堕天使と同棲することになった件について。   作:ふゆい

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 真姫ちゃんイベは残念な結果でした。


第七話

 

腹ごしらえも済ませ、国木田の友達と合流すべく本格的に行動を開始する。

 

「黒澤ルビィだっけ? その子がどこに行きそうとか、そういうのは分かんねぇの?」

「ルビィちゃんはスクールアイドルが大好きで、今日も専門店に行く予定だったから……たぶん秋葉原に行けばなんとかなるんじゃないかな」

「スクールアイドルねぇ。話には聞いたことあるけど」

「ハルくんはスクールアイドル知らないずらか?」

「名前だけは知ってるよ。でも俺は高校まで勉強一筋って感じだったから、そういう流行に疎いんだよなぁ」

 

こう見えて高校までは学業優秀な優等生だったのだ。しかしながら、生活の大半を勉学に割いていた為に世俗の流行りごとには滅法弱い俺である。本来ならば皆が知っているはずのものさえ知らなかった当時の俺の浮き様といえば、今でも思い出したくない程である。黒歴史と言ってもいい。

 まぁそんなことはさておいて、秋葉原に向かうとなればまずは駅に向かわなければなるまい。地図アプリを開くべくスマートフォンを取り出して電源を入れるが、

 

「あれ、いつの間にか電池切れてる。モバイルバッテリー持ってきてないし、弱ったなぁ」

「駅までの道、覚えてないの?」

「まさか。東京に住み始めて早一か月が経過しようとしている俺だぜ? 一度通った道ぐらい、一発でマジ暗記したっつうの」

「……ホントに?」

「大丈夫大丈夫。九州人嘘つかない」

 

 まったく信用していない目を向けてくる国木田を宥めながら駅へと向かう。周囲の建物がどれも一緒に見えるが、まぁ気のせいだろう。どこの角で曲がったかも曖昧になってきているけれど、何も問題はないはずだ。背筋に浮かび始めた汗はおそらく春の暖かさに汗腺が本気を出し始めただけの事。何一つ心配な事はない。あぁ、大丈夫に決まっている。

 

「なんかどんどん奥まったところに入っていっている気がするずら……」

「ば、馬鹿言うなよ国木田。ちゃんと駅に向かってるって」

「だってどんどん周りから人がいなくなっていくよ!? 本当に大丈夫なの!?」

「いいか? 日本には昔からこんな格言がある」

「ずら……?」

「『当たって砕けろ』だ」

「この男絶対ダメずら! た、助けてルビィちゃぁーん!」

「悲鳴あげるのやめろ! 俺だって焦ってんだから!」

 

 すっかり涙目で叫び出す国木田だが、絶賛迷子を自覚してしまった俺の方が泣きたいことに気付いてほしい。国木田の手前投げ出すわけにもいかないから虚勢を張っているけれど、すぐにでも善子に電話して助けてほしいレベルである。この俺があの堕天使女に助けを求めたがっているという点で、どれだけ追いつめられているのかを察してくれ。

 このままではいけない、と周囲にいる人に道を尋ねようとするものの、明らかに田舎者丸出しな俺と国木田の話を聞いてくれるような心優しい人間はいないようで、誰一人目すら合わせてくれない始末だ。と、東京の人冷たい……!

 すっかり心が折れかけた為に少しでも癒しを求めて小動物系少女国木田へと視線を向けるが……、

 

「ハルくん……あれだけ啖呵切ったくせに泣きつくなんて、滅茶苦茶格好悪いずら……」

「な、なんだとぅ! そもそも原因は友達とはぐれた国木田だろうが! 俺は悪くねぇ!」

「だったら最初から道を聞くなりしておくべきだったずら! ちょっといいところ見せようとして意地張ったのが駄目なんだよ!」

「むぐぐぐ……!」

「ぬぐぐぐ……!」

「……やめよう、空しくなるだけだ」

「ずらね……」

 

 二人して肩を落とすと、行く当てもなく歩き出す。マズい。何がまずいって、東京に土地勘のない田舎者二人が何一つ解決策を見い出せないまま路頭に迷っているという状況自体がもう世紀末的に終わっている。近くに交番の一つでもあれば別だが、辺りを見渡しても薄暗い路地と無数の建物くらいしか視界に入ってこない。完全に詰んでいる。

 善子……これから一か月間お前の奴隷になってもいいから、堕天使力を使って俺を助けてくれ……。

 天を仰いで同居人に助けを求めるも、テレパシーに目覚めた訳でもない俺の助けが届くわけもなく。言い知れない絶望感だけが俺と国木田を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

                ☆

 

 

 

 

 

 ――――と、こういう訳で、前回の冒頭に戻る訳である。

 歩き続けて二時間ほど経過し、腹が減ったと駄々をこね始めた国木田の為に途中に見かけたケータリングでハンバーガーを買ってやると、偶然見つけた公園のベンチに腰を下ろしてしばしの休憩。自動販売機や電柱には住所が書かれているとは有名な小ネタだが、そもそも東京の住所に明るくない俺達が地名を知ったところで進展はない。一刻も早くスマートフォンを充電して善子か梨子さんに連絡を取るのが先決だけれど、先程国木田に飯を奢ったせいで俺も手持ちが寂しくなっていた。とても充電器を買う程の余裕はない。

 

「マル、このまま東京の片隅で飢え死にするのかな……」

「縁起でもない事言うな国木田。つーかハンバーガー食いながら言うことかそれが」

「チーズバーガーじゃなくて普通のハンバーガーが良かったずら……」

「買わせといて我儘言ってんじゃねぇえ!」

 

 妙な部分でマイペースを発動する国木田に半ギレするものの、結局文句を言いつつも食べ進める姿を見ていると怒るのも馬鹿らしくなってくる。無駄な体力を使うのは良くないし、ここで国木田に怒ったところで駅までの道が分かる訳でもない。今俺達にできるのは、交番が見つかるまで歩き続けることだけだ。東京の民が道を教えてくれればいいのだが……奇跡的に人通りが少ない路地ばかりを通ってしまっているのか、なかなか人に会わない上に、会ったところで内向的な御仁ばかりなので意味を為さない。踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂。なんで俺は今日に限ってバッテリーを家に置いてきてしまったんだ……。

 

「ガッテム……」

「……ごめんずら、ハルくん」

「はぁ? なんだよ急に謝ったりして」

「さっきはあんなこと言ったけど、ハルくんまで道連れにしたのは完全にマルのせいだよ。ハルくんは困っているマルを助けてくれたのに、こんな目に遭わせちゃって……ホント、申し訳ないずら……」

 

 足元を見下ろして、見るからに落ち込んだ様子で謝罪を口にする国木田。先程までの威勢はどうしたのか、声にも元気がない。なんだかんだ言って根は真面目らしく、俺に対して罪悪感を覚えているらしかった。まぁ確かに、客観的に見れば国木田の迷子に付き合った形にはなる。彼女が罪の意識を感じるのも分からないではない。俺も逆の立場だったら、もしかしたら同じことを言っていたかもしれないし。

 ……だが、こいつがそんなことで落ち込んでいるのは、どうにも気に入らない。

 

「国木田」

「な、なに……って、あいたっ。な、なにするずらー!」

 

 名前を呼ばれて顔を上げた国木田の頭頂部に軽く手刀を落とす。すっかり伏せていた目を驚いたように丸くして俺を見上げる彼女に対し、肩を竦めながら言ってやる。

 

「せっかく可愛いんだからさぁ、そんな落ち込んだ顔すんなよ。台無しだぜ」

「……え、急に何気持ち悪いことを言い出したずらかこの馬鹿は」

「俺が気を遣ってやってるっていうのになんだその言い草は! やめろよ! 自分でもイタいこと言っている自覚はあるんだよ! 暗い雰囲気を吹き飛ばすために馬鹿みたいなこと言っただけですよーだ! 気持ち悪くてすいませんねぇ!」

「ハルくんって見かけによらず不器用だよね」

「こちとら勉強しかしてこなかったせいでいつだって空回り全開なんだよ。気持ちだけ察してくれ」

「ふふっ、ほんと、ハルくんはバカずらね」

「うるせー」

 

 俺の道化染みた言動に呆れたのか、やれやれと言わんばかりに深い溜息をつく国木田。だが、それでもさっきよりは表情が柔らかく、うっすらと笑みを浮かべてくれていた。それを確認できただけでも馬鹿を演じた価値はある。うん、やっぱり女の子は笑顔が一番似合うな! 口に出すとまた馬鹿にされるから言わないけど! 

 しみったれた空気がようやく消え始めたので、このまま空元気で突っ走ってしまおう。落ち込んだままでは何も進まない。とにかく一歩でも前に進むことが大切だってどっかのお偉いさんが言っていた……気がする。

 立ち上がり、国木田を見下ろしつつ、

 

「安心しろ国木田。この春から妙な堕天使に憑りつかれた俺だけど、行き当たりばったりをさせたら右に出る奴はいねぇぜ!」

「それまったく自慢になっていないずらよ」

「いいんだよ。何事もポジティブに捉えた方が楽しいだろ? 行き当たりばったりも、考えようによっちゃ臨機応変ってことだ。だから、安心して俺に頼れ!」

「ガッツリ迷子になったくせによく言うずら……。そういうところ、マルの幼馴染によく似てる」

「お、その幼馴染ってやつとは仲良くなれそうだな。今度紹介してくれよ」

 

 国木田の知り合いというのには興味がある。言い方的に、黒澤とかいう子とは別の人物らしいが、どんな人なのだろうか。俺としては清楚で淑女めいた人だと嬉しいんだけど。東京に来てからというもの、騒がしい堕天使気取りと腐女子な先輩というとても首を傾げたいラインナップとばかり知り合っているから、そろそろマトモな女性と仲を深めたい俺だ。

 国木田は一つ頷くと、昔を懐かしむように穏やかな笑みを浮かべる。

 

「いいずらよ。その子は誰よりも不器用で、変にカッコつけようとするせいで人の何倍も損をしているような子で、誰よりも運が悪いのに、それをむしろ自虐ネタにしちゃうくらいポジティブで……マルの、憧れなんだ」

「ほぅ。なんか滅茶苦茶親近感と既視感に溢れる評価だな。でも楽しそうな奴じゃないか。ちなみに、外見はどんな感じなんだ?」

「美人でモデルみたいに手足が長いんだ。髪も黒くて長くてとても綺麗で……厨二病でさえなければ、絶対にモテモテ間違いなしな、そんな女の子なの!」

「……ん? んん?」

 

 既視感どころの騒ぎじゃない当てはまりっぷりに嫌な予感がしてきた。美人で黒髪で厨二病? そんな役満女がこの世界にそうそういるとは思えない。しかも不器用で運が悪いとくれば、それはもう例のアイツしかいないのではなかろうか。

 そういえば、と一つ思い出す。あの堕天使女が以前寝言で漏らしていた『ずら丸』という名前だが……「ずら」という語尾が口癖な国木田花「丸」……。

 ……え、マジで?

 ぶわっと変な汗が湧き始める。いやいやいや、いくら世界が狭いとは言っても、そんな馬鹿な……。そんなこと、あるわけが……。

 一人で嫌な可能性に思い当たっている俺だったが、突如として飛んできた叫び声に否が応にもその可能性を肯定せざるを得ない状況へと突き落とされることになる。

 その声は、公園の入り口から聞こえてきた。

 

「あーっ! やっと見つけたわよ、ずら丸!」

「花丸ちゃーん! 大丈夫だったー!?」

「善子ちゃん! ルビィちゃん!」

「げっ……」

 

 甲高い二人の女性の声がそれぞれ国木田の名前を呼ぶ。どうやらはぐれた彼女を心配して、件の友人とやらが探しに来てくれたらしい。人情味に溢れた素晴らしい感動的な光景にさすがの俺も涙を禁じ得ない。ちなみにさっき心底嫌そうな声を漏らしたのは、決して見覚えのある黒髪女が視界に入ったからとかそういうわけでは一切ない。

 国木田に走り寄ってくる赤髪の可愛らしい少女。全身から妹オーラを醸し出すその子はおそらく先程聞かされた黒澤ルビィとかいう友人だろう。聞いた通り、優しそうな良い子じゃないか。そして、アイドルが好きだというのも納得ができる可愛さ。是非とも紹介してほしい。もう一人は別に紹介しなくていいです本当に。

 できるだけもう一人から視線をそらしつつ、存在を気取られないようにその場から去ろうとするものの、そもそも道が分からない以上立ち去ることすらできないジレンマ。自分の方向音痴が憎い……!

 

「花丸ちゃんごめんね……ルビィは勝手にはしゃいじゃったせいで……」

「全然大丈夫ずら! ハルくんが助けてくれたし!」

「ハルくん……? ねぇずら丸、それって……」

「あそこにいる男の子だよ! 馬鹿だけど、とっても優しいの!」

「へぇ、感心な男もいるものね――――」

 

 ぴた、と友人Bの視線が止まった。勿論、その先には俺こと茅野春彦がいる。

 

「……よ、よぉ」

「アンタ……こんなところでいったい何してるのよ……」

 

 どうしようもなく、とりあえず挨拶だけしておく。気まずい。非常に気まずい。国木田によって俺までも迷子になっていたという事実が露呈される未来を想像すると、今すぐここから逃げ出したくなる。誰か俺を殺してくれ。

 

「え? ハルくんと善子ちゃんって、もしかして知り合い?」

「非常に遺憾ながら、同居人よ」

「おい」

「え、えぇ~!?」

「ぴ、ピギッ!?」

 

 同棲しているという話題にここまで新鮮な反応をくれたのは、もしかしたらこいつが初めてじゃないだろうか。ルビィちゃんとやらも勢いで驚いてくれているけれど。

 いやはや、なんというか……世間って本当に狭いね。

 




 今回も読了ありがとうございます。
 宣伝をば。
 今年の冬コミ一日目に東メ―30b『がと~しょこら』にて同人誌と同人小説を頒布する予定です。興味のある方は是非是非お立ち寄りくだせぇ。
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