二度目の人生は長生きしたいな   作:もけ

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続5歳、近衛師団の騎獣って使い魔とは別なんですよね

 記憶が戻ってから半年ほど経ちました、カミル・ド・アルテシウム5歳です。

 

 午前中は魔法の訓練、午後は貴族として必要な座学の勉強や乗馬やダンス、バイオリンの練習など意外と多忙でありながら慣れてしまえばそれはそれで変わり映えしない平和な日々を送っています。

 

「お母様、おはようございます」

「おはよう、カミル」

 

 朝食を食べに食堂に行くとお母様だけが紅茶を飲んでくつろいでいました。

 

「お父様は」

「先ほど就寝したようですよ」

「そうですか」

 

 お父様は研究にのめり込んでしまうとしばしば昼夜逆転の生活になってしまいます。

 

 まぁ研究者なんてものはどこの世界でも同じという事なんでしょう。

 

 お母様は既に食べ終わってしまっているようなので、私もさっさと食事をしてしまいしょう。

 

「ところで、カミル」

 

 私が食べ終わるタイミングを見計らってお母様からお声がかかります。

 

「なんでしょう、お母様」

「魔法の訓練、無理はしていませんか」

「無理、ですか?」

「あなたの気持ちを尊重して厳しい方に頼みましたが、無理だと思ったら断ってもよいのですからね」

「い、いえ、大丈夫です。まだ系統魔法は習っていませんが、コモンマジックなどは自信がついてきた所です」

「そう……。でも体を壊したら元も子もないですからね」

「はい。気を付けます」

 

 心配そうな表情の優しいお母様と苦笑い全開の私。

 

 魔法を習うに当たって、

 

「お父様、もし戦争が起こったら私は貴族として戦場に出なければいけないんですよね」

「そうだな。貴族には国を守る義務があるからな」

「私は死にたくありません」

「怖いのか」

「はい、ですからなるべく厳しい先生をつけていただけないでしょうか。私は生き残る強さ、戦場に出ても家族の元に無事に帰って来られるだけの強さが欲しいのです」

「そうか……。分かった」

 

 子供がまだ漠然とした死に恐怖を覚えるのは不自然ではないと思い、うまく願い出てみました。

 

 そして両親が選んでくれた先生がグレゴワール教官。

 

 現役時代には中央のトリステイン魔法衛士隊の一つ『ヒポグリフ隊』に属していたエリートで、お父君が死去されたのを機に地元であるアルテシウム領に戻り結婚。

 

 今は当領の治安維持部隊の副官をなされている方です。

 

 一応色々と補足しておきますが、トリステイン魔法衛士隊と言うのは王家と王城を守る近衛隊で所謂花形職、エリートさんですね。

 

 領地持ちの方はほとんどいませんが、魔法の実力は折り紙つきの貴族の子弟で構成されており、血と魔法の腕を重視するトリステイン王国においてはお婿さん候補の最有力です。

 

 魔法衛士隊は教官の属していたヒポグリフ隊を始め、グリフォン隊、マンティコア隊の三部隊からなっており、部隊名にもなっているモンスター、もとい幻獣を騎獣としているのが特徴です。

 

 と言っても、皆さん名前だけ聞いてもこの三つの幻獣の区別がつかないと思います。

 

 私ですか? 私はアチラでwikiさんとお友達だったのでその辺の知識はバッチリです。

 

 ですがコチラとアチラで齟齬があるかもしれませんので、一応図鑑で調べてみました。

 

 グリフォンは上半身がワシで、下半身がライオン。

 

 ライオンはあのタテガミがチャーミングなのに下半身だけなんて勿体ないと思うのは私だけでしょうか。

 

 ヒポグリフも上半身はワシですが、こちらの下半身は馬。

 

 地球の伝承ではオスのグリフォンとメスの馬との間に生まれた、捕食者と非捕食者という有り得ない掛け合わせの幻獣とされていたと思いましたが、こちらではそういった伝承はなく、元からそういう生き物みたいです。

 

 真っ直ぐ走るだけなら魔法衛士隊で最速。

 

 しかし残念ながら小回りは利きません。

 

 馬ですからね。

 

 仕方ありません。

 

 ですが、風竜には敵いませんが、逃げ足が速いのは素敵だと思います。

 

 最後のマンティコアですが、ベースがライオンと言う事を除くと地球の伝承とははっきり言って別物。

 

 ただし、個人的には「良い意味で」と注釈を入れさせてもらいましょう。

 

 人面だった顔はライオンに、コウモリの様な皮膜の翼はワシに、サソリの様な毒針の尾は蛇の頭部へと変わっています。

 

 人面のライオンとか不気味過ぎますよね。

 

 あ、でも顔が人間からライオンに変わっても人語は話せる様になるそうです。

 

 それだけ知能が高いと言う事なんでしょうが、これは人によってはデメリットではないでしょうか。

 

 想像してみてください。

 

 可愛がっていたペットにある日突然「ウザい」「撫でるの下手くそ」「話しかけないでください。あなたの事が嫌いです」と言われてしまうシーンを……。

 

 私みたいについついちょっかいをかけてしまうタイプのアナタ。

 

 他人事ではないですよ。

 

 さておき、三つの幻獣について説明したわけですが、地球の伝承との齟齬は見られますが、『ゼロの使い魔』の知識との齟齬は見られませんでした。

 

 これには正直一安心です。

 

 今の所、この世界が『ゼロの使い魔』の世界だと仮定していますが、いつどこで思わぬ齟齬が発生するか分かりません。

 

 油断はできませんが、私みたいなモブキャラはなるようにしかならないのもまた事実なので、まぁつまりは平常運転ですね。

 

 ぼちぼち行こうと思います。

 

 さて、教官の訓練ですが軍隊上がりの上にスパルタで実践的なものですから、かなりハードです。

 

 まずは準備運動がてら訓練場をランニング。

 

 何周とは決まっていないので、息があがり膝が笑っても

 

「甘ったれるな。ここは戦場だ。立ち止まったら死ぬぞ」

 

 と限界の先を要求してこられます。

 

 のっけから軽く拷問ですね、はい。

 

 水分補給と息を整えるだけの休憩を挟んでからコモンマジックに移りますが、ライトやロック、アンロックといった生活を便利にする魔法は自習任せとなっていて、敵の目や耳を探る『ディテクトマジック』、メイジには効きにくいですが一般兵である平民には絶大な威力を示す『念力』、遠距離攻撃の基本『マジックアロー』、近接戦の『ブレイド』、これら4つの魔法を集中的に鍛えられます。

 

 とは言っても習い始めてまだ半年、ドットメイジにもなっていない私の精神力なんてたかが知れているので、1時間もしないうちに魔法は打ち止めになってしまいます。

 

 しかしそれで休憩できるのかと言うとそうではなく、回復するまでは座学で街や馬車の移動中に襲撃された時の対処法や戦場での簡単な戦術などを学びます。

 

 はい、全く持って無駄がありません。

 

 そして最後は決まって、空を飛ぶ『フライ』の練習。

 

 フライは正確には風系統のドットスペルに該当しますが、壊滅的なレベルで適正がない限りドットに上がっていなくても発動だけなら出来ます。

 

 フライは発動中に他の魔法が使えないという欠点がありますが、逃げるという一点においてとても優秀な魔法です。

 

 高度を上げてしまえば平民だろうとオークだろうと怖くありませんし、しかも回避方向が360度あるのでメイジからの攻撃魔法も地上にいるより回避し易くなります。

 

 と言うわけで、生き残る事を最優先に考えている私にとってかなり優先度の高い魔法と言えるでしょう。

 

 ちなみに練習方法はひたすら教官の手抜きに抜いた攻撃魔法を避けまくるというもの。

 

 まだ早く飛べない私は撃墜されない様に必死で飛び回ります。

 

 正直5才児にこれはないだろうと思いますが、将来の死亡フラグを考えれば頑張るしかありません。

 

 作中だとメインキャラは死にませんが、モブキャラの私はどうなるか分かりませんからね。

 

 ちなみにマジックアローとブレイドは自分の属性の色が出るのですが、私は水属性を示す濃いブルーでした。

 

 お父様やジュリア姉様の様に土属性で錬金ざんまいも魅力的だったのですが、生き残る事を考えれば治癒に秀でた水属性は大歓迎です。

 

 回復要員なら戦場では後衛で守ってもらえますしね。

 

 ただ魔法の素質は遺伝するそうなので、土属性を得意とするお父様と万遍なく地水風の三属性が使えるお母様から生まれた私は水属性をメインに土か風の属性が使える可能性があると言えます。

 

 先に挙げたように土属性のスペルである錬金には多大な憧れがあるので、出来たら土属性の才能が開花して欲しいと思っていますが、こと戦闘において風属性の攻守に優れた利便性の高さはそれはそれで魅力的です。

 

 それに何と言っても風属性の適正が高ければフライでの逃げ足が速くなりますからね。

 

 逃げるのが前提かよって?

 

 当然ですけど何か?

 

 名誉?

 

 なんですかそれ、美味しいんですか?

 

 全ては命あっての物種ですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この半年で、アルテシウムの領地がどんな所か大雑把にですが分かりました。

 

 アルテシウム領はトリステイン北部の国境沿いにある領の一つで、森を切り開いて開拓した歴史を持ちます。

 

 一応ゲルマニアとの国境に面していると言えなくもないのですが、ここより北の地域、ハルケギニア北部は深い森に覆われていて当然ゲルマニア側には街や村もなく、注意するのはもっぱら森からやってくる亜人が主となっているようです。

 

 ぶっちゃけると田舎ですね。

 

 まぁその分治安も良く税も他と比べて低い方ですし、住みやすい所ではないでしょうか。

 

 さてさてそんなのどかでのんびりしたスローライフを満喫できるアルテシウム領の特産品はと言いますと、王宮や晩餐会などに重宝され、他国にも輸出されている高級ワインを始め、ブルーベリー、ラズベリー、クックベリーなどのベリー系ジャム、松脂から精製したロジンなんかが挙げられます。

 

 えっ? あぁ、いきなりロジンと言われても馴染みがない人には分かりませんよね。

 

 ロジンと言うのはですね、端的に言うと滑り止めです。

 

 船の甲板に塗ったり、バイオリンなんかの弦楽器の弓に塗ったり、ちょっと変わった所だと手紙の封印なんかにも使われています。

 

 まぁそんな感じで、田舎だからこその特産品で勝負しているアルテシウム領です。

 

 聞いた話ではお父様はアカデミーに勤めていた際、今はもうお亡くなりになってしまっているお爺様に研究者としての実力を買われて婿養子になったんだそうです。

 

 政務や商売についてはお母様が取り仕切っています。

 

 女性のネットワークを上手く使っているんだそうですよ。

 

 さすがお母様。

 

 さて、そんなアルテシウム領ですが、いきなり新しい事を始めるのはハードルが高いので、まずは既存のモノに手を加えて行くのがベターだと思います。

 

 松脂の方はもう一つ必要なものがあるので、まずはお酒ですね。

 

 あまり子供のうちに目立つ行動を取るのは控えた方がいいとは思いますが、しかし熟成が必要なのものもあるので出来る範囲で今年から少しずつ動いて行こうと思います。

 

 と言うわけで色々作戦を考えてみたのですが、ここは自分の外見を活かし子供らしくおねだりするのがいいだろうという結論に達しました。

 

 なので、さっそくお父様の研究室に突撃いたしましょう。

 

 カミルいっきまーーす。

 

「お父様、お話があるのですが、今、大丈夫ですか」

「カミルか。あぁ、大丈夫だぞ。どうした」

「はい、ワイン用の葡萄の収穫がそろそろだそうですね」

「そうだな。今年も出来が良くて安心している」

 

 それは私にしても良かったです。

 

 不作じゃ頼みにくいですもんね。

 

「実験がしたいので良かったらワインと搾りかすを分けていただけませんか」

「……実験、だと」

 

 実験大好きっ子の琴線に触れましたね。

 

 しめしめです。

 

 糸目が若干開いていますよ、お父様。

 

「はい、新しいお酒に挑戦してみたいのです」

「ほほう」

 

 顎に手をやり楽しそうな表情で、こちらに推し量る様な視線を向けてきます。

 

「で、できれば、お父様と一緒に出来たら嬉しいと思っているのですが……」

 

 はい、子供っぽさの演出も忘れません。

 

 と言うか、お父様。

 

 何ですかその鳩が豆鉄砲くらった様な顔は。

 

 親子の親睦を深めようとする子供に向ける顔ですか、それ。

 

 地味に傷つきますね。

 

「ふふ、そうかそうか、最近は研究ばかりでおまえに構ってやれてなかったな。よし、一緒にやるか」

「はいっ♪」

 

 よし、土メイジの協力者ゲットです。

 

 研究バカ(褒め言葉)なお父様ですが基本的には良い人なんですよね。

 

 良い父親かは別ですが。

 

「じゃあ、どういう実験をするか聞かせてもらおうか」

「えっとですね、この前教えてもらった蒸留器を使って、ワインからと搾りかすからをやってみようと思っています」

 

 この日のために事前に色々と聞いておいてあります。

 

「後、ワイナリーを見学させてもらった時に発酵の話をしてもらいましたが、ガスが発生している時に瓶詰をしてしまいシュワシュワ感が残るか、日数を色々変えて試してみようと思っています」

 

 私の説明を聞き終わると、お父様は先ほどよりも真剣な表情で私の話を吟味していらっしゃいます。

 

 ワインを蒸留したものはブランデー、搾りかすを発酵蒸留したものはマールまたはグラッパ、発酵中に瓶詰したものはシャンパンです。

 

 知識としては知っていますが、実際にやるには試行錯誤が必要だろうと覚悟はしています。

 

「面白そうだな」

 

 おぉ、何か悪い顔になっていますけど、研究者っぽいです、お父様。

 

「では」

「あぁ、私も本気で取り組んでみよう」

「やたーーーー♪」

「ふふ、さすが私の息子。おまえも将来は立派な研究者だな」

「はい♪ お父様の息子ですから」

 

 嬉しくて自然と笑顔になっている自分に気が付きます。

 

 あぁ、私はこの人を父親と思って愛しているんだなと実感が広がります。

 

 うん、悪くないですね。

 




地理的なものはねつ造設定です。
アルテシウム領の北側には広大な森が広がっています。
このまま何事もなければ快適なスローライフなんですけどねw

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