆく。

 

 それでも、

 

 そこまでしても、

 

 「足りないのかよ……」

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”は動かない。

 

 その名の通り、不動を体現する。

 

 「ははは……本当にすげえよ……お前……」

 

 釘宮はその力を使い、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を殴りつける。

 

 手にあるのは確かな手応え。

 

 障壁も貫けている。

 

 それでも、倒れない。

 

 「ん?」

 

 そこで、円は目の前の巨龍にかすかな疑問を感じた。

 

 体を光速で動かし、その下に回り込む。

 

 「やっぱりそうか……」

 

 その足は凍りついていた。

 

 それを確認した釘宮はいたずらっぽく笑った。

 

 「動かないんじゃない……動けないんだ」

 

 釘宮の中ですべてがつながった。

 

 慣性力による空間まるごとに作用する攻撃。

 

 大いなる破壊をもたらす神に準ずる者の攻撃。

 

 その破壊の対象は“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”とて、例外ではなかった。

 

 「どこまで深いかわからねえが、足を根っこにして体を固定してるんだな……」

 

 “氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”はその大いなる攻撃に耐え続けていた。

 

 おそらく、氷の鎧と慣性力の力を同時に使わないのもそれが理由だろう。

 

 氷の鎧状態の“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”は体中を厚い氷の層で覆っていた。

 

 あの鎧は魔法を使わない物理攻撃にはめっぽう弱い。

 

 慣性力は魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の天体の公転の力。

 

 氷の鎧が耐えられないのだろう。

 

 そして、あるいはその攻撃に使われた魔力で膨張し、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を押しつぶしてしまうのだろう。

 

 「お前は、ずっと耐えてたんだな……。俺は、魔方陣を弄って解除するなんてできねえからさ、もう終わらせてやるよ……」

 

 円はそう言って、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の真下の地面に魔方陣を描き出す。

 

 それはメガロメセンブリアの戦艦を呼び出すあの魔方陣だ。

 

 そして、金属の塊が顔を出した。

 

 

 

 

 

 

 大質量のそれは

 

 

 

 

 

 慣性の力を受け

 

 

 

 

 

 秒速24kmで“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”に激突した

 

 

 

 

 

 そして、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”は地面を響かせ、地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっべぇ……死ぬかとおもった……。てか、慣性力を操るとかどんな概念だよ……この星の反面を荒地にできるぞ……」

 

 釘宮はそんなことを呟いた。

 

 体が“光精霊化”できたのは運だった。

 

 そのはずだ。

 

 そうだと思いたい。

 

 おそらくその運に大きく関わったであろう金髪ロリと猫耳少女は少なくとも見当がついている。

 

 釘宮の体はそのまま倒れ、地面に突っ伏す。

 

 「動けねえ……か……まあ、仕方がないか……」

 

 視界がぼやける。

 

 得たものは言い知れぬ達成感と不思議な高揚感。

 

 釘宮は脱力する。

 

 周りの景色が薄れてゆく。

 

 そんな中、釘宮はこっちに走ってくる猫耳少女と中年の筋肉質なおっさんを見た。

 

 そして、彼女は安心しきった顔で意識を手放した。

 

 彼女と龍のとの戦いは決着した。

 

 ひとまずはそれでいいはずだ。






 どうでしたか……ね……

 一応、私は理系なのでもしかしたらわかりづらかったかもしれません。

 てか、慣性力を与えたあとそれを戻す力も働くんじゃないの?

 という疑問を持たれる方もいるでしょう。

 そこまですると龍も耐えられないと思うので……

 魔法ということでご理解いただければ幸いです。

 感想待ってます。




 次回は円がどこかに行くそうです。



 確認はしましたが、変換ミスなどございましたら報告をください。






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