その日、その時、その場所には一人の“少女”が生まれた。
一週間後
「だうだうだゎ(予想外だ)!!」
黒い瞳の赤ちゃんがベッドの上で叫んでいた。
彼女が予想外だと言っているのは当たり前のことであり、それでいて、少し考えればわかることでもあった。
世界はランダム、憑依先も、転生先もランダム。
彼女自身が作り出した条件の中で、彼女自信が見過ごした一つの可能性
それは“彼”が“彼女”になることだった。
そんなわけで、今、“彼女”はベッドで泣きわめいているのだ。
「ばうばうばーばばうばう(てか、ここはどこの世界だ……、転生先は確か“ネギま”とか言っていたっけ)」
その時の金髪幼女を思い出したら自然と額に青筋が浮かんだ。
少年もとい少女は余りにも暇過ぎるので、何とかして意思の疎通を謀ろうとする。
(それにしても『ネギま』か。とりあえず、しっている話でよかった。)
とりあえず、彼女は周りの人を探してみた。
「ばばうばうばう(回りの連中が話している言葉はわからん。英語じゃないようだし)」
そう言って、彼女は世話をしているネコミミの少女を見つめた。
「やーん!! こっちをみたんだよ!!」
えへへと、ネコミミ少女は猫らしく笑うと、ベッドで眠る赤ん坊を撫でた。
もう一週間にわたって世話をし続けているので、その顔にも慣れたものである。
そのせいで、今だに赤ん坊が母親の名前を覚えられていないのはご愛敬だ。
因みに赤ん坊は名前を付けられていない。
御七夜が今日なので、名前を貰えるのではないかと期待していたりもする。
「ぱぱうぱうぱう(することもないし、寝るか)」
そういって、一旦いろいろ諦めた彼女が意識を手放そうとしたとき、戸が開く音がした。
必要以上に豪快に、効果音を付けるならドッカーン!! と、緑色の髪の女性が登場する。
「ビ○チよ、精がでるようじゃな!!」
そんな傲慢な姫を見て、後ろでつきしたがっていた男は大きくため息をつくと、
「あなたはまたノックもしないで……」
「諦めることが、大切なんだと思います」
青年の後ろに付き従っていた少紫の髪の女が言った。
「ばぶ、ばばうばばばぶー(いや、諦めないでくれよ美人のねーちゃん)」
そんな光景をみて、赤ん坊は伝わらないとはわかりつつも、ツッコミを入れずにはいられなかった。
「あはは、我が子は可愛いのぉ」
そう言って、緑色の髪をした女性は赤ん坊に近寄り、抱き上げた。
そのままほお擦りをする。
「ばぶばばばばぶぶー(熱い!! いや、暑い!!)」
この美人にほお擦りというシチュエーションはなかなかおいしいものだとは、赤ん坊本人、理解しているのだ。
でも、流石に体中がみしみしと変な音を立てるのを許容することは出来なかった。
「姫様、ずるいよ!! 私も!!」
そこにネコミミの少女が乱入する。
泣きっ面に蜂とはまさにこのこと。
力の弱い赤ん坊は成す統べなく揉みくちゃにされた。
いつもの通り、青年はため息をつき、暴走する母親を止めに入る。
そして、いつもの通り、紫の髪を携えた少女は傍観を決めているのか、手をだそうとしなかった。
もちろん、大の大人以上の力をもつ三人にもみくちゃにされる赤ん坊はたまったものではなく。
「ばばばばぶぶぶぶばぶべーー!!!! (助けてくれー!!)」
たまったものではないのだが、悲鳴をあげるくらいしか出来ることが無かった。
赤ん坊とは恐ろしいほどに無力なのだ。
無論、この場合悪いのは赤ん坊ではなく、それを理解しない大人達なのだが
そんな大人達に呆れたのか、あるいは赤ん坊に同情したのか、紫の髪の少女は杖を取り出した。
「流石に助けたほうがいいですね」
そして、一週間前と同じように、転移魔法で赤ん坊だけを、その中から助けだし、腕に抱えた。
それなのに絡み合うことをやめる気配すらない大人三人を、馬鹿なのではないかと本気で心配しつつ、赤ん坊の頭を撫でた。
「ばぶばぶばぶーばびばびぶ。(ありがとうな、綺麗な姉ちゃん。ははは、マジで死ぬかと思った)」
流石に死地から助け出してもらっただけあって、伝わらないことはわかっていても、赤ん坊はお礼を言った。
紫色の髪の少女は不思議そうに、赤ん坊を見つめた。
そして、その頭を撫でる。
そこでようやく赤ん坊がいないことに気がついたのか、大人三人がじゃれあうのをやめた。
三人とも流石に疲れたようで、表情はぐったりしていた。
「貴様、何故?」
「流石にエン様に危険が生じるかと思いまして、誠に勝手ながら助け出させていただきました。」
睨みつけながら言った碧髪の女性に対し、悪びれる様子もなく紫色の髪の女性が答えた。
そのまま、紫色の髪の女性はぽりぽりとほっぺたを掻くと
「うわ、めんど……、ゲフンゲフン、そんなことはともかくとして姫様、私にはエン様が言語を話しているかのように聞こえるのですが……」
「うぅ、何だか聞き捨てならん言葉を聞いたような気がしたが……、しかも、今日発表しようとしていた名を先に言われてしまうし……」
「ばぶばぶばぶー!? (十人がすれ違ったら十人が振り返るような顔立ちのねーちゃんは俺の言ってることがわかるのか!?)」
赤ん坊が両手を振り、紫色の髪の女性に声をかけた。
「伝わっていますよ。エン様、今、翻訳魔法をおかけ致しますので、いましばらくお待ちを」
「私の魔法の方が手っ取り早いじゃろ」
短気な姫は何も待たずに魔法をかけた。
少女は食事をとっていた。
その席を見てみると、かなり質素なテーブルに、五人の人間が座っていた。
その料理は変わったもので、ヨーロッパのとある島にあるこの城の周りでは見ることが出来ないものばかり。
「いやー、大豆の醗酵が一瞬って、どんなチートだよ」
黒いロングヘアの少女が、そんなことをつぶやいた。
その表情は苦笑と言うか、失笑と言うか、何とも決まりが悪かった。
「お褒めに預かり光栄にございます。」
「しかしまぁ、教える前に娘の手料理を食すことになろうとは、予想をしておらなんだぞ」
「教えるもなにも、姫様は料理がド下手なんだよ!!」
「豚肉が茶色い!! おいしそうです。」
黒髪の少女にとっては余り褒めたわけでもないし、そんなに手の込んだ料理を作ったわけでもないのだが、目をキラキラと輝かせる美女三人を前にして、自然と笑みがこぼれていた。
「肉じゃがと言うんだ。口にあうかはわからないが、まぁ食べて見てくれ」
「「いただきます(なのじゃ)!!!!」」
黒髪の少女、エンを除いた四人は、フォークとナイフで、肉じゃがを切り、口に運ぶ。
「いやぁ、この一つの皿から分け合って食べると言うのは新しいですね!!」
「そうじゃな、今までに食べたことのない奇妙な味じゃの。しかし、嫌じゃないのう。」
「豚肉がおいしいです」
「あー、こら、
「豚肉こそ正義なのです!!」
それぞれが思い思いのことを話し、楽しみ食す。
そんなどこにでもあるような微笑ましい光景の中で、少女は席に座った。
「ところで母上様、俺はここにいるみんなのことを、何も知らないのだが」
「ふむ、そうなのか?」
「ああ。名前どころかあったことが無い奴もいる。」
「まぁ、オヌシはベッドの上から出たことがなかったのじゃから、当然といえば当然じゃな。主ら、自己紹介せい」
碧髪の美しい女性が、周りに促した。
「なるほど、では、私から紹介させていただきましょう」
そう言って、青い髪、青い目、そして白い肌。
かなりの高身長を有する青年が立ち上がり、機械のようにお辞儀をした。
「私はこの城でバトラー、執事長を任されている、ルーという者でございます。何かお困りのことや周りではわからないことがございましたら、何なりとお申しつけくださいませ。」
再び規則正しく礼をすると、ルーは席につく。
うう、なんだよこのリアルイケメソ。俺が女だったら絶対に惚れてるよ!!あっ、俺、女じゃん!!
などという感情をエンはおくびにも出さずに、
「俺もまだ、生まれてから七日だからな……せいぜい頼りにさせてもらうぞ。」
出来るかぎり深々と礼をした。
今度はその隣に座っていた、オレンジ色の髪の毛に大きなネコミミを生やした活発女子が立ち上がる。
その少女はズッバーンッ!!といったコミカルな効果音を上げながら、人差し指を天高く上げた。
「私はく……「ビッ」違うわ!!」
自己紹介をしようと意気込んだ少女に、紫の髪の毛の女性が茶々をいれた。
「まったくもう……、私は
桜桃は笑顔でそう言うと、右手をエンに差し出した。
「よろしくおねがいします。」
それに、エンは右手を差し出して答えた。
「まだエン様はゼロ歳何だから、おもらしとかしても良いからね」
「はははは」
桜桃のはきはきした笑顔と、エンの引き攣った笑顔は、何故か対照的だった。
「最後は私ですね。
そう挨拶をした紫色の髪の少女、砂鳥は会釈するでもなく、淡々と表情を変えずにそういった。
「ええと、お願いします」
エンはその厳かな雰囲気にのまれ、緊張気味にそう言った。
「話しは変わりますが、エン様・・・・、肉じゃが以外の豚肉の料理は何か、ご存知ですか?豚肉の料理があれば、私はよりいっそう仕事を頑張れる気がするのですが?」
もとい、緊張がほぐれた。