二度目の人生は長生きしたいな   作:もけ

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11歳、白の国アルビオン

 空飛ぶ船から実際にアルビオン大陸を目にした感想を一言。

 

「ラピュタとはスケールが桁違いですね」

 

 カミル・ド・アルテシウム、11歳です。

 

 アルビオン大陸ですが、アチラで言えばイギリスが丸々浮いているようなものですから、一角から見上げても全体像なんて掴めません。

 

 島の端っこで途切れた河が滝になり水しぶきを撒き散らす事によって出来た沢山の虹が綺麗ですけど、それよりも見渡す限り岩の天井が広がっている光景は圧迫感が凄いです。

 

 これを見てしまうと、大隆起と同じ理由で浮いていると思うのですが、少なくとも6000年もの間これだけの質量を有する物体が浮き続けていて風石の埋蔵量はどうなっているのか気になってしまいます。

 

 かの国では国内で消費される風石の100%を採掘により賄っていますし、大陸を浮かし続けるために消費される量と合わせても新たに作られる量の方が多い、または釣り合いが取れているという事なんでしょうか。

 

 大隆起然りですが、なんで風石ばかりがそんなに結晶化しているのか謎です。

 

 いや、それよりも大陸の底が抜けている状態でどうやって水がわき河が出来ているんでしょう。

 

 もしかして風石だけじゃなく巨大な水石でもありますか?

 

 疑問は尽きないので今度ミツハさんに聞いてみるとしましょう。

 さて、そんなわけでついに白の国こと浮遊大陸アルビオンの地に足を着けたわけですが、残念ながら即行動というわけにはいきません。

 

 そもそもこの地での日程は五泊六日と一見余裕がありそうに見えますが、ふたを開けてみれば自由に動ける時間はほとんどないのです。

 

 初日の今日は移動で時間を潰してしまうために、このままホテルに直行で終了。

 

 二日目の明日は相手方との挨拶と会食で1日が潰れます。

 

 三日目の明後日は姉様がアルテシウム姓でいる最後の家族団らんでアルビオン観光。

 

 四日目は諸々の打ち合わせとトリステインから来る招待客のお出迎え。

 

 五日目にメインイベントである姉様の結婚式。

 

 最後の六日目は帰るだけですね。

 

 つまりチャンスは結婚式当日のみ。

 

 あちら側の招待客の中にお目当ての相手がいる事は確認済みです。

 

 ターゲットと上手くコンタクトが取れさえすれば、私だけ滞在を延長する理由も作れますから、少ないチャンスを必ずものにしようと思います。

 

◇◇◇◇◇

 

 時間が飛びまして結婚式当日です。

 

 間の三日間は特にお話しする事もなく、強いて挙げればヴァリエール家の代表として姉様の友人でもあるエレオノールさんが来てくれた事くらいですか。

 

 それも姉様との会話がメインですから私はオマケもいい所でしたから割愛しても問題ないでしょう。

 

 さて、ハルケギニアの結婚式ですが、教会で始祖ブリミルに二人の愛を誓うだけのシンプルなもので、日本のように誓いのキスも指輪の交換もありません。

 

 よって姉様の式もつつがなく終了しましたが、むしろ本番は夜に控えた披露宴です。

 

 内容は舞踏会プラスαといった所ですが、主役のお二人は祝辞を述べる相手の対応で多忙な一時を送る事になるでしょう。

 

 その間に私はお目当ての相手にコンタクトを取らなくてはいけません。

 

 舞踏会という事でダンスに誘うのがスマートかつエレガントな方法だと思いますが、実は私、ダンスはおろかパーティーに出るのも初体験だったりします。

 

 が、頑張りますよ?

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 披露宴も中盤に差し掛かり、開始直後の浮ついた雰囲気がやや落ち着いた所で行動開始です。

 

 ターゲットの女性は柔らかいクリームがかった緑色の髪を結い上げ、ドレスは落ち着いた印象を与える紺色をベースに白いレースで飾られていて、薔薇のような華やかさはありませんが、百合のように清楚な美しさを滲ませています。

 

 ダンスの誘いも一段落したのか、魔法学院の同級生と思しき女性たちで会話に華を咲かせている所にタイミングを見計らって声をかけます。

 

「Miss.サウスゴータ、よろしいでしょうか」

「はい、あ、ミスタは確か新婦の」

「弟のカミル・ド・アルテシウムです。今日は姉の結婚式にありがとうございます」

「いえ、素晴らしい結婚式で、見ていて羨ましくなってしまいました」

「若輩者の私にはまだまだ先の話ですが、ミスほどの見目麗しい方なら引く手あまた。魔法学院を卒業されたらすぐなのではないですか」

「ふふ、残念ながらそういうお相手はまだ……。もしかしたらミスタが私の運命の相手かもしれませんね」

「それは光栄の至り。もしよろしければダンスを申し込ませていただいても構いませんか」

「えぇ、喜んで」

 

 本日の主役である新婦の家族であればトリステイン側の顔を潰さないために社交辞令でもOKしてもらえると計算していましたが、どうやら成功のようです。

 

 見るからに年下ですから変な下心がないという点も警戒心を下げるのに良かったのかもしれません。

 

 6歳差ですから11と17、子供扱いも当然ですね。

 

 さておき、マチルダさんの手を引いてダンスフロアへ向かい、まずは恭しく一礼。

 

 練習と本番では緊張度合いが違いますが、動き自体は数年間の練習により体に染み込んでいますからたまにぎこちない所があるかもしれませんが、概ね問題なくリードできていると思います。

 

「失礼ですが、ミスタはおいくつですか」

「誕生日がフェオの月(4月)の1日なので、もう11になりました」

「まぁ♪ 誘い方からダンスまで、その年でこれだけできれば将来有望ですね」

「すみません。こういった事は初めてなもので至らない所はお目こぼしくださると幸いです」

「いえ、皮肉ではなく本心からの賛辞ですよ? でも私なんかが初めてのお相手で良かったんですか」

「もちろんです。初めてのダンスがミスのような素晴らしい女性にお付き合いいただけた事は一生の思い出になります」

「ふふ、本当にお上手ですね」

「それに誰にも悟られたくない話をするにはダンスは打って付けだと思いませんか」

「それはどういう」

 

 彼女からの疑問の声を遮るように耳元に口を寄せ、

 

「モード大公のご息女について調べがついています」

 

 爆弾を投下します。

 

「なっ!?」

 

 慌てて体を離そうとする彼女の動きをターンをする事で周囲にごまかします。

 

「勘違いして欲しくないのですが、私は味方です。姉の嫁ぎ先であるアルビオンで騒動が起こる事を望んでいると思いますか」

「じゃあ、なぜそんな話を」

「大公に取次を頼みたいのです。出来れば早急に」

「それは……」

「後ほどお部屋の方にお邪魔させてもらえませんか? 詳しい話はその時に」

「そう、ですね。分かりました」

 

 会話はそこまで。

 

 曲の終わりと共に一礼して別れ、私は一旦頭を冷やすためにバルコニーへ出ます。

 

 季節は春を迎えていますが標高の高いアルビオンの夜風はまだまだ冬を連想させる冷たさがありますが緊張から高ぶった意識をリフレッシュさせるにはちょうどいいです。

 

 さて、これで何とかファーストコンタクトは成功ですね。

 

 彼女にはモード大公への取次と、私のアルビオン逗留を延期させる理由を作ってもらわないといけません。

 

 こちらが情報を掴んでいる以上、お願いも脅迫と取られてしまうかもしれませんが、姉様の安全を確保するためなら不本意でも他の事には目をつぶります。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「ふわぁ~~」

 

 眠いです。

 

 私たちメイドは基本早寝早起き。

 

 いくら仮眠を取らせてもらっても身体が夜は寝るものだって言ってます。

 

「ふわぁ~~」

 

 あくびが止まりません。

 

 お泊まりの貴族様が道に迷ったり何かご用があった時のための夜間見回りに当たるなんて運が悪いです。

 

 今のところお声がかかる事はないですが、最悪酔った貴族様に夜伽を強要される事もあると先輩メイドから聞かされていて、最初はちょっと緊張してましたけど大丈夫そうです。

 

 結婚式だったせいでしょうか。

 

 今日いらっしゃる貴族様はご家族連れが大半ですし。

 

 それにしてもウチの若様もついに結婚ですか。

 

 見た目は悪くないのですが、ちょっと優し過ぎるというか、気弱というか、真面目でいい方なんですけどね。

 

 これまでなかなかいいお話がなくて心配してましたが、これで一安心です。

 

 奥様になるジュリア様はとてもお綺麗で明るく気さくな方なのできっと上手くいくと思います。

 

 ただジュリア様は弟であるカミル様を大変可愛がっている、というか溺愛されていて、披露宴でも若様そっちのけで3曲続けてダンスしたりと、姉弟の関係にいけない想像をしてしまう同僚もいます。

 

 ですが確か21歳と11歳ですよね?

 

 年の離れた弟や妹って可愛いものなんじゃないでしょうか?

 

 私は末っ子なんでよく分かりませんが。

 

「ちょっと、いいですか」

「きゃっ」

「失礼、驚かしてしまいましたか」

「ししし失礼しました。貴族様。な、何かご用でしょうか」

 

 び、びっくりしました。

 

 後ろからお声をかけられるまで全然気付きませんでした。

 

 って、あら? この方は確か……。

 

「カミル様?」

「えぇ、カミル・ド・アルテシウムです。ミットフォード家のメイドさんですか」

「は、はい」

「これから姉の事よろしくお願いしますね」

「は、はい。って、い、いえ、あの、め、滅相もない、です」

「ふふふ」

 

 わ、笑われてしまいました。

 

 恥ずかしいです。

 

「そ、それでカミル様。ご用の方は」

「あぁ、そうでした。部屋が分からなくて困っていたんですよ」

 

 トイレに出て迷子という事でしょうか?

 

「それではご案内いたします」

「その前に」

「はい?」

「これを見てもらえますか」

 

 向けられた手には青く光る指輪が……。

 

 …………………………

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「はっ!?」

 

 えっ?

 

 あれ?

 

 私寝てました?

 

 それも立ったまま?

 

 えっと、と、とりあえず落ち着きましょう。

 

 何してましたっけ?

 

 そう、カミル様にお声をかけられたんだ。

 

 それで……それで……そうです。

 

 部屋への案内を頼まれて……って、ここは……カミル様のお部屋みたいですね。

 

 じゃあ、案内はしたって事ですね。

 

 そのまま寝ちゃったって事なのでしょうか?

 

 服も特に乱れた様子はないし、身体にも違和感はない。

 

 うん、きっとびっくりした後で気が抜けちゃったのでしょう。

 

 ふふふ、それにしてもジュリア様をお願いされてしまいました。

 

 カミル様もジュリア様が心配なのですね。

 

 可愛がってくれるお姉様が他国に嫁いでしまって心細かったりするのでしょうか。

 

 むしろカミル様をお世話してさしあげたくなっちゃいますね。

 

 ご命令がなくても添い寝くらいなら……って、何考えてるのかしら、私。

 

 私って実は年下好き?

 

 新しい発見です。

 

 まぁ、それは置いておくとして、見回りの続きをしましょう。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 メイドさん、ごめんなさい。

 

 マチルダさんの所へ行くのはなるべく秘密にしておきたいんです。

 

 変な噂が立っては困りますし。

 

 それにしてもアンドバリの指輪は優秀ですね。

 

 不意打ちにはピッタリです。

 




ちょっと細切れというか、省き過ぎましたかね。
『家族の団らんでカミルを過剰にかまうジュリア』『カミルとエレオノールさんとの接待デート』を書く事もできたんですが、早くテファにたどり着きたくて省略してしまいました。
次こそはテファを!!
と言いつつもう一話間にかかるかもしれません。

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