「さっさと目覚めぬか」
突然の頭部の痛みで意識が覚醒する。
状況が飲み込めず、とりあえず体を起こそうとするが動かない。
仕方ないので視線だけ上げると目の前には小さな足の裏と白くスラッとした足、そして白地に水色ライン縞パンが見えた。
「起き抜けから変態行為か。元気な事だの」
声につられて視線をさらに上げると、そこには薄い金髪を腰まで伸ばした、成長したら間違いなく絶世の美女になるであろうという顔立ちの10歳くらいの少女がこちらを見下ろしていた。
「絶世の美女か。まぁ当然だの」
と、満足げな表情。
あれ? 私、思っただけでまだ口に出していませんでしたよね。
「その通りじゃ。しかし儂は貴様の考えが読めるからの。悪いか一方的に話させてもらうぞ」
考えが読めるとおっしゃいましたか?
それはまたなんとも……プライバシー侵害もここに極まれりといった感じがしますね。
そして縞パンがお似合いのこちらの美幼女はどちら様でしょう?
例えるなら化物語に出てくるミスタードーナッツを「パないの」と言ってリスペクトしている某吸血鬼さんにそっくりなのですが、やっぱり血を吸うと中学生バージョンや成人グラマラスバージョンとかにパワーアップされるのでしょうか。
そこはかとなく見てみたい気もしますが、血を吸われるのは勘弁願いたいので自分から言っておいてなんですがここはスルーさせていただきましょう。
話を戻して、さてここはいったい何処なんでしょう?
視界が美幼女で固定されてしまっているのでサッパリなのですが。
いえ、これはワザと見ているわけではなくてですね。
体が動かなくて仕方なくです。
他意はありません。
と言うわけで、なぜ体が動かないでしょうか?
かろうじて視界を動かす事は出来ますが他はピクリとも反応してくれません。
こうして自分の置かれている状況に頭が回り出すにつれて、逆に混乱が増していきます。
「全部説明してやるから少し落ち着け。うるさくてかなわん。よいか、貴様は死んだ。車にひかれそうになっていた子供を助けて代わりにひかれたのじゃ」
言われた瞬間、頭の中にその時の映像が再生される。
あぁ、そうでした。
学校からの帰り道、近所の公園の前を歩いていた時、走ってきたトラックの前にボールを追いかけてきた子供が飛び出してきて……。
「そういう事じゃ。安心せい。あの子供は助かった」
そうですか、それは良かったです。
これで二人とも死んでいたりなんかしたら骨折り損のくたびれ儲け、いえ、丸っきり無駄死にですからね。
「動揺したりせんのだな」
あ~~、そうですね~~。
言い方は悪いですが見方によっては自業自得みたいなものですからね。
それにやってみたい事は色々ありましたけど、幽霊になって化けて出るくらいどうしてもやりたかった事があったわけでもないですから。
「うむ、だがの。貴様のその行動は実は運命によって決められていたものじゃったのじゃ」
運命……ですか?
「そうじゃ。しかも貴様のと言うより相手の子供のと言った方が正しい。あの子供はの、自分の代わりに死んでしまった貴様に恥じぬ人生を送ろうと将来医者になり多くの人の命を救う事になる。貴様の死はそのための切欠として用意されたものじゃったのじゃ」
はぁ、そうなんですか。
いきなりそんな事を言われても正直実感が湧かないんですが、自分の命が役に立ったって事は分かりました。
父さんと母さん、それに妹、友達には悲しい思いをさせてしまうでしょうが、そこはまぁドンマイと言う事で何とか割り切ってもらいましょう。
人助けで死んだのならそこまで無念と言う事もないでしょうし。
「貴様、やけにドライだの。逆に心配になってくるぞ」
そうですか?
これも性分なもので。
「まぁ、よいわ。話を先に進めるぞ。貴様の家族に対しては何もしてやれんが、運命の被害者である貴様自身には詫びとして他の世界への転生といくつかの特典を授ける事になっておる」
転生に特典……何か聞いたことあるテンプレ展開のようですが。
「あぁ、貴様の国の時代ではなぜかバレてしまっているが、これは人類が生まれてからずっと続いているシステムなのじゃ」
それはまた壮大なスケールのお話で。
神様って随分とお優しいんですね。
「神にも色々いるがの。まぁ、それはいい。ちなみに転生先は決まっておるし、特典も状況と貴様にあったものを既に用意しておる」
あ、選ばせてはもらえないんですね。
王の財宝(ゲートオブバビロン)とか一方通行とか憧れてたんですが。
「そうじゃ。世界を壊すような力を認めてやるわけにはいかんのでの。ただ、その代わりと言っては何じゃが、その世界基準でじゃが裕福な生活、支配階層の出身の保証はしてあるぞ」
それはそれで責任とか大変そうですが、貧乏よりかは断然いいので助かります。
「それでは、そろそろ行ってもらおうかの」
もうですか?
お急ぎなんですね。
「いつまでも儂の縞パンを見ていても仕方なかろう? それとももっとフミフミして欲しいのか?」
そう、実は最初からずっと見た目年齢10歳の美幼女に頭をフミフミされていたのです……って、自分にそんな特殊な趣味はありませんよ?
「そうなのか? 前に来た奴に転生はいいからと言ってお願いされたのじゃが」
その方は世間一般で言われる所のドMでロリコンの変態さんです。
自分は……強いて言えばSでしょうか。
怒られると分かっていても、必要以上に構ってしまって飼い猫に引っ掻かれるタイプですね。
「ふむ、なかなかに性質の悪い、いや、ある意味いい性格をしているようじゃの。まぁ、よいわ。では、そろそろ行くぞ。第2の人生、楽しむがよい」
その言葉を最後に意識は沈んでいった。
現在H×HのSSをメインに進めているので、こちらは息抜き感覚でマッタリ行きます。