釘宮円で葛藤   作:NANA@

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第一話「敏腕執事で奔走」

 荒廃した砂浜を月に照らした。

高気圧が生み出す季節風と、地球を回る偏西風が、味のない砂浜に福音を奏でる。

月光は砂に反射し、暗黒を照らす。

そして砂漠の果てに見える地平線は、輝く満月のように、濁りのない孤を描いていた。

極寒の夜と焼け付くような昼間、一日のうちにこうも多様な顔を見せる場所はそう無いだろう。

そんな大自然の城壁に守られるかのように、彼らの居城は存在した。

その灰色の石にが積まれて出来た城は回りの砂漠ににまで聞こえるほど、妙に騒々しかった。

 

 

 

 

 

「A班は第一看護室、D班はお湯の準備をしろ!! C班は姫様を第二看護室に運べ!!大至急だ!!」

大量のメイド、執事、使用人が行き交う中、一際背の高い青年が同じく走りながら指示を飛ばす。

その指示はお世辞にも適切であるとは言えないが、彼の考えられる最善の指示だった。

今回、今までにない異常な事態で彼自身冷静な思考が出来ていない。

それでも、青年は部隊を動かすために指示を飛ばす。

「こちらF班。タオルと緊急用の医療術式準備が完了しました」

 

「それでは、姫様についているB班と交代してこい!!」

「了解しました」

「こちらA班、第一看護室の使用準備が整いました」

 

「そ……、それでは次は……」

青年は頭を必死に回転させる。

今は何をすべきか?

どうすればうまくいくのか?

そうして必死で指示を飛ばす。

「第三……」

「待っていれば良いのでは無いのか?」

 「しかし、何もしていないと不安で」

「当事者である私以上にうろたえていてどうするのじゃ」

「しかし、姫様……、私は……、って、姫様?」

狼狽する青年は慌てて声がしたほうに振り返る。

「よう!! 精がでるようじゃな。ルーよ」

青年に声をかけたのは緑色の草むらの草をそのまま持ってきたかのような髪型の女性。

その顔は少し赤く染まり、虚ろな碧の瞳で、青年を見つめていた。

「お褒めにあずかり光栄の極みでございます。じゃなくて、どうして部屋から出てきているのですか!? 世話係をおいてきたはずです!!」

「あぁ、そっちなら問題はないぞ。身代わりをおいてきたからのう。」

「問題大有りじゃ無いですか!! むしろ問題しかないですよ!!」

「それはこっちの台詞じゃ!! 生まれたての小鹿のように震えまくっている奴らに『大丈夫です。私達にお任せください!!』などと言われたって、安心できるわけがなかろうが!! 流石の私でもそこまで神経図太くないわ!!」

「昨日、あれ程危険と申しましたのに蟹とスイカを馬鹿食いした口で何を宣いやがってくれていらっしゃるんですか!! それくらいご自慢の図太さで乗り越えろ!! だいたいその格好は何なんですか!? こんなときにふざけてんですか!?」

「なっ、ふざけてなどないわ!! これはジャパニーズジンベイなるものじゃ!! 動きやすいし、涼しいんじゃ!!」

「貴方がその服なんだか布なんだかよくわからない暗黒物質を愛でているのはよーくわかりましたから、とにかく部屋にお戻り下さい……、姫様の体はとても危険な状態なのです」

黒い仁平姿で壁にもたれ掛かる女性の仕種に、青年ルーはため息をつく。

その表情には呆れというよりも、心配の色がこく見えた。

緑色の髪をした女性そんな若くしてバトラーを勤める青年を有り難く思い、そして

「だが、断る!!」

「はぁ!!」

信じられないといった表情の青年。

その顔にはこんどこそ呆れの色が滲み出ていた。

「あの部屋は暑いのじゃもん!!」

「もう、摂氏十度まで下げてるじゃ無いですか!! これ以上下げたら赤ちゃん凍え死にますよ!!」

「私の赤ん坊ではないか。-40度くらいまでなら余裕じゃ!!」

「そんなジャパニーズゴッドのコノハナサクヤヒメみたいなばかけた挑戦してどうすんですか!? ばかなの!? 死ぬの!?」

そう、散々引っ張ってきたが、姫様のご懐妊なのだ。

「ふっふっふ……、私を嘗めておるなルーよ!! 旧世界の極東にある豆粒みたいな島国の神ごときにできて私に出来ないわけがなかろうが!!」

「あぁ、我等が姫様が夏のスイカと蟹の冷気にやられて馬鹿になった……。この糞女、死ねば良いのに……」

「きっ!! 貴様は主君に何という口のききかたゴッフゴッフ!!」

碧の瞳をした女性はその場に崩れ落ち、倒れ込んだ。

「姫様!?」

青年ルーは女性に慌てて駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「実は、ここまで来るまででもう、かなり陣痛が酷くての」

 

「ばかなの、死ぬの?」

「ううう、真顔で言うなぁ」

倒れ込んだ女性を、色白な青年が抱えた。

「無茶もほどほどにしてくださいよ。大事な体なんですから」

「前向きに検討するのじゃ」

涙目でしがみつく女性にため息をつきながら、指で何かを描き、青年と女性は地面に沈んだ。

 

 

 

 

 

その15分後、ある少女は頑張っていた。

とにかく、頑張っていたのだ。

何をとは明記しないことにする。

大事なのは彼女が頑張っていたことなのだ。

 

 

 

 

 

「さぁ、姫様。ひぃひぃふぅ、ひぃひぃふぅなんだよぉ!!」

白いフリフリのあしらわれた、黒基調の服(メイド服)に身を包んだ少女が、苦しそうにもがく女性に必死に声をかけている。

この猫族の少女はその軽いイマドキ女子高生のような性格と、誰にでも愛想を振り撒くところからあだ名としてビッ……ゲフンゲフン、多少性欲が強く、誰にでも体を許す女のことを表す三文字のカタカナ語と呼ばれていたりする。

ちなみに頑張っているのは彼女ではない。

「姫様、頑張って!!」

猫耳ビ○チが緑色の女性に、必死で声をかける。

「痛い……、うっ!! ひっひっふぅ」

姫様と呼ばれる緑色の髪の女性が左右の侍女に手をとられ、痛みと全力で戦っていた。

ちなみに、頑張っている少女は彼女でもない。

そもそも、見た目の年齢を低く見積もっても二十代後半であるこの女性を少女と呼ぶにはなかなか無理がある。

いまこの部屋にいるのは姫様と呼ばれる女性に、その腕を掴む猫耳ビッ○、そして他の世話をしている女性。

よって、残る一人の女性が頑張っている少女となる。

くるぶしほどまで伸びた少し乱雑で、どこか品のある紫色の髪。

夜中の路地で寝ていた黒猫のような好戦的な瞳。

そして、研ぎ澄まされた刃のような近寄り難い雰囲気が、彼女のまわりに独特の空気を醸し出していた。

彼女は頑張っているのだ。

「あの「頑張れ!! 姫様!!!」

「そのっ!!「頑張れ!! 姫様」

「私っ!!「そうです!! そうです姫様!!」

ちなみに彼女が必死に伝えようとしているのは、

『私の水を媒体とした転移魔法なら、お腹の中の赤ん坊を今すぐに取り出すことが出来ます。』

だ。

しかし、その単純かつ明快な方法は次々に打ち砕かれる。

「あの「姫様、頑張って!! その調子だよ!!」

「その「ありがとう……、うっ!!」

「私の「そうそう、頭が出てきはじめたよ!!」

必死に両腕を動かしながら、彼女は諦める口実を探す。

そういえばお腹を痛めて生むからこそ、赤ちゃんに愛着がわく。なんてことを聞いたことがある。

どこでだれが言っていたのかわからないが、それを根拠にして無理矢理納得した。

そのせいで、姫様はもうしばらく苦しむことになった。

「姫様、頑張ってください」

「いや、助けてやれよ」

 

 少女の背後から、青年の声が聞こえた。

少女の肩にポンと手が置かれた。

少女は恐る恐る振り返る。

「お前は考えてることが全部口から漏れる癖を何とかしたほうが良いと思うぞ」

手を置いた男性ルーが、同情に満ちた瞳でそう言った。

少女はため息をつき、一言。

「明日の朝ご飯はトンテキを希望します。」

「お前は何を言い出す!?」

「このクソオンナどもを助けるにあたりまして、それそうおうの対価が必要かと」

紫の髪の毛を携えた少女はそういってふんっ!!と鼻を鳴らした。

「お前は我等は姫様の召し使いだろう?」

「私の仕事は姫様の身の回りの世話であります。それゆえ、姫様の出産のさいにお子様を転移魔法を用いて取り出すなどという仕事はございません」

少女は冷たい目で、ギャーギャー騒ぐ二人を見てから、瞳の大きな目をギロリと青年に向けて、

「そもそも、私は雇われの身です。気がついたことなら、なんでも手をのばす物好きなボランティアであるあなたがたとは違うのです。」

「わかったよ。明日の朝食はトンテキにしてやるから」

「ふん、わかればいいのです」

そう言って、少女はポケットから杖を取り出した。

「シュガー・キャンディ・ドロップス。我が手に宿れ、水の精。繋げ『水扉』」

そして、頗るけだるそうに杖を振った。

その言葉とともに、少女の腕に、水が集まりはじめる。

「先輩、私は頑張りましたよね? バカ姫とクソビ○チの自由奔放天衣無双っぷりによくつきあったと頭を撫でてください。」

「天下無双、あるいは天衣無縫な。間違えんなよ」

そんな自分勝手過ぎる少女の言い分に、青年ルーはため息をついた。

少女の腕に集まっている液体は、少しずつまとまり、形をなしていく。

「お前には協調性と言うものが無いのか?」

「今まで必要だと思わなかったもので」

 

 少女の言葉に、青年はただただため息をついた。

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