~side
坂の道上。
シズとともに夕食の食材を買いにスーパー(─おそらく『いなせや』だろう──)へ向かわれた”あの方”。
私もついていきたいところだが……。
──やめておこう。
付き合い方にはある程度の”距離感”というものが必要である、というのは……。
『初め』の時に痛いほど痛感した。
ここはあの”世界”とは。
今の”あの方”は………『違う』のだ。
心苦しいけれど……、今の私は…距離を取り見守るしかない───
………
…………
……………
さて、こうしていても仕方がない。
私も私の『暮らし』をしよう。
帰宅の前に──そもそも帰宅とはなんだろう、あの不思議な家へ行くのに──
その”帰宅”の前に寄りたい、いや寄るべきところがある。
”あの指輪”の加護無き今、避けては通れぬ生けるものの宿命。
それは───
~side
『いなせや』
住宅街から車道を挟んだ向こう側にあるスーパーマーケットだ。
駅のほうまで行けばもっと大きなスーパーもあるが…。
食料品中心の買い物だし値段もそう大差ない。
さて、次はスパイスの……おや。
「ん~! ふにゅ~!!」
女の子が棚の前で精一杯背伸びをしている。
どうやら商品棚最上段の奥の方に位置する品を取ろうとしているらしい。
たまにあるよね、手前の商品が数個持ってかれて奥の方に在庫が固まってるの。
ふつうは店員さんが手前に陳列しなおすものなのだが……。
持ってかれたばかりなのかな。
小さいなあ、しずと同じくらいの背丈かな?
というかその
「はいよっと。これでいいのかな?」
放っておくのも忍びない、奥の方の商品を代わりにとってやる。
「ふぇっ!?」
驚いたのか
手渡された商品をジッと見、ついでこっちをヒョッと見る。
「……あれ? それじゃなかった?」
こちらをボーっと見てたその子はハッとしたような顔になり、
「アヘッ!? あ、これっ、これであってまひゅっ」
アヘッ、て………、落ち着け、落ち着くんだキミ。
「あ! あでぃっ! アディギャトウございまふっ!!」
いまのは『ありがとうございます』、でいいんだよな……?
するとその子は長い髪を
人見知りが強いのかな……?
「お兄ちゃん、バジルは複数あるけどどれがいいか選定判断を求む……、…?」
「ん? ああいや、なんでもない」
バジルか、ちょうどいい、今の棚のやつのを……む、青ノリのビンと一緒くたになってるな。
「
「へ? キノアイ?」
「いまお兄ちゃんと話していた子の
しずによると今の子、名前は
「一年一組ってしずの同級生じゃないか。話したことある?」
「特になし。補足するなら、木野アイが不特定多数の生徒と接触をしている場面は
さっきのあれを見れば……まあ積極的に人と関わろうとする性格ではないだろうな……。
まあいい、買い物を続けよう……。
~食堂・
らっしゃーい!
ようこそ、ここは…
肉汁したたる数多くの絶品料理から『
……さすがに食い物屋に『鮮血』はないだろう!
この年で親父から受け継いだこの店を切り盛りすべく得た才能は瞬く間に頭角を現した。
それは『相手の求める志向』を感じ取るというタレントだ!
客の声、目線、しぐさから思考を読み取って果たして何を求めるのかというもの。
これにより客の好みやどんなものを今求めているか?、その望むメニューがわかるのだ。
この才能は大きな
おかげでいつもきてくれる常連さんも多い。
「いつも気が利いてるから安心してお任せできる」──なんてお言葉もらった時は……ウルッときたな。
さて、そんな俺にとって
───このお客さんだ!
制服から見てどうやら近くの私立高校の生徒さんらしいが…これがどうも妙な客でな……。
さて…この好奇心に満ちた視線は………。
新メニューの「
いや目線の動き方からあっさり系の「
しかしこの緊張から解放された
──
すると彼女が口を開く。
「すいません、この──」
───くるか?!
──「
そっちかよ!!
まただ、また外した!!
──はっきりいう、思考がチグハグなんだ。
この
連日仕事に追われる作家。
死の匂いのする負け犬。
人を
そんな人の闇を常に見つつ立ち向かう刑事。
これから決死の”戦い”に
この女からはおよそ常人では考えられない、「そのどれも」が匂ってくるんだ。
そう、『化け物』──そうとしか言いようがない。
「……若いのぅ………」
親父の代からの料理人、
わかってる、若いからこそ、若いからこそこの力を
俺は肩書や出自なんかじゃ決して左右されない、人間そのものを見極められるこの才能が一番の誇りなんだ。
だから。
だからこそ、この力が及ばないこのお客さんが………。
───この
~side
さて、買い物もすませた。
とりあえずこれだけ買い込めば一週間はもつだろう。
ちょうど今週は生活費の
この配分ペースならゴールデンウィークは資金に多少余裕が生まれる。
「お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「今夜の夕食メニューの情報を求む」
「んん~? なんでしょうな~?」
「今夜の購入物からメニューを推測する」
うわ、なんかしずからデフラグばりの異音が響いてきた。
HDD大忙し……
おいどうなってんだ俺の
「・・・・・・・・・予測終了」
「ほう? して予測結果は?」
「ステーキ
オムライス
ビーフハヤシ
ポテトフライ
白身魚のオリーブグリル
シシケバブ
バターチキン
カレーライス
麻婆豆腐
甘辛チキン
ミックスサンド
(後略)」
「一つだけ 一つだけ 一つだけ!!!!」
買ってない食材とか
あとヨダレ!!
~side
ふぅ…致し方ないとはいえ、下等生物の大衆食堂などに、と思っていたけれど……。
慣れてみるとなかなかいいものね。
カレーに甘みのアクセント、という風変わりな組み合わせが興味深かった……。
カレー……、これは
そうだ今度三人であの店に行ってみようか。
ふふ、今度の休みにでも声をかけてみよう。
…夕食か。
シズはいまごろどうしているかな……。
~side しず~
本日の夕食
『ペロロンチーノ』
種別:パスタ料理
具材:ベーコン、トウガラシ、オリーブオイル、バジル少量、バター・コンソメパウダー微量
摂取カロリー:762kcal
備考:大 変 美 味
「どうだ、美味かったか?」
「大変美味、コンソメが風味に変化を与えたのが特筆ポイント」
「ははっ、そうかそうか。ペペロンチーノも少し風味を変えるとまた新鮮なんだよな」
新語句「ペペロンチーノ」
項目検索・・・・・・・・・該当なし
「………”ペペロンチーノ”?」
「?、うん、”ペペロンチーノ”」
「ペロロンチーノの誤変換?」
「ぺ、ぺろろんちーの?」
緊急確認項目:『ペペロンチーノ』の語句・定義確認。
最優先事項……
~side
…どうやらしずはペペロンチーノの事を『ペロロンチーノ』と間違って
まあこの歳までよく気づかずにいた…というより……。
まるで『大変なことを知ってしまった』といった風に青ざめている。
そんなに深刻なことか?
俺だって小学生の中ごろまでイソギンチャクの事を『イソギソンチャク』って間違って憶えてて、それを指摘された時はにわかには納得できなかったが……。
キッチンの洗い場で食器を洗っているしずの背中を見る。
調理が全くできない分、料理を作るのは俺が、後片付けをするのはしずと我が家では役割がきっちりと分かれている。
それにしても少し作りすぎたな、けっこう腹にもたれてる。
しずはケロッとしたものだが。
……おかしい、あいつ俺より食ってたはずだぞ。
そうだ、今度は
あいつたしか親元離れて一人暮らしって話だし。
ふむ……どんな味が好みかな、今度それとなく聞いてみよう。
~
「これ! バジルじゃねえか!! 青ノリが必要って電話で言ったろ!!」
「ふぇっ?! あ、あれっ!? ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!!」
たまに筆者もスパイス売り場で間違えます。
ためしに青のりのかわりに焼きそばにバジルかけてみましたが…
あまり気になりませんでしたね。
いなげやはむかし学校終わった後よく買い物にいった覚えがあります。
「じゃん、けん、ぽん! ずこー」
これがわかるひとは……