ん?魔王ではないよ?え?禍々しい?そんなん俺に言われても困ります。 作:不比等藤原
周囲を山と森に囲まれた場所。
そこにある人里に初めて異常が現れたのは、
1年前だった。
それに逸早く反応したのは、赤子達。
日が沈んでいく夕暮れ頃に、
突然、一斉に泣き出したのだ。
最初は誰も疑問に思わなかった。
赤子が泣くのは当たり前だし、その声を聞いて他の子が泣くのも当たり前だから……。
異常に大人が気付いたのは、
それから1週間後。
気付いたのは、母親達。
自分の赤子が決まった時間に泣く事と他の時間とは違って聞こえる泣き方に違和感を覚えたのだ。
しかし、
それも周りの母親達も同じだと知ると『不思議な事もあるものだな』という程度で終わってしまった……。
異常が確かな形として現れたのは、
それから2ヶ月後。
森から強力な力を持つ魔物が現れ始めた。
しかし、
不思議な事に人里に近づく事はなく、それどころか脇目も振らずに去っていった。
これにより魔物を狩った事のある数人は違和感を覚えたが、余りに少数の意見だったため取り合われる事はなかった……。
明確に問題視されたのは、
さらに8ヶ月経った頃だった。
それは、
元冒険者の意見や、
母親達が我が子の泣き方の異常や泣く時間が少しずつ延びている事から上げていた不安の声を大半の男衆が杞憂だと気に留めなかった結果だった。
男衆や村長が異常を異常と認識した時にはもう、余りに遅すぎた。
それは、
なんて事のない普通の日だった。
それは、
いつも通り平和に過ぎるはずの時間だった。
太陽がゆっくりと沈んでいき、紅く染められた空や大地から色が失われていく。
ある男が久々に開かれる村の男衆全員による集会のため、早めに畑仕事を終えて帰ってくる時だった。
家の前に立ち、そっとドアに手をかけようとした時……
音が、
爆ぜた
村のあちこちから一斉に狂った声が聞こえた。
信じられない程の泣き声や悲鳴、断末魔のようにさえ聞こえた。
それは、赤子の泣き声だった…。
それは、子供の叫び声だった…。
それは、家畜が発狂する声だった…。
それらの声は、明らかに異常だった……。
赤子のこんな泣き方は初めて聞いた。
こんな苦しくて苦しくて今にも狂ってしまいそうな、
寧ろもう狂ってしまった叫び声のような泣き方は聞いた事がなかった。
いつも楽しそうに遊んでいて、
自分たちが帰ると笑顔で迎えてくれる子供達は、
頭を抑え、地面に蹲りながらも悲鳴を上げ続けていた。
今まで自分達の暮らしを支え、
自分達も懸命に世話をしてきた動物達は、のたうち回り、周りや自分を傷つけ、自ら命を経ってすらいた。
混乱の中、
村の大人達の耳には…いや、身体には、確かに振動として伝わっていた。
《ギィィィ》と、何かがゆっくりと開く音。
そして……
次の日の朝には、
小さな村に残っている者はいなかった。