アルバス・ダンブルドアと星の魔法使い   作:十人十色

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学年末試験対策勉強会

 早いもので季節は一巡し、また夏が訪れようとしていた。

図書室は間近に迫った試験の勉強を行う生徒達でごった返しており、その中に試験前で焦る同級生達を教えるアルバスと、随分と余裕そうな顔で試験とは関係なさそうな本のページをペラリと捲るサフィロスの姿があった。

 

 アルバスはこの人付き合いを不得手とする少年を見掛ければ積極的に声を掛け、サフィロスも他に親しくする者が居なかった為、彼等は必然的に寮外で共にする時間は多かった。

 

 一年という時間はアルバス・ダンブルドアが認められるには十分過ぎる時間だった。優秀な結果を出し続けるアルバスに周囲の見る目も変わっていき、そんな中試験が近付いてくる。

アルバスが随分と賢いらしく、また面倒見も良いことが噂になると、彼の周りには助けを求める者達が集まり盛大な勉強会が開かれるようになっていた。自分の勉強もあるだろうに、アルバスは教えを乞う者を拒みはしなかったので、その勉強会は寮の垣根を超え、1学年全体に広がろうとしている。

 

「アルバス、君が居てくれて本当に良かったよ。」

 

アルバスの助言により難問を解き終えたドージは心底有り難そうに言う。

 

「人に教えることも勉強さ。…サフィロスも一緒に試験勉強しないかい?」

 

周りの生徒達が必死になって問題に取り組む中、サフィロスは涼しい顔で本を読み進めている。いつも試験とは関係なさそうな勉強をしているサフィロスを心配したのかアルバスはそう声を掛けた。

 

「問題ない…必要な知識は授業の度に学習してある。……質問して良いだろうか。どうして何度も同じ問題を解いているんだ?」

 

彼にとっては常々思っていた疑問だったのだろう。しかし彼の発言に慣れていない複数の者達は暫しむっとした顔をし、普段からアルバスの近くに居る者達はこの一年でサフィロスが悪意があって言っているわけでは無いことは知っていたので、困った子だなぁと苦笑する。

 

「サフィロス、人によって出来ることや出来ないことは違うよ。自分が出来るからって他人も当然出来るわけじゃ無い。出来る様になるまでの時間も違う。僕達は出来なくても、何度も練習して身につけるんだ。君はその経験が無いとでも言うのかい?」

「…確かにその通りだ。出来る様になるまでの時間は違う。そうか。」

 

彼の疑問は解消されたのか、サフィロスは深く頷き大層納得した顔をしている。

 

「それから、先程の君の質問はあまり好ましく無いな。意図せず他人を傷付けかねない。」

「…どう好ましくなかっただろうか。」

 

考えたもののどう良くないのか分からず、サフィロスは眉を微かに寄せてアルバスに尋ねる。

 

「君の発言に馬鹿にされていると感じる人間もいるということさ。」

「…そういう意図は無かった。…どう良くなかっただろうか。」

 

どう説明すれば周囲と角を立てずに伝えられるだろう、とアルバスが言葉を探していると、

 

「自分が苦労している横で、「何で出来ないの?」なんて言っている人が居たら、不平等感でこの野郎!って思っちゃうな。」

 

ドージが横からからかい混じりにそう声を掛けた。

 

「成る程…すまない。」

 

ドージの説明で納得したのか、サフィロスは険しい顔をする。申し訳ないと思っている時の表情だ。言葉を受けたサフィロスはすくっと立ち上がり、頭を下げた。

 

「僕は人と接する機会が少なかったこともあり、言葉選びが苦手な所がある。もし不快に思うことがあったら言ってくれ…以後直そう。」

 

アルバスはそれを見て安堵し、腹を立てていた者達もサフィロスのあまりに潔い謝罪に毒気を抜かれたようだった。

 

「何を読んでいるんだい?」

「全天の星についての本だ。母が良く話してくれた星について、もっと知りたいと思った。ホグワーツの蔵書量は魅力的だ。」

 

しかしそれを試験期間直前までやるのか、と近くで聞いていたハッフルパフの生徒は思ったが口には出さなかった。

そもそも彼はアルバス達の勉強会に参加している訳ではなく、たまたま図書室でアルバスに遭遇し今までのように近くの席に座っていた。そのことも良くなかったのかもしれない。

 

 アルバスを中心とした困っている同輩を助けようという動きは良い循環をしているように思えた。先生達もこの勉強会を好意的に見ている。

しかし、そんな何もかも良いように思えた一年勉強会であるが、一つだけ困ったことがあった。

あまりに感情の機微に疎くアルバスに都度直されるサフィロスの様子を見て、奴は白痴なのだと、一部のレイブンクローの生徒達が彼を嘲笑うのだ。

勉強会を主導する形になっていたアルバスはその事に責任を感じていた。

 

 

 

 

「サフィロス…何か嫌なことを言われたりしていないかい?」

 

言葉を慎重に選びながらアルバスはそう尋ねる。

 

「嫌なこと?特に思い当たらないが、」

 

ホグワーツの石造りの廊下を二人は歩く。勉強会が終わり、その場を去ろうとしていたサフィロスにアルバスが少し話そうと声を掛けたのだった。

 

「僕は誰かにあいつは馬鹿なんだと言われたらムカっ腹が立つよ。」

「馬鹿とは言われた事がないな。」

「そうじゃなくて…はぁ。君の耳にも入ってるだろ?その……白痴って。」

 

あまりにも口にしたくない単語だったのか、アルバスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「白痴という単語は知っている。知的障害の意だ。」

 

そんなアルバスに対して、サフィロスはいつも通りの無表情で言葉を返した。

 

「差別用語として使われることもある。」

「成る程、差別用語でもあるのか。以後使用する機会があれば気を付けよう。」

 

飄々としていて、風のように掴み所が無いサフィロスにアルバスはほんの少し呆気に取られた。確かに他の生徒とは違った感性を持つことは知っていたが、全くもって堪えていないようである。

少しは気にしているだろうか、と心配していたが不要なお節介だっただろうか。しかし、本人が気にしていなくても、他人を馬鹿にするのは良くない。と決意を新たにしかけた時。

 

「僕は、どうやらコミュニケーション能力というものが不足しているらしい。君が教えてくれるまで気付きさえしなかった。誰も指摘してくれなかったんだ。」

 

そんな言葉が耳に入ってきた。質問には答えるが自分から会話を広げようとしないサフィロスとしては珍しいことだった。

 

「ホグワーツには勉強をするためにやってきた。だが、だからといって周囲との関係をどうでもよいと思っていた訳じゃない。僕はホグワーツという集団に身を置かせて貰い、勉強をするのだから。そう、認識はしていたのに僕には集団に属す為に必要な能力が欠如していた。」

 

生来のものか経験不足からくるものかは分からないが、確かに彼は同年代の子女達に馴染めずに居た。

 

「集団生活を円滑に送れない者は、排除される傾向にあるらしい。彼等はそうすることで結束を強めているように見える。僕自身はそうされることで失うものは特に無いから問題は無い。アルバス、君との交流が僕にもたらしてくれた多くと比べれば全く問題は無いのさ。」

 

彼等が出逢ってもうそろそろ一年が経過するが、こうやってアルバスがサフィロスの胸の内を聞くのは初めてのことだった。

 

「僕は皆の当たり前が分からなかったりするが、君がとても優しくて、僕を気にかけてくれているのは分かる。それはとても有難いことだ。」

 

アルバスは胸が熱くなった。この言葉少ない友人が一所懸命言葉を紡いで自分に伝えようとしてくれているのだ。

 

「君は得難い………友人だ。」

 

サフィロスは友人という言葉を少し言い渋った。

 

「しかし、だからといって現状のままで良いとは思っていない。友人というのは対等なものであると聞いた。僕には足りないものが多い。君と出会う前は大した問題だと認識すらしていなかったが、君の広い交友関係に触れていく内にやっと実感したんだ。あぁ、僕は他人と意思疎通すらまともにとれないのだと。」

 

サフィロスはずっと前を向いていた。歩調を緩めず、真っ直ぐ前を向いて、自分自身をもしっかり見つめているようだった。

 

「でも学ぶことは嫌いじゃない。だから、今は君を見て学んでいるんだ。僕に足りない、人として必要な能力を。」

 

少し先を歩いていたサフィロスはアルバスに向かって振り返る。その顔には珍しく薄らとした笑みを浮かんでいた。

 あぁ、彼は出逢った時から変わらない。アルバスにはその姿がとても美しいものに見えた。

 

「サフィロスは…嫌な思いはしていないかい?」

「…君と出逢う前とは比べ物にならないくらい、楽しい思いをしているよ。」

 

自分が主導するように始めた勉強会でサフィロスを馬鹿にする者が出てしまったことに責任を感じていたアルバスは、彼の言葉で心が軽くなったような気がした。

 

 

 暫く無言の時間が訪れる。心地良い時間だった。アルバスはサフィロスが語ってくれた今までに無いほど多くの言葉に嬉しくて頬が緩んでいる。サフィロスも嬉しそうなアルバスの様子に、言葉をうまく伝えられたことを実感して穏やかな表情をしている。

 

ふとサフィロスはピタリと足を止める。そういえば、アルバスは目的地を聞いていなかったことを思い出す。てっきりスリザリン寮へと帰るのかと思っていたが、そこは開けた中庭だった。空には夜の帳が下りて、星明かりが地上にいる二人の所にまで届いていた。

サフィロスは石床の上に腰を下ろすと、肩から下げていた鞄から何やら取り出した。アルバスは不思議そうにその様子を覗き込む。

 

「ここで何をするんだい?」

「日課だ…天体スケッチを行なっている。」 

 

どうやら星に興味があると言っていた彼はそれを趣味にしたらしい。

 

「毎日やっているのかい?」

「空が見える日にはという条件はつくが、そうだな。グリフィンドールの窓からは空が見えるんだろう?羨ましいな。スリザリンの寮は地下にあるから、夜空が見えないんだ。」

 

そう言うと彼は杖で明かりを灯し、慣れた手付きで星々の在り方を記していく。今までの記録だろう厚い紙の束が鞄から顔を覗かせていた。

 

「凄いな…」

 

思わずそんな言葉が漏れる。

実に根気のいる作業だと思った。空間認知能力がズバ抜けているのだろうか、あまりに早く正確に記されていくその様子に驚きを隠せない。

やはりこの友人は素晴らしい才能を持っている。そう思うと、やはり彼を馬鹿にする者達に対して苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 

「君は確かに他人に無い才能を持っているというのに、それを知りもせずに君を馬鹿にする奴等が許せない。」

 

いきなりそんなことを言い出したアルバスに、紙面に視線を落としていたサフィロスは顔を上げる。あの温厚なアルバスが憤りを感じ険しい顔をしていることに、サフィロスは胸のあたりがふわりと浮いたような感覚を覚えた。

 

「…何だろうアルバス…とても胸のあたりが浮ついているんだ。」

 

彼はそっと自分の胸を指先で触れる。どうしてそう思ったのか、自分の中で答えを探し始める。

 

「きっと…僕の為に、君が心を動かしてくれたことが嬉しいんだ。これは、一般的な感情だろうか。」

 

その発言にアルバスはハッとした。

一々周りとの差異を確認して、ズレを修正していく。それは彼が成長している証であり、アルバスを何故か物悲しい気持ちにさせた。

 

 それはとても、生き辛いのではないだろうか。

 自分が善意から行っていた指摘は、この特異な友人の為になっているのだろうか。

 一瞬、そんな考えが脳裏を過ぎる。

 

「あぁ、それは一般的な感情だ…」

 

 いや、彼はその変化を好意的に受け止めている。僕はただ、彼がこの世界で生きていく為の指標になろう。

 

 彼が評価されない環境にどこかやるせない思いを抱きつつ、アルバスは目を伏せた。

 




言葉選びって難しいですね

サフィロス君は段々とアルバスをお手本にコミュニケーション能力を築いてゆきますので、温かい目で見守ってください。
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