「それじゃあ今日は~? 我らがGuilty Kissと、ハルの出会いにカンパーイ!」
『乾杯~!』
「……乾杯」
鞠莉さんの掛け声でそれぞれがグラスを打ち鳴らす。未だにお酒慣れしていない俺達と梨子さんはカクテルだが、最年長の鞠莉さんはなんと生ビール。「とりあえず生で」と見かけによらない流暢な日本語で注文を行った時はちょっとばかし驚きが勝ってしまった。……俺と善子の年齢についてはここではタブーということにしておく。
一応はかつて一世を風靡したスクールアイドルということで、今回は奥まった個室を借りているらしい。そもそもが高級な居酒屋だというのに、なんでも鞠莉さんが顔が利くとかなんとか。内浦の金持ちがどうして東京にまで影響を及ぼしているのか正直理解に苦しむものの、その辺は俺達庶民には分からない何かがあるのだろう。考えても仕方がない。
普段行くような居酒屋ではお目にかかれないような料理が並べられていく中、乾杯の時点から少々テンションが低かった善子がようやく口を開く。
「……いや、何よこの会は」
「どうしたのよっちゃん。いつもの堕天使的なハイテンションっぷりがないじゃない」
「ヨハネよ。それよか、どうしてそこのバカはそんなにマリーと意気投合してんの」
「Yes! ヨシコにBoy friendができたからって遥々海外から戻ってきたけれど、会えて良かったわ! この子不器用だから大変でしょう?」
「そりゃあもう。口を開けば我儘と傍若無人の嵐で、毎日てんてこ舞いですよ」
「おいこらそこのどんたく野郎」
「ヨシコをうまく扱えるのは花丸か梨子くらいのものだと思っていたけど、とんだGood Boyがいたものね! う~ん、顔は普通だけど、ヨシコは彼のどこが好きになったのかしら?」
「帰る」
「まぁ待て善子。まだ前菜しか来ていない」
「どんだけマイペースなのよアンタは! 脳味噌まで豚骨スープに浸されてんのか!」
「どんなツッコミなのよっちゃん」
何が気に食わないのか今にもグラスを叩きつけそうな程に拳を握り込んでいる我が恋人なのだけれど、旧友との久しぶりの再会だというのに不機嫌なままでは勿体ないと思うのだが。いったいどうして怒っているというのだろう。そもそも彼氏なんか連れてきたら弄り倒されることなんか分かっていただろうに……。
完全に納得がいかない表情で刺身を抓んでいる善子を他所に、鞠莉さんは俺の腕に抱き着くと豊満な胸をあからさまに押し付けながら耳元で囁き始める。
「ヨシコとは、どんなNightを過ごしているのかしら?」
「ぶーっ!」
「ま、マリー! アンタねぇえええ!」
「あ、それは私も知りたいわ」
「リリーまで!? ていうか、春彦から離れなさいよこのシャイニーバカ! デリカシーの欠片もないんだから!」
「あら、そうは言うけど他人の色恋沙汰に興味があるのは年頃女性のDestinyみたいなものだし? 仕方ないと思うんだけど」
「人の彼氏を篭絡しながら言う事かそれが! ほらこっち来なさい春彦! 鞠莉のおっぱいの感触に浸りながら鼻の下伸ばすな! 変態!」
「ひ、人聞きの悪いことを言うな! そ、それに、憧れのスクールアイドルに密着されたら誰だってあぁなるに決まって……」
「私で十分でしょ! もう身体の全部知ってるくせに!」
『……へぇ~?』
「あっ……」
「バカヨハネ」
「う、うるさい!」
完全に墓穴を掘った堕天使に呆れの表情を向ける。と同時に、どうして彼女が不機嫌だったか少し分かった気がした。これに関しては少々俺が無遠慮だったなぁとは思わないではないものの、それを口に出すと堕天流鳳凰如律令を喰らう羽目になるのが目に見えているので口を閉ざすことにした。
大切なぬいぐるみを独り占めするかのように俺を後ろから抱き締める善子。残り二人からしてみれば完全に酒の肴にしかなっていない気がするものの、今の彼女にそこまで考えを張り巡らせる余裕はないだろう。ただでさえアドリブに弱い真面目っ子だ。いいおもちゃになる未来しか見えない。
……だが待て。ここで俺は一つの違和感に思い当たる。
「俺と善子が付き合い始めたのは今日からなのに、どうして恋人云々の噂が……?」
「いやそもそも最初から恋人みたいなものだったじゃない貴方達。時間の問題だって思ったから、少し盛ってAqoursの皆に伝えていたのよ。千歌ちゃん達もそんなこと言ってなかった?」
「言っていたような、言っていなかったような……」
「私も冷やかし半分で会いに来たんだけど、まさかあのヨシコが予想よりも早く交際を始めていたなんてねぇ。……成長したみたいで私も感動デ~ス」
「アンタらねぇ……」
気が早い以外の何物でもないが、実際に付き合ってしまったのだから今更強く言えなかったりする。善子が若干押され気味なのはその辺りの事情もあるのだろう。彼女らの予想通りになってしまった手前、何を言っても微笑ましい惚気と取られてしまう可能性大だ。俺としては別に隠すことでも恥ずかしい事でもないしいいんだけど……。
「というか、お前朝の時点ではイケメン顔で『アンタは私の彼氏なんだから自信持て』みたいなこと言っていたくせに、なんで今になって照れてんのさ」
「それとこれとは違うの! Aqoursにバレるってことは地元の皆に知れ渡るってことなのよ!? 内浦のコミュニティの狭さ舐めんな!」
「田舎かよ」
「田舎よ」
「弄られる……ずら丸とルビィ、果ては理亞にまで……」と何やらぶつくさ呟きながら頭を抱えている善子。そこまで限界集落染みた田舎に住んだことがない俺には気持ちがよく分からないんだけれど、そんなに嫌なものなのだろうか。皆に祝ってもらえる可能性があるのなら、逆に嬉しいのでは?
そんな感じの疑問を浮かべつつ首を捻る俺ではあったが、答えてくれたのはなんと鞠莉さんだった。既に三杯目に突入しようとしているビールジョッキを傾けつつ、こちらに微笑みかけながら。
「その祝われるっていうのが、内浦だと自治体総出になりかねないからねぇ。しかも私達は地元のHeroみたいなものだし? それに、女子高出身だったせいでどうしてもそういう色恋沙汰に疎い環境だったから? 久しぶりに帰ってきて彼氏見つけて来ましたとかなった日にはもう町をあげてのCelebrateよ」
「まだよっちゃんは実家が内浦じゃなくて沼津だからアレだけど、それでも……ね」
「田舎って凄いんですね色々と……」
「ずら丸の実家で挙式あげさせられて、千歌さんの実家で披露宴されて、曜さんパパの船でクルーズさせられる……」
「具体的な将来設計しているところ悪いが気が早すぎるぞバカヨハネ」
完全にトリップした様子で「うぅ、私はまだ家事なんてしたくない……」と未来の自分に想いを馳せている善子の脇腹を抓って現実に引き戻す。そういう喜んでいいのか引いていいのかリアクションに困る妄想は勘弁してほしい。さっきからニヤニヤと野次馬感丸出しな顔で俺達を見守っている先輩方への対処法すら思いつかないのだ。せめて一人にするのはやめてくれ。
俺を抱き寄せたまま赤面マックス大混乱な善子と外堀埋めるウーマンと化した二人に囲まれどうすれば良いか分からない。ただでさえAqoursとかいう超絶トップスクールアイドルのメンバーが三人も揃っているというのに、対女性関係にて戦闘力ゼロに等しい俺に何ができると言うのだろうか。こういう時に谷沢がいてくれたら華麗に話題変更してくれたというのにぃーっ!
……そんな時、脳内に舞い降りてきた天啓。おそらくは食いついてくれるであろうそれをニッコリ笑顔で彼女達の前に差し出す。
「そ、そういえば今週末に善子と内浦に遊びに行く予定なんですけど! 曜さんが案内してくれるって言うんで!」
『知ってる』
「……はい? あの、早くないですか?」
「曜が嬉しそうにMessage送ってきてたからねぇ。『善子ちゃんと春彦くんを案内するから皆手伝って!』って。知り合い以外であんなに楽しそうな曜を見るの初めてじゃない?」
「曜ちゃん、あぁ見えて結構人見知りだし。何があったか知らないけど、春彦くんのこと結構気に入ってるみたいで良かったわ。これを機に人見知りを治してくれるといいんだけどね」
「……むー」
「痛い痛い首が締まるから離してくれ善子」
普段の彼女らしからぬ独占欲を前面に出しまくっている善子はさておいて、昨日の今日で既に情報が知れ渡っていたことに驚きを隠せない。そんなに善子が帰ってくるのが嬉しかったのだろうか……いくら看病したとはいえ、そこまで気に入られるようなことをしたわけじゃないしなぁ。しかしながら歓迎してもらっているのなら、オマケだろうがご相伴に預かるのはやぶさかではない。出された料理は食らい尽くすのが茅野家流だ。精いっぱい楽しまないと。
そういえば泊まるところとかまったく考えていなかったけどどうしよう。なんてことを聞いてはみたところ、あんまり問題はないらしく。
「千歌ちゃんの家が旅館やってるから、二人で泊まらせてもらったら? 知り合い金額で少しお得になるかもしれないし」
「いや、私は実家もあるし春彦だけそこに泊まらせれば……」
「せっかくの恋人旅行なのにそんな寂しい事言わないの。大丈夫だってよっちゃん。志満さんはそういう夜の営みにも寛容な若女将さんだから」
「なななっ……何馬鹿な事言ってんのよリリー! そそそ、そんなことする訳ないでしょ!」
「ヨシコ、首元にキスマークついてマース」
「えっ嘘!? 家出る時に確認したはず――」
「秒で罠に引っかかるのやめろ善子」
「ま、マリィイイイイイイ!」
「初日からLovelyでおめでたいデスネェ!」
「お幸せに♪」
「うぎぎぎぎぎ」
「これからもよろしくな善子☆」
「うるさいだまれその口を閉じろ」
恥ずかしがる善子が新鮮で非常に可愛らしい。ただ危惧することがあるとすれば、おそらく今日は帰宅後に死ぬほど怒られるであろう恐怖くらいか。さすがに二日連続夜通し責められることはないだろうけど、彼女の鬱憤晴らしにサンドバックにされる恐れは否定できない。DVを疑う関係性だ。
鞠莉さんと梨子さんに弄られながらも、どこか楽しそうにはしゃいでいる様子の善子。なんだかんだ昔の仲間と一緒にいられるのは嬉しいらしく、俺の前で見せるものとはまた違った笑顔を浮かべていた。普段目にすることができない彼女の一面に、カクテルを傾けながら脳裏に焼き付けていく。今度死ぬほど弄ってやろう。
何はともあれ、内浦への遠征が楽しみだ。
「た、助けなさいよ春彦!」
「腰が痛くて動けない」
「Wao! それってもしかしてまさかそういうSomething?」
「よっちゃんってば大胆ねぇ」
「っ~~~! い、いい加減にしろぉおおおおお!」
……善子の胃がもちそうにないのは、ちょっとだけ心配だけれど。
サンシャイン2期神アニメでは。