食卓では、青い髪の毛が白いスーツに似合う、爽やかに笑う好青年のルー。
紫のウェーブのかかった美しい髪に、色気の無いスーツ、西洋人形のような無表情さをほこる、
動きやすそうな仁平を羽織り、出産の後だと言うのにボンッキュッボンッ!! のわがままバディをもつ、無自覚美人の城の姫。
トンカツを見るやいなや、目が釘付けにされ、よだれをたらし、キラキラした笑顔で料理見つめつづける猫耳少女の
そんな四人が席についていた。
「よし、今日の昼飯はこれで全部出したぞ」
憧れの黒髪サラサラロングのエンが鍋に入ったソースを持って席についた。
エン以外の四人は見たことの無い狐色の揚げ物を不思議そうに見つめていた。
そんな光景を見て、ふふふと、エンは微笑む。
そんな中、痺れを切らした砂鳥が
「早く食べたいので挨拶をします!! エン様早く席についてください!! 私は待ちきれないのです!!」
「いや、その気持ちはうれしいかぎりなんだが頭の上でナイフとフォークをかんかん鳴らすのをやめろ。行儀が悪いぞ……」
「エン様のごはんなんだよ!! ありがたや、ありがたや……」
「黒鞭さん、拝まなくて良いから」
「あれ? そうなの?」
暴走する二人を窘めると、エンはため息をつく。
「それじゃあ、食べ物に感謝を
「ふむ、家族団欒というやつじゃな!! 豚肉よ、我が肉体の礎となるがいい!!」
「姫様!! 何で上から目線何ですか!?」
「まあまあ、ルーさん。母さんに突っ込んでいたら日が暮れるよ」
「エン様まで敵となるのですか!?」
絶望だー!! とか、不幸だー!! とか言っているバトラーのことを無視して待ちきれない四人は手を合わせた。
そのうちの二人ほど、獲物を狙う獣の目をしているのは気のせいではないだろう。
そんな光景をほほえましく思いながら、エンは手を合わせる。
「いただきます!!」
「「いただきまーす!!」」
みんなが取り分けられたトンカツに手をつける。
それにしても異様な光景だ。
ナイフとフォークを使って、トンカツを食べている。
黒鞭のように、満面の笑みでもしゃもしゃ頬張るのなら、絵になる。
しかし、どこかの貴族のようにすら見えるルーが行儀良くトンカツを口にするのは、エンにとってみればかなりシュールな光景だった。
そして、自分自身でトンカツをナイフとフォークで食べることに違和感を感じていた。
そんななか、砂鳥が
「姫様、エン様の魔法の才能について、少しですが、わかりました」
「そうか、御前。申すがよい」
むしゃむしゃとだらし無い笑顔でトンカツに食らいついている城の姫が、砂鳥を促す。
「まず、魔力との親和性が高かったのが、“空間”“植物”“肉体”と言った系統の精霊です。どうやら、呪文を唱えるタイプの魔法と相性が悪いらしく、『炎よ燈れ』の魔法を使うだけでも、かなりの魔力を奪われていました。」
「魔力量で強引に使役したといったところじゃな」
「うひょ!! パワフルだね」
口の中に食べ物を入れたまま黒鞭が言った。
見兼ねたルーがその口を強引に拭う。
トンカツを飲み込んで、エンは少し身を乗り出すと、
「ちょっと待ってくれ。呪文が向いてないってどういうことだ? 呪文がなくちゃ魔法は使えねぇんだろう?」
そんなエンの疑問に三人が答える。
「そんなことはございませんよ。“空間”魔法、有名なものですと転移魔法などが含まれますが、これは呪文の詠唱をするよりも、魔方陣ですとか、舞いですとか、そういったもので発動するほうが多いです」
「“植物”の魔法は、魔法薬学でしか研究が進んでないからね。その勉強をすれば良いんだよ」
「“肉体”魔法に関しては、『気』に対抗するために強化の魔法が開発されましたが、他は学術的にあまり認められていない上、魔法で体を変化させるなど非人道的とのことで、あまり当てになりません。肉体強化だけは教えられますが、他は自分で研究するのが良いと思います」
そんな真面目なことを主に女性二人がトンカツを頬張りながら言うのだから、少し自重してもらいたいものだ。
「つまり、詠唱魔法は向いてないから、他の魔法を勉強しろってこと?」
「そういうことじゃな。流石に後方支援は厳しいじゃろうから、さしずめ前線に出る魔法剣士ってところじゃろう」
戦うことが前提!! と、絶望的な声を上げるエンにたいして、城の姫は凄絶な笑みで答えた。
「大丈夫じゃ、我が娘よ。私に任せておれ。そこらの魔法艦隊では相手にならんくらいに鍛え上げてやるわ」
「いや、ありがたいけど、全然大丈夫じゃない!!」
エンよりもさらに身を乗り出して言った城の姫を冷たくあしらった。
「なんじゃ、つまらんのう。まぁ、どのみち近接戦闘の方法は学ばなくてはいけないとは思うのじゃが」
しぶしぶと言った様子で城の姫は引き下がった。
それを見たエンは、
「その点に関しては同感だ。何かしらの武道は学んだほうがいいだろうしな」
「はむ!! ぶどう!!」
「食い意地を張るな馬鹿!!」
果物を表す単語に飛びつく黒鞭を引っ張り、止めるルー。
いつもの光景になりつつあるそれを見たエンは渇いた笑みを浮かべた。
「確かに近接戦闘術は必要になりますね」
ミネラルウォーターで口の中を潤しながら、変わらない無表情で砂鳥が告げる。
「まぁ、そうとなれば早いほうが良いのう。早速明日から始めるか。ルーよ、頼めるか?」
城の姫は得に悪びれるようすもなく、始めから決まっていたことのようにルーに告げた。
「任されました」
ルーもまた、表情を変えることなく、当然といったように答えた。
そこからさきはたわいもない話をした。
午前の修業で殆どの魔力を使い果たしたエンには、休憩時間が与えられていた。
これから午後の時間総てを休み時間に回されてしまった。
普段エンが睡眠を取る0時まで、まだ10時間も残していた。
しかもこの世界にはゲームも漫画もアニメもなにもかもがなかった。
かといって、城の中にいる召し使い達はゴーレムと呼ばれるものらしく、意志を持たない。
つまり、凄まじく暇なのだ。
「なにをしてすごそう」
少し考えてみるが、先程の四人のうちの誰かのところに行く以外に思い付くことはなかった。
「
そうなると誰の元に向かうべきかは決まってくるわけで、
「確か、地下競技場とやらにいるんだっけ」
エンはゴーレムに道を聞きながら、地下へと向かった。
地下では、なにかがぶつかる音が響いていた。
ドスン、と言う鈍い音が変則的に聞こえてくる。
エンは少し警戒しながら、地下室へと入っていった。
半径二百メートルに及ぶ競技場。
いささか広いと思われるかも知れないが、魔法の中には約150フィートを凍り付けにするようなものも存在するため、ある程度広くないと魔法が使えない。
そんな非日常と言う空間に、エンは足を踏み入れた。
その空間の真ん中で、自信の体の三倍以上の大きさを誇る槍を振るう、一人の騎士を見つけた。
その槍で空を突くたびに地面が揺れ、ドスンという音がする。
槍を突く反動で、地面が揺れているのだ。
そんな完全に規格外の光景を目の当たりにしたエンは、渾身の釣り笑いを披露していた。
「もしかして……、いや、もしかしなくてもルーさんってバグ?」
エンがつぶやくと、ルーが気がついたのか、槍を置き、銀色の甲冑の甲だけを外し、歩いてきた。
そして毎度の如く、どこか機械的に深々とお辞儀をすると、
「こんにちはエン様。このような卑しい場所にご用ですか?気が利かないもので申し訳ありません」
「いや、そんなことはない。流石にすることがなくて……、集中してたのなら邪魔をしたな」
ルーが修業をしているのを気にしたエこちらこそ邪魔になったらまずいと、その場を去ろうとした。
その手を、ルーが掴んだ。
「そうなのであれば、少し体を動かしませんか? 幸い、私はエン様の修業も任されておりますし」
ルーの気遣いだろうか、なんて簡単な疑問を持ったエンは、
「いいのか?修業中だったんじゃねぇの?」
「いいえ、基本時間さえあれば武器を振っている性分でして」
「それは見上げた心意気だな」
エンは少し考えた素振りをみせると、
「わかった。じゃあ、よろしくたのむよ」
エンとルーの二人は、武器庫と呼ばれるところにやって来ていた。
倉庫と言っても埃などはなく、武器のひとつひとつ、倉庫の角に至るまできちんと手入れがされているのがよくわかる。
そんな武器をエンは眺めた。
驚くべきはその量で、三十帖はあろうかというところに溢れんばかりの武器が並べられていた。
中には小型船くらいの大きさの大砲や、鍵の形をした武器などどこか個性的なものもあった。
「すげぇな、武器を選べって言ってたけど、どれでも良いのか?」
「はい。お好きなものをどうぞ。ですが、あまり大きなものですと相手を選びますので、小回りが利くものが良いかと思います」
武器を使う武術と使わない武術は重心の移動方法や間合い、他にも様々な点で些細な差異が存在する。
そのため、始めに武器を選んでしまい、常に携帯するようにするのがまずは最上。
エンはそんな説明をルーから受けた。
「わかった」
エンは一つ一つ品定めするように武器を眺めていく。
鎖の先に無数の刺の付いた球、モーニングスターと呼ばれるものや、ハルバードと呼ばれる大剣。
他にも銃や鞭など、文化や用途を問わず様々な武器がおかれていた。
まぁ、転生の前に、空手を習っていたエンにしてみれば、長かったり、重かったりする武器は好ましくなく、できればナイフやトンファのような護身用程度の武器がいいかなぁ、と思っていたのだが
すると、少しエンの興味を引いた武器があった。
エンは反射的にその武器を手に取り眺める。
真っ赤な紐で繋がれた二本の棒。
一本の五十センチほど棒から横に、くの字に曲がった鉤が飛び出していた。
カタカナのユを横に引き延ばしたような形の武器。
叩くのだろうか、引っ掛けるのだろうか、それとも何か別の使い方があるのだろうか、形しか見ていないが、エンはこの武器を気に入っていた。
「それは十手と言う武器です」
ルーが疑問に答えた。
「剣を折ったり、攻撃を受け止めたり、打撃に使ったり……用途はそれなりに広いおもしろい武器ですよ」
「ん、それじゃあこれにするわ」
エンは簡単に決めた。
エンとルー、本来主従関係である彼等は今、刃を交えていた。
ルーは
上から下に向かう一筋の斬撃はエンの体を断ち切るには十分な力と速度を伴っていた。
それをエンは一つ一つ丁寧に確認するように、十手の鉤にあて、もう一つの十手で横薙にルーの腰を打つ。
始めてから2時間、二人はただこれだけの動きを何十回と繰り返していた。
「ふっ!!」
エンは弱音を吐かずに、ただただ体を動かす。
「重心を落として、剣を弾かないで受け止めてください」
「はいっ!!」
ルーの
額からたれた汗が目に染みる。
しかし、けして目を閉じずに、自分を鍛えてくれている猛者を油断なく見つめた。
(普通ならもう倒れ込んでもおかしくはないんですがね……やりすぎても良いことはありませんし、休憩にしますか)
そんなことを考えたルーは、
「エン様、あと十回剣を受け止めたら休憩します。いいですね?」
「はい、師匠!!」
よろしいと、少し微笑みながらも、真剣に取り組むエンに答えるため、その剣を大きな体重移動と共に打ち付ける。
そのときだった、
エンがにやりと笑う。
エンは鉤でその剣身を捕らえると、手首をねじり手からもぎ取ろうとする。
さらにもう片方の十手で、ルーの手首を打ち付けた。
あっ!!と言うマヌケな声と共にその太刀がルーの手からこぼれ落ちた。
その隙を見逃すエンではなかった。
というか、この隙を突くためにエンはこの行動をとったのだ。
絡め取った太刀を捨て去った十手に力を込め、ルーの顔に打ち付けようとする。
「見事です……が!!」
タイミング、勢い、それは十分だった。
しかし、ルーはただただバグだった。
突き出された十手に対してルーは肩を下ろしてかわし、エンの腕を掴む。
伸びきった腕はルーによって簡単に曲げられ、エンはびっくりするほど簡単に地面に押し倒された。
「だー、畜生ダメかー!!」
エンは悔しそうに叫んだ。
「いや、見事でしたよ。エン様が“気”を使えていればわかりませんでした」
「あんたも“気”は使ってなかっただろうが!!」
ぷくーっとエンは頬っぺたを膨らませ、ルーに講義する。
「あはははは、何この可愛い生き物」
「うがーっ!!」
「はははは、届かないな。可愛い可愛い」
エンは顔を真っ赤にしながら暴れる。
その光景は
しかも、少女は顔を真っ赤にしながら抵抗していて……
つまり、何が言いたいかと言うと……
「人の娘に何をしておるのじゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
少女の母が勘違いをして男性を蹴り飛ばすのは仕方の無いことだった。
「ぶげらぼばばばばばばばばばばばばば!!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
地面に減り込みながら飛んでいくという奇妙な行為を行った青年を少女は
「これは俺が悪いわけじゃないよな……」
後日談(むしろこっちが本編)
「調子に乗りましたっ!!」
ある部屋の中には華麗なるジャパニーズ土下座を決める青年がいました。
それは体の隅から隅まできちんとしていて、上流貴族の貫禄を醸し出しています。
でも、全然かっこよくありません。
「うー……ルーさんにけがされた……お嫁にいけない……」
男の正面には軽蔑しきった目で見つめる、可愛らしい少女がいました。
彼女は黒い毛布に包まり、ぷるぷると震えていました。
男はおでこをぐりぐりと地面にこすりつけます。
その間すら、背景には赤い薔薇みえたりしますが、全然かっこよくありません。
そんな男を四人の女は
「まさか……俺みたいな赤ん坊に性欲を向けるなんて……」
「それは違!!」
「俺には魅力が無いとでも……」
「それも違!!」
「このロリコン!!」
「グハァ!!」
「このペドフェリア!!」
「グホォ!!」
「鬼畜、女の敵!!」
「ガハァ!!」
ライフポイントかゼロになった男は地面に突っ伏しました。
口からは何やら、白いものが飛び出しています。
「エン様!! どこにこんな変態がいるかわからないからね!!いつも十手を持ち歩いているんだよ!!」
「対変態用の護身術をお教えします。」
もはや言い返す気力も余裕も無い男は、
(おかしいな……何で涙が……)
そんな光景を見ていた緑色の髪の美女は思いました。
お主ら……、もうやめてやれ……
この城を飛び出すまでに後二話ほど
ある程度強くならないと主人公がプチっとやられそうなんで
※書き方に従えとのコメントを頂いたため、現在できる限りの修復に励んでおります。
御指導ありがとうございました。