君に会うまで。   作:ごはんやよ~

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第三話

 宮水三葉、とドラマみたいに名前が書かれた黒板の横に立つ。全体が俯瞰できる状態でクラスメイトを一人ひとり観察していく。……ここには、いない。

 「こんな時期だが、転校生だ。みんなはまだ十月初めにあった人類史上最悪の彗星被害にあった糸森町については覚えているだろうが、彼女はそこの出身だ。まあ、仲よくするように」

 「初めまして、宮水三葉といいます。よろしくお願いします」

 そういって頭を下げると、拍手が起きる。頭を上げるとそれは潮が引くようにして消えていった。

 「宮水、お前はあの空いた席に座れ」

 そう言って教師が指差したのはいかにも、先ほど用意しましたよ、と言わんばかりにポツリと浮く机。その隣では女の子が手を振っている。彼女の隣に座れということだろうか。

 はい、と簡潔に返事をして教室の隅まで歩く。

 「じゃあ、HR終わる。号令」

 きりーつ、とやる気のない声に合わせて立ち上がる。そのまま休憩時間に移行すると一気に三葉のまわりに人が集まってきた。

 「ねえ、宮水さん。どうして東京に来たの?」「知り合いとかいるの?」「そのきれいなゴムどこで売ってるの、岐阜?」「宮水さんって、ロングも似合いそうだよね」「もう、彼氏とかいるの?」

 などと、集まっては質問を繰り出す。それ一つひとつ、

 「東京に来るのが夢だったんです」「一人暮らししてます」「これはゴムじゃなくて組紐って言って……」「前はこれより少し伸ばしていたんですよ」「彼氏はまだいません」

 と、丁寧に帰していく。糸森高校とは違う生徒の数の多さに少し戸惑い、驚きを隠せない。

 だが、そんな三葉の内心を知ってか知らずか、ギャラリーは質問を返すたびにおおっとどよめく。……特に彼氏がいないといったときの男子の騒ぎ方と言ったら。

 でも、彼氏をつくろうとは思わない。昔からそうだったが、最近は特にそう思う。そういえば、糸森高校の時に告白してきた人がいたけど、考えさせてのまま返事を言わなかったな。

 「宮水さんのこと、三葉って呼んでもいい?」

 「うん、いいよ」

 「あのさ、三葉……」

 彼らの好奇心は止まることはない。田舎から一人で上京してきたというだけで注目を集めるのに、さらにそれが隕石で滅んだ糸森となれば尚更だ。でも、最初はむしろ腫物に触るかのような扱いを受けるのかと思っていただけあって、この反応は少しだけ嬉しくもあった。みな、誰しも糸森の話題には気をつかってか踏み込んでくるような人はいなかった。

 

 昼休憩を知らせるチャイムが鳴ると、各々勝手に弁当なり、惣菜なりを取り出して食事をとり始めた。

 「ねえ、三葉。せっかくなら屋上に行かない?」

 「あー、それいいねー」

 「……屋上?」

 「まあ、ついてきなって」

 すっかり仲良くなった隣の女の子と彼女の友達に誘われるがままに屋上に上がる。糸森にいたときは校庭で食事を取っていただけあってとても新鮮な風景としてそれが三葉の目には映った。キラキラと太陽の光を反射するビル群を建物の間に見ることができる。

 「……つは、三葉ってば」

 「え、呼んだ?」

 「どうしたの? さっきから遠い目をして」

 「そんな目してた?」

 そう問い返すと、二人そろって頷かれる。

 遠い目。自覚はしていなかったがそんな顔をしていたのだろうか。

 「ねえ、三葉。辛いことがあったら言ってね」

 「つらいこと?」

 「うん、三葉はまだ東京に慣れていないから、困ったら何でも聞いて。私たちが役に立てるなら何でも手伝うよ」

 「うん、ありがとう」

 そういうと彼女は照れくさそうに笑う。でも、本当に困っていることを言うわけにはいかない。あの事件からずっと誰かを探している。そんなことは誰かに言うようなことじゃない。

 昼食をとる三人を温かい太陽が照らしていく。もう季節は十一月に入ろうとしていたが、まだ暑かったり、寒かったりと微妙な天気だ。今日は幸いにも天候に恵まれたようだったが。

 屋上ではそんな三人のほかに昼食をとるものや、バスケを行う者たちがいた。

 三人で食事、バスケットボールが跳ねる音が聞こえてくる。

 その光景にどこか既視感を三葉は覚えた。ありえない、前に東京に来たときはこんなところには立ち寄らなかった。だからこんな光景見たことはない。ないはずなのに、どうしてかその光景がひどく懐かしく思えた。

 「せっかく三葉が来たことだし今日カフェいかない?」

 「さんせー、私行きたーい」

 「え、ええ、カフェ!?」

 驚きで今まで考えていた内容が吹き飛ぶ。が、それどころではない衝撃だった。

 「か、か、カフェ? ええの? 私がついてっても」

 「三葉の歓迎なんだから当たり前じゃん! てか、訛ってるよ」

 「え、ほんと? 私、訛ってた?」

 その問いに彼女たちは二人で首を縦に振ったのだ。

 

 

 「ここが、私たちがよく来てるカフェなの」

 「……ここが」

 長いこと田舎に住んでいたせいでカフェなんて来たこと無かったため絶対東京についたらカフェにきてやると思っていたが、ついにその長年の夢が叶ったのだ。

 「ねえ、三葉。メニュー決まった?」

 「うわ……。すごい、私このパンケーキ一個で一か月は暮らせる……」

 そう言うと二人は笑う。

 「ま、東京は物価高いからねー」

 ゆ、夢の中なら食べ放題やったのに。と一人ごちる。だが、今は現実で夢ではないのだ。

 「私は、レモンティーで」

 「じゃ、私もおんなじのにしよ!」

 「私もー」

 と、それぞれ飲み物だけを頼む。最初は三葉もバイトをして生活費を稼ぐと俊樹に言ったのだが、学生は勉強だけしていればいいと言って、バイトの許可をくれなかった。その器の大きさに、三葉はただただ感謝の念しか出てこなかった。

 運ばれてきた紅茶に口をつけつつ、窓の外をぼんやりと見る。流れている人ごみをただ眺めている。

 違う、あの人じゃない。あの人でもない。どこにいるの? 瀧君。

 「……っ!」

 今、自分はなんて思った? 今、一番大切な人の名前を思い出したはずだ。なのに、出てこない。つい五秒前のことですら、思い出せない。

 「どうしたの三葉」

 「……ううん、何でもない」

 心配してきた友人に笑顔を振りまくが、内心は焦りを抱えている。心ではどんなに忘れたくないと願ってもすぐに記憶は奪われる。

 もう何回目になるかわからないほどに、神を呪う。どうして、こんな目に合わせるのだろうと。でも、心のどこかでその理由を知っている。

 本当だったら、私はあの時、糸森で死んでるはずだったのに。あの人のおかげで助かった。命をつなげた。だから、本当は助かったことだけに感謝すればいいのかもしれない。

 奇跡を起こしてくれた神にありがとうと伝えるべきなのかもしれない。

 でも、と、そう考えてしまう。彗星が落ちてくるときは絶対に再び会える確信があった。それだけの思いがあった。でも、今は違う。ただ、ただ、あの人のことを忘れてしまうのが辛くて、怖くて、いつか誰かにあれはお前の夢だと、妄想だと、突きつけられてしまうことがたまらなく恐ろしいのだ。

 

 

 

 二人には感謝の言葉を述べて、一人暮らしのアパートに戻った。扉を開けると薄暗い部屋から冷たい感覚。糸森にいたときは帰ったら必ず一葉と四葉がいたため寂しくは無かったが、どうしても今東京にいるのだと思い知らされる。

 三葉はそのままベッドに倒れこむ。初めての東京生活。思ったほど華やかではなかった。気を張っていたのか目をつむるとそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

夜の東京を電車が走る。思わず、ため息をつく。今日はまるで仕事に手が付けられなかった。気が付くと、いっつも瀧のことを考えていた。まるで、中学生みたいだなんて思ったけど、思わずそれも悪くないな、なんて思ってしまう。

ふと、視線を窓に向けるとそこに映る自分の笑顔に思わず驚く。こんなに昔はこんなに笑えなかった。でも、今なら。駅を降りて改札を抜けると大勢の人たちで混雑していた。そんな中、待ち合わせをしている彼の姿を視線で探ると……いた。ハリネズミみたいな髪の毛で少しだけ緊張した表情で立っている。

 その彼にばれないように、ゆっくりと後ろにはいよる。

 「……瀧君」

 「うん……? うおっ」

 瀧はゆっくりと振り向き三葉を見つけるなり変な声を上げる。

「何よ、うおって」

 「びっくりさせんなよ。心臓に悪いぜ」

 「ごめんごめん、待った?」

 三葉がそういうと瀧は少しだけ迷ってから、

 「いや、今来たところ。いこうぜ三葉」

 そのぎこち無さだけで、女性に慣れてないということに気が付き少しだけ微笑む。かくいう三葉もデートなんてしたことがないのだが、勿論自分のことなど棚に上げて、だ。

 「ねえ、瀧君。瀧君は仕事中にどれだけ思い出したの?」

 瀧が三葉を先導する中、三葉はそう問いかける。名乗った瞬間に、まるで今までの思いを馬鹿にするかのようにたくさんの記憶があふれかえった。

 「俺は高校生の時に入れ替わって街まで三葉を救いにいったことまでかな」

 「私もそんな感じ」

 そういうと思わず、変な感じと思ってしまう。だが、それは口に出ていたようで。

 「まったく、もっておかしな話だよな。高校生の時からずっと忘れてたのに今になって思い出すなんて」

 「たぶん、出会えたからやと思うんよ。私は」

 「そっか……。そうだよな」

 瀧は何かを思うのかそのまま黙ってしまった。三葉は瀧の横に並んで二人でゆっくりと東京の中を歩いていく。

 何を言うか仕事中にずっと考えていたのに、瀧を目の前にしてすっかり飛んでしまった。

 

これも全部瀧君が悪いんやからね。なんてちょっと意地悪なことを考えてしまう。でも、そのことがたまらなく楽しい。

瀧が隣にいて、一緒に話しながら歩けてる。まるで、夢みたいや。と思う。

これが、恋なら。私は今、とても幸せだ。

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