初投稿です。よろしくお願いします。
「よし!できた!うん、これは最高傑作!」
綺麗な朱色のミサンガ。編み上がるまでに1週間も掛かった。
先週の金曜日、屈辱のダブルデート。
『そういうの、あまり好きじゃないな……』
『比企谷は君たちが思っている程度の奴じゃない』
『君たちよりずっと素敵な子たちと親しくしている。表面だけ見て、勝手なこと言うのは
やめてくれないかな』
驚き・困惑・不満・失望・怒り・恨み・屈辱・劣等感・敗北感・悲しみ、、、
いろんな負の感情が折重なって、全くもって最低な1日だった。
翌、土曜日。憂さ晴らしに、かおりとショッピングに出かけた。
すごく高かったけど奮発して、とても綺麗な朱色の紐を買った。
今週、学校とバイトの時間以外は、このミサンガ作りに費やした。
これが出来上がれば、あの時感じた全ての負の感情から解放されるんじゃないかと信じて。
瀧くんが右手首に巻き付けてる鮮やかなオレンジ色の組紐。以前からあの組紐に興味があった。
普段はめったに付けてこない、何か大事な時だけに付けてくる。
それを頼み込み、拝み倒して、今週は毎日持ってきてもらった。毎日見せてもらって、
参考にした。
立花瀧くん。同級生かつバイト仲間。ちょっとチャラい髪型、頑固そうな眉、
でも人のよさそうな大きな瞳。難点はちょっと喧嘩っ早いところ。
わたしとかおり、それに瀧くん・司くん・高木くん、2年10組の仲良しグループ。
そういうのには興味はないけど、まあいわゆるクラスのトップカーストだ。
そして5人とも同じイタリアンレストランでバイトしている。
日曜日、シフトが同じだった瀧くんにオレンジ色の組紐を見せてもらえるようお願いした。
「瀧くん、瀧くんがたまに付けてくるミサンガ、いやあれは組紐かな?
あれを明日から1週間学校に持ってきて、わたしに見せてくれないかな?」
「いや、あれはお守りみたいな物だし、大事な時にしか付けないし、
誰かに見せる様な物でもないっていうか…」
「そこを何とかお願いできないかな?…金曜日に嫌な事があってさ。
今、すっごく落ち込んでるの。自分を変えるっていうか、本当の自分を取り戻すっていうか、
その切っ掛けになるように、自分用に真剣に本気で編んだミサンガを作りたいんだよね。
瀧くんの組紐はすごく綺麗だから、あれを参考にできたら最高なものになるんじゃないか
と思ってさ…。だから、このお願いを何とか聞いてもらえないかな?」
「…まあ、そこまで真剣なお願いだったら、友達としては応えてやる以外ないな。
明日から1週間ね。わかったよ」
「ありがとう!恩に着るよ!このお礼はいつか必ずどこかで返すからね!」
「そこまで、畏まらなくていいから。まあ、お礼は期待して待ってる」
「うん!ありがとう!じゃあ、明日からよろしくね」
「ああ」
快く引き受けてくれた瀧くんに感謝だ。
瀧くんに組紐を見せてもらえたのは本当にラッキーだったな。
できた。最高に最高の出来だと思う。
これで、明日の月曜日から本当の仲町千佳に戻れる気がする。
朱色のミサンガを右手首に付けてそれを見つめる。その出来に改めて満足し、
日記を付けながらあの日の事を考えた。
ドーナツショップでかおりが偶然見つけた中学の同級生。その彼と隣り合わせでお喋りしている
超綺麗な大学生のお姉さん。
そのお姉さんが紹介してくれた憧れの葉山君。とりつけたダブルデート。
葉山君とのダブルデートに舞い上がっていたとはいえ、わたしは初対面も同然の彼に
失礼で酷い態度だった。彼へのイジリは悪ノリで許される範囲を超えていただろう。
今にして思えば、葉山君に言われるまでもなく、自分でも反省しなければいけない事だと思う。
葉山君は落ち着いた口調だったけど、それだけに明確な敵意が感じられた。
そして葉山君が呼び出した『素敵な子たち』…。
ダブルデートでの彼へのイジリは葉山君にあそこまでの敵意を抱かせる程の事だったのかな?
ドーナツショップとダブルデートでのやり取りを思い出す限り、葉山君と彼は決して仲の良い
関係だとは思えない。
でも、葉山君のあの言葉を聞く限り、葉山君にとって彼は一目を置く存在なんだろう。
葉山君は彼の為、もしかしたら彼に一目を置く葉山君自身の為に、私達に対しての当てつけに
あの二人を呼び出したんじゃないだろうか?
黒髪ロングのスレンダーで美人な女の子と茶髪でお団子頭のおっぱいの大きい可愛い女の子。
確かに、あの二人はすごく魅力的で『素敵な子』だ。
あの二人と比べると、わたしが容姿で一歩劣るのは自分でも分かる。
でも、胸については黒髪ロングのスレンダー美人には勝ってるよね。
素敵か素敵じゃないかという話であれば、自信過剰ではないけど一般的判断では、
わたしも『素敵な子』側に分類されるだろう。
わたしの容姿はそこそこ良い方だと思う。性格も明るくて優しくて良い方だ。
男子から時々告白されたりもするしね。
総武には一歩劣るものの、まずまずの進学校である海浜総合で30位辺りを
キープできているのだから、学力もある方だ。
運動神経も良く、スポーツは割と何でもできる。中学の時はバスケ部だったから、
特にバスケットボールは得意だ。
高校では勉強と充実ライフとその資金捻出のバイトを並立させたかったので、
部活には入らなかった。
刺繡とか編み物だとか、ミサンガ作りとか、女の子らしい趣味も持っていたりする。
あの『素敵な子たち』と優劣を競うわけではないけれど、わたしと彼女達とでどこが違うのかな?
容姿でなければ内面?
あー、やめ、やめ。こんなマイナス思考でどうすんの。
せっかく今週いっぱい時間をかけて最高傑作を作り上げたんだから。
明日から本当の仲町千佳に戻るんだから。
もう一度、朱色のミサンガを付けた右手首を見つめ、日記を閉じ、
わたしはベッドにもぐり込んだ。
「お兄ちゃーん、早く起きて!もう朝ご飯できてるよ!」
ん、んん?お兄ちゃん?わたしは妹なんだけど?「早く起きて!」の声に合わせて
体を揺さぶれる。
寝ぼけ眼を開けると、そこにはぴょこんとしたアホ毛と八重歯のかわいい快活そうな
中学生くらいの女の子がわたしの体を揺さぶっている。
そうか、わたしはこの子のお兄ちゃんなのか。
お兄ちゃん???ってことは、わたしは男なの!?
そういえば、ささやかではあるがいつもの胸の重みが無い。その代わりと言ってはなんだが、
下腹部が強烈に自己主張しているのを感じる・・・
「……い、いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!」
「うわっ!なんて声出すの。どったの?お兄ちゃん?」
「なっ、何でもな…」
ちょっと待って、これ夢だよね!?
夢だとしても、お兄ちゃん…つまり男の子が「何でもないの!」なんて女の子言葉を使ったら、
この先とんでもない展開になる…。ただでさえ、わたしが男の子になってるなんて
トンデモ展開なのに!
ここは男の子言葉で話を合わせて、この状況を乗り切るしかない!
「あぁ、…何でもない。ちょっと変な夢を見ただけだ」
「早く来てよね。でないと小町、先に朝ご飯食べちゃうから」
「う、うん。わかった。」
「へ?」
ち、違ったぁ~!じゃあ、どんな台詞が正解なの?…これでどうだ?
「お、おう。分かったから、先に行ってて…くれ。」
「じゃあ、先にキッチンに行ってるね!」
と、小町ちゃん?は部屋から出て、トトトっと階段を下りて行った。今度は正解だったみたい。
あぁ、乗り切った~、よかった~。って、違う!安心している場合じゃない!
夢だよね?でも男の子になっちゃってるんだよ、女の子のわたしが!何なのこの状況?
もう全然把握できないよ~!
焦っていても仕方がない。まずは落ち着け、わたし。そう、深呼吸。
「ひー、ひー、ふーっ、、ひー、ひー、ふーっ」って、これはラマーズ法じゃん!
でも、まあ落ち着いた。
「あー」と、声を出してみる。やはり男の声だ。
ベッドを出て、周りを見渡す。いつもより視線が高いな。わたしの部屋ではない、
いかにも男子の部屋って感じだ。
ほっぺたを抓ってみる。
「痛い…」
夢…じゃない?いやいや、待て待て。誰かと入れ替わるなんて事、現実に起こるわけが無い。
じゃあ、これは…?
ははぁ、これって、いわゆる明晰夢ってやつだ。痛覚まであるなんて、
なんてリアルな夢なんだろう。
夢とはいえ、妹ちゃんが朝食を準備して待ってくれてるんだから、あまり待たせちゃいけないな。
なんて考えているうちに、下腹部の自己主張はなりを潜めていた…。
よし!まず眠気覚ましに顔を洗おう!夢なのに眠気覚ましなんて、ウケる!
…「ウケる!」って、かおりじゃないんだから…。
とりあえず「洗面所、洗面所っ」と、夢だけあって迷う事無く洗面所に辿り着く。
蛇口をひねって、水を両手で受ける。冷たい…。まあ、痛覚があるくらいだから、
温度感覚もあって当然か。
顔をじゃぶじゃぶ洗う。冷たい水がわたしを覚醒させていく。
そして、そこにあるのが分かっている様にタオルを手に取り、濡れた顔を拭く。
見上げた鏡に映るのは、、、
ぴょこんとしたアホ毛、そこそこ整っている顔立ち。でも、くすんだ瞳がその全てを台無しに
してしまっている。
「比企なんとか君…」
超リアルな夢の中、わたしは屈辱のダブルデートのオマケ男と鏡の前で再会した。
SS書くのって難しいですね。全然文章が浮かんできません。
感想・アドバイスなど頂けると嬉しいです。
では、また次回で。