成人対象版は書く予定ないんやで。
気が付いた頃には、部屋に朝日が差し込んでいた。
極度の疲労感に悩まされながらも目を覚ます。既に雨は上がっているらしく、梅雨特有の蒸し暑さに汗が止まらない。シャワーでも浴びるか、と身体を起こそうとしたところで、腰に抱き着いている何者かの存在を思い出す。
「ん……」
普段は生糸のようにさらっとした黒髪が汗によってざんばらに貼り付いている。白い肌に時折浮かぶ虫刺されのような痕は、おそらく昨晩ついたものだろう。わずかに紅潮した顔を見ると、昨日の情事がぼんやりとだが脳裏に蘇る。
……そうか、ヤッちまったのか、俺。
「うぁぁぁ……」
自覚した途端、形容しがたい感情に襲われた。今まで普通に接していた友人が、今になっては特別な関係になっているという事実。それも、相手は憧れのスクールアイドルだ。あまりにも現実離れした状況に、頭を抱えて呻き声を上げる。そういう雰囲気だったとはいえ、少々迂闊にも程があったのではないだろうか。
「というか、本当に俺でよかったのかよ……」
「……いいって言ったでしょ。しつこいわねアンタも」
「起きてたなら早く言ってくれ」
「誰かさんの独り言で起こされたの。身体中痛いし、動きたくない……」
いつの間に目を覚ましていたのか、呆れたような調子の声が飛んでくる。のろのろと上体を起こす善子だが、当然のごとく一糸纏わぬ姿である。今更ながら、ドキッとして目を逸らす。
「……ちょっと。昨日あんだけ滅茶苦茶ヤッといて、なんで今になって恥ずかしがってんのよ」
「逆にお前はなんでそんなに平常心なんだ……。こっちは展開が急すぎて頭がまったく追いついていないってのに……」
「そう? まぁ、私は私で最初は恥ずかしかったけど。春彦のことは好きだし、問題ないかなって」
「またそんな軽いことを……」
「アンタは軽いっていうけど、私的には結構本気よ。自覚したのは最近だけど、私、貴方のことを愛しているもの」
「……直球は結構クるな、心に」
「こんなに可愛いルームメイトに言われたら男冥利に尽きるってもんでしょ」
ニヤ、としてやったり感たっぷりな笑顔を浮かべる善子。その姿は俺がよく知る堕天使ヨハネで、妙に心が落ち着いた。その間も肉体的には密着しているために色々と落ち着きはないが、その辺はあまり説明させないでいただきたい。
俺に身体を預けたままニヒヒと笑う堕天使に溜息をつきつつも、気になっていたことを聞く。
「えっと……これからは善子の彼氏、ってことでいいのか?」
「まぁ形式上は元から恋人だったけどね。それで間違いないんじゃない?」
「……本当にいいんだよな? 俺なんかが彼氏で」
「普段チャラけてるくせに、なんでそんなに自信がないのよアンタは。あのね、私はこう見えても人を見る目には自信があるし、そもそも誰彼構わず気を許すような頭の弱い女でもないの。春彦はちゃんと『津島善子が心から大好きな恋人』になったんだから、胸を張りなさいっ」
「お、おう……」
予想以上に褒められてしまい少々気恥ずかしい。実感が湧かないというか、今まで勉強ばかりで他人に自慢できるような人生を送ってきていない身としては、誰かに認められることに対してあまり耐性がないのである。だから、実際にこうして承認されると、身体全体がくすぐったくなる。う、嬉しいけど恥ずかしい!
なんかもう目を合わせることができなくて、苦笑しながら視線を泳がせる。あまりにも煮え切らない俺に業を煮やしたのか、善子は不意に俺の顔を掴むと、
「んっ!」
「んん――――っ!?」
滅茶苦茶男らしく、俺の唇を奪い去った。
それだけにとどまらず、強引に穴を開けると舐るように舌を入れられる。どこで覚えたのか、まさに蹂躙といった具合で先手を取られてしまい、全身の力が一気に抜けた。行き場を失った両手が酷く震える。
再び酸素が口内に戻ってくると、透明色のねっとりとした液体が彼女の口へと橋をかけていた。朝日を浴びてつらつらと反射する光景は、日常生活ではありえない程に淫靡なものに見えてしまう。
「……まだ、必要? もっとしないと、私の恋人っていう自信が持てない?」
「い、いや……大丈夫、です……」
「煮え切らないわね。だったら、アンタがもう私の事しか考えられなくなるくらい追い込んでやるから、覚悟しなさい……!」
何やら変なスイッチが入っているらしい善子がもぞもぞとしているが、俺はあえてそこから視線を外した。内腿辺りで彼女の手が右往左往しているけど、いやいや嘘だろマジかお前。
「きっ、昨日半日近くやったのに、まだやんのかよ!?」
「はぁ? こちとらアンタがヘタクソなせいで全然満足できてないっつーの」
「泣くぞ! 仕方ないだろ経験ないんだから……ってバカバカやめろ待って待ってお願い善子」
「いい加減っ……ふっ……覚悟決めなさい……! あぁっ……!」
「ちょっ……マジ、でっ……!」
頭がチカチカと火花を飛ばす。目の前が真っ白になるような感覚と、部屋中に響き渡る粘着質な水音。ここで流されてしまってはいけないと気を強く持つものの、そのうち俺は抵抗することをやめていた。彼女のささやかな膨らみに手を伸ばし、そのまま口づけを繰り返す。徐々に息が荒くなる彼女の姿に、俺はもう自分自身に歯止めをかけることができなくなっていた。
あー、二日連続一緒にサボりは、またなんか変に勘繰られそうだなー……。
おそらくは察しているであろう谷沢と、何かと噂好きな周囲への不信感を抱きつつ、俺はそのまま行為に意識を落としていった。
☆
「腰痛ったぁ……馬鹿みたいに張り切ってんじゃないわよ童貞」
「うっせー馬鹿。元はと言えばテメェのせいだろうが痴女め」
「はぁっ!? 信じらんない、それが彼女に言う台詞か!」
「一言目から彼氏に向ける言葉じゃねぇんだよなぁ!」
ぎゃーぎゃーと罵り合いながら夕方の秋葉原を歩く。鼻先の距離でメンチを切り合う俺達であったが、腕だけはしっかり組んでいるあたりなんかもう茶番感が凄い。そして、秋葉原とかいうフィールドであるせいか、俺達の行動が変にイチャついているように見えてアウェー感もヤバイ。ごめんな、たぶん歩行者の皆様が想像しているような清らかな関係じゃないんだ……腐れ縁こじらせた同居人ってだけなんだ……。
善子からのボディーブローをマトモに受けつつも昭和口の方へと向かう。同人ショップに用事があったから電気街口付近にいたが、今日は今から梨子さんに呼び出しを受けているのだ。なんでも、今日は沼津の方から旧友が来ているらしく、歓迎ついでに是非とのこと。彼女が言う旧友とやらはおそらくAqoursのメンバーであろうことは想像に難くない。国木田か、それとも黒澤か……もしかしたら俺がまだ会った事がない残りのメンバーである可能性も捨てきれない。というか、そもそもAqoursとはまったく関係のない俺を何故平気で集まりに呼ぼうとするのか理解に苦しむところではあるが、彼女達が首を縦に振っている以上遠慮するのも悪いだろう。俺としても彼女らと関わりを持てるのなら願ったり叶ったりではあるし。
おそらくは件の人物を知っているであろう善子に一応聞いておく。
「なぁ善子。今日会う沼津の人って、やっぱりAqoursのメンバーだよな? 国木田とか黒澤とかじゃないのか?」
「その二人はちょっと予定が合わなくてね。なんか適度に暇しているボンボンが今日は来る予定らしいわよ」
「ボンボンって……Aqoursで金持ちとなると、まさか……」
「あ、ほらあそこ。遠くからでも分かる成金っぷりね」
俺の台詞を遮るように善子が駅の一角を指で示す。人でごった返す大型家電量販店の入り口近くに、見覚えのある顔が二人ほど立っていた。一人は直接絡みのある女性。まぁ言ってしまえば梨子さんである。お嬢様という言葉が似合いそうな綺麗な顔立ちだけれども、両手に提がっている同人ショップの買い物袋がすべてを台無しにしている。めちゃめちゃイイ笑顔で俺達の方を見ているから、そのギャップ具合がとんでもない。昔をよく知らないからなんともいえないけど、スクールアイドル引退して自由になってから、フリーダムさに磨きがかかってやしないか。
残念美人まっしぐらな梨子さんはさておいて、問題は彼女の隣に立っている金髪のないすばでーな美少女だ。欧風の外国人っぽさを残す顔立ちが特徴的ではあるが、どうしてそのハリウッド女優顔負けの美貌を歪めて俺達の方を面白そうに見つめているのだろうか。
明らかに嫌な雰囲気を感じ取る俺と善子であったが、そんなことはお構いなしとばかりに件の金髪美女が高らかに声を上げる。
「ヨシコー! こっちこっちー! 早く私にダーリンを紹介しなさいよー!」
「うるっさぁーい! 大声でそんなクソ恥ずかしい台詞を叫ぶなぁーっ!」
「あ、ダーリンってところは否定しないんだ」
「っ~~~! リリー! そこのシャイニーバカをさっさと黙らせて!」
「いやぁ、無理かなぁ」
「なんでよっ!」
「昔から、私が鞠莉さんを一度でも止められたことがある?」
「う……。言われてみれば、一度もない……」
「でしょ? だから大人しく諦めて、さっさと春彦くんとの蜜月な日々を私と鞠莉さんに白状しなさいな」
「梨子さんガンガン乗り気じゃないっすか」
「てへ」
鞠莉さんの傍若無人っぷりにかこつけていい具合に便乗しようとしていた腐女子が一名。見咎めると、なんかもう漫画もびっくりなコッテコテのリアクションで誤魔化されてしまう。そんな馬鹿みたいな仕草でこの俺が見逃すとでも――――
「可愛いから許す!」
「死ねこの浮気者」
スパァンッ! と後頭部をはたかれる音が、やけに秋葉原昭和口に木霊した。