二度目の人生は長生きしたいな   作:もけ

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10歳、古き血の獣を拾いました

 水の精霊様であるミツハさんと一緒にいるおかげで、晴れて水のラインメイジに成長したカミル・ド・アルテシウム、10歳です。

 

 9歳の報告が飛んでいる事は気にしてはいけません。

 

 特に報告する内容がなかったわけではないですが、まとめた方が都合が良かったのです。

 

 さておき、それは後に取っておくとして話を進めましょう。

 

 ラインメイジにランクアップした事とミツハさんとの因果関係ですが、答えは水辺にありました。

 

 ミツハさんを自領に連れて帰って以降、午前中の魔法の訓練を減らし、加えて虚無の曜日は一日中、北の森にある湖でミツハさんと遊びがてら魔法の訓練をしていたのですが、水辺で魔法を使うと、なんと精神力の消費が少なくて済んだり、魔法の操作が楽だったり、威力が上がったりしているではないですか。

 

 『水の魔法を使うなら水のある所で』

 

 これは盲点でした。

 

 コロンブスの卵とはまさにこの事です。

 

 アカデミーもビックリの大発見ですね。

 

 あ、その可哀想な子を見るような目、地味に傷付くのでやめてください。

 

 コロンブス云々は冗談ですが、これが割と本気で気付かないものなんですよ。

 

 ヘタに杖から何でも出ちゃうものですからそういう発想に行かないんですね、きっと。

 

 水メイジの一度は言ってみたい決め台詞「雨の日の水メイジに勝てると思ってるのか」をマルッと忘れていたのは失態でした。

 

 いつか言ってみせます。

 

 後はそうですね、エネルギーや運動、分子や結合の状態などの物理知識を意識すると良いみたいですよ。

 

 メイジの使う系統魔法は「人の意思によって世の理を変える魔法」と言われていますが、変えなくていいのならそれは「世の理に沿って行使される力」先住魔法に近付く事を意味するのでは……と勝手に解釈しています。

 

 現代知識様々ですね。

 

 え、具体例がないと分かりにくいですか?

 

 そうですね、水分子の運動エネルギーを操作して氷とか水蒸気に状態変化させられます。

 

 後は揮発性の高い事を利用して霧も出せますね。

 

 これは奥の手に使えるので要訓練です。

 

 まぁそんなわけで、水辺での訓練の効率が良い事が分かったのでこれからもどんどんミツハさんと訓練していこうと思います。

 

 水辺にいるとミツハさんも喜びますしね。

 

 あ、そうそう、忘れる所でした。

 

 ラインメイジにステップアップした事に伴って、晴れて鬼軍曹ことグレゴワール教官から卒業となりました。

 

 4年間、本当にありがとうございました。

 

 これからも治安維持部隊の副官としてお仕事頑張ってください。

 

 そのうち亜人討伐でお世話になると思いますが、その際はどうぞお手柔らかに。

 

 って、はぁ~~、そろそろ覚悟しないといけませんよね。

 

 気が重いですが、責任から逃れるわけにもいきませんし、そのためにも訓練は欠かせません。

 

 と言うわけで、さっそくやって来ました定番の湖です。

 

 今日は虚無の曜日ですが、自主練に励もうと湖面に近付き呼びかけます。

 

「ミツハさ~~ん」

「……………………」

 

 あれ、いつもならすぐに出てきてくれるのですが、おかしいですね。

 

「ミツハさん、いないんですかミツハさん」

 

 何度か呼びかけると、漸くですが申し訳程度に頭から口辺りだけ出てきてくれました。

 

「どうしたんですか、ミツハさん。体調でも悪いんですか」

 

 そんな事が精霊様にあるかは分かりませんが、いつもと違う様子に心配になります。

 

「……………………」

 

 返事がない、ただの屍のようだ。

 

 なんてネタ言ってる場合じゃありません。

 

 しゃがみ込み、ちょっとだけ出てる頭に手を置き、撫でてあげながら気持ちを伝えます。

 

「何かあるなら言ってください。私達は友達なんですから」

 

 すると、ミツハさんの頭部が少しですが波打ち、それに呼応するかのように湖のあちこちで水しぶきが上がります。

 

 良かった、喜んでくれているようですね。

 

 水しぶきが落ち着くといつもの全身サイズになったミツハさんが事情を説明しててくれました。

 

「無礼な単なる者がいてな。少し気分を害していたのだ。カミルよ、すまぬ」

「それって、もしかして交渉役のモンモランシ伯の事ですか」

 

 思い当たるのはそれくらいしかないですけど。

 

「そうだ」

 

 やっぱりですか。

 

「『歩くな、床が濡れる』でしたっけ」

 

 驚きの表現なのか、ミツハさんが一度大きく波打ちます。

 

「それがカミルの知る未来の一つなのだな」

「えぇ、そうです。って、ごめんなさい。事前に言っておいてあげれば良かったですね」

「いや、大丈夫だ。我にはカミルがいればよい」

「くす、ありがとうございます。そう言ってもらえると友達冥利に尽きますね」

 

 本当にミツハさんは可愛いです。

 

 透明ですがハッキリと女性と分かる外見と幼さの残る声、古めかしくて尊大な口調も実直で天然な言動とのギャップでむしろ萌えますし、精霊様だと分かっていてもたまにグッとくる事があります。

 

 これがオジサンぽかったらと思うと百万倍くらいの差でミツハさんの勝利ですね。

 

 そういえばですが、他の精霊様ってどんな方たちなんでしょう。

 

 私が持っている精霊様のイメージはと言うと某人気RPGゲームのテイルズなんちゃらがベースになっているのですが、どう見てもミツハさんはお姉さんキャラには無理がありますし、やっぱり違うんですかね。

 

 オヤジなイフリートにお子様なシルフはまだしもノームは生き物として定義しにくいですし。

 

 コチラの魔法のイメージは、火は破壊、水は治癒と精神操作、風は飛行と分身、土は物質の変化と言われています。

 

 そのイメージから行くと、火の精霊様は願望ですけどやっぱりキュルケ嬢みたいなグラマラスなお姉さんを期待しちゃいます。

 

 手を出したら大火傷みたいな。

 

 土の精霊様は職人って感じの無口でイカツい感じ。

 

 風の精霊様は……性格の悪い紳士?

 

 黒執事のセバスチャンとかどうでしょう。

 

 あ、やっぱり今のナシで。

 

 もしそうだったら怖過ぎますから違うのにしておきましょう。

 

 えっと~~そうですね、昼寝大好き伝勇伝のライナ・リュートとか……って結局キレたら怖いか。

 

 まぁ原作でも出てきてませんし、きっと会う事もないでしょう。

 

 ……そこはかとなくフラグっぽいですね。

 

「カミル?」

「あぁ、ごめんなさい。何でもないですよ。ちょっと考え事です」

「そうか」

「訓練、始めましょうか」

「うむ」

 

 ミツハさんに真相を聞いてもいいんですけど、何となく知らない方がいい気がするのでここはスルーの方向で行きたいと思います。

 

「じゃあミツハさん、いつものやつお願いします」

「分かった」

 

 そう言うと湖面から発生した霧が辺りに広がっていきます。

 

 これはミツハさんなりのディテクトマジックです。

 

 一応注釈しておきますが、ディテクトマジックと言うのは魔力や生物を探知したり構造や流れを調べる魔法のことです。

 

 ミツハさんの存在をなるべく秘密にしておきたいと言う意味もありますが、基本的には凶暴な亜人や肉食動物が近くにいないか調べるためです。

 

 安全確認は大事ですからね。

 

 部屋くらいの範囲なら私にも出来るのですが、屋外で、しかも広範囲となるとミツハさんに頼るしかなくなってしまいます。

 

 さすが精霊様です。

 

「カミル」

「はい?」

「少し離れた所に傷付いた古き血の獣がおるぞ」

「古き血の獣……危ないやつですか」

「いや、人は襲わない」

「怪我してるんですか」

「そうだ」

 

 う~~ん、ちょっと迷いますが、今は余裕もありますし確認だけでもしておきましょう。

 

「どこら辺ですか」

「あの茂みの奥じゃ」

 

 人を襲わないとは言っても手負いの獣は何するか分かりませんから警戒はしたまま慎重に探します。

 

「あそこじゃ」

 

 太い木の根元、うろの様なくぼみに何か……。

 

「あれって、イタチ?」

 

 近付いてよく見ると、50サント(cm)くらいのイタチが白い毛並みを所々血で赤く染めて倒れています。

 

 イタチは意識があるらしく、近付いてきた私から逃げようとしますが体に力が入らないようで身をよじるのが精一杯といった感じです。

 

 これなら危険はなさそうですね。

 

 治療してあげましょう。

 

「怖がらなくて大丈夫ですよ。今、治療してあげますからね」

 

 言葉が通じるとは思っていませんが、少しでも気持ちが通じる事を期待して声をかけながら傷口に杖をかざします。

 

「ヒーリング」

 

 治癒魔法をかけますが、ラインメイジに上がったばかりの私の魔法では、どうやら止血するのが精一杯で傷口を完全に修復するには至りません。

 

 自分の力不足にネガティブになりそうになるのを首を振って振り払い、顔を上げます。

 

「ミツハさん、傷口に一滴かけてあげてください」

「分かった。古き血の獣よ、カミルに感謝するがいい」

 

 水の精霊様の宿った水は『水の精霊の涙』といって高い治癒力をもつ秘薬になります。

 

 それを媒介にしてヒーリングの効果を高め、再度魔法をかけます。

 

 今度は上手くいき、傷口が塞がったことにホッと一息。

 

 しかし忘れてはならないのが、治癒魔法の欠点は怪我が治っても失った血と体力が戻るわけではないところ。

 

 もしこのままイタチをここに放置していったら、逃げられず他の動物に食べられてしまうでしょう。

 

 治療した手前、それは避けたい。

 

 ということで、今日の訓練は諦め、最後まで面倒を見ようと屋敷に連れて帰る事にしました。

 

 屋敷の敷地に入ると洗濯物を干していたポーラが私に気付き声をかけてきます。

 

「お帰りなさいませ、カミル様。いつもよりお早いお帰りですね」

「えぇ、湖に行ったらこの子を拾ってしまいまして」

「イタチ……ですか? 食べるのですか」

「食べませんよっ!? 怪我をしてたので治療したんです」

 

 なんですか、この子の中では私は食いしん坊キャラなんですか。

 

「危なくないですよね」

「それは大丈夫だと思います。それに体力が回復したら元の場所に放すつもりですから」

 

 ミツハさんの言っていた古き血の獣というのが気になりますが、野生動物はなるべく野生にいるべきですからね。

 

「それでは血を拭くのにお湯とタオル、寝床用に籠にタオルを敷いて、餌は……乾燥肉とミルクでいいかしら。すぐに準備しますね」

「はい、お願いします」

 

 パタパタと小走りで屋敷に向かうポーラの後をゆっくり付いて行きます。

 

 治療が終わってから私に敵意がないと判断したのか、それとも体力の限界だったのか、腕の中で大人しく眠っている白いイタチ。

 

 原作のカトレアさんもこうやって動物の友達を増やしていったのかなと思うと少し愉快な気持ちになります。

 

 その後はお風呂場で血を拭き取ってあげてから、タオルを敷き詰めた籠に入れて私の部屋に運び、近くに餌を用意しておきます。

 

 最初、私の部屋に運ぶのは危険があるのではと反対されましたけど、小型の動物ですし大丈夫だと押し切りました。

 

 でも本当の理由はミツハさんに監視をしてもらうためだったりします。

 

 精霊は睡眠を必要としませんから、監視役にはうってつけと言うわけです。

 

 それにミツハさんは私よりずっと強いですからね。

 

 監視だけじゃなく護衛役としても凄く優秀です。

 

 まぁ人は襲わないと言っていましたから、その点は心配はしていないのですが念のために。

 

 何事も安全第一です。

 

 その後は部屋で趣味に勤しみ、何事もなく就寝。

 

 呼吸は安定していて寝苦しそうにもしていませんでしたから過度な心配はしないで済みましたけど、結局イタチはその日目を覚ます事はありませんでした。

 




イタチはどうなってしまうのか。
気になりますが、長くなってしまうので話を分けました。
次はイタチと定番の内政話を入れて、事件はその次ですね。

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