アルバス・ダンブルドアと星の魔法使い   作:十人十色

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この関係性の名は

 

 宿題に必要な資料を探して図書室を散策していたアルバスは人通りの少ない本棚の間で見知った顔を発見した。椅子に座り涼しげな顔でページを捲っている黒髪の少年は、何時ぞやの湖で出会ったサフィロスである。彼の右斜め前には5.6冊の本を積み上げられていた。

 

「やぁ、何をしているんだい?」

 

アルバスは自然と彼に近付き声を掛けていた。声を掛けると、サフィロスは本から顔を上げゆったりとした動作でアルバスの顔を見上げる。透き通った宝石のような瞳に見据えられ、そうだそうだ、こういう奴だったとアルバスは再認識する。

 

「母の名を探している。」

「お母さん?どうしてまた。」

 

ポンと返事が返ってきたのだが、全く予想していなかったその答えにアルバスは首を傾げた。チラリと彼の手元の書物を伺うと、スクラップのように出来事が纏められたホグワーツの記録書のようである。

 

「…」

 

すぐさま小気味良いテンポで質問の答えが返ってくるとばかり思っていたアルバスは、黙り込んだサフィロス見て虚をつかれたように数度瞬きをした。

 どうして、そう問われてサフィロスはすぐに返せる答えを持っていなかった。どうしてだろう。

 

「母が、」

_生きていた証を探して。

 

何とか答えようと音を発するが、どうにも違う気がして言葉を飲み込む。

_僕は、母の名前を見付けて、何がしたいのだろう。

 

 何気なく放った自分の質問に答えを窮するサフィロスを見て、アルバスは混乱した。そんなに真剣に悩むような質問だったろうか。アルバスは考え込むサフィロスの肩に手を置く。

 

「無理に答える必要はない。答えづらいことを聞いてしまったのなら謝るよ。」

「いや、いや…自分でも、よく分からないんだ。何故母の名を探しているのか。きっとはっきりとした理由がある筈なのに…見付からない。それが、こんなにも気持ち悪い…」

 

アルバスは不快そうに眉を寄せるサフィロスと視線を合わせるようにしゃがんだ。

 

「じゃあ、君が答えを見付ける為の手伝いをしよう。構わないかい?」

 

そして安心させるように笑う。サフィロスはアルバスを見てこくりと頷いた。

 

「状況を整理させてくれ。まず、サフィロスのお母さんのことについて教えてくれないか?」

「…何から答えたら良いだろうか。」

「じゃあ名前から。」

「母はアウレリアと言った。」

 

アルバスもアルバスで、どこまで踏み込んで聞いて良いものか迷っていた。アルバス自身、あまり他人に詮索されたくは無い家庭事情を持っている。

 

「…僕は今どこまで質問して良いか迷っているんだ。サフィロス、君が話しても良いと思ったことを教えて。」

「…母は、ホグワーツの卒業生で魔法使いだった。らしい。」

「らしい?」

「知らなかったんだ、つい最近まで…」

「どうして知らなかったんだい?教えてくれなかった?」

「母が杖を使う所を見たことが無かった。それから7歳の頃に今の養い親の元に預けられて、知る機会が無かっただけかもしれない。」

「預けられた……聞いて良いかな?君のお父さんは?」

 

それを訊くのに、アルバスは躊躇わずには居られなかった。罪を犯した父のことが脳裏をよぎるが、今は関係ないだろうとサフィロスの言葉に集中する。

 

「父は、僕と同じ緑の瞳をしていたと聞いた。」

「…」

 

「母がそう言っていた。それ以外に知らない。」

 

_あぁ、やはりそうなのか。

 父を知らず、幼少期には母親との別離を経験している。自分と同じく父が居ないのだということに少々の親近感を覚え、血の繋がった家族が居ないというのはどれほど孤独なのだろうかとアルバスは彼の心情を推し量ろうとした。

これだけ多くの学生がいるのだ。様々な境遇の学生が居るだろうことは想像できなくはないが、彼の話はアルバスに小さな衝撃をもたらした。不幸自慢をしたい訳ではないが、多くの学生は自分よりもずっと苦労を知らないだろうと少なからず思っていたからだ。

 

「それは…君がお母さんの名前を資料から探すのは当たり前のことなんじゃないかな。自分のルーツを知りたいと思うのは人として当然の欲求だと思うよ。」

「ルーツ…」

「あぁ、そうさ。僕だって君と同じ境遇だったら同じように母について知ろうとしたさ。生まれというのは人間にとって大きな要素だ。それを知らないと……自分さえ分からなくなってしまうよ。」

 

アルバスの言葉はストンとサフィロスの中に入ってきた。サフィロスは霧散していた答えがそこにしっくりと収まったように胸に手を当てる。

 

「僕は、自分が何者であるのか。知りたいんだ。」

 

 サフィロスは答えを見付けられたことで大層満足そうな顔をしている。その隣で、彼がどこか浮世離れした雰囲気を纏っていたのはこのためかとアルバスは妙に納得した。フワフワとまるで地面に足をつけて立っていないかのような不安定さは、彼が彼自身の足元を構成する要素である「始まり」を知らないからなのだろう。

 誰かの役に立てるということはとても嬉しい。アルバスは満足そうな顔をするサフィロスの隣で心底嬉しそうに笑った。

 

「アルバス、どこまで探しに行ってるんだい?」

 

突然、本棚の影からひょこりと青ざめた肌をした少年が顔を出した。随分と皮膚のあばたが目立っているが、何かの皮膚病だろうか。病に詳しい訳では無いサフィロスには分からなかった。

 

「あぁ、ドージ。彼はサフィロス。つい先日出会った、僕の友人さ。」

「とも…だ、ち?」

 

不思議なものを見るような目付きで、サフィロスはアルバスを見た。

 

「おいおい、僕が一方的に友達だと思っていただけなのかい?」

 

呆れた様子でサフィロスを見ながらアルバスは戯けたように肩をすくめる。

 

「いや…この関係性は友達と呼ばれるものなのか。ありがとう。」

 

その「ありがとう」が一体何に対してなのか、アルバスは判断に迷った。歩み寄ってきたドージも隣で疑問符を浮かべている。

 

「それは…教えてくれてありがとう、という意味かな?」

「?…その通りだが、他の意味があっただろうか。」

 

さもそれ以外に用法があるのかと、彼は自分こそが常識であると言わんばかりである。

 

「僕は、教えてくれてありがとう、と友達と言ってくれてありがとう、の2通りで判断に迷ったね。」

「…成る程。」

 

彼の言葉の意味を咀嚼するようにサフィロスは深く顎を引いた。

 

「どう受け取るかが人に依るところがあるから。生まれた環境だったり、コンプレックスによって捻くれた見方をする人もいるものさ。」

「人によって言葉の受け取り方が変わってくる…」

「あぁ、そうとも。」

 

自分の中で彼の言うことをしっかりと学習すると、サフィロスは顔を上げてアルバスの目を射抜くように見据える。

 

「重ねて感謝を申し上げる。アルバス、貴方はとても博識だ。」

 

アルバスは、「どういたしまして」とは言ったものの、サフィロスの感情の起伏が少ない表情ではあまり褒めて貰った気がしなかった。

 

 

 

 図書室で借りた資料を胸に抱きながらサフィロスは上機嫌で廊下を歩く。相変わらずの無表情であるが、今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気だった。

 天文学の先生から母の名前が出た次の日から、何と無しにホグワーツで母の名前を探し始めた。これと言った目的を定めずに行動を起こすことは彼にとっては珍しいことで、自身の行動に違和感を覚えつつも彼は何らかの心の機微に従って母の痕跡を探した。

そんな最中の遭遇だった。

アルバスはサフィロスが訳も分からないまま感じていた心の動きを感じ取り、彼が咀嚼しやすい言葉できちんと伝えてくれたのだ。資料から母がクディッチをやっていたことも知れたし、不快にさえ感じていたよく分からない感情の答えも彼が教えてくれた。分からないことが分かるようになるのはとても気持ちが良い。

 

 彼は僕に寄り添って知らないことを教えてくれる。人間は様々な関係を言語化してきたけれど、どうやらこの関係を_友と云うらしい。

 




ハリー・ポッターと死の秘宝 上 p28より
「〈略〉アルバスが常に喜んで我々を助けたり、激励してくれたりした〈略〉。後年アルバスが私に打ち明けてくれたことには、すでにそのころから、人を導き教えることがアルバスの最大の喜びだったと言う。」
ドージ氏の尊敬フィルターが入っているとは言え、学生時代のアルバス・ダンブルドアは出来過ぎ優等生だったのだろうと想像します。
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