東西交流戦が川神学園の勝利で終わった日から、とうとう登校日が今日へと移り変わった。
「
はぁ………ま、俺の正体を晒される訳ではないから面倒事が一つ増えると思えば良いか。
正直に言えばあのクローン達を護衛する必要などないと思うんだが……過保護な奴等め。
俺はそんな悪態をつきながら、九鬼本社ビルの一室で身支度をする俺こと比企谷八幡は憂鬱になっていた。
「こんなこと引き受けなければ良かった……でも黒刀が手に入るから一概にそう言えない…か」
「八幡、起きてますか?」
そんな事を考えているとノックとともに、朝から聞いていても不思議と安心する声の持ち主が俺の部屋の外にいた。
「あ、はい。起きてますよ」
「入っても良いですか?」
「もう準備は整っているので大丈夫です」
そう言うとメイド服の黒髪の女性が俺の部屋に入ってきた。
「正直、嫌で起きていないと思っていましたよ」
「一応仕事ですから。それにそうすれば揚羽さまにも迷惑がかかってしまいますから」
「貴方は本当に忠実ですね」
「そうですか?ま、李さんに起こされる事を見越して起きたのもあるんですけど」
「はぁ…いつもそんな調子でいれば良いのに」
「そんな面倒な事をするわけ無いでしょ」
「そうでしたね。それでこそ八幡です」
少しだけ微笑んでくるメイド服の女性こと九鬼家従者序列16位の李静初さん。
「じゃ、そろそろ出ますか」
「…待ってください。少し襟が捲れていますよ」
俺が準備をし終わって部屋を出ようとするが、ちゃんとできていないところに、いち早く気がついた李さんは俺の側までよってきて直してくれた。
「……ありがと」
「ふふっ、どういたしまして。それでは行きましょうか」
近づかれて少し照れてしまった俺に笑顔で返してくれながら、俺の手をとる。
「はぁ、わかりました」
その行動にも照れてしまう。何?もしかして李さんは俺を落とそうとしているの?
……いや、自意識過剰にも程があるな。
部屋を出て、お互いに準備もできていたから一緒に川神学園に向けて出発しようとしていた。
李さんは一応川神学園の護衛に当たり、俺はいつもながらに学校に登校だ。
「よぉー、おはよう!!」
「ちょっ!いきなり飛び付くな」
李さんに手を引かれながら向かっていると、俺の後ろから九鬼家従者序列15位のステイシー・コナーが抱きついてきた。
そういえば今日、こいつも李さんと一緒の配置になっていたはずだ。
「良いじゃねぇか。李は良いのに私はいけないのか?」
「お前のは度が過ぎるんだよ」
「ファック。そんなもの普通だろ!?」
「んなことないわ」
「そうですよ、ステイシー。早く八幡から離れたらどうですか?」
「……もしかしなくとも、八幡に離れてほしいから言ってるのか?」
「そうだったらどうなるんですか?」
「隠そうとしないとは」
あ、俺完全に巻き込まれている。どうしたものか。
「だいたい、李はいつも八幡といるから良いじゃねぇか!」
「いつも一緒にいたいと思うのは当然のことですよ?」
この会話に割り込んで、そして止めて、学校に行くように促すしかないな。
「ステイシーこそ、最近八幡へのスキンシップが過激になってきていますよ?」
「そりゃ……体がうずくと言うか」
「痴女ですね」
俺が聞いていない間に、会話があらぬ方向に行っているな。とっとと行かねぇとヒュームの八つ当たりが面倒だから止めるか。
「そこまでにしないと遅れるぞ」
「……そうですね。急ぎましょう」
「…そうだな」
俺が止めると、なぜか顔を少し紅潮させながら俺の前へと出て歩いていく。
「………どんな会話をしてたんだ?」
俺はその理由を考えながら、学校へと向かったのであった。
ーーーーーーーー
「ヒッキー、おはよう!!」
教室へ入り自分の席につくと、俺に気がついた由比ヶ浜が話しかけてきた。
「おう」
「ヒッキーテンション低いなー」
「むしろ由比ヶ浜の方が高いんだよ」
「クローンってどんな人達なんだろうね!」
「無視ですか…さあな、案外普通の奴なんじゃないのか?」
「そうかな?……もしかしたら弁慶なんて大男だったりして!」
「それはない」
「?……どうして分かるの?」
「……」
しまった。つい反射で否定しちまった。誤魔化さないと。
「武人ならスマートな方が動きやすいだろ?それで否定したんだよ」
この言い訳じゃ厳しいか。
「…?……そ、そうだよね!」
相手が由比ヶ浜で良かった。これが雪ノ下なら追求は止まってなかった。
「はぁ」
「どうしたの、ため息なんてついちゃって」
「あ、いや、少しくだらない事を考えてため息が出たんだよ」
護衛すると言うことは、もっとも近くにいるのが理想的だ。奴等はS組に転入すると言っていた。ならば俺がそこに強制的に移動させられる可能性は高いわけだ。
「……最悪なパターンだな」
場所はかわり、今は運動場に全生徒が集まっている。
全員どんな奴が来るのかとワクワク、そして強い奴を求めてウキウキしているであろう。
由比ヶ浜は移動の時は俺と一緒にいたが、今は葉山グループで会話している。
そんな中、
「楽しみだね、八幡!」
「ああ、そうだな」
俺は戸塚と楽しく会話していた。
「源さんは女の子だけど、他はどうなんだろうね」
「さあな。もうすぐ分かるから楽しみにしてりゃ良いだろ」
「うん!…あ、八幡は決闘とかしないの?」
「俺?負けるのが分かっている勝負なんてしないんだが。なんで俺が闘うとか言うんだ?」
「うーん……よく分からないけど、八幡は何となく歩き方も綺麗だし何か武道をしてるのかなって思って」
「…買い被りすぎだ。俺なんかが決闘を申し込んだら、むしろ嫌がられるまである」
ったく、嬉しいことを言ってくれる。よく見ているな、戸塚は。あまり気が付かれないように猫背にして歩いていたつもりだったんだけどな。
「戸塚はテニスの勝負でもしないのか?」
「僕は別に……もっと上手になったらしてもらいたいけど。そのためにも、八幡。僕と今度練習しようね!」
「ああ、連絡くれ」
「皆のもの静まれ!!」
俺と戸塚の会話がちょうど終わった時に、川神学園の学長である川神鉄心が声を上げ、生徒を落ち着かせ、転入生であるクローンの紹介に移った。
しかし、紹介される度にうるささが増している。
「はぁ~、うるさすぎて頭が痛くなる」
「あはは、しょうがないよ。皆楽しみなんだから」
てか、最初から奴等の事は知っているから驚きも何も無いから、俺はもう反応していない。
ま、初見だったとしても驚きも何もしない。
「……?」
「どうしたの、八幡?」
この気配は……任せても…いや、少し手に余る仕事だな、これは。
「わりぃ、少しお手洗いに行ってくるわ」
「え、うん。気を付けてね!」
……やっぱりこんな時でも癒されるな。毎日こんな風に見送られていたらどんだけ幸せなことか。
戸塚に断りを入れ、すぐさま六式の一つ、『剃』を使い人ごみを脱出する。
「……こっちか」
見聞色の覇気で感じ取った李さんやステイシーでは敵わない敵のもとに向かう。
「ま、こんな事は承知している」
こんな大舞台では誰も襲撃しないと思われがちだが、むしろここでは自分の存在を認識させる事ができるから狙われる事もあるだろうな。
クローンというものを消そうとするものや、それを回収しようとする奴も現れる可能性が、十分にあり得るのがこれからの日常だ。だから帝さまは俺を選んだんだろうな。
そうこう考えている内に、標的を目視できた。
腰に二本の刀を携え、顔まで隠しているローブを着ているため人物は把握できない。
しかし、胸の膨らみから女だと判断できた。
「?そういや、なんで移動する仕草を見せないんだ?」
さっき感知した場所から、奴はまったく動いていないのだ。
「……待ってるのか」
少し離れたところから観察していると、
「そこにいるのは分かっている!!早く姿を見せろ、比企谷八幡!!」
「お呼びなわけか」
望み通りに、俺は女の前に姿をみせた。
「何者だ?」
「貴様を待っていた。邪魔な存在よ」
「答える気はないか……なら、何故俺を待っていた?」
「私たちの計画を…いや、私の悲願を達成するために」
「私たち?……悲願?どういうことだ」
「貴様は知らないかもしれないが、顔は知られずとも貴様を狙おうとする奴は巨万といる。もちろん私もその中の一部だ」
「そりゃ、嬉しくない事だな」
「そして、世界一の大剣豪と名高い貴様を討つのが私の悲願。その為に死んでもらう!!」
女は二本の刀を抜き、俺に飛びかかって来た。
「大剣豪、ね。嬉しい事だが、こうやって未熟者に狙われるのなら要らないな」
俺はその攻撃を軽々と避け、ポケットからあるカードを取り出す。
「中途半端な顕現でも問題ないか…
そう言うと、俺の右腕が黒いもやの様なものに包まれる。
「三刀もいらないか、二刀で十分か」
腕をどこかに突っ込むようにつき出すと、その腕がすっぽりと見えなくなった。
「ここら辺に……あった」
そして腕を引くと手には二本の刀があった。その二本を右の腰に付ける。
「
そう言うと、黒いのがカードに戻っていった。
「今のはなんだ?」
「さぁな、ただ自己紹介もろくにしない奴には教える義理はねぇな」
「そうか。ならいい!!」
女は再び斬りかかってきた。
それを俺は良業物の
それからは俺の一刀に対して女の二刀での"ガンッ…ガンッ"と刀の打ち合いが始まった。
「はぁっ!!!!」
「……」
しかし、どこか楽しみにしていた気分も段々薄れてきた。
…んだよ、こんなものかよ。確かについ最近戦った源よりかは強いが、所詮そこまで。俺を楽しませることなんてできやしない。
「はぁ」
俺は雪走を納め、抜刀の型をとる。
「そろそろやめにしようぜ。こんな無益な戦い」
「私はまだ本気を出していないぞ!!」
「たかが知れてるだろ?今のままじゃ」
「っ!」
「そういうところもポイントが低いな」
激昂して向かってきた女に対してもいい印象を持てなかった。
怒っても良いが、それを行動原理にするのはよろしくない。
「一刀流……」
「はぁぁぁ」
女は進みながら何かの技を出すかのような気を放つ。
「遅い。三百六十煩悩鳳!!!!」
素早く左手で刀を抜き、まっすぐな斬撃を放った。
「っ……くそ」
女に直撃し、地面に弾けて砂ぼこりが舞った。
「……逃げたか」
戦闘中では見聞色を使わないため、砂ぼこりが舞った後、いるかどうか分からなかったが、砂ぼこりがはれた瞬間、いないことが分かった。
「誰だったんだ?……二本刀を持ってるから、宮本武蔵だったりして」
見聞色で周りを確認するが、女の存在が確認できないため、俺は面倒な学校へと帰っていった。
学園要素はあまりありませんでしたね……。