僕の時と同じような、いや、それ以上の歓声がイタチくんにそそがれる。
やっぱり血筋によって扱いが違うみたいだよ。残念だったね、ミナト。
他には「兄ちゃんすっげー」と僕の妹そっくりの反応をしている子もいる。隣のおっさんは「さすが俺の子だ」と腕組みしたまま言っている。イタチくんの弟と父親だね。
しかし、黄色い声援が多いね。ショタというやつなのかな。
僕は一言かけにいくこともかなわなかったよ。興奮したメスどもがイタチくんに群がっちゃったから。
「千手ヒノキ、うみのイルカ、両者闘技場へ」
と、呼ばれたので僕は行くことにするよ。
「ほどほどにな」
「兄ちゃんがんばってー」
「ケガには気を付けてくださいね」
声援に表情がゆるむ。僕は手を上げて応じる。
イルカの方も両親に何かを言われている。イルカ自身はじっと前を見つめている。集中しているようだ。
「なら、僕もあまり手加減するのはよくないのかな」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、闘技場に着地したあたりで目をつぶる。
大きく息を吸い、吐き、呼吸を整えて、ゆっくりと目を見開く。
十分な弛緩を確認し、一気にチャクラを練り上げる。視線はただイルカだけを射抜く。
「では、試合開始」
合図と共に印を結ぶ。
「木分身の術」
分身体を3つ出す。
「影分身の術」
少し遅れて相手も影分身を4つ出す。
僕の印はまだ続く。
「木遁・大樹林の術」
巨大な木をイルカに向けて放つ。
イルカは手裏剣を投げてくる。
が、こんな大きな木にただの手裏剣をぶつけたところで何にもなりはしない。
何がしたかったのだろう。
木はそのままイルカに突っ込む
全てのイルカを飲み込み、本体を除く全ての分身体が消える。
いや、本体はいなかった。全部分身体だった。
「水遁・水龍弾」
なら、さっきの手裏剣のどれかに化けていたのだろう。たぶん試合前に。
全てを攻撃すれば本物もわり出せるはず。
だからこれで終わりだ。
「ぐああっ」
予想通りだ。手裏剣の1つがボフンとイルカに変わった。
イルカはそのまま水に流されて、やがてガツンと壁に激突する。
ずるりと崩れ落ちて、動かない。終わったようだね。
「勝者、千手ヒノキ」
ドッと、再び歓声が響く。
さっき勝った時よりも大きい。派手な忍術を使ったからだろう。「水龍弾、上忍の使う術じゃないか」「あれだけチャクラを使ってまだケロッとしてやがる。やつは化け物か」「次の火影は決まったな」なんて声も聞こえてくる。
でも火影は面倒そうだから、カカシにでも任せたいよ。僕は楽な仕事をして遊んで暮らしたいんだ。母さんが医療忍者を育てる学校を作るみたいだし、そこの教員になってみたいよ。自由が利きそうだから。
「おっと」
と、ここで少し驚くことがあったよ。
気絶したイルカの下に三代目火影のヒルゼン様が歩み寄って行ったんだ。そのまま手で触れて簡単な医療忍術も施している。ひょっとしたら、この一か月の間に師弟関係になっていたのかもしれないね。それなら急激なパワーアップも納得できるよ。
「あの術を完成させておきたかったがの。まあよいわ。先は長い。ハッハッハ」
聞き耳を立てていると、ヒルゼン様は包帯の巻かれているイルカの右手を見ながら意味深そうなことを言ったよ。
どんな術だったのだろうね。
「兄ちゃんすっごーーっい」
と、帰るとスズネが褒めてくれたのでまた抱き上げてやるよ。
頭なでなでも加えるよ。
「なんだ、うん。イルカのことを考えると喜びにくいな。まあとりあえず、よくやった」
「あとは決勝だけですね。いけると思いますよ、優勝」
と、こちらは先ほどよりも反応が薄い。
理由は母さんの述べた通りだろう。
「でも、イタチくんは相当できるからね。油断してるとやられちゃうかもしれないね」
「その意気です。油断大敵です」
たぶんだけど、イタチくんの才能は僕と同じくらいある。
でも、歳が5つも離れているからね。ふつうに負けないよ。成長期の5年だしね。
「勝者、うちはイタチ」
でも、彼は手の内を見せずに勝っちゃったよ。
情報なしだと怖いね。何が起きるか分からないから。
僕もイタチくんも体力はあり余っていたから、決勝戦はすぐに始まることになったよ。
さっきまでとは違い、もう一つギアを上げることにするよ。
奥の手も使っちゃおう。
目をつぶって集中して、チャクラを練り上げる。ここまでは今まで通り。
ただしここから、さらに指を額に当てて準備しておく。
「では、千手ヒノキ対うちはイタチ、始め!」
この瞬間に一気にチャクラを込める。
「陰封印・解」
額の封印を解き、溜めておいたチャクラを体にまとう。
そこからすばやく印を結ぶ。
「多重木遁分身の術」
印が完成した。50もの分身体が現れる。
勝ったな。
なんて思っている間にも、イタチくんからいくつかの手裏剣が飛んできていた。
僕はそれを分身体にはらわせる。木遁で。
その途中、ボフン、という音と共に土煙が舞う。手裏剣の中に煙玉が混じっていたのだろう。
視界が悪くなってしまった。
「水遁・水乱波」
ならば、水で煙を落とせばいい。
10ほどの分身体の口から多量の水を吐き出させ、闘技場を覆わせる。
その間にも、他のやつらにはひたすら木遁で四方八方を攻撃させる。
その気になればこの闘技場全て覆い尽くすこともできる。逃げ場はない。しかも、水乱波によって木が濡れているのだ。多少の火遁では燃えることもないだろう。イタチくんにはどうしようもないはずだ。
「やばい! 飛べ!」
そんな中、分身体の一人から緊迫した声で指示があった。
なぜだろう。と思いつつも飛ぼうとする。
その時だった。
何かが光り輝いた。
ほんの少し遅れて、鋭い痛みが体を襲ってくる。と同時に雷鳴が響く。
「アイタタタタ、なんぞこれ」
いや、分かる。雷遁系の攻撃を受けたのだろう。
たぶん闘技場全体が湿っていたのを利用されたのだ。
だが、ならばイタチくんもただでは済まないはず。
いや、違うな。無事にいれる場所がある。
「上だ!」
空中にその小さな姿を確認する。僕はにやりと口端をつりあげる。
対するイタチくんは初めて見る表情だ。少し驚いている。だけど、負けることへの焦りとはどこか違う気がする。なんだろう。
ああそうか。さっきの電撃で僕がさして効いていないから驚いているのか。分身も一つも欠けてないしね。
残念だったね。僕の体はもともとすごく丈夫なんだよ。さらに今は、封印を解いてチャクラの衣を纏っているからね。その程度なら何発食らっても大丈夫だよ。
というか、たぶんわざと威力を弱めてくれたのだろうね。死なないように。
その優しさが、今回の敗因となるわけだね。悲しいことだね。戦場では僕が負けていた、とは言い切れないけど、もっといい戦いになっただろうね。
空中にいるイタチくんに逃げ場はほとんど残されていない。
僕は分身体を少しずつ立ち向かわせればいいだけだ。数から言って僕の勝ちは決まっている。
「行ってら」
「おうよ」
分身体を2つ向かわせる。これで終わったかな。
「影分身の術」
おおっと、自分の影分身を足場にしてもう一度跳ね上がったよ。粘るね。
「行ってら」
「おうよ」
また別の分身体を向かわせる。今度こそ終わりかな。
と思ったその時、突然、爆発音が響いてきた。
ちょっとビクッとなってしまう。
音の出所は初めに向かわせた分身達の方向だ。
「ああっ。分身が1つやられてる」
僕の分身体が1つになっていた。イタチくんの分身もいないけど。影分身に起爆札でも付けていたのかな。
それにしても、僕の木分身をやっつけるとは。かなり強力な起爆札だね。本体が食らってもやばかったかも。
だけど、もうゲームセットだ。
「木遁・黙殺縛り」
「くっ」
分身体がようやくイタチくんを捕まえたよ。
これで終わりだね。
「参った」
イタチくんがくやしそうにつぶやく。
「勝者、千手ヒノキ」
審判が僕の名を告げる。
やっと勝てたよ。
今度こそは僕もいい笑顔になれそうだね。なかなかおもしろかったから。
だけど、すぐに苦笑いに変わっちゃう。歓声がうるさすぎるから。「すげえええ」とか「きゃああ」とかなんとか。少女の黄色い叫びは心地よくもあるね。「ああ、イタチきゅんが」とか「ヒノキ〇ね」とかも聞こえてくるけどね。