「お前が1年で次席だったっていう奴か?」
2年次が始まり、スリザリン寮の自室で荷物の確認を行っていたサフィロスに部屋の外から声が掛かった。声のした方へ視線を移すと、気怠げな美丈夫が部屋の入り口に寄り掛かっている。
彼の後ろには同じくスリザリンの生徒達が付き添っており、随分な大所帯でサフィロス達の部屋の入り口を占領していた。
「…」
美丈夫は一角の人物であるのか、サフィロスと同室の生徒達はザワザワと騒ぎ始める。
「あー、お前だお前。えーと、なんて名前だったっけ?」
返事がないことに痺れを切らしたのか、男がそう尋ねると彼の後ろに控えていた者がこそりと耳打ちをした。
「あー、そうだ。お前がサフィロス・アストラか?」
自分の名前が呼ばれてサフィロスは首を傾げた。
「はい。私がサフィロス・アストラですが、どういった用向きでしょうか。」
そう返事をしたサフィロスに、美丈夫はジロジロと不躾な視線をぶつける。
「ふん、情けないなフィニアス。一位はグリフィンドールだったというし、こんな気の抜けた輩にまで負けたのか。」
サフィロスを一目見るなり取るに足りない存在だと判断したのか美丈夫は鼻で笑った。
「兄さん、やめてよ。」
黒髪の愛らしい少年が、そんな男の横から顔を出した。彼としては止めようと必死なのだろうが、全く抑止になっていない。
「事実だろう?」
それだけ言うと、黒髪の美丈夫はサフィロスに興味を無くしたようで風を切るように去って行った。
よく分からないままゾロゾロと男を追いかけ去っていく生徒達を見送っていると、
「ごめんね。」
酷く申し訳なさそうな顔をした少年は一言謝罪した後、兄と呼んだ男の後を追って駆けて行った。
新年度が始まり、少しだけ増えた授業時間に慣れてきた頃、サフィロスは昨年度と同じのように訪れた図書室でアルバス達と居合わせた。
「アルバス、ブラックという家名について何か知らないだろうか。」
名乗られはしなかったが、例の男がブラックと呼ばれていて、それが家名であることはすぐに分かった。更にはその家名はスリザリン寮内で耳を澄ませばすぐに聞こえてくるもので、今までサフィロスが知らなかったことが不思議に思えるほどだった。
「純血の家系だね、そのことに誇りを持ってる。
イギリスの中で最も大きく、古い純血の家系の一つだ。今ホグワーツには、4つ上にシリウス・ブラック先輩と、同学年にフィニアス・ブラックが在籍してる。」
博識なアルバスに訊けばすぐにでも分かるだろうと思ったサフィロスの考え通り、アルバスはすらすらとそう述べた。
「古い純血の家系…」
「あぁ。ブラック家は中でも特に格が高い。」
「格?」
「家の規模や、歴史、私有財産が数ある純血の家系の中でも一等高いとされているのさ。」
「成る程。」
純血がどうのという話はスリザリン寮で生活していれば当たり前のように耳にする話だった。
世情に疎いサフィロスであっても、スリザリンの生徒達が純血であることに重きを置いていることはこれまでの一年で把握していた。
そんなスリザリンの中で、古くから純血であることを守ってきたブラック家は特別な存在なのかもしれない。
「サフィロス、スリザリンで何かあったのかい?」
ふむ、と考え込んでいるとアルバスが少し心配そうにサフィロスに声を掛けた。彼はこの少年が人付き合いを不得手としていることをよく知っていたからだ。
「何か…あぁ、そのブラック先輩に声を掛けられた。寮で僕に声を掛けてくる人が珍しかったのと…君のように周囲に沢山の人が居たから、気になったんだ。」
「ブラック先輩が?君に?一体どうして」
「昨年度の試験結果が良かったことで声を掛けられた。」
「あぁ、そうなんだ。それなら良いのだけれど。」
あいも変わらず言葉が足らないサフィロスの話で、アルバスは少々誤認する。
サフィロスがやっと寮内でも認められるようになったのか、とアルバスは自分のことではないのにどこか誇らしげに頬を緩めた。
ブラック家というのは随分と特別な家らしい。
「家柄か…」
昨年アルバスの元に人々が沢山集まっていたのは、彼が自身の知識を惜しみなく周囲に与えたからだ。あれは友人とはまた異なる関係性だとサフィロスは感じていた。ブラック氏の後ろに人々が居たのはどうしてだろうか。あれも友人関係とは違って見えた。
家というものに対する知識が殆ど無いサフィロスにはどうしてか分からなかったが、アルバスとは異なる理由で人を集める人間がいることを彼は知った。
サフィロスはいつものように一人で教室移動を行っていた。友人は居るが、あくまで彼等は他寮の生徒。授業スケジュールは寮毎で異なるので、彼はアルバスと出会う前と変わらず寮毎での移動では一人だった。
薄暗い教室に入り、端の空いている席へ座る。スリザリンの生徒達は規律正しい生活をしており、席の定位置がほぼ決まっていた。
サフィロスと周囲のスリザリン生達は何とも言えない距離感を保っていた。一年次の試験で良い成績を残した為か、あからさまに避けられることは無くなったが、スリザリン生達はサフィロスとの距離感を掴みかねているようだった。
「アストラ君、隣に座っても良いかな?」
そんなサフィロスに一人の少年が声を掛ける。
その声の主をよく知っていた周囲のスリザリン生達はギョッと目を剥いた。
「構わない。」
少年は「ありがとう」と言いサフィロスの隣の席に腰を下ろす。なだらかにウェーブ掛かった黒髪が微かに揺れた。どうして隣に座るのだろうと疑問に思いながら様子を見ていると、顔を上げ自分の方を向いた少年の黒々とした瞳に惹きつけられる。成る程、"ブラック"家だ、とサフィロスは小さく得心した。
「僕は、フィニアス・ブラック。先日は兄さんがごめんね、きちんと謝罪しないとと思ってたんだ。」
眉を下げ心底申し訳なさそうに謝るフィニアスにサフィロスは首を傾げる。
「…何故、君は謝罪しているのだろうか?」
「え?」
一通り自分の中で考えたが、それでも理由が見つからなかったのだろう。暫く逡巡するように黙っていたサフィロスはそう言った。謝罪に疑問を持たれるという珍しい体験をし、フィニアスは少々戸惑う。
「兄がいきなり君に不躾に話掛けて、迷惑じゃなかった?」
「いや、確かに最初は誰に話し掛けたか分からず困惑したが、迷惑とまでは思っていない。」
平然とした顔でそう答えるサフィロスにフィニアスは少しばかり呆然とする。
「そっか…でも、兄さんは君のことを「気の抜けた」なんて言って…」
「いや、あの人からはそう見えたのだろう。彼の抱いた印象を否定する権利を僕は持たない。」
「…そうだとしても、兄が君に失礼なことを言ったことに変わりはない。」
「成る程、口にした言葉には責任が発生するということか。しかし、僕はそれに対して謝罪して欲しいとは思わなかったし、もし謝罪するとしても君が謝る必要は無い。」
それでもどこか納得がいかないような顔をするフィニアスに対して、サフィロスは首を傾げた。
「どうして君は他人の責を負いたがるんだ?それは君が負うべき物では無いはずだ。」
至極当然のようにサフィロスが語った言葉はフィニアスに衝撃をもたらしたようで、彼は静かに瞠目した。
「何だか…アストラ君は、変わってるんだね。」
「変わっている…」
「あ!いや!悪い意味じゃなくてね!」
「いや、事実なのだろう。君達の当たり前が理解出来ないことが多々ある。それは言い換えれば"変わっている"ということなのだろう。」
そう言うサフィロスをフィニアスは物珍しいものを見るようじっと見詰めると、何を思ったのだろうか、手を差し出した。
「これから、同じ寮生として宜しくね。」
笑顔で握手を求めるフィニアスに対してサフィロスは目を瞬かせる。握手というものを目にしたことはあっても経験が無かったからだ。サフィロスは明らかに不慣れな動作でおずおずと応じた。
祝・スリザリンにも友人ができる
すみません、いつものように公式情報が無かった所は捏造しています
捏造点
・シリウス・ブラック2世の人物像
シリウス(親世代)似の気怠げなイケメンを想像しています。
・フィニアス・ブラック
マグルの権利を支持した為、ブラック家から抹消され生年月日が不明(公式情報)→アルバス・ダンブルドアと同い年にさせていただきました
・1年生の時の試験結果が生徒に伝えられるのかどうかがよく分かりません。
マルフォイ氏はハーマイオニーにドラコが全教科で負けてるとか言っていましたが、理事権限?
ハリーの年度始めの学校からの手紙には試験結果について何も書いていなかったし…
梟試験とイモリ試験の試験結果は6段階評価
それ以外の年はどうなっているんだ…
ご存知の方がいたら教えて欲しいです。
→今話ではブラック家がこの年代(?)orもう数年後に校長やってたので何らかのツテがあっただろうということにしてます。
→すみません、1巻の最後の方に「試験の結果が出た」と記載がありましたね。私の確認不足でした。
・同室の生徒達
→スリザリン寮の寝室が何人用か情報が無かったためボカしています。
一年次の試験結果について
記憶力の良いサフィロスは確かに満点解答をしたのですが、次席でした。秀才アルバス・ダンブルドアが満点以上を叩き出したためです。