団欒での食事を過ごした翌日のこと。
俺は勉学に勤しんでいた。
この世界には世界共通語、あるいは翻訳魔法なるものがあるらしく、世界でも最高ランクの難易度と表現技法を伴う日本語を扱える俺なら、わざわざ言語学を学ぶ必要は無い。
数学や科学なんて者を学ぶのかとも思ったが、どうやらそれも必要ないようだ。
それでは今、何を学んでいるのかというと、
「生まれて一週間で魔法学を学ぶことになるとは……」
「そのわりに楽しそうですが?」
「
「エン様以外に教えたことはありませんでしたが……、それに、こんなものは形と理屈を説明しているに過ぎません。誰にでも出来るはずです」
無表情で淡々と話すこの少女は
この紫の瞳で何で日本風の名前が着いているのか、不思議な女の子だ。
「精霊がどのような存在かはわかってもらえたかと思いますので、次に魔法発動までの過程を学習します。」
すでに慣れている説明口調ですらすらと砂鳥は黒板に絵を描いていく。
「基本的に魔法は魔力を精霊に分け与えることで発動します。この際自分自身で決められるのは“代償”、“媒体”、“効果”の三つです」
砂鳥は感情のない瞳で俺を見つめている。
やめて!!ときめいちゃう
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はい、すいません。続けてください……」
「“代償”に関しましては基本的には魔力です。ですが、例外として悪魔などを使役したり、ゴーレムを生成したり……体の一部や人間の魂を“代償”として支払わねばならない場合もあります」
黒板に魔力が抜かれた人間や、首をはねられた人間の図が描かれてゆく。
「次に“媒体”です。杖や指輪等がありきたりですが、最近ではナイフや拳銃型のものもありますね・・・・。これは言わば電話機のようなもので精霊に意志を伝え、“代償”支払う際に重要になります。魔方陣や転移魔法の移動媒体等も、これにあたります」
そういって、今度はパイプのような絵を描いていく。
「最後に“効果”についてですが。これは魔法の呪文詠唱や魔方陣の中身によって決定されます。また、魔法を放つ範囲や方向を意志や杖の向く方向で決定します」
まぁ、ぶっちゃけ口で説明出来るのはこんなものなんですけど。と申し訳なさそうに笑うと、砂鳥は小さな杖を数本取り出した。
その先端には、かわいいマスコットや星が付けられていた。
「後は外で実践しましょう。コツさえ掴めばこんなものはすぐですよ」
さんさんと照り付ける太陽。
それもそのはずで、ここは砂漠の真ん中なのだ。
太陽光が俺の肌を激しく焼く、なんてこともなく、その城の屋上は驚くほどに涼しかった。
「城の気温を平均に保つ魔法が使われているのです。昼間の熱を溜め込み、夜中に放熱を開始します。そのため、昼間の気温は20度弱となります」
説明をしてくれた砂鳥は土星のマスコットの着いた棒を、僕に向かって投げた。
それを受け取る。
何も感じない、それこそただの棒だ。
「その杖を構えて、先程の想像を大切にして“プラクテ・ビギナル火よ燈れ”と、唱えてください。修正点があれば、そのつど御指摘いたします」
「ありがとう、砂鳥。やってみるよ」
どうやれば成功なのかわからないが、とりあえず杖を水平に構えてみよう。
そして、出来るだけ精霊に語りかけるように、
「プラクテ・ビギナル『火よ燈れ』!!」
一音一音、はっきりと言った。
しかし何も起こらない
「混める魔力が足りていません。杖を突き出す動きを加えてみてください。地面からエネルギーを吸い上げ、杖に混めて放り投げるイメージで」
「わかった」
気を取り直して、俺はその通り、杖を上げ前に突き出して、
「プラクテ・ビギナル『火よ燈れ』!!」
しかし、何も起こらない
俺は精霊に嫌われているのではなかろうか?
何だか、風の吹く音の響きに慰められている気がした。
「炎が燈るイメージを持ってください。それで魔法が発動するはずです」
よっ、よし!!
砂鳥がそういうなら、発動するかもしれない。
いかんいかん
魔力に、イメージ。
ネギまの漫画の綾瀬とかも、血の滲むような努力をして、やっとのことで魔法が使えていたはずじゃないか!!
よし!!
もう一度、しっかりと杖を構えて、
「プラクテ・ビギナル『火よ燈れ』!!」
そして、今度は、
ボウ!!
杖の先端に見えるライターほどの炎・・・・
「うぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!! 使えたぜぇぇええええ!!!!!!!!」
まだ燈ったままだ。
俺が使った初めての魔法。
触れてみると、確かに熱く、その感覚に感動が沸き起こる。
「多少無駄が多いですが、0歳児として見れば、上出来です。続けて、得意な系統の魔法を調べてみましょうか」
パチパチと手を叩き、砂鳥は俺に称賛の言葉を投げかけた。
「得意な系統?」
「そうです。例えば、水ですとか、炎ですとか、血筋や性格に関係することが多いですが、調べてみてから今後の教育係を検討しましょう」
「わかった。俺はどうすればいいんだ?」
相変わらず表情の変わらない紫美人ねーちゃんに、出来るだけ軽く言う。
「簡単、これに魔力を込めてください。」
そういって、砂鳥が色とりどりの色紙を取り出した。
「これは何だ?」
おそらく何かの術式が組み込まれているのだとは思うが、それが何かはわからない。
そんな微かな違和感以外は完全にただの色紙だ。
「ペーパークロマトグラフィーのことを御存じですか?」
「あぁ、もちろん。確か紙への染み込みやすさの差を利用して、混合物を分離する方法だったっけ?」
「その通りです」
少し目を細めた砂鳥は、あのビッチは赤ん坊のエン様にどんな本を読んでいたのですか。とか、ぶつぶついいながらその紙を数枚、俺に渡した。
「魔力を流し込んで見てください。魔力がどれだけ魔法紙に染み込むかで、得意な魔法が選別できるはずです。」
「さっきの魔法みたいなイメージでいいんだよね」
「はい」
それを聞いて、先程と同じように腕を突き出し、魔力を込める。
出来ているかはわからないが
確認のために紙を見てみると、差はあるが、それぞれに染みが出来ていた。
それを砂鳥が受け取った。
「魔力は込められていますね。エン様が得意なのは“空間系”、“植物系”、“肉体系”ですか……。かなりトリッキーですね。それぞれの属性に共通点が見つけられません」
すると、砂鳥はとても良い笑顔で俺を見た。
「“空間系”に“植物”に“肉体系”ね」
少し残念かもしれない
だってほら、やっぱり炎とか水とか雷とか氷とか、派手な攻撃魔法に憧れるじゃない。
「どうかしたのですか?」
「あははは、古代語上位のド派手な魔法を使いたかった」
あからさまに肩を落とす。
「まぁ、それぞれにも古代語上位魔法やド派手な攻撃魔法はありますから、落ち込む必要も……、他の魔法の才能もそれなりにあるみたいですし!!練習をすればきっと……、そうだ、ご飯にしましょう。そして、これからのことをみんなで話し合いましょう」
飯だ
俺の目の前には、卵に豚肉のブロックにソースの実、パン粉、小麦粉、醤油に林檎に梅など、様々なものが置かれていた。
ソースってそれ専用の木のみがあったんだな
ルーさんが東南アジアまで行って探してきたらしい。
あの人、三分で醤油を発酵させたり、一日で地球の反対側まで往復したりマジチート
転移魔法を教えてもらうのも良いかもしれない。
まあ、あしたからだ。
今朝の朝食は城のコックのものを食べたのだが、口に合わなかった。
悪いが、母様や黒鞭が肉じゃがで大興奮していた理由がよくわかる。
パン粉は、わざわざパンを焼いて砕いて作ってくれたそうだ。
さてと、味醂は無いがワインで何とかしよう。
手探り料理開始だ。
白ワインを煮詰め、そこに細かく切ったソースの実を投入。
その空きに梅と林檎をすり潰し、その中に投入。
おそらくこれでソースが出来る。
どちらかと言うと焼肉のタレに近いものになりそうだが
次に手を出すのは、この馬鹿みたいにデカイ豚肉ブロック。
少し分厚目に切ってゆく。
そして、油を大きめの鍋に入れ、
「黒鞭!! 火を強めで頂戴!!」
「任せるんだよ!!」
そういって黒鞭が息を吸い、口から火を噴き、鍋にあてる。
かなりの火力だ。
「そのままキープ!!」
指示を出した俺は少しソースを混ぜ合わせると、卵をトレーに入れてとき、別のトレーにパン粉を入れる。
「ルーさんこれを持ってて!!」
「お任せ下さい!!」
ルーさんにトレー二個を持たせ、自分で豚肉を持ち、鍋と黒鞭の元へ全速前進!!
そして、卵に豚肉を浸し、小麦粉、パン粉をつけ、油に投入じゃーい!!
こうして、トンカツは完成したのだった。
もう少し魔法について学ばせたら、魔法世界をまわらせてみようと思います。この小説での時間軸は1850年程と考えています。
次回はトンカツパーチーの中でエンの魔法の教育方針が決まります。
そして、お母さんの名前は・・・・・・(←考えてない)