釘宮円で葛藤   作:NANA@

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二章のプロットに時間がかかりました。すみません






第二十一話「椎名桜子で巨龍」

 

 

 

 

 

 

 「オヤジは既に“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”を支配下においている。気をつけろよ」

 

 ナントが放ったその一言は釘宮を十分に狼狽させるものだった。

 

 しかし、彼女はそれを見せない。

 

 自身が人形であることを利用し、ポーカーフェイスを貫き通す。

 

 そうしなければつけ込まれる隙になるからだ。

 

 しかし、心の中では、

 

 (やばいやばいやばいやばい……、どうする……もう残りの魔力は少ない……魔法障壁を張るので精一杯で転移魔法すら使えるかどうか……)

 

 とまぁ、こんなかんじで慌てふためきいっぱいいっぱいだった。

 

 ナントは“偉大な魔法使い(マギステル・マギ)”の称号を持つ魔法使いだ。

 

 魔力切れを起こした釘宮と戦えば、その結果は火を見るよりも明らか。

 

 敵陣制圧用遠距離移動砲台“鏡鳳”(ファルテンスバード)も対戦艦用、あるいは放射系魔法にしか効果がない。

 

 残りの魔力を考えても、二十秒も使えれば僥倖だ。

 

 それゆえ、釘宮は慎重に言葉を選んで話す。

 

 「そうかよ……でも、残念なことに、あの森の木一本一本の中には複雑な魔方陣があって、転移魔法だろうがなんだろうがあいつが隔離している以上は中には入れねえんだよ」

 

 釘宮は殺気を飛ばしながら言った。

 

 「だから俺はアイツを助けに行けねぇ」

 

 敵陣制圧用遠距離移動砲台“鏡鳳”(ファルテンスバード)は解除せず、精一杯の脅しに使う。

 

 柿崎は連合の生き残りを洗脳しにいった。

 

 「いいのか? 猫族の嬢ちゃんが死ぬぞ」

 

 「どうしようもねぇっつってんだろ……」

 

 「そうかよ……」

 

 ナントはそう言うと肩をすくめ、釘宮に背を向け歩き出す。

 

 そのナントに釘宮は十手を向け、

 

 「何処へ行くつもりだ?」

 

 声で脅す。

 

 ここで素直に逃げてくれればいいが、ここは駆け引きの場だ。長距離魔法を持つ魔法使いたちを相手にする場合、距離を取らせるのは正解ではない。

 

 釘宮が今望むべきは均衡状態なのだ。

 

 ナントは諦めたように地面に座った。

 

 釘宮は内心安堵し、岩に背を預ける。

 

 「じじい、暇つぶしくらいにはしてやるよ。今までやってきた愚行をキビキビ吐け」

 

 釘宮の戦いは続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、椎名桜子はテンペテルラの建物の影に身を潜めていた。

 

 その表情は真剣そのもので、普段では考えられないほど落ち着いている。

 

 いや、戦闘時の興奮を理性で押さえつけているといった感じだろう。

 

 その目線の先にはドレ・ラマテスがいた。

 

 森で街を囲んだので、外の音が中に漏れることはない。

 

 その逆で、中の音も光景も外に漏れることはない。

 

 そして、テンペテルラの住民は椎名の魔法で睡眠状態にある。

 

 椎名桜子とドレ・ラマテスだけの空間。

 

 本来、ドレ程度の魔法使いを椎名が警戒する理由がない。

 

 それなのに椎名はドレを注意深く見つめていた。

 

 (なんで魔法が効いてないの? そんなに魔法抵抗力が強いの?)

 

 椎名は警戒を強くする。

 

 それもそのはずで、彼女は自分の“樹”による花粉によってこの街の住民を眠りに付かせている。

 

 それがドレには効いていない。

 

 椎名は少しでも情報を集めるため猫族の耳をピクピクと動かし、ドレの独り言を聞く。

 

 「なんだ!! 何が起こった!! この木は……ナントから連絡のあったあの少女たちの力か……」

 

 椎名は舌打ちする。

 

 ドレは状況判断に戸惑っているようだった。

 

 花粉が原因ということのも気がついていない。

 

 これから割り出される椎名の回答は、

 

 (自分の手に負えないほどの魔力を注入しているの? あるいは上位悪魔とでも契約して、魔法抵抗力を高めているのかな?)

 

 椎名はある程度あたりをつけると、地面にある木の根っこを掴み取る。

 

 そして、念じる。

 

 「“蛇龍”、あのおじさんに攻撃……おいしく食べて」

 

 直後、椎名の指令に従い、街を囲む森から龍の頭が伸び、ドレに特攻を仕掛ける。

 

 ドレはそれを氷の盾で防いでいた。

 

 その光景を目の当たりにした椎名は一つの予測を付ける。

 

 (“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”か!! だとしたら……少し準備が必要か……)

 

 椎名はそう考え、一度頷くと、ドレに見つからないようにこっそりと走り出した。

 

 その時、不注意で木の枝を踏んでしまう。

 

 ポキというなんとも気が抜ける音が響いた。

 

 「貴様!!」

 

 ドレに気づかれた。

 

 「やば……見つかった……てへぺろ♪」

 

 椎名を数多の氷の弾丸が襲った。

 

 やはり、いつもどおりの椎名であった。

 

 「ほにゃらば、にっげろー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「俺さ……メガロメセンブリアに婚約者残してんだけど……」

 

 釘宮と一定距離で向かい合うナントがそんなことをいった。

 

 釘宮は冷めた目でそれを一瞥すると、冷たく言い放つ。

 

 「で? なんだよ?」

 

 「見逃してくんね?」

 

 「やだね」

 

 釘宮は一切表情を変えないで言った。

 

 岩にもたれかかってはいるが、その瞳は情けなく笑うナントをしっかり見据えている。

 

 内心はドキドキハラハラなのだが……

 

 それもそのはず、釘宮の魔力はゼロなのだ。

 

 普通であれば二、三十分で回復可能なのだが、それを隠すために魔法障壁と敵陣制圧用遠距離移動砲台“鏡鳳”(ファルテンスバード)を発動しているので回復には時間がかかるのだ。

 

 今の状態ではナントに勝てない。

 

 そのため、今の釘宮にできることは時間稼ぎのみ。

 

 釘宮は時間を稼ぐため、口を開いた。

 

 「テメェが生きて帰る方法は一つだ。あの森の中にいるお前の父さんが、桜子と助太刀に行った美砂を倒してここに来ること……それだけだ」

 

 釘宮は柿崎に対する警戒を解かせるため偽りの情報を交え、できるだけ冷たく言い放つ。

 

 ナントは降参のポーズを取ると、地面に伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椎名とドレの鬼ごっこは続く。

 

 ドレが“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)”の鎧を使えてしまえる以上、椎名はドレに決定打を与えることはできない。

 

 よって、種を蒔き、簡単な蔦を放ちながら、椎名は逃げる。

 

 「どうした……先程から逃げてばかりではないか!!」

 

 ドレは氷の盾で滑るように地面を移動しながら、椎名めがけて氷の矢を放つ。

 

 それを椎名は、猫族特有のバランス感覚と瞬発力で交わしていた。

 

 「やばいやばい!! あの氷って魔力を吸収するから魔法障壁効かないんだよね……っと」

 

 アクロバティックに建物から建物へ飛び移りながら、椎名は逃げる。

 

 左右に瞬動術を使って魔氷を避ける。

 

 時折、氷に体を貫かれるが徐々に再生する。

 

 (うーん……3秒以内に3発以上くらったらまずいかな……)

 

 椎名は分析し、種をあちこちに蒔きながら逃げ回る。

 

 氷の弾丸は常に椎名を襲う。

 

 そこで椎名はあることに気がついた。

 

 「あいつ……慣性力の力は使えないの?」

 

 椎名は疑問を浮かべ、ドレの方向を向く。

 

 「このクソジジイ!! 鎧の力じゃあ私は仕留めらんねえぞ!!」

 

 椎名は挑発し、文字通り尻尾まいて逃げる。

 

 案の定、氷の射出が激しくなった。

 

 椎名はにやりと笑うと、種を二つ蒔き走る。

 

 慣性力の攻撃がないなら、いくらかやりようはある。

 

 「“犀樹(せいじゅ)”、“雀樹(じゃくじゅ)”!! アイツを噛み砕け!!」

 

 椎名はポケットから出した種に一段と強い魔力を込めながらそれを放り投げた。

 

 種は一瞬で成長し、大岩ほどの化物になる。

 

 サイの怪物“犀樹(せいじゅ)”と雀の怪物“雀樹(じゃくじゅ)”はドレに突進する。

 

 それらをドレは難なく撃ち落とした。

 

 「こんなこしゃくな手段で……」

 

 ドレが椎名の方を向いた瞬間、椎名は既にいなくなっていた。

 

 「あれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いい感じに逃げられたね……」

 

 椎名は一人、地下に潜っていた。

 

 “犀樹(せいじゅ)”を召喚した際にできた、木の根の中だ。

 

 「さてと、あいつは“蛇樹”に任せて、私は少し、おしごとしますか♪」

 

 椎名は地面に根をはり、道を作りその中を走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柿崎はようやく仕事を終えた。

 

 彼女の周りには戦艦だったものが103隻ほど、地面に落ちていた。

 

 あるものは大きく真っ二つに切られ、またあるものは溶けて原型をとどめず。

 

 凍りつき、水に流され、風に潰され、土に埋められ、炎に焼かれた。

 

 柿崎は顔を歪めて笑うと、ダメ押しとばかりにその全てを“燃える天空”(ウーラニア・フロゴーシス)で焼き尽くす。

 

 「神に逆らった街を一つ焼き滅ぼした天使の一撃を模した魔法。流石の出来栄えですね」

 

 柿崎は燃え盛る戦艦を背にし、テンペテルラへと飛ぶ。

 

 「さて、桜子はどうなっているでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椎名は地面の中を歩いていた。

 

 「とりあえず、後ろを埋めながら進まなくちゃいけないのが面倒くさいな」

 

 椎名はそんなことを言いながらも、地面が陥没したりしてしまったら笑えないので、律儀に埋めながら進む。

 

 「でも……あれを試してみたいし、準備は綿密にやっておかなくっちゃ!!」

 

 椎名は種を蒔き、一言、

 

 「はい、おしまい。神殿の構築終了♪ ちょうど、“蛇樹”もやられちゃったみたいだね♪」

 

 椎名は上に手を向ける。

 

 「プラクテ・ビギナル 空に根を張れ、地を穿て。砦を守る虚無の化身、われに従いて翼を広げよ!! 今ここに我が神殿を形成する!! 『レーベンスシュルトの銀の城』!!」

 

 呪文の詠唱とともに、地面が大きく揺れた。

 

 椎名は地面に押され、空へと躍り出る。

 

 そこには、緑の神殿が存在していた。

 

 もともと酒場が存在していた場所に、ピラミッドのような木の根が有り、その真ん中から世界樹のような大木が現れる。

 

 椎名はその大木の上に降り立った。

 

 遠くからドレが近づくのが見える。

 

 椎名はさらに呪文を紡ぐ

 

 「プラクテ・ビギナル 空に根を張れ、地を穿て。城の守り人、守護霊獣。我が身に宿りて姿を示せ。『降臨・亜龍樹(プレ・ナガーシャ)』!!」

 

 椎名桜子の瞳から光が消える。

 

 その代わりに、空中に二つの大きな目玉が現れた。

 

 椎名は愛おしそうにその瞳を撫でる。

 

 さらにその周りに蔦が伸び、椎名と瞳を包み込んだ。

 

 蔦が成長し、何かを形作っていく。

 

 幹が伸び、木の葉で覆われ、枝を伸ばす。

 

 植物というよりもどこか爬虫類のような姿をした生き物がそれらから浮き出るようにあらわれた。

 

 全長は約80mほど。

 

 それは龍だった。

 

 大きな拳を持ち、その瞳はドレを見据える。

 

 その異形の巨龍は眠りから覚めるようにのんきに伸びをした。

 

 「龍樹の完全開放は久しぶりだなあ♪ まぁ、私は龍樹本体じゃないし、こんなもんかな♪」

 

 その巨龍、“亜龍樹”は神殿から大きく飛翔する。

 

 そして、テンペテルラを囲む森を拡大する。

 

 森は亜龍樹となった椎名と、ドレを取り囲み、外との通路を塞いだ。

 

 椎名はその大きな瞳でドレを見据えた。

 

 「あんただけ最強種の力を使えるなんてずるいじゃん♪ 少し、10年ぶりだけど、相手をしてもらうよ」

 

 ドレは浮遊術で椎名の前に浮かぶ。

 

 「貴様……龍樹……」

 

 椎名は黙り込んで、ドレを睨みつけた。

 

 「貴様は、“光の神殿計画”の……」

 

 ドレは椎名に氷を放つ。

 

 椎名は木の幹と龍の筋肉でできた豪腕で、その全てを叩き割る。

 

 「馬鹿な!! あの試験体には精神を操る魔法をかけるよう……」

 

 「……墓穴を掘ったね……」

 

 椎名が翼を広げ、雄叫びをあげ、爆風をまといながらドレに突進する。

 

 そのまま街を覆う壁に激突。

 

 鈍い音のあとに衝撃波が街をなぞった。

 

 椎名は壁を殴りつけると、何を感じたか、壁を蹴って距離を取る。

 

 「……そうか……そういえば、一番初めに逃げたのがいたなぁ……」

 

 ドレは口の端から血液を滴らせながら、楽しげにそう言った。

 

 椎名はそんなドレを睨みつける。

 

 「それが……こんな化物になっているとは……まるで悪魔だ……」

 

 「悪魔?」

 

 椎名はそこで不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

 「何をいってるの? 私は正義の魔法使いに正義のために正義をなすために作られた存在なんだよ♪ 少なくともそう言われて私は体中いじられた」

 

 龍の姿の椎名はおかしそうに笑う。

 

 「だから、私が何を成そうとも…………それは正義だ!!」

 

 龍の豪腕がドレに向かって放たれた。

 

 そのまま、何度も何度も、椎名はドレを殴り続けた。

 

 グシャ、と何かが潰れる音がした。

 

 「ひゃ……ひゃははははははは!! どうした!! 肯定しろよ魔法使い!! お前の欲しかった力をふるってやってんだからよぉ!!」

 

 息が続かなくなっても、椎名は殴り続けた。

 

 相手が死んでも、椎名は殴り続けた。

 

 何度も何度も、椎名は殴り続けた。

 

 「ねぇ……私はなにかまちがってるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椎名は仕事を終えた。

 

 ドレを殺したその腕にはなぜか形容し難いやるせなさと、虚無感が残る。

 

 思い出すのは理性を失い、暴れ狂う自分の姿。

 

 椎名は頭をかかえてしゃがみこむ。

 

 「私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない私は怪物じゃない……」

 

 何かにとりつかれているかのように叫んだあと、椎名は頭をあげる。

 

 そして、いつもの笑顔を作る。

 

 「よし、お仕事終了♪ エンちんのところに戻らないと♪」

 

 胸に闇を抱え、椎名は柿崎のもとへと向かった。

 

 一仕事終えた椎名は釘宮のもとへ直行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、釘宮のもとに同時に戻った椎名と柿崎が見たものは、

 

 「これが!! これがいいのか変態め!!」

 

 「痛い……ハヒィ!! そうです。女王様!! ぜひこの豚めにお仕置きを!!」

 

 

 

 

 

 

 

 目隠しをされた中年のおっさんをひたすらムチで叩き続ける主の姿だった。

 

 柿崎は本気で頭痛を感じ、その場で倒れこんだとか……

 

 椎名は発狂し、ナントを“亜龍樹”(プレ・ナガーシャ)の力でぶん殴り、星にしてしまったとか……

 

 なにはともあれ、一件落着である。




“光の神殿計画”

・ナント・ラマテスが企画した。魔獣と人間を融合し、兵士として有能な戦士を生み出すための計画。椎名桜子が関わっていたらしいが……

“蛇樹”“犀樹”“雀樹”

・サイと雀を模した椎名桜子の“樹”の一つ。それぞれが聖書の怪物、リヴァイアサン、ヘビモス、ジズを表しているらしい。
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