アルバス ・ダンブルドアは疲れていた。勉強についていけないであるとかそういう理由ではない。彼の父親が犯した罪を知った学生達からの偏見の視線にだ。多くの視線に晒されて続ければそれは疲弊するというものだろう。
ホグワーツを探索し、一年生ながらも余り人の寄り付かない所を知っていたアルバスはただ1人になりたいと思い、湖畔にあるどっしりと根の張った大木に背中を預けていた。心地よい風が吹き、木の葉はさわさわと音を鳴らし、湖の水面を揺らす。風によって作り出された水紋はキラキラと輝いて、ただ眺めているだけで気分が落ち着いていく。
天候も良く、微睡んでいると小さな足音にアルバスの意識は覚醒させられる。折角の休息を一体誰が邪魔したのか、アルバスは心の中で悪態をつきながら、音の主に目を向け、呆然とした。
黒髪の少年だった。自分と余り年齢は変わらないように見える。そして何よりアルバスを驚かせたのは彼が裸足で地面を踏みしめていたことだ。こいつは一体何をやっているのか。アルバスはそう思わずにはいられなかった。
不意に地面ばかり見つめていたその少年の瞳がアルバスに向いた。
目だ。アルバスは思わず鬱々とした気分になる。また目が自分を見ている。
しかし、彼の瞳は一瞬アルバスを確認しただけでまた足元に落とされる。アルバスは拍子抜けした気分で彼を見た。
一瞬目にしただけだが、彼の瞳は美しく涼しげで、宝石のように煌めいていた。彼の瞳を称えるべき宝石の名をアルバスは知らなかったが、そう、少し青みがかった淡い緑で、宝石のようだと思った。だからだろうか、今までこちらを不躾に見てきた多くの目とは違った印象を受けた。
そうだ。あれは宝石だ。目ではなく宝石なのだ。だから嫌な物ではないとアルバスはただ漠然とそう思った。
「君。」
そう思うと同時にアルバスは彼に声を掛けていた。
声を掛けられると思っていなかったのか、彼は不思議そうに首を傾げアルバスにその宝石を向ける。首を傾げる動きで、少し長い髪がさらりと動いた。その動きも美しく神秘的なものに見えた。
「どうして君は裸足で外を歩いているんだ?」
「僕かい?」
アルバスの問いに少年はまだ首を傾げたままだ。
「あぁ。」
他に誰がいるというのか。
「…窮屈だったから。」
「窮屈?ホグワーツに来る前はどうしていたんだ。」
靴が窮屈とは一体どういうことだろうか。
「もっと楽なものを身に付けていた。」
「楽なもの?例えば?」
そんな会話から始まり、たわいも無い話をした。少年は浅瀬に入り水を蹴飛ばしながら、アルバスの質問に付き合ってくれる。アルバスは最後に何の気負いなく話したのが遠い過去のことのように感じた。
少年は質問にだけ答えた。見当違いなことを言うのではなく、質問に対してただただ解答する。
最初は酷く無愛想に思えたその顔も、よく観察してみると分かりにくいものの微かに動いている。
アルバスはすっかりここに来た目的を忘れて、少年と会話することに夢中になっていた。実際のところ会話というよりも、アルバスによる一方的な質問に少年が律儀に答えていくというものだったが、それがかえってアルバスにとっては楽だった。
日も落ち始める頃、そろそろ戻らねば、と彼が言った。確かに直に暗さが増してくる頃だろう。
「また、な。」
アルバスの口からそんな言葉が零れた。
少年は少し驚いた様に目を見開き、次に微かな笑みを見せた。
「あぁ…また」
それは、アルバスが初めて見る彼の笑顔だった。
その日、アルバスは久しぶりに穏やかな気持ちで眠りについた。
また朝がやってきた。少しだけ憂鬱な朝だ。これから自分が覆していかねばならない周囲の評価がある。
やはり憂鬱だ。アルバスは少し支度にもたついて授業開始ギリギリに教室へ入った。いつもはもっと早く来て、前の席を取る。こんなに遅れて来たのは初めてだったので、アルバスは席が殆ど埋まっていることで、どこに座ろうかと思い迷った。
ふと、後ろの席が不自然に空いていることに気付いた。どちらかというとスリザリンの席であるが、特に定められていないのでまぁ良いかと思いアルバスはそちらへ足を向けた。それに、自分は父のせいでマグル嫌いだとスリザリンの奴等に勝手に勘違いされているからな。と自虐的に思いながら歩いていくと、どうやらある一人の生徒が他の生徒に距離を取られているようだった。
見覚えのある黒い指通りの良さそうな髪。
昨日湖畔で会った彼だった。
この前会った時は裸足であることに驚いて寮なんて微塵も気にしていなかったが、確かにネクタイはしておらず、どの寮か分かっていなかった。彼はどうやらスリザリンの生徒だったらしい。
成る程、彼の対人能力の低さは仲間意識の強いスリザリンでも孤立してしまうものだったのかと納得した。
「隣に座っても?」
隣に座ろうと思い声を掛ける。彼はこちらに感情が読み取れない顔を向けて「どうぞ」と静かな声で答えた。
「そういえば名乗っていなかった。僕はアルバス・ダンブルドア。グリフィンドールの生徒だ。」
そして彼はここで止めはしない。昨日過ごした短い時間で、アルバスは彼のことを大まかに把握していた。
「君は?」
「僕は…僕はサフィロス・アストラ。スリザリンの生徒だ。」
先に回答例を示し、質問すれば彼は答えてくれるのだ。
あまり同輩に受け入れられていない様子を少し観察しただけで見抜いたアルバスはその理由が手に取るように分かった。彼は良くも悪くも純粋なのだ。頭は悪くない。むしろ賢いのだろう。ならばこの原因は何か。恐らく経験が不足しているのだ。先日の会話の中にも散りばめられていたヒント、妙に古めかしかったり丁寧過ぎたりする口調。きっと年齢の近い者達と触れ合う機会が少なかったのではないだろうか。
そう推理し、答え合わせがしたいとアルバスは思った。彼は原因に気付いているだろうか。
原作より、『一学年の終わりには、マグル嫌いの父親の息子という見方はまったくなくなり、ホグワーツ校始まって以来の秀才ということだけで知られるようになった』
アルバスは1年かけて自分の実力で不本意な噂を払拭しましたが、それには凄まじい努力をしたのではないかと思います。勿論才能もあったでしょうが、1年生時点でそんなに評価されるとは…
・現在のサフィロスははたから見れば不思議ちゃんです。アルバスとの親交を通して社会的に成長してくれることを祈ります。