釘宮円で葛藤   作:NANA@

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柿崎美砂をチートさせようの巻





第一話「決戦兵器で無双」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こっちで間違いないのか?」

 

 「あぁ、あの真っ黒な“フライマンタ7000”はこの先にいった筈だ。おい!! 地図はどうなってる?」

 

 「この先3kmを進んでいます。魔力が断裂された跡があります」

 

 「おそらく明日の朝には追いつけるでしょう」

 

 ダチョウのような竜種に乗りながら走る彼らは“天魔”この土地でそれなりに名を馳せる山賊、あるいは賞金刈りとでも言うべきか。

 

 「まぁ、あれだけのダマスカス鋼を手に入れればしばらくは遊んで暮らせるな」

 

 “天魔”は最悪の相手に喧嘩を売ろうとしていた。

 

 “水の泡”(クラッシャー)と呼ばれる最悪の悪魔に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内心、釘宮は興奮していた。

 

 いや、それも仕方の無いことだろう。

 

 なにせ彼女がもっとも憧れていた男が目の前にいるのだ。

 

 もう興奮しない道理はない。

 

 興奮のあまり飛びつき抱き着きなめ回したい欲望を何とか叩き伏せながら、釘宮はガパオライスを頬張った。

 

 「私はエン・カーフォテーゼだ。一応、立場を言えばこいつらの主人ってことになる」

 

 釘宮は青年アルビレオに偽名を使う。

 

 思いつきなのはご愛敬ということにしておこう。

 

 それに何とか許してもらった柿崎と椎名が便乗する。

 

 「私は砂鳥御前(すなどりみさき)です」

 

 「黒鞭桜桃(くろむちゆすら)だよ♪」

 

 二人は御飯にありつけて頗る機嫌がよかった。

 

 挨拶をしたらもうすでにアルビレオが眼中に無いところは流石と言うか何と言うか。

 

 花見に行けば花より団子を全身で表現する人種であることは間違いない。

 

 そんな柿崎と椎名にため息をつくと、釘宮は、

 

 「で、どうすんだアルビレオさん。封印を解いてしまったのはこっちのミスだし、私としてはまぁ、一応お前を人里までは連れていこうと思ってるんだが……」

 

 「ええ、こっちに来たのはもう二十年ぶりになりますからね。私は右も左もわかりません。お世話になります」

 

 「そうか。まぁ、五日程度の付き合いだが、のんびりしやがれ」

 

 そう言って釘宮は徐に立ち上がり、自分の分の皿を片付けると仁平とタオルを持ってシャワールームに向かう。

 

 「俺、風呂に入ってくるから」

 

 「あっ!! それでは私も」

 

 釘宮の後にアルビレオが続いた。

 

 釘宮は振り返る。

 

 「お前も風呂を使いたいのか」

 

 「ええ、一緒に。背中くらい流しますよ♪」

 

 「そうか。悪いな」

 

 二人はとても良い笑顔でお風呂に直行……

 

 「待て待つ待て待て待てい!!」

 

 出来なかった。

 

 柿崎が止めた。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「何か問題でも?」

 

 「いやいやいやいや、何を純真無垢なキョトンとした表情で頭にハテナマークを浮かべてやがるんですか!!」

 

 「だって、俺は風呂に入るだけだし……」

 

 「お世話になるのですから……お背中を流させていただこうかと」

 

 「「いったいどこに問題が?」」

 

 釘宮とアルビレオは再びキョトンとした顔で聞いた。

 

 「問題しかねえだろうが!! バカヤロウどもがぁあ!!!!」

 

 ここまで言われたらエロ番長柿崎と言えど黙っておけないらしい。

 

 次から次へと言葉を吐き出す。

 

 「エン様!! 男の人と二人でお風呂に入るなんてやめてください!! 襲われますよ黒鞭もなんか言え!!」

 

 柿崎が椎名にふる。

 

 「えー……二人が良いなら良いんじゃないの?」

 

 「ダメに決まってるでしょ!! なに!? これ、私が間違えてるの!?」

 

 柿崎だけが浮いていた。

 

 そこに釘宮が助け舟をだす。

 

 「つまりだ。お前は俺とアルビレオが一緒に風呂に入るのが納得いかないわけだ」

 

 「そうです!!」

 

 「じゃあ、お前が俺の背中を流してくれれば良いじゃねぇか」

 

 「まぁ、それなら……」

 

 「よっしゃ!!行こうぜ、御前!!」

 

 釘宮は柿崎を抱き抱えお風呂に向かう。

 

 「あっ!! 桜桃、周りは警戒しておいてくれ」

 

 「はーい」

 

 お風呂場に向かった釘宮の指示に、椎名はうれしそうに手を振った。

 

 その光景を見ていたアルビレオはくすくす笑うと、

 

 「あの二人はいつもあんな感じなのですか?」

 

 釘宮と柿崎がお風呂にいったので、リビングに残されたのはアルビレオと椎名となっていた。

 

 「うーん……いつもはエンちんが御先に振り回されてるかな……」

 

 「今回は逆のようですね」

 

 「エンちん世間知らずだからね」

 

 椎名は皿を洗いながら、アルビレオと会話を続けていた。

 

 「なるほど……」

 

 アルビレオは何故か考えるそぶりを見せると、

 

 「それはそうと、この船は見事に隠されていますね……こんな隠蔽魔法は私も見たことがありません」

 

 「外装に一回空間遮断層を混ぜこんでるんだって。御先が言ってたよ♪」

 

 仕事を終えた椎名はチェス版を持ってくる。

 

 「アルビレオさん。ルールはわかる」

 

 「はい。御相手いたしますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柿崎と釘宮が風呂を上がり、リビングにやってきたときに目にしたのは、頭を抱えるアルビレオと得意げな顔で扇を仰ぐ桜子大明神の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、椎名と柿崎が寝付いたあと、釘宮円は一人倉庫にこもっていた。

 

 アーウェルンクスである釘宮は睡眠を必要としない。

 

 しかし、人の範疇である柿崎と椎名はそうではない。

 

 一日いくらかの睡眠を必要とする。

 

 つまり、この時間帯は釘宮が一人で過ごすことのできる時間なのだ。

 

 釘宮が鉄を打つ音が響く。

 

 作っているのは一枚一枚が薄い六角形の金属の板。

 

 同じサイズ。同じものを釘宮はどんどん作り出しては重ねていく。

 

 さらに金属板の塊を産み出し、熱し、薄く叩き伸ばしてゆく。

 

 その光景を後ろから見ている青年が一人。

 

 濃い群青色の髪の毛に、線の細い淡白な顔。

 

 大きめのローブをまといながらやさしげに微笑んでいる。

 

 魔法使いアルビレオ・イマだ。

 

 「生ける金属ダマスカス鋼ですか……。それは確か加工される相手を選ぶそうですが……」

 

 「相手ならな……そもそも私は人じゃねえし。生き物かどうかも怪しいし……、どちらかというと今お前の目の前で起こっていることは自然現象に近いな」

 

 「そうなのですか?」

 

 「自然をあるがままに、為すがままの状態に戻してゆく。ダマスカス鋼が人間に加工できないのはその年輪を読まずに、無理やり形を変えようとするからだよ。生ける金属とはよくもまあ言ったもんだ。じゃじゃ馬過ぎて、加工に時間がかかるのは問題だがな」

 

 「簡単に言ってる割にやってることは凄まじいですね……」

 

 アルビレオが苦笑いしながら言った。

 

 「前に作った作品もあるが、見てみるか?」

 

 釘宮は、作業を一時中断し、正六角形の金属板を積み重ねて言った。

 

 その高さはすでに60cmほどで、見方によれば鎗の一部にも見える。

 

 「ええ、是非とも」

 

 アルビレオは彼らしい、爽やかな笑顔でそう言った。

 

 釘宮は立ち上がる。

 

 「敵陣制圧用遠距離移動砲台“鏡鳳”(ファルテンスバード)!!」

 

 釘宮の周りの漆黒の鎧が顕現する。

 

 その展開スピードは一瞬。

 

 釘宮の転移魔法の練習の賜物だ。

 

 「それが、作品ですか……」

 

 「そうだ。一応、悪魔を真似して作ってみたんだ。燃費が悪いのが玉に瑕だが、なかなか使えるいい子だぜ」

 

 「少し、近くで見てもよろしいでしょうか?」

 

 「ん? まあ、いいけど……」

 

 それが釘宮の運の尽きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵陣制圧用遠距離移動砲台“鏡鳳”(ファルテンスバード)は中にチェインメイルを着込む。

 

 しかし、このチェインメイルのチェインは中に障壁用、転移用の魔方陣を張る仕組みになっているため、やけに大きめの輪だ。

 

 柿崎の細い腕程度なら簡単に通ってしまう。

 

 そして、中には皮膚に張り付くようなインナー。

 

 そして関節部分に膝当て程度の鎧と体を覆う大きな翼。

 

 つまり、何が言いたいのかというと、

 

 近くで見られるのはすごく恥ずかしかったりする。

 

 「なるほど……ここはこうなっているのですか……」

 

 アルビレオはそんな釘宮の都合などお構いなしでその翼が生えているところ、ちょうど腰辺りをガン見。

 

 真顔でガン見。

 

 瞬きなんて一切しない。

 

 これで真剣なんだからタチが悪い。

 

 「あの……そのだな……ひゃ!!」

 

 釘宮の腰に、アルビレオの細い指が触れた。

 

 「なるほど……、魔力伝導率の高い黒龍の革をスーツにしているのですか……」

 

 そのまま、ウロコの向きになぞるように指を滑らせる。

 

 「あひゃあ!!」

 

 釘宮が声を上げた。

 

 彼女は心の中で、

 

 俺はホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……ホモじゃない……

 

 と、つぶやきまくっている。

 

 一応彼女の中での性別は男となっているらしかった。

 

 「それでこの輪っかが魔方陣……このパーツはなんでしょうか……」

 

 アルビレオの手が今度は肩に伸びる。

 

 「それは……ダマスカス鋼の装甲で……チェインメイルをつけると動きに支障が出るようなところに……」

 

 「そうですか……ここまでなめらかに加工できるとは……おみそれいたしました」

 

 今度は釘宮の頭の上に目線と手が伸びた。

 

 「そして、こちらの可愛らしいカチューシャは?」

 

 「それは補助道具……相手との位置関係や自分と相手の状態、装備とかを計算して攻撃したり接近したりするためのぉぉぉぉおお!!」

 

 アルビレオの手がカチューシャに伸びた。

 

 「ひゃ、ふぁ……それは……直接神経をつないでるから……敏感で……ひゃあ!!」

 

 「なるほど……そういった魔法具の使い方もあったのですか……いやはや勉強になります♪」

 

 「いっ今、なんかテンション上がっあひい!!」

 

 「私、重力魔法が得意でしてね♪ 力のかけ方とか、振動魔法とか……かなり勉強したんですよ♪」

 

 「そんなのしらにゃい……ふぁあ」

 

 「なかなか可愛いですね……どれ、もう少し力をかけても……

 

 ガラガラガラガラ

 

 唐突にドアが開いた。

 

 そこに立っていたのは、

 

 「ひゃあ……しいなぁ……たしゅけてぇ……」

 

 何故か腕を組み、いろんなところから植物の蔦を生やした、椎名桜子その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、椎名桜子のよるお説教は4時間にも及び、釘宮は作業を翌日に延期せざるをえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌朝、手際よくベーコンエッグとサラダに野菜のスープを作り、食パンを焼いた釘宮は倉庫に再びこもった。

 

 もはや倉庫は釘宮の魔法具生成の為の工房になっていた。

 

 そんな主をよそ目に、柿崎と椎名、そしてアルビレオは釘宮の作った朝食にありついていた。

 

 「やはり豚肉が最高なのです。この上品な脂。脂が至上」

 

 「朝から元気だね……私は疲れたよ♪ ふあぁあ……」

 

 椎名も眠たそうにしながらベーコンを口に運ぶ。

 

 「ははは、どうやらこの船の家事はすべてエンさんが行っているようですね」

 

 「エンちんがその呼び方はHClになるからやめなさいって言ってたよ♪」

 

 「そうでしたか……それでは、カーフォテーゼさんと呼ぶことにいたしましょう」

 

 「ベーコン……みんなは2枚。私だけ5枚。さすがエンですね。私のことを完全に理解しています」

 

 柿崎はもう顔がとろけきっていた。

 

 「それでさぁ、アルビレオ。少しばかりお願いがあるんだけど……」

 

 椎名がそう言ってアルビレオを見る。

 

 その瞳はいいことを思いついたとばかりに輝いている。

 

 「なんでしょうか、黒鞭さん」

 

 「あなたは今、私たちに人里まで送ってもらってるわけだよ。だから、少しくらい私たちのために働いてもバチは当たらないと思うんだ♪」

 

 「つまり、私にして欲しいことがあるから、人里まで送るかわりにやれと。そういう解釈でよろしいのですか?」

 

 「その通りだよ♪」

 

 椎名は笑顔で答える。

 

 その光景を柿崎は怪訝そうな顔で見ると、

 

 「何を頼むつもりですか? 桜桃」

 

 「いいからいいから。おっほん、アルビレオに頼みたいことはほかでもない。エンちんの病気の治療だよ♪」

 

 「病気ですか……不健康そうなところは見受けられませんでしたが……それは一体何という病気なのですか?」

 

 アルビレオは少し真剣そうな顔をするとそう言った。

 

 しかし、それに対する返事はアルビレオの予想の斜め上を行くものだった。

 

 「エンちんはレズなんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルビレオが椎名に言い渡された仕事は単純明快。

 

 「カーフォテーゼさんに男を意識させる……ですか。これはなかなか……」

 

 アルビレオは難しそうな顔をする。

 

 その表情はそこから心機一転。

 

 「いやはや、面白いことを頼まれたものです♪」

 

 その顔はそれはもう胡散臭いような、さわやかなような、なんとも言えない満面の笑みだった。

 

 そう言って、アルビレオは釘宮が篭る倉庫にノックする。

 

 「御前か?」

 

 中からそんな声がした。

 

 釘宮の声だ。

 

 「いいえ、アルビレオ・イマです。入ってもよろしいでしょうか?」

 

 「おう。すぐに入って来い。おもしれえもんを見せてやんよ」

 

 釘宮はなかなかハイテンションらしかった。

 

 「それでは……」

 

 アルビレオはドアを開け、中に入る。

 

 そこにいたのは、

 

 「よう。久しいな、なんだか体の中のもの全てを流しだしてしまったかのような清々しい気分だ」

 

 無数の真っ白な刃に身を貫かれた釘宮円の姿だった。

 

 「ハハハッ!! 完成だ!! 弐号対一戦闘用決戦兵装“愚かな王の夢”(ダーインスレイブ)!!」

 

 それに若干表情が凍りついているアルビレオの隣に椎名が現れる。

 

 「うわぁあ……始まってるなあ……エンちんの病気が……」

 

 「なっ、なんですそれは……」

 

 「エンちんは自分で武器を作り出した時に周りが見えなくなるという病気があるんだよ……前もそれで魔力がカラッカラになるまで戦って若干ヤバめなことになって……」

 

 「そうですか……私はあの禍々しい魔力とは違う何かしらのオーラがにじみ出ている刀が恐ろしくてたまらないのですが……」

 

 「それはエンちんに聞いてみるといいよ……」

 

 椎名とアルビレオが数歩下がる。

 

 「いやあ、御前を呼んできてくれねえか? 作ってみたはいいんだが、私が使うにはいささか燃費が悪いんだ。悪すぎるくらいに……」

 

 釘宮が遠い目をして目をそらす。

 

 「試し切りで自分を刺して見たはいいが、抜けなくなった。助けてくれ……」

 

 「わかった。御前を呼んでくればいいんだね」

 

 「ええと、カーフォテーゼさんはこのままでいいのでしょうか?」

 

 「このままもなにも、私たちにはエンちんが作った武器の解析なんかできないし、それを操るのは多分力を開放しないと魔力が足りないし、御前に任せるのが一番いいって……」

 

 椎名はそう言って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数分後、魔法使い柿崎美砂は釘宮から刀を力技で抜き、手にしていた。

 

 「なるほど、カードのような金属板を重ね合わせることで剣を作っているのですか。魔力を分散し、これは回転、これは超振動、これは認知結界に……てか、いくつ魔方陣を詰め込んでるんですか……」

 

 一枚一枚を眺めながら柿崎はそれを重ねて作り出していた。

 

 「これはなかなか面白いものを作りましたね……。しかし、エンが使うには少々魔力を食いすぎるようですが?」

 

 「まあな、そういうことになる。俺の魔力量じゃあ、二回振っていっぱいいっぱいだ」

 

 釘宮は身体に空いた穴を埋めるため、自動再生機能に身を任せ、ベッドで眠っていた。

 

 「それでは、私が持っておきましょう。使えないのではしょうがないですね」

 

 「しょうがないな。私には使いこなせない魔剣だ。お前が使ってくれ……」

 

 「了解しました。少々試し切りをしてきます。船は止めていただかなくて結構です」

 

 柿崎は足元に水の転移魔方陣(ゲート)を開いて移動した。

 

 「試し切りって、何を切りに行ったんだ?」

 

 「うーん……なんだかよくわかんないけど……ネズミじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柿崎美砂は一人、空を飛んでいた。

 

 その右手には刃渡り4mにも及ぶ細長い銀の大剣が握られている。

 

 風が吹くたびにゆったりと刀身が揺れていた。

 

 「さてと……追って来ているのは4人ほどですね。なんのつもりかは知りませんが、こちらにバレないように隠蔽魔法を施しながら追って来ていることを見ると、敵対勢力と見て間違いないでしょう。何度か進路を変えても、我々についてきていましたので……」

 

 柿崎はその剣を一瞥した。

 

 「私の魔力を一枚一枚の金属板に分散させることで、私の全力の強化にも耐えられる構造。よく考えたものです。間違いなく、円が私のために作ってくれた剣でしょう」

 

 そう言うと柿崎はその剣を手のひらでなぞる。

 

 掌の皮は剥がれ、苦痛を伴う。

 

 ただ、対一戦闘用決戦兵装“愚かな王の夢”(ダーインスレイブ)の魔方陣、構造、そして使い方は理解できた。

 

 「流石に理由もなく潰してしまうのは心が痛みますので、驚かす程度にしておきましょう」

 

 柿崎は剣を水平に持つと、気合一閃、やや下向きになぎ払った。

 

 ゴウッという風と共に金属同士が擦れ合う、黒板をひっかくような耳障りな轟音が鳴り響く。

 

 あるものは回転しながら、あるものは振動しながら、そしてまたあるものは感知されない結界を伴って、またあるものは障壁を貫通する術式を伴って金属板は飛んでいく。

 

 一枚一枚が光を反射し輝くその光景は夜空に輝く天の川を連想させる。

 

 柿崎のもとに残ったのは対一戦闘用決戦兵装“愚かな王の夢”(ダーインスレイブ)の柄のみ。

 

 「『召喚』(コンヴィカツィオーネ)!!」

 

 柿崎のその一言で、刀身が召喚された。

 

 「一振りするたびに刀身を召喚し直さなければならないわけですか……確かにとんでもなく魔力を食らいますね」

 

 柿崎はその剣を手にしたまま、追っ手が来ていたところを確認する。

 

 柿崎は唖然とする。

 

 そこにあったのは、原型をとどめぬ大陸。

 

 大地は割れ、切り裂かれ、抉れ、崩れていた。

 

 追っ手と思われる集団は、その場で立ち尽くしていた。

 

 「爆散術式、拡散術式、さらには追尾術式……さすが生まれて4ヶ月……考えることがえげつねぇ……」

 

 そう言うと、柿崎は対一戦闘用決戦兵装“愚かな王の夢”(ダーインスレイブ)を天に向け、一言叫ぶ。

 

 「『召喚』(コンヴィカツィオーネ)!!」

 

 その一言で、剣身が倍の長さになった。

 

 全長約8mほど、華奢な少女である柿崎が持っていることに違和感を覚える。

 

 「いいですね……気に入りました。本格的にいただけるように円にお願いしましょう」

 

 柿崎は追って来ていた集団“天魔”を確認すると嬉しそうに笑う。

 

 「全力で剣を振るえることがこんなに嬉しいことだとは……さて、あいつらはまだ逃げないようですし、もうひと振りいってみましょう」

 

 今度は対一戦闘用決戦兵装“愚かな王の夢”(ダーインスレイブ)を真っ直ぐに敵に向けた。

 

 「おそらく向こうに到達するまでには、重力で落ちるでしょう」

 

 柿崎はそれを連続で突き出した。

 

 対一戦闘用決戦兵装“愚かな王の夢”(ダーインスレイブ)は分裂し、一突き数十枚もの金属板が飛んでゆく。

 

 その金属板を飛ばし、着弾したことを確認すると、“召喚”(コンヴィカツィオーネ)で金属板を呼び戻し、装填し、無限に攻撃を続ける。

 

 追って来ていた者が逃げ出したのを確認すると、柿崎は対一戦闘用決戦兵装“愚かな王の夢”(ダーインスレイブ)の金属板を呼び戻し、8mの長さに戻した。

 

 柿崎はその剣を口の中に入れ、ゴクリと飲み込む。

 

 「さてと、戻りますか♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待っていた釘宮たちのもとへ水の転移魔方陣(ゲート)が開き、柿崎美砂があらわれた。

 

 釘宮は、ソファに寝そべった非常にラフな体勢で柿崎を確認した。

 

 「おかえりなさい。お風呂の準備をしておきましたよ」

 

 そういったのはアルビレオだ。

 

 彼は何故か、釘宮に膝枕をしていた。

 

 アルビレオに頼まれた釘宮が抵抗なく承諾したらしい。

 

 釘宮はもともと男だったせいか、男に対するガードが低い。

 

 もう少しおおかみさんたちを危険視することを覚えたほうがいいかもしれない。

 

 昨夜の反省が全く生かされていない。

 

 そういった理由から、釘宮がアルビレオに耳たぶをぷにぷに触られて頬を染めているのは、完全に釘宮の自業自得である。

 

 たまに釘宮が眉間にしわを寄せていても、自業自得である。

 

 「お帰り、私の作品はどうだったよ?」

 

 釘宮が聞いた。

 

 「なかなか気に入りました。本格的に譲っていただきたい」

 

 「おう。いいぞ」

 

 「ありがとうございます」

 

 柿崎が深々と礼をする。

 

 しかしまぁ、それを面白くなさそうに見ている少女がひとりいるようだ。

 

 「エンちん!! 御前だけずるいよ!! 私にも何か作って!!」

 

 釘宮のもうひとりのしもべである椎名だ。

 

 ほっぺたをプクッと膨らませ、納得できませんオーラ且つ上目づかいという最大の武器を携えながら、釘宮に詰め寄った。

 

 「まぁ、そのうちにな」

 

 しかし、それを釘宮は言葉一つで一蹴する。

 

 「それでは、黒鞭さんには私から贈り物をしましょう」

 

 釘宮に膝を提供し続けているアルビレオが、椎名にそう提案した。

 

 その左手にはいつの間にかクマのぬいぐるみが現れている。

 

 「わーい、ありがとう♪」

 

 椎名はそのクマのぬいぐるみを受け取り、遊び始めた。

 

 中に何やら種を植え付けてる時点でシャレにならないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな幸せ空間を存分に堪能した釘宮は、今度は一人で倉庫にこもっていた。

 

 その背後には大量に買い占めた生ける金属ダマスカス鋼、“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)の鎧”が存在している。

 

 釘宮はそれらに手をつけると、ゆっくりと作業を始めた。

 

 「さて、やるぞ……」

 

 彼女が作っているのは壱号敵陣制圧用遠距離移動砲台“鏡鳳”(ファルテンスバード)、弐号対一戦闘用決戦兵装“愚かな王の夢”(ダーインスレイブ)に次ぐ三つ目の魔法具。

 

 “魔氷装甲”と名付けたそれらの魔法具がなければ釘宮は完全に足でまとい。

 

 本来なら敵陣制圧用遠距離移動砲台“鏡鳳”(ファルテンスバード)の改良から作業を始めたいことではあるのだが、残念ながら次に向かうのは遺跡群。

 

 戦う場所がよほど広くなくては使えない上に、相手が限定されてしまう敵陣制圧用遠距離移動砲台“鏡鳳”(ファルテンスバード)は相性が悪い。

 

 そのため、釘宮は近接戦闘用の“魔氷装甲”を考えていた。

 

 狭いところでの戦闘を得意とし、相手を選ばず、燃費が良いスタイル。

 

 柿崎と近接訓練したかいあって、そのアイデアは釘宮の中で固まりつつある。

 

 そして、魔法を受けると質量が増える“氷原と不動の王(ニーズヘッグ)の鎧”も手に入れた。

 

 おそらく、攻撃と防御さらには移動や風水に術式補助に至るまで様々な分野で活用できるだろう。

 

 そんな面白いものを目の前に差し出されて、釘宮円が我慢できるわけがなかった。

 

 好奇心に突き動かされ、それでいて真剣に釘宮はダマスカス鋼を加工していく。

 

 その光景はまるで母親が子供を寝かしつけるような、割れ物を扱うような作業だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、柿崎は、

 

 「円からの贈り物……やはりお返しなる者をするべきでしょうか……しかし、あげるとしても一体何を……」

 

 こっちはこっちでなかなか可愛らしいことを悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、人形遊びに早々に飽きた椎名桜子は何やらうんうん唸っていた。

 

 「黒鞭さん、お茶が入りましたよ」

 

 「あっ♪ アルビンだぁ♪」

 

 数日感の居候、アルビレオが椎名にお茶を出した。

 

 それを椎名は一口飲むと、再び机に向かう。

 

 「何をしているのですか?」

 

 「えっとね……私もエンちんから何か欲しいから、自分からプレゼントしようと思って……そしたらお返しがもらえるかもしれない♪」

 

 よっしゃ!! と、なんとも鼻息荒く意気込む椎名は普段のように蔦の成長に任せるのではなく、自分の手で蔦を導くようにして球体を作っていた。

 

 「“ダイオラマ魔法球”ってあるでしょ? ジオラマの空間を魔法で広げてリゾートを立てたりする奴。エンちんは武器や装備がとてもいっぱいあるからどこにしまうか悩んでたんだって♪ これをプレゼントすればきっと喜んでくれるよ♪」

 

 「それはそれは……素晴らしい試みですね」

 

 「でもね……少しうまくいかなくって……」

 

 椎名はうつむいた。

 

 そして、上目づかいでアルビレオをチラチラ見る。

 

 その視線に気がついてか、あるいはそうでないのか、アルビレオ・イマが椎名に向き直った。

 

 「一応、魔法学は一通り学んでいます。よろしければ相談に乗りますよ」

 

 その瞬間、椎名の顔にこれ以上ない笑顔が浮かんだ。

 

 「じゃあさ!! 重力魔法の術式を組んでくれない? 私苦手なんだよ♪」

 

 「お安い御用です」

 

 アルビレオと椎名はそんな作業に勤しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








さてと、次回からついに椎名の過去編です……

テンション上がってきました


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