本体に戻ってすぐに土から出る。
目の前にはシズネさんがいる。
「ああヒノキ。事情はカツユに聞いたよ」
「ええっ」
衝撃的な発言だ。がんばって手に入れた情報をしたり顔で伝えようとした矢先だ。
無駄骨、という言葉が浮かんでくる。
「危ないからあまり近づかないようにして、逃げ出した敵だけやっつけてほしいらしいよ。前線の人にはもう指示も済んでる」
はあ、とため息をつく。
やっぱり無駄骨だった。チャクラが減っただけだった。
「と言っても、私たちは待機していればいいんだって。昨日とやることは同じだね」
「そうですか」
言いながらがっくりと肩を落とした。
その日の夜に「敵の全滅を確認した」との報が入ってきた。
僕やシズネさんは明日にも里に戻れるらしい。
と言っても、今日の分の治療がけっこう残っている。昨日よりずっとケガ人が多い。母さんが部隊から離れて戦っていたからかもしれない。
次の日の朝が来る。
僕は治療の途中で寝てしまったらしい。気を抜いたために変化の術も解けてしまったらしい。たぶん木分身も解けた。
姿を偽っていたとバレても特に文句は言われなかった。というか、母さん曰くもともとそういう任務だったみたいだ。火影様も僕のことは気を使ってくれているみたい。
母さんはまだやることがあるらしく、僕とシズネさんだけで先に帰っていろと言われたよ。
『だけ』と言っても、大勢の人と一緒に帰るんだけどね。荷物もたくさん持ってね。
……うん。気の良さそうなおっさんに「修行だ」とか言ってたくさん持たされたよ。全然うれしくなかったね。ガイとかいう人は喜んでいたけどね。シズネさんも呆れていたね。
気力を振り絞って足を運び、やっと家に帰ることができたよ。
「しんどーーーっい」
大の字になってバタンと床に倒れ込む。
体中がだるい。筋肉痛もする。
もう嫌だ。一週間は動きたくない。
「寝てていいよ。ご飯作っておくからね。お風呂と洗濯もね」
上からやさしい声をかけられる。
いつも思うんだけど、なんていい人なんだ。シズネさんも疲れ果てているはずなのに。
でも、お言葉に甘えさせてもらっちゃうよ。もう限界だもん。お休み。
目覚めると、山菜いっぱいのスタミナの付きそうな料理が並んでいた。
僕は「いただきます」と言ってから、勢いよく食べ物を詰め込んでいった。
シズネさんには「とってもおいしいよ。ありがとう」と何度も伝えた。満面の笑みで。
すると「気にしなくていいよ。私の方がお姉ちゃんだからね。もっと甘えればいい」なんて返された。
もう言葉にならないよ。どうしたら、こんなにすばらしい人間になれるのだろうね。母さんもすごいと思うけど、それとはまた違うすごさを感じるよ。
「シズネさん。今日は僕が背中を流すよ」
「ええっ。いいよ、自分でやるから」
遠慮がちな態度にも精神の崇高さを感じる。
「感謝の気持ちを行動で示したいんだ」
言っておいてなんだけど、これだと自分本位になってしまっているかもしれない。
失敗だったかな。
「えっと、言葉だけで十分だよ。ありがとう」
が、むしろ感謝されてしまった。
うーん、手強い。
結局、一緒に入って遊んで、その延長線上みたいな感じで洗わさせてもらったよ。
シズネさんにも洗ってもらったけどね。
翌日。
10時頃に母さんが帰って来た。
表情は暗かった。とても難しい顔をして、開口一番に「話がある」と言った。
何かあったのだろうか。僕とシズネさんは固唾を飲んで待ち構える。
「実はな。リンが今、危ない状態にある」
「えっ、そんな」
またなのか。
オビトに続いて、リンさんまで。守ると誓ったばかりだったのに。
「落ち着いて聞いてくれ。私はもちろんリンを救う気でいる。ただ、しばらく彼女に会うのは無理だ。綱手班も解散だ」
母さんはかみしめるように語る。
僕たちも緊張感を保ったまま聞く。
「それで、今回のリンの症状は私の専門外でな。大蛇丸の方が詳しいから、やつに頼むことにしたのだ」
「大蛇丸って確か、母さんと一緒に火影様の下で修行していた」
「その大蛇丸だ」
僕の目をジッと見て肯定する。
でも確か、母さんはその人のことを嫌っていたはず。
それでも頼まざるをえなかったということは、リンさんは相当危ない状態にあるのかもしれない。
「それで、やつには治療を引き受ける条件を出されてな。……お前のデータが取りたいらしい」
母さんは視線を落とす。
それから、申し訳なさそうに僕を見てくる。
「僕のデータ?」
なんでそんなものを。いや、木遁の使える僕は貴重だとは思うけどさ。
「そうだ。治療が成功するまでは木分身のデータを、成功後は本人のデータを取らせるという条件になっている。私の監視の中でだがな」
母さんが見てくれるか。
だったら、ひどいことにはならない。特に問題はなさそうだ。
「ふーん。僕は別にかまわないよ」
「お前ならそう言うと思ったよ」
母さんは苦い顔になる。
「と言っても、今回は私もやつの出した条件を飲むつもりだった。やつも一応は仲間だしな」
どこか悲しい顔をして遠くを見る母さん。大蛇丸との思い出に浸っているのかな。
その後。僕は早速木分身を出して母さんにあずけた。
母さんは足早に大蛇丸の下へと向かって行った。
僕とシズネさんは付いて来るなと言われた。それがリンさんのためなんだってさ。
木分身も、情報が漏れないように特別な状態で解除させるみたいだよ。