4月29日 金曜日
ついに突入したゴールデンウィーク。
と、いっても、そんな大したことがあるわけでもない。
まあちょっとだらけられる日が増えただけ? みたいな?
かくいう俺もお昼まで寝てたし。
豪遊できるわけでもないし、旅行なんて予定はない。
まあでも。
近場のレジャー施設にでも行ってみようかなぁとは思う。
なにせこの前しずと約束したしな。
さてと、お昼にでもするか……。
さて、食材は何があるだろう……。
ふむ、そろそろ買い込む時期か。
とりあえず袋ラーメンで
それとハムと……ねぎ……と。
ゆで始めたあと、階段へ向かう。
「しずー、もうそろそろ起きなさーい。お昼ごはんできるからー」
すると思いのほか早く返事が返ってきた。
「了解、こちらもちょうど作業が終わった」
なんだ、起きてたのか。
……作業ってなんだ。
◇
本日の昼食は袋めんの
……さて、今日はこのあと食材の買い出しに………。
まてよ、そういえば……。
「しず、校外学習で用意するものってちゃんとチェックしてあるか?」
「すでにリストアップ済み。バックパックと野外装備はあらかた見当がついてる」
おおう、なんだこの『できる女』ぷりは。
「昨年お兄ちゃんが今回と同様の校外学習に使用したものを検討中」
ああ、あれか。
……でもあれって……。
「しず、どんなものかはあとでちゃんと見てみような」
「
しずが食器の片づけをしている。
と。
「一点
しずがこちらに振り返る。
「私の
なるほど靴か。
そういえばしずには施設にいたときに使っていた靴と新しい生活が始まった時に買ったやつ、それと学校用の革靴しかなかったな
アウトドア用は確かに必要だな、一応ハイキングもするわけだし。
「よし、ちょっとリュックやらなんやら出しておこう。お前の方でリストアップしてたものとあわせてみようか」
◇
…………うん、買い物に帽子も追加だな。
リュックは仕方ないにしても帽子までこれだとまるで兵隊だ。
帽子はブッシュハットという、よく兵隊がジャングルの中で
………俺も去年は「
結構使い勝手良かったけどね。
しずが被るとなんか…眼帯と合わさってまるでどこかへ潜入する特殊コマンドーだ。
アサルトライフルを持たせたら完璧だ。
ちなみにこのリュックも帽子もかつて父さんが使っていたものだ。
どうもアウトドアの趣味があったらしくてな、こうして父さんの部屋だったここにはその手のグッズがたくさんある。
……なんというか……いったいどうやって使うのかわからないものも多くみられるな。
結構ガッシリした造りの
銀色の、あちこち仕掛けのついた金属プレート。
あとなんだろう、このリップクリームみたいなの……なんか緑色だぞ。
「
……なんでそんなの持ってるのさ父さん?!
「ちなみに使用する際はあらかじめスキンクリームを塗っておくことを
「いや、使わないから」
というかなんでしずがそんなことを知ってる?!
◇
『サトーユーカドー』
駅前の一等地に立つ大型スーパー。
この町ではおそらくここまで大きな商業施設はない。
小さいころ、ここに親子四人で訪れた記憶がよみがえる。
あのころとは売り場構成は大きく変わったが……。
この大きな吹き抜けエスカレーターは今も変わらない。
あの後リストアップした結果。
靴と帽子はもちろんのこと、寒さ対策の肌着なども必要なことが分かった。
……施設から出た直後はあまり気にしなかったが、意外とこういう局面で不足を思い知らされる。
そんなわけでしずと二人でお買い物に来たわけだ。
「さて…肌着売り場は、と……」
フロア案内図を見ていたその時。
「……あら、しずちゃん?! と、
背後から声がかかった。
そこには───
「おおぅ、
「……ツッコまないわよ? 『私は
もうその反応だけでご
「こんなところで会うなんて珍しいわね、お買い物?」
「そんなところだ。帽子とか靴下とか、しずの校外学習で使うものが必要でさ」
「ああ、そういえばもうすぐね。………去年の鈴木くんの格好はどこの戦場へ行くのかと……」
それはもう言わなくていい。
「まあそんなわけだ、由利も買い物に来たんだろ?」
「そうね、家で使うものが必要なんで」
しずの頭を
日用品かなんかかな……。
……それにしてもしずにかまってる時のこいつは本当に幸せそうだなぁ………。
目的階は……三階か。
この吹き抜けエスカレーター、子供のころは怖かったんだよなぁ……。
左側の手すりにすがりついてたな。
………………
…………………
さて、三階だ。
ここでエスカレーターを降りて……。
……………………
………………………
なぜついてくるっっ!?
「いやっっっ、本当に私もこの階が目当てなのよ!!!」
「しずが目当てとかそんな危ないレベルの話じゃないだろうな!!!」
「それなら帰り道に持って帰るって!!! 信じてもらえてないのがちょっとショックだけど、本当にこの階のお店が目当てなの!!」
本当かー……?
………待て、なんか
「ほらあそこ! あのお
「む?」
そう由利の
へぇ……あんなお店あったんだ……。
「ああ、由利様! どうもいつもごひいきに!」
「こちらこそいつもお世話になっております。……ええと、注文していた
どうやら本当にここが目的のお店だったらしい。
なんかここからみてると大得意様と
しかし……こうして私服の後ろ姿を見てると………。
『
というか……いい加減ここから移動するか。
実は様子を
ちょっとここは男子高校生には
幸い目当ての売り場はすぐ裏手だ。
◇
さて……とりあえずウールの靴下とインナーくらいでいいかな。
あそこ、このくらいの季節でも朝は氷
さて、お会計を……。
と、ふとしずを見るとなにやら別方向をジッと見ている。
その視線の先は……向かいのゲームコーナーだ。
そういえばこういうところ入った事ないんだよな。
しず、遊びたいのかな……?
ん……あの家族連れのお父さんの方、どこかでみたような……。
「あ~、残念……」
「く! なぜだ、なぜ落ちん!!」
思い出した、たしか化学の……
どうやらクレーンゲームで苦戦しているらしい。
「おかしい、確実にクレーンは引っかかってるはずなのに!」
「そう簡単に取れないようになってるのよ……もう行きましょう?」
しかしお母さんに
「んー……」
ジィッとガラスケースの中のぬいぐるみを見つめている。
ここからでもわかるくらい大きなぬいぐるみだ。
これはとてもあきらめてはいないな。
そして、とどめの一言が放たれた。
「ハムスケさんほしい………」
「!!!!!!!!」
───落ちた、な
「………大丈夫だよリーたん………パパンが必ず……必ず!!」
礼文先生の眼が──『男』の眼になった。
「まま……おトイレ………いきたい……」
「あー大変。あなた、もう行きましょ?」
「先にお手洗いに連れて行きなさい。私は……もう少し、頑張ってみる」
「……あまり無理はなさらないでね?」
子供を抱え、お母さんはお手洗いの方へ歩いて行った。
そして残された
「もう少しなんだ、このフックさえつかめれば……」
「それは違う。この場合はフックの端をアームでかすめて交互にずらし、自重でずり落ちるのを待つ」
しず?!
「む?! 何者!?」
すげえ、このセリフを
「君は……一組の
「
「私に、このぬいぐるみを協力して
◇
かくして、しずによる『ハムスケぬいぐるみ獲得作戦』が開始された。
こうしてみると本当にでかいなこのぬいぐるみ。
このクレーンゲームのシステムはこうだ。
本来景品が落ちる穴にケージ型の板が床のように張ってあり、その片方は紐によって上から吊り下げられている。
その紐は取っ手型のフックに結ばれており、先端がゴムボールになっているポールに引っかけられている。
つまり、このぬいぐるみを獲得するにはこのポールの先端からフックをずらし、落とすことでケージ板が外れ、ぬいぐるみが
「このフックは、景品の重量とゴムの摩擦効果によって密着している。このクレーンのアームでは吊り上げることが不可能。攻略方法は──フックの端にアームをぶつけ、
種がわかれば攻略はたやすいが……
「二人が戻ってくるまでに──成功させたい」
どうやら、しずは先生に
制限時間付きとは。
そうこうしている間に一回目が始まった。
五百円を投入したため、6回挑戦できるらしい。
「だんちゃーく いま」
しずの操るアームがフックをかすめる。
くら………
お、うまい、いい感じに
「修正・横軸 左 0.5 次弾 縦
なにやらしずが呪文めいた単語を呟いている。
二回目。
アームが今度はポールを
グラン!
「おお!!」
うお! 今度はかなり大きくフックを揺らした。
アームが的確にフックの端に当たったためだ。
三回目に移るべくクレーンが所定の位置に戻る。
このインターバルがもどかしい。
「縦
グラン!!
揺れ幅が大きくなってる!
そうか、横に揺れた分、次にアームが当たる時のフックの位置がより大きく
「いけるぞ……これなら!!」
これならあともう一回かそこらで……クレーンの戻る時間がもどかしい!!
「む……!」
しかし。
遠くのほうに、子供を抱えた先生の奥さんの姿が……。
くう、離れてるとはいえ四回目の最中にこちらに着いてしまう。
「あの……すいません、えっと………お手洗いの方、ど~こにあるかご存知でしょうか……?」
?!
なんと、先生の奥さんに話しかけているのは………
「え?、ああ、お手洗いでしたらあの角を……」
「…ん~? あの角……? ん~? すいません、よく見えないわー?……」
……なんか眼鏡を大きくクイクイさせているが……。
もしかして、時間稼ぎ……を?
「いいぞ、だれかしらんがあのご婦人に注意がそれている今のうちに……」
そのご婦人が生徒だと知ったら先生驚くだろうなぁ……。
しかし。
四回目でも落ちなかった。
かなり大きく
「ク……! ならず、か……!」
残念だがタイムアップのようだ。
お子さん可愛いですねー♪と、由利の足止めもおそらくそう長くはもたないだろう。
……あれは演技ではなく
「すまない……かなりいいところまで行ったようだが……感謝する、鈴木しず」
どうでもいいけどこの人なんでいちいち芝居がかっているんだろう
「
しずが先生をまっすぐ見て、言った。
「私は、『このぬいぐるみを
「……?、ああ、たしかに」
「あと二回、チャンスが───ある」
~side
「ごめんなさーい、またせちゃったわねー」
「……ああ。すまない、あと少しで取れそうなんだ、集中させてくれ」
「……はい」
フックはかなりずれた。
しかし四回の
ここまで為した
しかし彼女はこういった。
このぬいぐるみを
そして。
チャンスがあと二回残っている─────とも。
そうだな。
生徒にばかり頼っては何にもならん。
むしろここまでお
我が子の幸せを、他人
そういうことだな? 鈴木しず。
ならばその
彼女はすでにこれに対する際のヒントを示してくれた。
それを思い出せ。
一回目──正確には五回目だが──、横移動のボタンを押す。
1…0.5!
鈴木しずほど正確ではないが横軸はこれでいいはずだ。
問題は縦……
今回はフック手前側が攻撃ポイントだ。
縦移動開始───いま!
……わずかにずれた……!
かすりはしたがそれほど大きな
最後の一回………!
先ほどの鈴木しずのやり方だと今度は反対側を攻める番だが……どう見ても今
先ほどは距離が浅かった。
今度はもう数瞬送らせて…………いま!
──ゆけ。
───ゆけ、ゆけ、ゆけ!!
カッ
ひっかけた!
………
…………
……………
………………
だめ────か。
うまく
ゆらゆら揺れたフックは、まるで「残念だ、まだこれはここにあるぞ」とあざ笑うかのようだった。
私は………応えられなかった。
こんな無力感は初めてだ………。
「ぱぱ……?」
「リーたん……パパン……勝てなかったよ……」
「そんな……ただのゲームでそこま……でぇ……えええええ?!」
……なんだ?
ボトンっ
へたり込んだ目の前のクレーンゲームの筐体の取り出し口に何か大きいものが落ちてきた。
な……に?
「ハムスケだっ!」
「あなたすごい!! やったじゃない!!」
何が起こっている?
「りーちゃんやったね! パパぬいぐるみとってくれたよ!!」
「ぱぱありがとー!!」
なんだと?!
「
「ぱぱすごーい!!」
「は……はは……どうだ、パパンは約束はちゃんと守るんだぞー?」
「うん!!」
~side
……見てたこっちまで力が抜けてしまった。
「もうだめかと思ったわ……」
「四回目までの段階である程度成功率は高かった……けれど、あくまで『高い』という話。
俺、しず、そして由利の三人は先ほど買い物していた肌着コーナーにいた。
奥さんが来る直前にゲームコーナーから離れた俺たちはここに隠れて様子を見ていた。
そこへ由利が合流した形だ。
「しかしよくわかったな、俺たちがやってること」
「
「いや、本当に助かったよ………ん、なんで先生の奥さんって知ってたんだ? 知り合い?」
「去年、お子さんが
へぇ……由利ん
会ってわからないくらい違うって、どんな格好してたんだろ。
そして視線を
普段キリッとした先生とは想像がつかないくらい目じりが下がり、満面の笑みを浮かべていた。
そりゃあそうだろう、いくらかしずが手助けしたとはいえ、最後は自分の力で成し遂げたんだ。
あのプレッシャーの中、しかも
いいお父さんじゃないか。
息子さん、五歳くらいかな。
………ちょうどあのくらいの時、俺たちの両親は───
と。
先生の奥さんがこっちを見ていた。
──あれ?
由利に気付いたのかな?
やがて
「……行っちゃったわね」
そうだな。
まあこうしていても仕方ない、俺たちも買い物再開するか。
「そういや由利はもう買い物済ませたのか?」
「ええ、おかげさまで」
「そっか、この後予定なければよかったらお茶くらいは
「あら、気が
大したことじゃないさ、ちょっとそんな気分になっただけだ。
「ありがとう、でも遠慮しとくわ。少し家の用事も押してるしね。それに……」
由利がしずの頭をやさしく
本当にこいつ、しずを
「せっかくの
……あの子???
~side
とても大切な……なにかを
『あの時』の絶望感ほどではないけれど……あの名状しがたい黒い感情に似た感覚。
とても信じがたい。
信じたくない。
受け入れられない。
いつから私は……こんなに
『臨時休業のお知らせ
日頃のご愛顧、誠にありがとうございます。
当店、4/29~5/5まで、お休みさせていただきます。
またのご来店をお待ちしております。
…………………今晩、どうしよう。
さて、今回の舞台は……
そうです、この町に住んでいればだいたいの人が知ってるというあそこです。
東館と西館に分かれてる店舗って言ったらここしかないから…まあだいたいどこに住んでいるかわかっちゃうかな。
この町は近年アニメの舞台に取り上げられること多いからこの際だからと便乗してみました。
というかロケーション楽だわw
さて、本文中のクレーンゲーム、実際に東館三階のゲームコーナーにあります。
というかこの前ロケハンいってきたときにぬいぐるみゲツトしてきましたよ。
でっかい柴犬のぬいぐるみ。
めっちゃ可愛ええぇぇぇ!!!
姪っ子にもとってあげようかな。
実際劇中みたいに「ダメか…」と思ったらズズズズズ……とずり落ちて……!
つまり今回のはかなり実話に近いです。
とれてよかったー