釘宮円で葛藤   作:NANA@

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第七話「金髪幼女の説明」

 長期間の鎖国と周りの国に干渉されにくい地形の中で、独特の自然と伝統に恵まれた美しい国、日本。

 

 世界でも比類なき深さを誇る日本海溝。

 

 その美しき海辺の断崖絶壁。

 

 少し独特だが、なんとなく癖になる塩の香が優しく鼻をつく。

 

 そんな雅な光景を見たエン達は心がとてもとても穏やかに……

 

 「もう、死ぬ……」

 

 「私も……」

 

 三途の川を眺めていた。

 

 「あははは……わかるよ……そっち側に渡ればいいんだろ?」

 

 「綺麗な羽が生えたお姉さんがおいでおいでをしてるんだよ……」

 

 エンと黒鞭の二人はグロッキー状態に陥っていた。

 

 三時間にわたる長旅にのあいだ中、龍に足で捕まれていた彼女達二人は、上空で容赦なく揺られた。

 

 龍の羽ばたきとともに、上下に、前からの風により前後に、

 

 そして、必要以上の揺れによって左右に……

 

 それこそアメリカンクラッカーのようにブンブンと振り回された彼女達の平行感覚は狂ってしまい、もはや立つことさえままならない状態だった。

 

 そう考えるとこの惨状も仕方の無いことかもしれない。

 

 因みに、その元凶とも言える龍は彼女達を運び終えると、自分の仕事は終わったとばかりにどこかに飛んでいってしまった。

 

 「エン様にビッチ、いつまでそうしているつもりですか? すくなくとも今日中に宿にはたどり着きたいのですが……」

 

 そう言ったのは砂皿御前(すなさらみさき)、龍の背に乗って、日本に来た少女だ。

 

 彼女の乗っていた位置は足に捕まれていた二人の場所よりも揺れが少なく、酔いなど全くない。

 

 というか、揺れ自体を操っていた。

 

 「天国にも宿ってあるんだね……」

 

 「私、お金を持ってないけど、大丈夫かなぁ……」

 

 「はぁ……」

 

 そんな二人をみて砂皿は、両手を大きく広げ、

 

 パシンパシンパシンパシン!!

 

 強烈なビンタを二人におみまいした。

 

 痛みによって二人がこっちに戻ってきた。

 

 「唇が綺麗なピンク色で目が引き寄せられる可愛さの姉ちゃん、もう少し、優しくても良かったんじゃいかな?」

 

 「優しくして欲しいならそう命令してください。ひざまずいて足を舐めて差し上げます」

 

 「それは魅力的な申し出だけど、人間として何かが終わる気がするから遠慮するわ……」

 

 エンはぶんぶんと頭をふって無理矢理意識を覚醒させる。

 

 「北極を突破して来る必要はなかったんじゃないかなぁ?」

 

 「最短距離でしたから」

 

 「てか、途中から俺達を揺らして酔わせて楽しんでたよね?」

 

 「なんのことだか? 記憶にございません」

 

 「俺の目を見て言えやコノヤロウ……」

 

 砂皿は一瞬にしてキリッとした顔を作ると、エンの目を真っすぐみて、

 

 「最短距離でしたので」

 

 「完全に蛇行運転だっただろうが!! ゲホッ!! ゴホッ!!」

 

 ぐったりと倒れ込む二人に対して、砂皿は少し肩を竦めて、

 

 「ほら、さっさと立って下さい……」

 

 「畜生、どの口が言ってやがる」

 

 完全に冷めた目でエンは砂皿を見つめた。

 

 うわー……面倒くせぇ……などと言う本音はおくびにも出さずに砂皿は、

 

 「そんなことを言ってると、またさっきの龍に運んでもらいますよ」

 

 「「はい!! 申し訳ありませんでした!!」」

 

 地獄の再来を宣告され、二人は飛び起きてそう答えた。

 

 「始めからそうしてください……」

 

 砂皿は呆れたように苦笑いをながらそう言うと、服が汚れるのも厭わず、断崖絶壁の反対側、鬱蒼と木々が生い茂る森林に向かって歩きだす。

 

 エンは幾重にも絡まった蔦がおいでおいでをしているその光景を見ると、

 

 「えっ、この中に入るの?」

 

 少しトラウマになりそうな植物達をみて、再び真っ青になった。

 

 砂皿は立ち止まって振り向くと、

 

 「当たり前です。そうしてエン様をいじるのが目的……ゲフンゲフン、周りには林しか無いんですから」

 

 「マジかよ!!移動方法は他にもあるだろ!!箒とか!!転移魔法とか!!」

 

 「エンっち……、日本にも魔力を操る集団があってね……。呪術だとか、九十九神だとか、かなり独自の魔術が発達してるんだよ……」

 

 真っ青な顔をしてそう言った黒鞭に、また真っ青な顔をしたエンは

 

 「知ってるが……それがどうかしたのか……?」

 

 「魔術的な価値の強い日本という土地を巡って、西洋魔法使いと、東洋呪術師が戦争をおこしているのですよ」

 

 エンの背後から、戻ってきたのか砂皿が答えた。

 

 「そうなんだよ。今、ここの呪術師達にとって、私たち西洋魔法使いは敵。つまり、見つかると凄く面倒臭いんだよ。」

 

 「土地勘もありませんから、転移魔法を使おうにも、飛んだ先が結界の中でした、なんて可能性もあります」

 

 「何かたいへんみたいだけど……、つまり俺達はあの森の中をくぐりぬけていかなくちゃいけないわけだ……」

 

 そんなことを、寂しそうな目をしながら、エンが言った。

 

 「穴を掘って進んだらダメか?」

 

 「別に良いですが、そこもおそらく木の根でいっぱいですよ」

 

 「畜生、かわいい顔して残酷なことを言いやがって……」

 

 「心の篭ってない褒め言葉をありがとうございます」

 

 「いつか目にもの見せてやるからな、首洗って待ってろ」

 

 「ご命令とあらば」

 

 無表情でそういう砂皿。

 

 酔いも幾分はマシになったなと、エンは立ち上がった。

 

 「もう少し休憩しようよ~、エンっちに御前っち~!!」

 

 それを見た黒鞭も頭を押さえながら立ち上がった。

 

 エンは林をもう一度だけ確認すると、苦虫をかみつぶしたような顔をして、黒い丸薬を口に入れた。

 

 その名も“黒飴”。

 

 自家製のサトウキビから取れた、濃厚な黒糖にレモンを塗した、是非とも勉強のお供に欲しい逸品。

 

 その味もさることながら、それ以上に、飴に込められた魔術的な意味にこそ本質がある。

 

 「高等技術の無駄遣いだと思うんだよ……」

 

 これは黒鞭の評。

 

 まぁ、これがどのようなものかと言うと、

 

 「体中に転移魔方陣を張り付けるって、便利ですけど、気味が悪いです」

 

 と、砂皿が称する通り、この飴は体の表面に数多の転移魔方陣をすきまなく敷き詰める魔法薬の一種だ。

 

 自分の体に触れた物質を前から後ろ、後ろから前へと転移させる。

 

 そのせいで、立っていると足から体が地面に減り込んでいくと言う怖い魔法薬なのだ。

 

 「薬の効果が切れる前に行こう」

 

 エンは浮遊術を使い、プカプカと漂うように移動をはじめる。

 

 その後ろを砂皿と黒鞭はついていく。

 

 

 

 

 

 

 「やっとついたぜ……麻帆良ぁ」

 

 黒い呪印が完全に消えたエンは目の前に広がる平原を見下ろしていた。

 

 現在の埼玉県に属するこの地域は関東ローム層の中心におかれ、土は粗悪。

 

 その上、台地のため地下水もかなり深く掘らなくては出てこない。

 

 一見、植物が育つ要因など無いように思える。

 

 少なくともエンにはそう見えていた。

 

 「なぁ、ビッチ。どうしてこの土地を選んだんだ? その“すげえのなんとか”って、でかいんだろ……栄養分とか大丈夫なのか?」

 

 そのため、実際にそれを目の当たりにしたエンからこんな質問が飛び出すのは、仕方が無いことだった。

 

 「土とか栄養とかは関係ないんだよ。ここには他には類を見ないレベルで人が集まってるんだ。おそらく、他にも沢山の人が行き来を繰り返す場所になる。だから、その人たちの魔力を吸収し、“樹”は成長を続ける」

 

 その質問にあいまいに帰した黒鞭は、ポケットの中から、ビー玉ほどもある種を一つ取り出して、

 

「周りに人がいると巻き込んで栄養にしちゃうからね、遠くに投げちゃうよ!!」

 

 大きく振りかぶって、投げた!!

 

 そして、

 

 ズボッ

 

 「あはははは、凄いなぁ、一瞬で見えなくなったぞ」

 

 「いや、棒読みで現実逃避しないで下さい。エン様」

 

 ギギギギと、何とも奇妙な音を出しながら、首を壊れたからくり人形のように動かす三人。

 

 彼等の足元には、遠くに投げられたはずの木の種が埋まっていた。

 

 「あはは……ミスっちゃった」

 

 「頭をこつんとたたきながら、ウインクしてベロを出しても、今のテメエには殺意しかわかないぞ……」

 

 そういって、二人は一目散に逃げ出した。

 

 因みに、砂皿はもうすでに逃げ出している。

 

 まぁ、ゆったり話している時間を待っていてくれるはずもなくエンは背後からの鈍い音とともにきた衝撃に、意識を持って行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、視界が白い。

 

 この世界は確か……

 

 前に一度来たことがあったな。

 

 あの時は突然よくわからない衝撃に襲われて

 

 そうか、俺は、また……

 

 

 

 

 死んだのか

 

 

 死因が世界樹に取り込まれて死亡とかどんな羞恥プレイだよ……

 

 せめて戦いの中とか、もっとマシな死に方をしたかったな。

 

 短い期間だったけど楽しかったな……

 

 何でだろう、涙が……

 

 「お兄ちゃん……、起きたの?」

 

 俺はすぐさま声のした方を向いた。

 

 この声には聞き覚えがある。

 

 その消え入りそうな声は遥か地面のほうから聞こえた……って、地面?

 

 俺はついさっきと同じようにギギギギと音を立てて、頭部を地面に向ける。

 

 「なぁ、何で土下座してんの?」

 

 「殴らないでください」

 

 「いや、お前、俺に殴られるようなことしてないだろ?なんでそんなことを聞くんだ?」

 

 できるだけ柔らかい口調と表情で言ったつもりだ。

 

 それに対して、目の前の真っ白な服をきた金髪ロリは、

 

 それはもうキラッキラに輝いた満面の笑みで

 

 「殴らないお兄ちゃんは、だーいすき!!」

 

 土下座状態からの華麗な跳躍をみせて、俺に飛びつく。

 

「 しかし、そうはいかない」

 

 俺は鬼教官共に鍛え上げられた反射神経で起こしていた体をベッドに戻した。

 

 幼女は地面に頭からダイブする。

 

 流石に頭でも打って泣かれると困るので、足を掴みぶら下げた。

 

 そのまま幼女を地面に下ろして、俺はベッドから立ち上がる。

 

 「愛の抱擁は、熱く迎え入れなくちゃダメなんだよ!!」

 

 「暑苦しくならいつでも迎え入れてやる」

 

 「うう、何かヤダ……」

 

 「だろ。で、金髪ロリ、今回は何の用だよ?精霊の喧嘩に巻き込まれて俺が死にましたって訳じゃないから、お前が出てくる必要は無いと思うんだが?」

 

 「うぅ、お兄ちゃんはロリ趣味があると思っていたのに……。えーとね、今回は少し忠告をしにきたの」

 

 「忠告?」

 

 「うん!!」

 

 相変わらず外見相応のかわいらしい笑顔で頷く幼女はベッドに座ると、

 

 「お兄ちゃんが憑依した先の人が、かなり厳しい状況にいるから、少しだけ自分の状況をわかってもらおうと思ってね」

 

 「俺の体は釘宮円のものだろ?そんなヤバいのかよ?」

 

 「ヤバいね」

 

 金髪ロリが頭と体を左右にゆらゆらと揺らしながら答えた。

 

 「どれくらいヤバいかって言うと“中点P”を“ぴゅーてんちー”って読んじゃうくらいヤバいよ」

 

 「……すまん……例えがハイレベル過ぎて、俺にはわからなかった……。具体的に俺がどんな状況に置かれているのか、教えてくれないか?」

 

 中点P?あぁ、子音が入れ代わってるのか……

 

 「仕方ないなぁ……。まず、自分が誰に憑依してるのかはわかってるの?」

 

 「いや、全く」

 

 金髪ロリはそっかぁ~と言いながら、バサリと音を立てて、ベッドに寝そべった。

 

 「うーん、何から説明したら良いのかなぁ?」

 

 金髪ロリは器用に俺の膝の上に座った。

 

 「お兄ちゃんの体が、人間じゃないってのは、気がついてるんだよね?」

 

 「ん? おう。人間だとしたら、信じられない成長スピードだったしな……」

 

 「お兄ちゃんは人間というか……生き物ですら無かったものに憑依しちゃったんだよ」

 

 生き物じゃないって……

 

 「ってことは何だ?俺はお人形さんにでも憑依しちまったとか?」

 

 「その通り」

 

 「……………………マジ!?」

 

 金髪ロリが俺の膝に頭を下ろし、俺を見上げる。

 

 「城の姫ってのがいたでしょ? あいつは体を作っては取り替えて、作っては取り替えて、それを繰り返して何年も何年も生きてきたんだよ」

 

 「その作られた体に俺は憑依しちまったってことか……」

 

 俺がぼやいたその言葉に、金髪ロリが深く頷く。

 

 「そう、自分のために作り上げた最高の体。それになんでかしらないけど他人の精神が宿ってしまった……。でも、城の姫はそんなことはお構い無しで精神を移し替えそうとしている」

 

 「確かに、苦労して作った人形を奪われたくはないもんな」

 

 苦労して造った体に突然ぱっとでの俺が乗り移っちまったって訳だ。

 

 確かに母さんにしてみれば面白くないよな……

 

 「まぁ、城の姫が転移の準備を始めちゃったから、後二百年もすれば向こうが勝手に自滅するんだけど……」

 

 「いや……長いし……」

 

 二百年もあればカップ麺が何個作れる?

 

 1、2、3、……やめた、長すぎる。

 

 「その期間、お兄ちゃんは城に戻ったらいけないわけだ。いやぁ良いタイミングで抜け出したねぇ」

 

 「黒鞭と砂皿が狙ったんだろ……」

 

 「たぶん、情が移ったんだろうね」

 

 つまり、俺はこれから二百年もの間、あの母親から逃げ切らなくてはいけないわけだ。

 

 よくよく考えるとやってることは泥棒と一緒なんだよな……。

 

 申し訳ない……

 

 「本当にランダムにした私にも責任があるかもだから、私も頑張ってそっちに行くから、それまでお兄ちゃん一人で頑張ってね!!」

 

 「それは良いが、どうやって戻れば良いんだ?」

 

 「そろそろ目が冷めるんじゃないかなぁ」

 

 そう言われたら、頭がぼんやりしてきた。

 

 視界も真っ白に

 

 「あっ!!お兄ちゃん。向こうに戻ったら“鬼神の童謡”を探しておくと良いよ!!」




レッツ魔法世界!!
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