もう何も言うまい。
遂にこの時が来てしまった東西交流戦。
「まあ、俺の出番……いや、出番なんて無かったんだ。2年生の部は最終日だったな」
初日は1年生である。
結果から言えば自爆。負けた後に一色が俺のところに来て自爆した奴の文句をたらたらと喋って聞いているコッチが迷惑だった。
次の日、3年生である。
結果、川神先輩のせいで他がプー太郎になっている。
そして遂に遂に最終日、2年生。
「頑張ってね、ヒッキー!!」
「おう、お前もな。間違っても軽傷者を重傷者にするんじゃねぇぞ」
「そ、そんなことするわけないじゃん!」
「それなら構わねぇが」
俺は今集団の最下部にいるため、救護班と会話できるほどの事はできるということだ。
それより、由比ヶ浜のところに来るのが怪我人なら何も言うことは無いんだが、それを目的とした輩が現れる確率の方が高い気がするんだが……人気とかで選ばれた由比ヶ浜だからな。
「こんばんは、比企谷くんと由比ヶ浜さん」
俺と由比ヶ浜のところに後衛の最重要部にいるはずの雪ノ下が現れた。
「何でお前がここにいんだよ」
「あら、私がいたら不都合な事でもあるのかしら?」
「ちげぇよ。大将の近くにいなくても良いのかって事だよ」
「その事なら心配されなくても良いわ。………あの暑苦しい空気が我慢ならなかったのよ」
雪ノ下らしからぬ、一度だけ口を閉じてそして辟易とした表情で話す。
あ、察した。光景を思い出して嫌になったんだな。
「ま、気にすんな。調子はどうだ?体力とかは大丈夫なのか?」
「そ、それは嫌みなのかしら。貴方に心配されるほど落ちぶれてないわ。そもそも私は体力を計算して戦うから問題ないわ」
「なら俺はどんだけ落ちぶれてんだよ。ただ心配しただけだってのに」
雪ノ下は顔を少し赤くしながら俺の疑問をすぐに打ち消してくれた。
俺に傷ついてほしくてそんな態度を取っているんなら間違いなく金メダルを取れるレベルだ。
「ヒッキーこそ逃げれるの?家でゴロゴロしてるから体力が無いんじゃないの?」
「お前は俺をどんだけ見くびってんだよ。たかだか一夜程度なら逃げ回れる」
「貴方は小賢しいその頭で体力が尽きたとしても、どこかに隠れれるでしょう」
「ああ、俺の得意技だ」
「自慢して言うことでは無いでしょ?かくれんぼの時に見つけられないというのは寂しいものでしょう?」
「何で知ってんだよ。小さい頃、かくれんぼをしてたとき何もない空き地で隠れてても見付からなかったんだぜ」
「それはそれで悲しいわね」
「てか、ヒッキーは参加してたの?」
おっと、そもそもこの話って俺が四歳の時の話だからその時から影が薄かったとか言われるのはなんだからこれ以上は言うまい。
そもそも俺がまともに遊んでいたのは四歳になったばかりの頃だったな。
それ以降はーーくらしだったからそんな暇無かったな。遊び相手と言えばーーだけだ。
「そんなことよりもうすぐで始まるぞ」
「ええ、そうね。私は行くわ」
「ああ、俺も行っとくわ」
「ゆきのん、ヒッキー、頑張れ!!」
そうして俺達三人はそれぞれ己の配置につき、始まりの合図を待つ。
「……よく考えたら……これ大将を人知れずに討ち取ったらすぐに終わるんじゃね?」
いや、そんなことをしたら、皆の実力が発揮できないし、何より………不満が爆発して倒した奴を祭り上げるどころか、血祭りに上げてしまうほどあいつらは祭がすきだ。
だから適度に発散させて潮時にでもなれば首をいただいたらいい。
俺のすることは、いつもこういった陰の事と決まっているし、それこそ望んでしている。
だから俺は、忍であり、執事なのだ。
そして、開始の合図が鳴り響き、今か今かと待ちわびていたケモノたちは一斉に解き放たれた。
「せいぜい目立っていてくれ」
それを見届け、人知れず俺は陰に紛れて姿を消した。
ーーーーーーーー
大将を討ち取るまで、なにもしないと言うわけにはいかない。なぜならそんなことを九鬼が許してくれるわけがないからだ。だから俺はまず、厄介な弓兵を片付けることにした。
「へぇ、統制がとれてる弓兵達ね………あれに指示を出しているのはあの男か」
一応、俺は一通り十勇士の情報に目を通している。
ま、十勇士だけじゃなくて九鬼にあだなす敵や、逆恨みしている奴、それに今後邪魔になってくるのはインプットしている。
揚羽さまの執事としては常識だな。
そして指示を出している男こと毛利元親。美しいものが大好物な天下五弓。
実力は確かだが、美しいものを追求していることでたまに仲間にとっての不利益をもたらす。
「………だが、俺が相手にすることはないな。あそこにいる椎名が片付けるだろ」
椎名京。九鬼英雄さまの思い人である川神一子が所属している風間ファミリーに入っている天下五弓。
「俺の役目は脇役だ。だから少しくらい楽にしてやろう」
主役の苦労は脇役の仕事ぶりによって変わるものだからな。
しかし、目立たないのが必須条件であり、それを満たしている技術は……
「あれしかないよな……えっと、師匠から貰った指輪は……あった」
俺は忍具が入っているポーチの中から一つの文字が書かれている指輪を取り出す。
「……魔法なんて久しぶりだ……ふぅ…リク・ラク・ラ・ラック・ライラック…」
指輪を指に付け、目立たないの端にいる敵の近くになるべく移動して師匠と同じ始動キーをいい始める。
敵を眠らせるだけの技は俺の知っているなかでこれしかない。
「
そう俺が呪文を唱えた次の瞬間、うっすらと霧が出現し、狙いをつけていた三、四人の敵を眠らせていった。
「…魔法のコントロールは鈍ってないな。ま、鈍っていたら師匠にぶっ飛ばされるから勘弁したいけど」
今も暇潰しにゲームとかをしてるであろう師匠に思いを馳せながら、あと6人くらいを目安に魔法をかけていく。
ふっ、師匠にこんなことをしてるって言ったら、ちまちましたことをするなとか、もっと派手にしろとか言うんだろう。
「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!!」
眠らせていく中、一人や二人くらい眠らない奴が出てくると思っていたが、まさか最後の一人で当たるとは。
それに万が一にも、今揺すっていることで起きる可能性がなきにしもあらず。そうそうにご退場願わねば。
「それなら実力行使だ。………リク・ラク・ラ・ラック・ライラック……」
あ~、でも何を食らわせようか。光の矢とかでも良いんだけど、あれは矢だからな。
……よし。
「
雷の強さは人がショックして気絶するレベルの電撃。
加減を間違えれば焼き焦げて死んでしまう可能性があるが、そこは勘弁してくれ。
「ガッ!?……」
俺の手から白い雷が、標的目掛けて細くて小さい糸状で到着して目標を見事に撃沈させた。
「…次はバコバコなにかを撃っている奴のところでも行くか」
おそらく、十勇士の一人である大友焔の仕業であろう。
見聞色の覇気で感じたが、それの相手をしているのは川神一子か…行ってみるか。
俺は再び闇に潜り、目的地へと移動したのである。
ーーーーーーーー
「……これは俺が行っても無駄足か」
気を隠しつつ、移動していると俺の他に川神一子の方に向かっている者がいた。それも、そいつ一人で場の戦況が変わるのには十分だ。
さてさて、これは俺が手助けをする必要があるのか?いや、それとも今来ているS組の赤髪に任せていれば大丈夫か?
「……ん?」
感知範囲を広げていると情報とはおかしな特徴をもつ奴がいた。
そういや、十勇士の中にとりわけ目立っていない妙な奴がいたな。でも、そいつの表向きの情報では何で十勇士に選ばれたか分からない。
「必要ないと思って怠っていた俺のミスだな」
見聞色で感知したら、マスクを付けて病弱を演じている大村ヨシツグの戦闘力は十勇士の中で一線を画する者であった。
「……ちょうど、することが無くなったな。………このままなにもしないのは暇だ」
ならば、暇潰しには持ってこいな選択肢だろ。
俺は移動している足に踏ん張りをかけて、すぐさま標的に方向転換する。
陰に紛れて移動すること数秒でたどり着いた場所は、男一人が咳き込みながら突っ立っている光景だった。
「………えぇ…俺が言うのも何だが………戦えよ。部隊引き連れるくらいして」
本当に大村ヨシツグはなにもしていなかった。いや、なにもしていない一般人を演じているのか…はっ、雪ノ下さんでもあるまいし、疲れるだろ。
「ま、お互いに暇だろうから、奇襲ついでに相手してくれよ」
俺は一人でポツリと呟きながら頭の中で呪文を思い浮かべる。
「………少しくらい派手めにやってもここらじゃばれねぇだろ………リク・ラク・ラ・ラック・ライラック
俺が呪文を唱えると、大村に向けて30の闇のような黒い弾丸が牙を剥いた。
それに寸前で気がついた彼は、反射神経でとっさに避けてそれが飛んできた方…つまり俺の方を向いた。
「よ、大村ヨシツグ。お互いに暇だろ?少しくらい付き合え」
「……ゴホッ、ゴホッ…悪いが他を当たってくれ。ゴホッ……俺はただの…」
「いまさらそんな嘘ついても意味ないだろ。それに俺が何をしたか気にならないのか?戦えばわかるかもしれないぞ?」
「……」
大村は俺の誘いに特に乗ってこなかった。
「なあ、やろ………チッ」
俺は再び説得をしようと試みたが、その時一帯に川神学園勝利の合図が鳴り響いた。
「……終わったんなら戦う理由はないな。邪魔したな」
大村ヨシツグは俺の台詞に何も答えずに俺に背を向けて帰っていった。
「……帰るか」
次回から学園生活が本格的に始まるぞ!