口調や家の構造については、あくまで私の想像ですのでご注意下さい。
誤飲
柔らかな光が降り注ぐ春の陽気の中。
小さな影が忙しなくちょこまかと動き回っていた。
小さな影は、子供_サフィロス_だ。
彼はニコラス・フラメル氏に秋の始まりの頃に拾われた。
最初は周りを警戒してか、部屋から出ず、悪い時には一日中動かなかった彼だったが、フラメル夫妻の優しさに触れ、徐々に心を開いていった。
一つ冬を越し春になる頃までに、春の陽気がサフィロスの凍った心を段々と溶かされてゆくかのようだった。
春となり、更に最近は外へ出るようになっていた彼は、今日も今日とて家の中を散策する。
ふと、重々しい木の扉が目に入った。そういえば、この部屋には入ったことがなかった。
まだ幼く好奇心旺盛なサフィロスはすぐにその部屋が気になり、その扉のドアノブに手を掛けた。
動く。
鍵はかかっていなかった。
サフィロスは不思議と緊張してきていた。ドキドキと自分の脈の音を聞きながら、静かにドアノブを引いた。
小さく開いたその扉の隙間から、サフィロスは部屋の中を覗き見る。
「わぁ…」
サフィロスの口から思わず、というように感嘆の声が漏れた。
部屋の中には、サフィロスが見たこともないような物が数多くあった。
部屋の天井には窓があり、その天窓から明るく柔らかな光が差している。
サフィロスは、さっきまでの緊張を忘れてしまったのか、目の前に広がる未知の光景に惹かれるようにゆっくりと部屋の中へと入って行った。
あれは何だろう、これは何だろう、と周りを見渡しながら歩いている内に、キラリと光る物を見付けた。
床の上にある。
興味を持ったサフィロスは、それに近付いてしゃがみ込む。
それは赤褐色、いや紅茶色の飴玉のようにサフィロスには見えた。
サフィロスはガラスを見たことが無かったので、分からなかったが、その固体はガラスのようにも見えた。
サフィロスはそれを見て、母が作ってくれた飴を思い出した。
紅茶色の固体を天窓から降り注ぐ光に翳すとキラキラと光る。
彼はフゥッとそれに息を吹きかけた。
埃が落ちたのを確認すると彼はそれを口に含んだ。
おや、想像していた甘さが口の中に広がってこない。
不思議に思い、首を傾げていると、
「サフィロス!ここに居たのね。」
急に声を掛けられたので、サフィロスは驚きそれを飲み込んでしまった。
「…ケホッ、ケホッ」
フラメル夫人が、咳き込んでいるサフィロスに驚いて駆けて来た。
フラメル夫人がサフィロスの背中を摩る。
「どうしたの。サフィロス。」
「…飲み…込んじゃっ…た…」
フラメル夫人はその言葉を聞いて瞠目した。
「まぁ…あなた!あなたーー!」
「サフィロス。何を飲み込んでしまったんだい?」
ニコラス・フラメルは、サフィロスと視線を合わしてそう聞いた。
「キラキラしていて、飴みたいだった。」
そう答えたサフィロスに、フラメル氏は暫く考え込み、一つの結論を出した。
「…賢者の石か…ッ!」
その言葉に、フラメル夫人も驚く。
「まぁ!…あなた…聖マンゴに行った方が…」
「いや、これは彼らの専門外だろう。
それに、賢者の石は幾つかある有害な鉱物とは違うからね。気管に詰まったわけではないし…このまま暫く様子を見よう。」
フラメル氏はそう言うと、またサフィロスと目を合わし、しっかりとした口調で言った。
「サフィロス。もう一人でこの部屋に入ってはいけないよ。」
そう言われると、サフィロスは俯いた。
「もう…入ってはいけないのですか…?」
その言葉を聞いて、ニコラスは目を丸くする。
「興味があるのかい?サフィロス。」
「はい。ここには、私が見たことのないものが沢山あります。」
そう聞いて、フラメル氏はにっこりと良い笑顔を見せた。
「そうか。それでは、また今度案内しよう。
さぁさぁ、ペレネレ。ご飯の準備ができていたのだったな。」
「え、ええ。」
「それではご飯にしよう。」
そう言ってフラメル氏は、妻とサフィロスを連れて部屋を出て行った。
その後、サフィロスの体には目立った異常は見られず、このまま異常が見られなければ、無理に手を出す必要はない事となった。
サフィロスがニコラス・フラメルの研究室に入り、彼の実験道具に興味を持ったことにフラメル氏は喜んだが、彼はその見たことも無い物に興味を持っていただけであった。
事実、彼は錬金術に少しばかりの興味を示したものの、熱中するまでとはいかず、日がな外を駆け回るか、またはフラメル夫人が教えてくれる英語の習得を急いだことを記しておこう。
誤字報告歓迎いたします。
追記:ファンタスティックビースト2にてニコラス・フラメル氏が登場するとの話ではないですか!?鑑賞次第変更点があれば変更致します。(活動報告に現時点での捏造点を記しました。詳しく見たい方はどうぞ。)