SPECIALな冒険記   作:冴龍

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不吉な鉱物

「アキラ君…その……大丈夫かの?」

「大丈夫です」

 

 目元に隈の様なものを浮かべながら座り込んでいるアキラの様子に、ヒラタ博士は心配するが、彼はハッキリと答える。

 

 今彼らは、紫色の濃霧が広がっている森を見渡せる位置にある丘の上に作られた簡易拠点で次の準備を進めていたが、ヒラタ博士の懸念通りアキラは一睡もしていなかった。

 彼としては一旦仮眠をとるなりして休息を取らせようとするが、止める間もなくアキラは立ち上がった。

 この数時間休まずにいたのは、三年間この世界で過ごしてきてようやく求めていた謎を大きく解き明かすチャンスだからだ。

 自分の出る幕では無かろうと納得するか倒れるまで彼は動くつもりだった。

 

 少し離れたところに立っているカイリューの横にアキラは並ぶと、まだ霧が漂っている森に目を向ける。

 風に吹かれたからなのか知らないが、初めて確認した数時間前よりも紫色の霧は薄まっており、濃霧に隠れていた森の中や荒野が少しだけ見える様になっていた。

 

 ここまで薄まってしまうと離れていることを考慮してもエネルギー量が減っているのか、探知機もあんまり反応しなくなっていた。

 しかし、霧が薄くなったお陰でわかったこともあった。

 止めることは無理と察したのか、ヒラタ博士もアキラの隣に立ち、双眼鏡を使ってさっきまで紫色の濃霧によってすっぽり隠れていた森を観察する。

 

「それにしても()()は何じゃろう」

 

 彼が双眼鏡で覗いていた先、そこには明らかに奇妙な光景が見えていた。

 荒野や森の中、紫色の濃霧が包み込んでいた付近の至る所から、大小様々な先の尖った結晶みたいな鉱物らしきものが地面から突き出す様に出ていたのだ。

 形状も不規則で、先端が尖った柱みたいな一本だけのもあれば、サンドパンの背中みたいに一箇所に何個も突き出ていたりと多種多様だ。

 紫色の濃霧が発生するだけでも、十分に不気味且つ異常な現象なのに、初めて見る光景に長年研究してきたヒラタ博士は驚きを隠せなかった。

 

「進化の石の元? って可能性は無いですよね?」

「確かに進化の石は通常は地下洞窟などで採掘されるからそう考えられなくはないが、見た目と形状は大きく異なっておる」

 

 初めて見るものだけあって、アキラ達は慎重になっていた。

 濃霧が覆っていた場所に以前は無かった筈の見たことが無い無数の鉱物。進化の石である可能性をアキラは挙げていたが、良く見ると色々と大きく異なっている。

 大体、進化の石はあんな大きな結晶から削り取って手に入れるものでは無い。

 

 詳しい形成過程は不明だが、進化の石は自然界に溢れているエネルギーと地下の圧力などの要因が重なって形成されるとされている。

 ”つきのいし”も単純に隕石の欠片とかではなく、そういう理屈で月光のエネルギーを浴び続けたことなどが関係している。

 何故あんな結晶みたいな鉱物があるのか。謎ではあるが、遠目で観察を続けてもわかるものでは無い。

 

「ヒラタ博士、俺は…何時でもいけます」

「――すまんが今回も頼むぞアキラ君」

 

 ポケモン達の様子と自らの装備、そして周りにいる関係者の準備が出来たことを確認した上でアキラは博士に進言をする。

 これから薄まったとはいえ、まだ紫色の霧が漂っている地点に直接足を踏み入れるのだ。幾ら警戒しても足りないが、危険を承知で前に進まなければ得られるものは無い。

 ちなみに霧に有毒成分が含まれていないのは確認済みだ。

 

 しかし、神隠しの様に人が消えた例が少なからずあるので、アキラを含めた霧がある場所へ向かう面々は体の一部に命綱ならぬロープみたいなのを体に巻き付ける。

 他にも小まめに連絡を取り合い、異常が有ったら霧が漂っていない付近で待機している仲間が引っ張るなど急繕いではあるが、対策も考えていた。

 そして自衛の為に、カイリューやブーバー、ヤドキングを最初から出した状態で連れて行く。勿論、状況次第では他の手持ちも出すつもりだ。

 

「よし。行こう」

 

 ヒラタ博士が号令を掛けると、特に戦闘力に優れたアキラとその手持ち達を先頭に数名の集団は、まだ紫色の霧が漂う場所へと足を踏み入れた。

 既に霧はかなり薄まっており、そこまで視界は悪くない。空を見上げても、曇り空が見えるまでに晴れていた。

 進んでいく内に早速一行は、双眼鏡越しに見えていた地面から突き出す様に出ている結晶らしき鉱物に近付いて行く。

 

 初めて見る物体なのも相俟って、触れても大丈夫なのかをアキラ以外の面々は機材を使って確認を始める。

 アキラの方も、博士達が専念出来る様に手持ちと一緒に周囲に気を配って護衛の役目に徹していたが、それでもこの結晶の様な鉱物が気になっていた。

 実は霧が晴れていく以外にも、もう一つ変化があるのだ。

 

「さっきまで光っていた筈なんだけどな。何でだ?」

 

 ガラスの様に透き通った透明な状態になっている地面から突き出た尖った鉱物を見ながら、アキラは数時間前の記憶を思い起こす。

 紫色の濃霧が薄まる前でも、その色がわかるくらい突き出ている鉱物は光っていたのだ。それも霧と同じ紫色では無く、鉱物によっては光る色は多種多様だった。

 記憶では今近くにある鉱物は黄色い光を発していた筈なのだが、今では光と色を失い、ガラスの様に透き通った鉱物になっていた。

 

「今回は何もかも初の事例ばかりじゃ。皆もどんな些細なことでも良い。気付いたことがあったら言うのじゃ」

 

 ヒラタ博士の言う通り、今回は何もかも初の事例ばかりだ。

 今までは何もかもが終わった後の痕跡を調べる程度だったが、今回は現在進行形で事態は進行しているのだ。

 人員や規模の問題であまり調べられなかったこともあるが、初めて後手に回らず紫色の濃霧と発生している付近でのエネルギーの確認など、多くの仮説が証明されつつあった。

 鉱物を調べていた面々も安全だと判断したのか、一部を慎重に砕いたりしてサンプルとして回収を始めていた。

 

 その時だった。

 周囲を警戒していたアキラは、直感的に森の中から自分達に近付く敵意とも呼べるものを感じ取った。

 しかも拓けた場所でも無いのに森の中から急速に接近しつつあった。

 

「敵が来るぞ!」

 

 アキラが声を張り上げた直後、森の中から影が飛び出した。

 すぐに彼らは構えると同時にその正体を目にする。長い嘴に三つの頭――ドードリオだ。

 

 脚力に優れたドードリオなら移動が速いのも納得だ。戦う相手を認識したアキラのポケモン達はすぐに動く。

 ドードリオは三つの頭を使って三方向から仕掛けるアキラのポケモン達を声を上げて威嚇するが、そんなものでは彼らは止まらなかった。

 目を光らせたヤドキングが念の力でドードリオの体の自由を奪うと、カイリューとブーバーが隙だらけの無防備な体に強烈なパンチを同時に叩き込み、一撃で仕留めた。

 

「た、助かった」

「流石エリカさんが褒めるだけあるよ」

 

 身に迫った危機をすぐさま対処してくれたことに、ヒラタ博士と一緒に調べていた面々は安堵と感心が半々に混ざった感想を口にする。

 しかし、ドードリオを退けても尚、アキラとポケモン達は警戒を続けていた。

 数秒にも満たない攻防だったが、今の戦いでの雄叫びや音が影響しているのか、霧に包まれた森の中などの周辺が少し騒がしく感じられるからだ。

 

「…気が立っているのか?」

 

 倒れているドードリオに目をやり、アキラは呟く。

 ヒラタ博士によると、紫色の濃霧が発生したとされる付近のポケモンは、一年以上前の巨大サイドンの様に総じて枷が外れたと言えば良いのか狂ったと言えば良いのか、とにかく凶暴になると聞いている。

 まだ詳しい因果関係は不明だが、自分達が追い掛けているエネルギーが何かしらの影響を与えている可能性がある。長時間カイリュー達をこの環境に滞在させるのは悪影響かと思ったが、彼らは少しそわそわしているだけだった。

 

「何か異変を感じたらすぐにボールに戻すからな」

 

 アキラの言葉に出ている三匹は神妙な表情で頷く。

 この様子なら大丈夫と思いたいが、万が一エネルギーの影響か何かで暴れ始めたら大変だ。

 カイリューはまだ”げきりん”を”ものまね”した状態だが、どこか様子がおかしくなったら迷わずボールに戻すつもりだ。

 それらを頭に入れた上で改めてアキラは周囲を見渡すが、少し離れた場所で光を放っている鉱物があることに気付く。

 

「ヒラタ博士、どうやら少し離れた場所に光っている鉱物があるみたいです」

「本当か」

 

 アキラの報告にガラスの様に透き通っている鉱物を調べていたヒラタ博士は、すぐに他のメンバーと荷物を整えて、アキラに先導される形で向かう。

 彼が見付けたのは、他の鉱物が透明になっているにも関わらず、まだ色を伴って光っていたのだ。色は若干緑っぽい青色だが、気の所為か周りの霧も濃かった。

 

「外見やサイズが大きいこともありますが、どうやら色を伴って光っている鉱物からは例のエネルギーが強い反応で確認出来ますね」

「う~む」

 

 如何にも若手の研究員らしき青年が別の機材を持ちながら、ヒラタ博士に語り掛ける。

 さっきまで彼らが調べていた鉱物にもエネルギーが含まれているか調査はしたが、不思議な事に反応が殆ど無かったのだ。

 反応も強いことから、光っている鉱物は光っていない鉱物とは異なり、まだエネルギーを帯びているのだろう。

 或いは――

 

「ちょっと考えにくいかもしれませんが、もしかしたらこの鉱物が俺達が追い掛けているエネルギーを発しているのかもしれませんね」

「…むむ」

 

 アキラの発言に、長年研究を進めてきたヒラタ博士は唸る。

 紫色の濃霧が発生している周辺で確認されるエネルギーは、進化の石に近いエネルギーだけでなく、宇宙からやって来た隕石からしか検出されないエネルギーでもあるのだ。

 普通に考えれば、紫色の濃霧が発生した場所には宇宙から飛来した隕石があってもおかしくないが、あるのは謎の結晶の様な鉱物。

 アキラの言う通りかはわからないが、少なくともこの鉱物の様な結晶が謎を解く鍵を握っているのは確実だ。

 

 紫色の濃霧を初めて目にしたかと思いきや今度は謎の鉱物。

 そしてその鉱物にもまた多くの謎がある。

 謎を一つ解き明かしたとしても、また新たに謎が浮かび上がる。

 しかし、研究とはそういうものだ。

 

 謎を解き明かすには、少しでもデータを集める形で必要なヒントを得なければならない。

 まずは他とは異なり光を放っている鉱物を調べるべく、博士達が今自分達に出来ることに取り掛かる。そしてアキラも、自分に出来ることとして手持ちと共に周囲を警戒して彼らの守りに専念する。

 

 だけど、やっぱり初めて見る謎の鉱物には興味があった。

 地面から突き出ている結晶の様な鉱物は多いが、色と輝きを保っているのは恐らくこれだけだ。気の所為か、他の鉱物と比べても一回り大きい印象も受ける。

 周囲から気配を感じないことも相俟って、アキラは光っている鉱物を調べ始めた博士達を横目に、周辺にも目を向けていたが有る事に気付いた。

 

 それは近くの地面に足跡や踏み固められた様な跡が残っていることだ。

 足跡と言っても何の足跡かはわからなかったが、確実なのはこの付近を何かが通ったと言う事だ。

 この結晶だらけのこの場所をポケモンの群れでも進んだのか。そもそも今回の現象が起きる前なのか起こった後なのか、それによって解釈は大きく異なる。

 一体何が踏み固めたのか。アキラは気になったが、一体何なのか考える前に空気が変わったのを感じ取った。

 

「……またかよ」

 

 今度は留め具を外し、アキラは背中に背負っていたロケットランチャーを抜くと手に持つ。

 撃ち出せるのはモンスターボールだけだが、それでも威圧感は大きく。最近は片手で軽々と持つことも出来るので扱う頻度が増えつつあった。

 カイリュー達もアキラが警戒している方角に注意を向けると、またポケモンが姿を見せた。

 

 今度出て来たのは、ねずみポケモンのラッタ数匹だ。こちらを警戒しているのか、さっきのドードリオみたいにいきなりは攻めてこない。

 警戒しているとなるとある程度理性は保っていることはわかるが、一体何でこうもポケモン達の気が立っているのか。

 

「アキラ君、この鉱物は重要じゃ。可能な限りのデータ採取の為にも守って欲しい」

「勿論です」

 

 ヒラタ博士の頼みに、アキラは当然とばかりに頷く。

 今回ばかりは後で逃がす前提でモンスターボールに収めることを考えて、ロケットランチャーにボールを装填する。

 手持ち達が倒してくれるのは信じているが、そろそろ自分もただ指示や作戦を伝える以外にも彼らの力になりたかったのだ。

 退く気が彼らには無いと悟ったのか、ラッタ達は前歯を剥き出しにして一斉に襲い掛かる。

 

 アキラは素早く構えるとトリガーを引き掛けたが、その前に出ていた三匹が各々大技を繰り出して、あっという間にラッタ達を退ける。

 相手が野生のポケモンなのもあるが、一撃で複数を仕留めるのは中々出来ることでは無い。

 レッドやワタルの様な強敵が相手だと一進一退だが、道中のトレーナーとの戦いでは連戦連勝を重ねているのだから、彼らはもう並みのポケモンでは太刀打ちが出来ないまでに力を付けている。

 

 今度レッドのポケモン図鑑を借りて今の彼らのレベルをもう一度確認しようと彼が思った時、今度はスピアーにバタフリーがお互い先を争う様に戦いながら飛んで来た。

 

「どうなってんだ」

 

 何でもこうもホイホイ野生のポケモンが現れるのか。

 疑問に思いながらもアキラは、手持ちが攻撃する前にバタフリーに狙いを定めてモンスターボールを撃ち出す。

 爆音と共にかなり速さでボールが飛んでいき、バタフリーにボールが当たった瞬間、ちょうちょポケモンはモンスターボールの中に収まる。

 相手がいなくなったことにスピアーは戸惑いを露わにしたが、ブーバーが投げた”ふといホネ”が直撃して、どくばちポケモンは墜落する。

 少しは彼らの負担を減らすことは出来たが、アキラの表情は微妙だった。

 

「……ちょっと扱いにくく感じて来たな」

 

 バタフリーを収めたボールを拾った後、手に持ったロケットランチャーを見つめながらアキラはぼやく。

 何の前触れも無く急に身体能力が向上したことで、アキラはロケットランチャーを片手でも軽々と持てるようになった。しかし、トリガーや構造の関係で、撃つ場合は毎回肩に掛けて構えないといけないのが焦れたかった。

 

 昔はそうでもしないと反動で大変なことになるのだが、最近は殆ど気にならなかったのも要因にある。

 だが片手で扱える様にするには、大幅な改造が必要になる、モンスターボールを撃ち出す為だけに、そんな手間を掛ける必要があるのか。

 

 最初は手持ちが変に弄らない様に手元に置いていたが、すっかり愛用する様になった道具をどうするべきか。

 取り敢えず今はロケットランチャー改造計画について頭の片隅に置き、アキラはもう一つ別のことに考えを巡らせる。

 

 それはさっきから戦うポケモン達が、軒並み最終進化形態ばかりなことだ。

 進化していない力不足のポケモンが強いポケモンを避けていると見ても良いが、この付近に来てから一匹も最終進化形態以外のポケモンを見掛けないので、どうしても気になる。

 

 そんなことを考えていたら、唐突に吹いた強風が森の木々を激しく揺らし、薄くなってきた紫色の霧と空を切り裂く様に何かが飛来した。

 

「何だ!?」

「オニドリルだ!」

 

 アキラだけでなく、ヒラタ博士と一緒にデータ採取に専念していた面々もすぐに気付く。

 上を見上げると長くて鋭い嘴を有し、大きな翼を広げたポケモン――くちばしポケモンのオニドリルが飛んでいた。すぐにアキラは、退けるべくオニドリルの基本的な能力などの情報を頭に浮かべる。

 

「いくぞ!」

 

 不意を突かれたが、すぐにアキラ達は動く。

 飛来したオニドリルは、光る鉱物の周辺にいる博士達にいきなり襲い掛かったが、その前にヤドキングがオニドリルを念の力で地面に叩き落とした。

 合わせてカイリュー達が突撃し、アキラもロケットランチャーを構えて撃ち出す準備をする。

 しかし、起き上がったオニドリルは大きな翼を使って転がっていた無数の小石を打ち飛ばしてきた。

 構えていたアキラは咄嗟に体を丸めて、ロケットランチャーを盾に無数の小石から身を守るが、カイリューとブーバーは全く物ともしないか全て避け切った。

 

「リュット”10まんボルト”! バーット”かみなりパンチ”!」

 

 捕獲から倒す方に切り替えたアキラの方針に従い、ドラゴンポケモンとひふきポケモンはそれぞれ強烈な電撃と雷を纏った拳をオニドリルに叩き込んだ。

 相性の悪いタイプでの同時攻撃を受けたオニドリルだが、それなりに強い個体なのか、フラつきながらもまだ意識を保っていた。

 

「”こうそくいどう”」

 

 逃走を目論んでいるのか、オニドリルが大きな両翼を広げる動作が見えたアキラが告げると、カイリューは一瞬ながら急加速してオニドリルの懐に飛び込んで殴り飛ばした。

 

「ヒラタ博士、急かすようですがなるべく早く最低限得たい情報を集めて下さい」

 

 ロケットランチャーにモンスターボールを入れ直して、アキラはヒラタ博士率いる調査メンバーに伝える。

 あっという間に倒しているが、オニドリルは気性が荒いだけでなく高い攻撃力の持ち主である為、一般的なトレーナーは下手に刺激しない様に気を付けるべきポケモンだ。

 さっきのドードリオもそうだが、今は簡単に対処出来ているものの、こうも最終進化形態との連戦が続くと少々面倒だ。

 先程みたいな上空からの襲撃にも対応するには、三匹だけでは難しいとアキラは判断したのか、追加で手持ちを投入しようとモンスターボールを手にした。

 

「……あれ?」

 

 ところが、開閉スイッチを押してもモンスターボールが開かないのに、アキラは首を傾げる。

 ここに来る時やさっきバタフリーに撃ち込んだ時は特に問題が無かった筈だ。何回も押している内に、ようやくモンスターボールは開いて中からエレブーが出て来る。

 続けてサンドパンやゲンガーも出すが、その際も不調なのかモンスターボールが開くのに時間が掛かった。

 

「…あまり長居する環境じゃないと思っていたけど、本当にヤバそうだ」

 

 ひょっとしたら周囲を覆っている紫色の濃霧、或いは鉱物から発しているエネルギーの影響でモンスターボールの機能に障害が生じているのではないか。

 ヒラタ博士達が扱っている機材にそういう不具合は見られていないが、機械に悪影響を与えるとなるとちゃんとした研究データが得られるのか。

 そんな懸念がアキラの頭に浮かび上がった時だった。

 

 カイリューが何かに気付いたのか、まだ霧で視界の悪い上空に向けて突如”はかいこうせん”を放ったのだ。

 選択した技の内容と威力を含めて容赦無い攻撃だったのでアキラはビックリしたが、もっと驚くことが起きた。

 攻撃が命中した音が上空に轟くどころか、何故かたった今カイリューが放った”はかいこうせん”が、アキラ達に戻って来る様に飛んで来たのだ。

 

「!?」

 

 咄嗟にアキラは跳ぶ形で避けるが、全く予期していなかったことも重なり、他の手持ち共々爆風で吹き飛ばされる。

 何故カイリューの”はかいこうせん”が戻って来たのかさっぱりわからなかったが、この場所に足を踏み入れてから最も巨大な影が空から現れた。

 

「ピジョット…」

 

 特徴的な鶏冠の様な頭部の羽を長く伸ばしたとりポケモン――ピジョット。

 グリーンを初めとした腕利きのトレーナー達が、手持ちにしていることが多い実力が保証されているポケモンだ。

 飛んで来たピジョットは、先程のオニドリルの様に低空飛行による衝撃波と暴風を起こして鉱物の周囲にいた人達を追い払うと、彼らが調べていた鉱物の前に降り立つ。

 

 最初は偶然かと思っていたが、ピジョットの様子を見てアキラは確信した。

 あの鉱物には、ポケモン――それも最終進化形態を引き寄せる何かがある。だから、最終進化形態であるカイリューやヤドキングがソワソワしていたのだ。

 紫色の濃霧とあの鉱物が発しているエネルギーは同一ではあるが、後者の方が断然反応が強い。

 一体何故なのかと考えるが、突然ピジョットは鉱物を嘴で激しく突き始めた。

 

「奴を止めるんだ!!!」

 

 何が目的なのか知らないが、どう見ても壊そうとしているピジョットの姿を見てアキラは切羽詰まった声を上げた。

 折角の手掛かりをこのまま壊させる訳にはいかない。現に少しずつ砕けているのか、攻撃を受ける度に鉱物は明滅する様に強い光を放ちながら、破片や粉が周囲へと舞っていく。

 

 起き上がったブーバーは”ふといホネ”を投擲する”ホネブーメラン”に近い技を繰り出すが、遮る様にエネルギーの壁がピジョットとの間に発生した。

 その壁に”ふといホネ”が当たったら、そのまま巻き戻す様に”ふといホネ”はブーバーへと飛んでいき、ブーバーは自らが仕掛けた攻撃から身を守る羽目になった。

 

「”オウムがえし”か!」

 

 不可解な現象ではあったが、見覚えのあるものだった為、すぐアキラは目星を付ける。

 ”オウムがえし”は相手が使ってきた技をそのまま使うという”ものまね”に近いが、実態は技に込められたあらゆるエネルギーなどをそっくりそのまま相手に跳ね返すカウンターに近い扱いの技だ。

 先程のカイリューの”はかいこうせん”は、”オウムがえし”によって跳ね返されたのだ。

 厄介な技ではあるが、上手くやれば対処することは十分に可能だ。

 

 ピジョットが使う技を理解した他の手持ちは一旦動きを止めるが、ヤドキングはすぐさま”サイコキネシス”での力でピジョットの動きを封じる。突然体が動けなくなってピジョットは抵抗するが、何も出来ない。

 勿論抑え付けているヤドキングも何も出来ないが、他に仲間がいれば後は煮るなり焼くなり好きな様に出来る。しかし、彼らの敵は目の前のとりポケモンだけでは無かった。

 

「ヤドット後ろ!」

 

 背後から突然、コブラポケモンのアーボックがヤドキングに襲い掛かって来たのだ。

 自らの進路上にヤドキングがいるのを邪魔と見たのか、或いは先に来たライバルと判断して排除に掛かったのだろう。

 理不尽に思えるが、道を塞いだり邪魔に感じられるだけでなく気紛れに攻撃したり戦いを挑んでくることは野生ではよくある事だ。

 

 ヤドキングの危機に、エレブーが”でんこうせっか”で体を割り込ませる。身を挺して守ろうとしている様に見えるが、今のエレブーは簡単に防御だけでは終わらせない。

 両者の間に入ると同時に身を翻す様に裏拳を叩き込んで、アーボックを殴り飛ばす。

 しかし、アーボックに気を取られてヤドキングの集中力が乱れたのか、ピジョットは念の拘束から解放される。そして自由になった直後、ピジョットは翼を大きく振って”ふきとばす”を起こしてきた。

 

 ピジョットが起こした強風は、周囲にいたヒラタ博士達関係者を吹き飛ばすどころか、アキラが連れているポケモンや彼自身の体さえも浮き上がってしまう程に強烈だった。

 幸い、腕を伸ばしたカイリューがしっかりと体を捕まえてくれたお陰でアキラは吹き飛ばされずに済んだが、それでもピジョットの周りには誰もいなくなった。

 粗方邪魔者を一掃したことを確認すると、ピジョットは鉱物への攻撃を再開する。

 

 アキラのポケモン達も、自分達は眼中に無いと言わんばかりのピジョットの振る舞いが一部には癪だったのか、取り囲む様に四方八方から迫る。

 しかし、ピジョットは構わず鉱物への攻撃を続け、嘴での突きだけでなく両翼を振り上げる様に持ち上げると振り下ろした勢いで鉱物に体当たりした。

 

 その直後だった。

 削れる様に砕けていたものの、まだまだ壊れないだろうと思われていた鉱物が、砕ける音と共にまるで何かが解放されたかの様な眩い強い光を放って跡形も無く消滅したのだ。

 あまりにも眩い光にアキラは目を逸らし、迫っていたポケモン達も足を止める。

 

 すぐに周囲に放たれていた光が収まるが、アキラは肌で感じる空気が冷たくなったのを感じた。

 悪寒の意味もあるが、それ以上に肌で感じるのは紛れもなく冷やされた様な冷たさなのが気になった。

 そして、急に周囲の空気が冷たくなった原因と思われるのがアキラの目の前にいた。

 

 さっきまで鉱物があった場所には、ピジョットが鉱物を砕いた時と同じ姿勢で固まっていたが、その体には藍白のオーラの様なものを身に纏っていたのだ。

 

「ピジョットのタイプが…」

 

 ピジョットの身に一体何が起こったのかをアキラが考える前に、ヒラタ博士が驚きの声を漏らす。

 彼が今手に持っている機材には、追い掛けているエネルギーを探知するだけでなく、ポケモンが有するタイプを判定する機能も搭載されている。

 その機材には、さっきまでピジョットのタイプはノーマル・ひこうの二つが表示されていたが、今では()()()・ひこうの二タイプに表示が変わっていたのだ。




アキラ、新たな謎に直面するが、再び戦いに挑む。

長い間連載していると微妙に設定や解釈が変化していったりしますが、既に出している設定は変えない様に気を付けています。
力を付けたと言った理由で、一部の手持ちの戦い方など色々なのが変わってきているので、そろそろアキラもポケスペらしく新章に向けて装備面などで変化をさせたいです。

次回、事態は更に面倒なことになります。
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