ん?魔王ではないよ?え?禍々しい?そんなん俺に言われても困ります。 作:不比等藤原
【1日前】
日が落ち初め、空が暗くなっていく。
にも関わらず空が少し明るい場所があるのでどうやらそろそろ街に着くようだ。
「……ふぅ。思った以上に長かったなぁ」
久し振りに見る人工物。
そこそこの規模を誇る街に見える。
ギルドカードを見せて街に入り、脇目もふらず宿を取ってお風呂タイム。
いくら魔導士といえどもお年頃な女の子、臭い的にお風呂は死活問題なのだ。
でもそれが終わると次は魔導士としての本領発揮だ。
まずは情報を集める為に聞き込みである。
「すいません。風車村に行きたいんですが、この街から行けますか?」
「え?確かに行けるけどどうして?」
「実は、依頼で其処に調査をしに行くんです」
「調査を?…もしかして、冒険者さんの付き人か何か?」
「いえ、私が冒険者登録をしているB級魔導士のウサギです!」
因みに、こういう時にキッチリ名前を売り込むのも忘れない。私は賢い魔導師なのだ。
「B級?!……え、貴女が?」
「はい!こう見えてそうなんです!」
「まぁまぁ!すごいわねぇ」
「えへへ、…あ、あのそれでですねーー」
宿の女将さんであるユーリさんが言うには、
神隠しにあった村−風車村は距離的にはここから半日ほどで着くらしい。
でも道中に会う魔物にスライムがいて1度出会うとかなり時間が掛かるそうだ。
スライム、
……ハッキリ言ってかなり厄介なモンスターだ。
確かに攻撃力でいえば弱い、
弱いが、
ぶっちゃけいっかくうさぎやその上位種であるアルミラージなどの方が断然楽だったりする。
理由は簡単、
スライムには殴る蹴る打つなどの物理的ダメージはほぼ効かず、
かといって斬撃は切れはすれどもすぐにつながってしまうという物理攻撃主体の魔導師涙目なモンスターなのだ。
しかも奴等、
隙を見ては仲間を呼ぶは、
戦っている間に進化はするは、
しかも倒しても特に何も得られないは、
というほんと勘弁してほしいモンスターでもある。
……仲間を呼ぶのはまだいい。
ぶっちゃけ半透明で目玉だけはくっきり見える物体に包囲されるのは恐怖映像だが、まぁ攻撃力を考えたら無視して歩けばいいし、攻撃を受けたくないなら走るなり高い所に登って消えるまで待つなりすれば逃げれる。
だが進化、
あいつはダメだ。
三段になった奴は6つの瞳と同時に目が合い鳥肌もの。
貝にこもった奴は驚かすタイミングを伺ってる。
岩をまとった奴は刃こぼれ的に剣では切りたくない上に攻撃は重いし痛い。
キングサイズのデブは取り込まれれば抜け出せない水槽の完成。
そして、何よりも黒い奴と白い奴。
奴等は本当に恐ろしい。
あいつらさっきまでぴょんぴょんしてたのに何を思ったのかいきなり、
……飛ぶ。
逃げるなんてできない上に攻撃のチャンスは降りてきた時だけ。
しかもこいつら全員基本的に眩しいくらいの笑顔である。
マジで怖い。
「ーーなるほどなるほど。ありがとうございます!
あ、最後なんですけど、
ここ最近…というか例年と何か違ったこととかはありませでしたか?」
「違ったことねぇ…。……あ、」
「あるんですね!」
「いやでも、……もうあんまり意味ない情報よ?」
「いえいえ!是非お願いします!」
「そう?ならいいんだけど。
……えっと、半年以上前だと思うんだけど、風車村の近くにはモンスターがいなくなったのよ」
「…モンスターがですか?」
「ええ、森も山もスッカラカンよ」
「……えっと、それは風車村の人が何かしたとかではなく、ですか?」
「そ、初めはどうやったのかみんな聞きに行ってたんだけど、何もしていないと村長は言ってたらしいわ。
うちの街の会長も1度は教えろと押し掛けに行ったらしいんだけど、
すぐに帰ってきて何も言わなくなったわね」
「……意味のない情報とはなんでですか?」
「それは簡単。もう戻ってきてるのよ」
「なるほど、……あの、会長さんにもお話を伺いたいんですけど、まだ会えると思いますか?」
「うーん。よく働く人だからねぇ。街の中心に役所があるから、多分まだ其処に行けば会えるわよ」
「ありがとうございます!あ、これ少ないですがどうぞ」
「ありがと。きにしないでね。私達も早く原因を突き止めてくれないと怖くて眠れないもの」
「任せといて下さい!!」
◇◇◇
ユーリさんと別れ、
役所に向かいながら考えるのは異変と神隠しに関係があるかどうか。
なんの理由もなくモンスターが姿を消すなんて考えられない。
それも、スッカラカンって事は強力なものもいなくなったという事になる。
という事は、……一時的に住めない環境になった?
なら毒か何か?
……でもそれなら村人は全員溶けてなくなったみたいな馬鹿みたいな話になるし…。
◇◇◇
役所について依頼で来た事を告げるとすぐに部屋に案内された。
慌てて近づいて来る足音から察するに風車村の事をかなり深刻に考えているのが分かる。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、此方が急に尋ねたわけですから」
「……して、貴女が冒険者様なのですか?」
「はい。B級魔導師のウサギと申します」
「B級ですか!いやはや、その年…それも女性でとは素晴らしい。
……あ、いえ。
決して差別してるのではないのです。
ただ私どもの街では比較的男性が力仕事をする事が多く、仕事で鍛えた体で冒険者になるという流れがありまして…。
にも関わらず、最近は碌に鍛えもせず名ばかりの冒険者ばかりなのです。だから1から鍛えたであろう貴女は素晴らしい。
うちの若い連中にも見習って欲しいくらいです。
…まぁ、それだけ平和になったとも考えられるのですがね……」
栄えた街の会長というだけあって頭は柔軟かつ周りをを思いやれる人らしい。
…自分の言動の細かな所にも気を使っている所から人柄が分かるね。
「いえ、気にしていないので大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
「……あの、早速本題に入らせて貰ってもいいですか?」
「勿論です」
「ではまず、ーー」
会長さん曰く、
押し掛けたのではなく見に来てみればわかると言われ村に行ったらしい。
本当は数日泊まる予定だったが、
夕方に異様な状態を目の当たりにし、しかも村人はなんの違和感も持っていなかった事に恐怖して逃げ帰ったのだそうだ。
「あの、異様な状態とは?」
「……赤子達が一斉に泣き始めるのです。
そして、数分後に示し合わせたかのように一斉に泣き止む。
その後に訪れるのは、
この場所から自分以外の人間はいなくなったのではないかと思わさせられる程の静けさ。
大人が全くあの異常を気にしていない事実。
さらに、
私から見れば、
子供達すらも赤子達が泣いている間、異常に見えた。
あの泣き声の中、
気にとめるどころか寧ろ本当に無邪気な笑顔を浮かべ楽しそうにすらしているように見えた。
村に住む全員が、少しずつ…狂っているように思えて仕方がなかった。
……私は、あの時ほど人に恐怖した事はありません」
「………っ」
「私なんぞが心配するのはおこがましいかもしれませんが、
………お気おつけください。
あそこには、…魔物すら遠ざけ、
人を狂わせる……何かがあります」
私が絶望と出会うまで、
ちょうど20時間を切った時だった。