二度目の人生は長生きしたいな   作:もけ

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注釈ですが、サブタイの年齢は4月を基準に加算されていくので、年が明けても冬の内はまだ10歳という事でお願いします。
読み返してみたらモンモランシ伯がミツハさんを怒らせたのが10歳の話の中だったのですが、この話の中で「昨年」と言ってしまっているので、齟齬をきたさないために説明させていただきます。


続~10歳、モンモランシ伯爵邸にて

「遠路はるばる、ようこそお出で下さった、アルテシウム伯」

「いえ、こちらから声をかけたのです。足を運ぶのは当然の事。むしろ、押しかけてしまって申し訳ない、モンモランシ伯」

「そう言ってもらえると助かる。ほら、モンモランシー、挨拶を」

「モ、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシです。アルテシウム伯、お会いできて光栄です」

「初めまして、Miss.モンモランシー。可愛らしい上に利発そうとは、伯もご自慢でしょう」

「ははは、分かりますか。親の私から見ても、社交界に出れば引く手あまたになるのは確実だと、今から心配しておる次第です」

「も、もう、お父様ったら」

「では、こちらも」

「お初にお目にかかります。カミル・ド・アルテシウムです。モンモランシ伯、此度は急な話にも関わらず時間を作っていただきありがとうございます。Miss.モンモランシー、社交の場に出る前にレディの様な素敵な女性にいち早くお会いできた事、始祖ブリミルに感謝します」

「お、お上手ですのね」

「伯の御子息も年齢以上にしっかりしておられるようだ。羨ましい事ですな」

「本人も頑張ってはいるようですが、まだまだ未熟者。いつボロが出るか冷や冷やしてますよ」

 

 と言うわけで、さっそくモンモランシ伯爵家にお邪魔しています。

 

 ただ「さっそく」とは言っても手紙のやり取りと移動で、お母様の了承を貰ってから一週間ちょっと経ってしまっていますが。

 

 電話がないのって不便ですね。

 

 まぁ作れませんし、作りたいとも思いませんが。

 

 さておき、手紙の内容は「昨年起こった貴家の災難に対して当家が力になれるかもしれない。一度会って話をしてみませんか」といったもので、半信半疑だとは思いますがリターンが早く好意的だった事からモンモランシ伯の焦りが窺えます。

 

 水の国と呼ばれるトリステインにおいて、水の精霊との交渉役という地位は存外高く、水の精霊の涙を使った秘薬によって利益と実質的な影響力を持っていたのですが、それが全てなくなってしまった。

 

 宮廷では「近々正式に交渉役を降ろされ、ラグドリアン湖から領地替えされる」との噂も立っているとかなんとか。

 

 景勝地としても有名なラグドリアン湖、その観光収入も併せて失ってしまっては今までの様な暮らしは到底望めないでしょう。

 

 一度覚えた贅沢を忘れられる人はそう多くありません。

 

 ゆえにモンモランシ伯は焦っている。

 

 予想していたとはいえ好都合ですね。

 

 歯の浮く様な貴族らしい相手を褒め合う型通りの挨拶を終え、客間に移動すると早々に本題に移ります。

 

「それでアルテシウム伯、本家の災難というのは水の精霊の一件の事という事でよろしいか」

「えぇ、その通りです」

「失礼だが、ラグドリアン湖から遠い領地のそなたに解決策があると言われても、こちらとしては半信半疑でな」

「まぁ当然ですな」

「だが、当家の現状は不確かな情報にもすがりたい程、切迫しているのが実情なのだ。ぜひ、力を貸して欲しい」

「私個人としては水の大家であるモンモランシ家と繋がりが出来るのは大変好ましいと思っているのですが、生憎と今回の交渉役は私ではなく息子なのですよ」

「ご子息が」

「カミル」

「はい。それではお話させていただきます」

「う、うむ」

「まず初めに、水の精霊様との一件の非がモンモランシ伯の失言にあったと解釈していますが、これはよろしいですか」

「あれはっ……いや、言い訳はするまい。あれは完全に私の落ち度だった」

 

 プライドの高い貴族が素直に自分の過ちを認めるなんて本当に堪えてるみたいですね。

 

「反省されている様で安心しました。もし傲慢な態度のままでしたらこのまま帰る所でした」

「そ、そうか」

「それでは条件を提示させていただきます。こちらには水の精霊様との仲を取り持つ用意があります」

「おぉっ」

「ただし、対象はモンモランシ伯ではなく、ご息女のMiss.モンモランシーです」

「なんとっ!?」

「私っ!?」

「えぇ、水の精霊様は大層おかんむりでして、さすがに伯と再度盟約を結ぶ事はお願いできませんでした」

 

 伯、顔が引き攣ってますよ。

 

「それにMiss.モンモランシーもいきなり交渉役に本決まりとはいきません。Miss.モンモランシーが魔法学院を卒業されるまでの期間をお試し期間として、本当に交渉役として礼節ある態度が取れるのか様子を見させてもらう事になります」

「18で卒業とすると約9年か……大変だと思うが、他に頼れる当てもない。頼めるか、モンモランシー」

「っ!? はいっ、お任せください、お父様。このモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ、杖に懸けて交渉役の任、全うして見せます」

「あぁ、子供の成長というものは本当に早いものなのだな」

「そうですな」

 

 お父様も含めて何か良い雰囲気になってしまっていますが、続けても大丈夫でしょうか。

 

「おほん、続けてもよろしいですか」

「あ、あぁ、すまない」

「この提案ですが、善意という訳ではありません。こちらにも下心があります」

「う、うむ、当然だな」

 

 貴族間でのこういった話の場合、普通は形のない恩を最大限に押し付ける事で後々まで影響力を残すものですが、今回は例外です。

 

「Miss.モンモランシーが仮の盟約を結ばれた暁には、3つの対価をいただきたいと思います」

「3つもか……」

「お父様」

「う、うむ、まずは聞こう」

「1つ目、我がアルテシウム領と隣国ガリアとの中継地点として新たな交易ルートの確立と、特定商人に対する関税の引き下げをお願いします。これは我が領とガリアだけでなく、流通の活性化による貴家の利益も見込める話だと思います」

「確かに」

「2つ目、Miss.モンモランシーの仮とはいえ交渉役就任を祝して、モンモンランシ家の安泰、ひいては水の国トリステインの安泰をアピールするためにラグドリアン湖にて他国の国賓を招いての大々的な園遊会を催していただきたいと思います。その際に饗される飲み物については、ぜひ我が領に一括でご依頼の程を」

「それはいいが、金がかかるな」

「3つ目、これは2つ目にもかかっているのですが、園遊会の話を国に通す前に、後ろ盾としてヴァリエール公爵家に協力を依頼して欲しいのです。その際に交渉カードとして我が家を紹介していただきたい」

「ヴァリエール家なら後ろ盾としては申し分ないが、その交渉カードというのは」

「次女カトレア様の治療」

「当てがあるのか? ヴァリエール公爵は大層親馬鹿でな。自分から言い出して出来ませんでしたでは済まされんぞ」

「対処療法ではありますが、水の精霊の涙を使った秘薬より確実に効果的な治療の当てがあります」

「私も水の大家として依頼された事があるが、あれは正直どうしようもなかった。ゆえにその治療とやらに興味があるのだが、教えてもらえるだろうか」

「はい。その説明も含めて、こちらからの提案の証拠を示させていただきます」

「おぉ、そうか。ぜひ、頼む」

「では準備として、水の張った桶をお願いしてもよろしいでしょうか」

「桶か。サイズはどのくらいだ」

「顔を洗う時のもので大丈夫です」

「分かった。持って来させよう」

 

 桶が届くと共に人払いとサイレントをお願いします。

 

「では、いきます。ミツハさん、出てきてください」

 

 テーブルから少し離れた床に置いた桶の水がうにょ~~んと盛り上がり等身大のミツハさんが現れると、モンモランシ親子の顔に驚きと次いで緊張が走ります。

 

「ミツハさん、彼女が新しく盟約を結んでもらう予定のMiss.モンモランシーです」

「うむ、我に再度盟約を結ぶ気はなかったが、カミルの頼みなので仕方なく契るのだ。カミルに感謝せよ」

「は、はい。この感謝の気持ちは一生忘れる事はありません」

 

 うわぁ、別名『誓約の精霊』と呼ばれているミツハさんの前で『一生』とか言っちゃいましたか。

 

 多分彼女はまだ知らないのでしょうけど、父親の方は青ざめてますね。

 

 ご愁傷様です。

 

 これから先、彼女が私に対して感謝の心を忘れて不敬な態度を取った場合、盟約が破棄される事もありうるという事がここに決まってしまいました。

 

 交渉のテーブルにつく場合、これは最悪と言っていいでしょう。

 

 こちらとしては棚から牡丹餅な気分ですね。

 

 有効なカードはいくつあっても困りません。

 

「では、その方の血を我に捧げよ」

「はい」

 

 これでモンモランシ家の方は無事終了ですね。

 

 次は大物ヴァリエール公爵家です。

 

 アチラでの知識通りだった場合、喧嘩っ早い性格の方たちが多いので気を付けましょう。

 

 おっと、忘れる所でした。

 

「あ、その『水の精霊の涙』ですが進呈しますので王宮への説明や根回しに使われて構いませんよ」

 

 ミツハさんの宿った水は『水の精霊の涙』という秘薬の材料になります。

 

 大さじ一杯で700エキューくらいが相場のかなり高価なアイテムです。

 

 あれだけあれば4~7万エキュー分くらいは取れるでしょう。

 

 こちらが何も言わなかったらそのままネコババさてれていたでしょうから、売れる恩は売っておかないと損になってしまいます。

 

 アチラの通貨と比べると1エキューは1万円に相当する感覚ですから、1万エキューは1億円。

 

 つまり4億から7億円を譲った形になります。

 

 ……金銭感覚がマヒしてしまいそうです。

 

 しかしっ!! アルテシウムの次期当主たる者、そのくらい慣れなくてどうしますっ!!

 

 あ、何となく言ってみたくなっただけなので気にしないでください。

 

 リアル執事のいる世界でドラゴンも魔法もありますが悪魔は聞かないんですよね。

 

 いても良さそうなものですが。

 

 いえ、会いたくはないですけど。

 

 可愛いメイドさんがいれば満足です、はい。




水嶋ヒロはいいけど、剛力さんはないわ~~。
と思っている作者です。

水の精霊の涙に対する注意事項。
水の精霊の涙はマインドコントロール系の秘薬に使われる材料でもあるので、市場に流す時は注意が必要です。
出来れば治療薬として加工してから流しましょう。

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