車輪から伝わる心地良い振動が生徒達の体を揺らす。帰りゆく多くの生徒達はこの一年で親しくなった友人と、または慣れ親しんだ学友との話に花を咲かせていた。
そんな車窓から眺める過ぎ去ってゆく風景を、アルバス・ダンブルドアは物悲しい眼差しで見つめていた。
「もう一年が終わってしまうんだね。」
「そうだねぇ。」「そうだな。」
アルバス、ドージ、サフィロスの3人は、帰りのホグワーツ特急で同じコンパートメント内に座っていた。
「試験も終わったし、後は夏休みだー!」
ドージは開放感からか嬉しそうに声を上げる。それに対してアルバスの気分は沈んでいた。ホグワーツこそが、本来自分があるべき場所なのだと思えたからだ。入学当初は偏見の目に晒され、大変な思いはしたが自分の力で周囲から認められるようになった。それはアルバスの自信に繋がると同時に、彼の魂を空虚な気持ちにさせる原因となった。魂はまだホグワーツに囚われたままで、今ここにいる自分は空っぽなのだと思える。
視線を窓の外からコンパートメント内に移すと、向かいに座っているサフィロスが読み終えた本を膝の上に置き、涼しげな眼差しで外の風景を見ている。随分とその光景が様になる彼が、思い出したように「そういえば、」と呟いた。サフィロスは視線をアルバスへと向け、バチリと二人の目が合う。
「僕は組分け帽子に友を得るべきだと言われたんだ。」
あまり自分から会話を始めないこの友人の話は唐突に始まることがある。秀才アルバスをもってしても、この不思議な友人の思考回路を読み取ることは困難であった。
「最初は意味が分からなかったが、君と出会ってから僕の生活は大きく変化した。成長したのだと思う。友を得ることで成長すると言った帽子の言葉は正しかった。」
一体全体どういう繋がりでその話が始まったのかは分からなかったが、組分け帽子の話題に、アルバスは以前から気になっていたあることを尋ねることにした。
「組分け帽子はどうして君をスリザリンに組み分けたんだい?」
一年という長いようで短い間の付き合いしかないが、組分け帽子がこの少年のどこにスリザリン要素を見出したのか気になったのだ。
自分が彼を組分けするのならどこに入れるだろうか。それはアルバスが今まで解いてきたどの問題よりも難解に思えた。
「それは…スリザリンは同胞意識が強く。そこでなら、友人ができるのでは無いかと言っていた。」
『同胞意識が強い』そう聞いて、アルバスは出会った当初のサフィロスとその周辺のことを思い出す。明らかに馴染めていなかった。
組分け帽子の言う事は正しかったが、組分け自体はそれにうまく嵌まらなかったといった所か。
「君が…一年が終わると言うから、このホグワーツ特急でホグワーツに向かった日のことを思い出したんだ。」
懐かしむように目を伏せて、サフィロスは膝の上に置かれた書籍の表紙を撫でる。確か、あの時も本を読んでいた。当時コンパートメントを同じくしたあの少年少女とはあれきりだったが、今彼の向かいには友が座っている。
「ホグワーツに向かった日かあ。」
ドージが思い出すように目線を上げた。
「うん、覚えているよ。こんな肌だし、僕はホグワーツに行くのが嫌だったんだ。でも、そんな僕にもアルバスは偏見を持たずに接してくれた。初日にだよ?僕は本当に嬉しかったんだ。それからは、想像していたよりもずっと楽しい1年間だった。だから、アルバスには本当に感謝しているんだ。」
「…こちらこそだ。」
このアルバスに尊敬や敬意の念を抱いてくれる素晴らしい学友もホグワーツで得た物だ。それは彼にとって何よりも大切な財産なのだと思えた。
汽車が緩やかに減速を始め、キングス・クロス駅に到着する。
9と4分の3番線ホームには多くの父兄達が我が子の帰りを首を長くして待っていた。生徒達は列車を降りると、家族の元へと駆け寄って行く。三人も人の流れに従い、汽車を降りる。三人の中でドージはいち早く家族の姿を見つけたのか、「じゃあね」と一声掛けてから家族の元へ駆け出して行った。
アルバスは、母は妹の世話の合間を縫って来るだろうから少し待たなければいけないだろうか、と群衆の中から養い親を探すサフィロスの隣に立っていた。
暫くしてサフィロスはやっとフラメル夫妻の姿を見つけ、目元を緩めて小走りに歩み寄る。
「フラメルさん、ただいま戻りました。」
少しだけ背丈が伸びただろうかと嬉しそうにサフィロスを見ていたフラメル氏は、おや、と目を丸くした。約一年前、このホームで見送って以来の再会であるが、随分と表情豊かになったものだと驚く。
「え、あ……え?!」
サフィロスの呼んだ名前にアルバスは目を丸くさせて驚く。ドージの時と同様、家族と談笑する様子を遠目から見ていようと思っていたアルバスであるが、あまりの驚きに思わずサフィロスの後を追いかけ問い詰めずにはいられなかった。
「君!君の養い親って!ニコラス・フラメルだったのかい?!」
「あぁ、そうだが…」
それがどうかしたのか、とサフィロスはアルバスの勢いに押されて引き気味に答える。
「君ねぇ、稀代の錬金術師だよ!失礼、フラメル氏、お会いできて光栄です。」
大層出来た学生であったアルバスは、弱冠11歳ながら偉大な先人を敬うことを知っていた。用いるべき正式な言葉は知らないが、精一杯の尊敬の念を込めて挨拶をする。
「おや、これはご丁寧に有難う。私はニコラス・フラメル。君がアルバス君ですね。サフィロスが手紙に君のことを書いていました。この子は同年代の子と接する機会が全く無かったので、学校生活を無事に送れているか心配していたのですが、君のおかげで楽しい日々を過ごせたようです。本当に感謝しています。」
決して疚しい気持ちからサフィロスに接していた訳ではないが、偉大な先人からの言葉に、彼はサフィロスと友人となって本当に良かったと思った。
「アルバス、迎えに来ましたよ。」
丁度その時、少しばかりピリついた雰囲気を纏った婦人がアルバスの元へやって来た。
「母さん…」
アルバスは緩やかに声の方へ顔を向ける。その様子はあまり喜ばしそうではなかった。
自宅に不安定な妹と、扱いに慣れているとはいえまだ幼い弟を残していることが心配なのか、彼女は早く帰宅したくて仕方がなさそうである。かの有名なニコラス・フラメルと話をできるチャンスがアルバスの目の前にあるというのに!
「おや、アルバス君のお母様でしょうか。私、サフィロスの養い親をしているニコラス・フラメルと言います。サフィロスの友人となってくれた彼には、とても感謝をしているのです。」
「まぁ、それはそれは…この子はあまり学校のことで連絡をしてこないので、存じておりませんでした。」
ケンドラ・ダンブルドアは口元に手を当てて、目を丸くしている。
「アルバスは何をそわそわしているんだ?」
「サフィロス…君はフラメルさんの偉大さをもっと理解すべきだと思うよ。」
そうか、とあまり分かっていなさそうな顔でサフィロスは返事をする。
フラメル夫妻とケンドラ・ダンブルドアはいくつか言葉を交わしたのだが、ケンドラが急いでいる様子に気付くと早々に話を切り上げた。
「アルバス君、良ければなのだが、この子に手紙を書いてやってはくれないかい?」
「はい!勿論です!」
アルバスは汽車に乗っていた時の憂鬱な気分など綺麗さっぱり消し飛んだのか、元気の良い返事をした。
「じゃあ、また来年度。」
「あぁ、また。」
彼等は別れ、それぞれの自宅へと向かう。
サフィロスはフラメル夫妻の間に挟まれ帰路に着きながら、学校でのことを話し始めた。手紙はマメに送ってはいたが、彼等の養い子として恥ずかしくない自分であったことを一年次が終わった今、報告したかったのだ。
「フラメルさん、僕、とっても勉強したんですよ。」
「それは良かった。」
「母についても知れました。」
「あぁ、手紙にも書いてくれていたね。」
「はい、___」
本当に表情が豊かになった。一年前とは比べ物にならない。フラメル氏は一年会わなかったからこその変化を実感する。
子どもの成長は早いと言うが、ここまで変わるものだろうか。驚きつつも、その変化を喜ばしく感じ、その横でフラメル夫人が大層喜ばしそうに笑っていた。
これから夏休みが始まる。
1年生編 完!
アルバスは確かに同世代では飛び抜けて優秀で優しい(ドージ情報)のですが、俗物的に他人に尊敬して貰いたい(ゲラートとの出会いで露呈した人間臭さ)とか、褒めて貰いたいとか思ってそうだな。と想像しております。