SPECIALな冒険記   作:冴龍

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戦う許可

「成程、このジョウト地方でか」

 

 タンバジムの横に併設されている自宅の一室で、シジマは手にした手紙の内容を把握したのか腕を組み、向かい合う形で目の前で正座しているアキラが今回持ってきた話について考える。

 

「ナツメの予知能力はかなり精度が高いです。曖昧な部分はありますが、外れたことはほぼ無いと言っても良いです」

 

 考え込むシジマに、アキラはこれ以上無く真剣な表情で伝える。

 レッドと話し合った翌日にシロガネ山から下山した彼は、そのまま真っ直ぐタマムシシティへと足を運んで大学での講義を終えたばかりのエリカと保護者であるヒラタ博士を捕まえて、ナツメから聞いた話を伝えた。

 ナツメのことを良く知っていることや既に何度も戦いを経験していた二人は、すぐに理解するだけでなくエリカを中心に動いてくれることを約束してくれた。

 しかし、ここで一つだけある問題が浮上した。

 

 それは地方が異なることだ。

 

 幾らエリカ達が次の戦いに備えたとしても、ナツメが予知したのはジョウト地方で起こる出来事であってカントー地方では無い。

 彼女がポケモン協会を通じて警告を促すことは出来ても、ジョウト地方で起こる出来事に対する備えは、地理的なものや管轄範囲の関係でジョウト地方の人物が中心に行わなければならない。

  そのことはアキラもわかっていたので、エリカにお願いをしてジョウト地方のジムリーダーであるシジマに警戒することを促す手紙を書いて貰ったのと自分の口からも近い将来この地方に起こるであろう事件の可能性について話をしていた。

 

 問題があるとしたら、既に懸念していることであるシジマと同じ地位に就いていると同時に黒幕であるヤナギにもジョウト中が警戒し始めることが知られてしまうことだが、アキラの記憶ではヤナギの目的は伝説のポケモン確保とその先にある事だ。

 ロケット団の残党を纏め上げてはいるが、地方そのものを支配することには興味は無かった筈なので、ジョウト地方全体が警戒し始めたらもしかしたら少しは大人しくしてくれるかもしれない。

 様々な考えを頭の中で張り巡らせていた時、目を閉じて考え込んでいたシジマが目を開く。

 

「エリカが動くのなら、各地のジムリーダー達にもポケモン協会から連絡が入るとは思うが、俺の方からも他のジムリーダー達に注意する様に伝えよう。だがアキラ、お前はどうするつもりだ?」

「え? どうするつもりとは?」

「お前のことだ。エリカからお前がカントー地方で起こった様々な事件に力を貸してきたことは以前彼女と話をした時に聞いている。今回もこのジョウト地方で起こる事件や戦いに首を突っ込むつもりなんだろ」

 

 実際に口には出さなかったものの、シジマの指摘にアキラは口には出さなかったが内心で思わず「ゲッ」と声を上げてしまう。

 どうやらシジマには、これから自分がやろうと考えていた行動は見透かされていたらしい。

 露骨なまでに動揺している彼の顔を見て、シジマは呆れまではいかないが確信した様に呆れ混じりの息を吐く。

 

「確かにお前は強い。イブキに勝ったことを除いても、俺よりもな」

 

 エリカや彼の保護者との話から、アキラは自分達が持つ力を自らの為やお世話になった人達への恩返し以外にも知り合いや親しい人の役に立てるのなら動くという、良くも悪くも子どもらしい行動原理を持っていることをシジマは理解している。

 そしてその力が主に、ロケット団を始めとしたポケモンを犯罪に利用するトレーナーとの戦いで振るわれてきたことは、数カ月前に偶然起こったワタルとの戦いぶりを見てもわかる。

 

 彼が連れている手持ちポケモンは、それらの戦歴を裏付けるだけの実力を有しているどころか総合的には師である自分を上回っている。

 恐らく今本気のバトルをシジマが挑んだとしても、アキラが勝つだろう。しかも公式ルール下では行われない、野生ポケモンとの戦いに近い条件である野良バトルの方を彼は得意としている。

 ポケモンを使った事件や戦いに限定すれば、彼以上に適した人材はそうはいない。とても心強い存在であることはシジマも認めていた。

 

 当の本人が何の権限も持たない一般トレーナーであることと、常識離れの身体能力とはいえまだ肉体的にも世間的にも未成熟な子どもである二点を除けばの話ではあるが。

 

「――()()なら危険な事件は大人が解決するもので、子どもであるお前達は関わるべきじゃない」

「はい……ぇ?」

 

 シジマが語る内容にアキラは「やっぱり許して貰えないのか」と思ったが、彼の一部の言い回しが引っ掛かり、思わず俯かせかけた顔を上げる。

 

「幾つか確かめたいことがある。アキラ、手合わせの準備をしろ」

「それは…」

 

 アキラの中に一つの可能性が浮かぶ。

 ポケモンバトルにしろ、柔道での手合わせにしろ、自分がそういう荒っぽい事に首を突っ込んでも十分に身を守れることを師に直接証明する。

 即ちシジマと戦って、その実力を示して認めて貰うということだ。

 

「結果次第だがアキラ、お前にこのタンバジムに所属する()()()()()()()として、ジョウト地方各地を見て回ることや何か異変が起きた際にそれらを調べたり関わることの許可、そして得た情報について俺への報告を命じようと考えている」

「!」

「まだ教えることはたくさん残っているから、何か目的があって休むならその理由をちゃんと説明する様にな」

 

 それからシジマは仮に認める場合の条件について話していくが、師の説明を聞きながらもアキラは両手を強く握っていた。

 レッドには先に向かっている様なことを言っていたのに、これで関わるのはダメだと言われたらどうしようかと思っていたが、調査名目で動くことが許された。

 これはある意味で嬉しい誤算だ。

 

 まだ認められた訳でも無いのに堂々と動けることをアキラは喜んでいたが、実は彼がワタルと戦った時期から既にシジマは、彼が強く望むのなら自身のジムトレーナーとしての名目で何かしらの事件に関わることを許すことを考えてはいた。

 本来なら危険な事に関わるな、と注意すべきところだが、今まで見て来た彼と連れている手持ち達の行動を考えると下手に認めずに勝手に動かれて動向が把握出来なくなるよりは、ハッキリと注意点を伝えた上で許される立場として動いて貰った方が良い。

 渡されたエリカの手紙にも、そのことについての提案が書かれているので、彼の性格なら言われたことを守ろうとするだろう。

 

 何も止めても無駄だから、シジマはアキラが危険な事に関わる許可を出す訳では無い。

 まだ教えていない事や学ぶべきことはあるが、彼が単に強いポケモンを連れているだけのトレーナーでは無く、過酷な戦いに付いていき、いざとなれば自力でその身を十分に守れるだけの能力を持った優れたトレーナーだと認めているからだ。

 そしてその判断が間違っていないかを、これから確かめるのだ。

 

「手合わせの形式は、フルバトルだ。今まで俺の元で学んだことで得た今のお前達の実力を俺に見せろ」

「はい!」

 

 アキラは気を引き締め、これから行うであろうフルバトルに血を滾らせる。

 そして気を引き締めていたのは、何も彼だけでなくシジマもだった。

 これで彼が不甲斐無かったり危うい戦いをしたら、先程の考えは止めるつもりだ。だからこそ、本気で戦うべく何時もよりも闘争心を湧き上がらせていた。

 

 それから数十分後、タンバジムから爆音と何かが崩壊する音が幾度となく轟くのだった。

 

 

 

 

 

「許可を貰えたのは良いけど、これからどうしようかな?」

 

 飛行するカイリューの背に乗りながら、飛行用のゴーグルを目に掛けたアキラはドラゴンポケモンに問い掛けながら今後の方針を考えていた。

 数日前シジマからちゃんと報告や連絡をすることを条件にされたが、まさか堂々と戦いに首を突っ込むことを許されるとは思っていなかった。

 でもアキラとしては、堂々と許可を貰えた方が気持ち的にもずっとやりやすい。

 

 許可を賭けたシジマとのフルバトルは、苦戦はしたが激闘の末に手持ち残り二匹の余力を残して、アキラはシジマを打ち負かした。

 相性の良いゲンガーやヤドキングが大活躍だったこともあるが、この二匹がやられたことを考えると残ったカイリューやブーバー達の力も無視出来ない。

 戦いそのものも、フルバトル形式で且つシジマのポケモンもたまに何の指示も出していないのに後ろに回り込んだことに気付いて反撃したり、攻撃を仕掛けるテンポが急に速くなるだけでなく複雑化したりと以前戦ったイブキの時以上の大激戦となった。

 

 だけど本気のジムリーダーを相手に勝てたからと言っても、これから起こるであろう事件や戦う敵を考えると全然安心出来るものでは無いので、頻度は減るがシジマの元での修行は継続だ。そもそも卒業認定すら貰っていないのだから。

 他にも気合を入れ過ぎて、タンバジムの壁や天井を壊したどころか建物そのものを半壊させてしまったので、全力で戦った際の周囲に与える被害や影響にも気を付ける必要がある。

 公式ルール下で行ったバトルでさえこれなのだ。強敵相手でのルール無用の野良バトルになったら、どれ程の規模になるのか。

 そこまで考えてアキラは頭を振った。ヤナギとの戦いを想定して、色々と備えてきたのだ。そんなことは自分達が良くわかっている。

 

 もう一度アキラは、これからジョウト地方で起こる出来事について思い出す。

 この世界に来てからもう何年も経っているのに振り返られるだけ憶えているのは、書き始めた初期の頃ノートの片隅に覚えている限りのことを纏めているからだ。

 流石にハッキリ纏める訳にはいかないのと隅から隅まで憶えていたり把握していた訳では無いが、それでもこれまでの様に大体の流れはわかるので、今後の行動の指標にすることは出来る。

 

 流れでは、シルバーがジョウト地方に拠点を構えているウツギ博士の研究所からワニノコを盗み、ゴールドとバッタリ会ってしまうのが全ての始まりだ。

 そこからゴールドがシルバーを追い掛けて、その過程の道中でロケット団と戦っていたのは憶えている。

 ロケット団の方も各地で事件を起こしていたが、組織が縮小した影響なのかカントー地方で好き勝手やっていた頃に比べれば事件は幾分かスケールダウンしていた。

 しかし、それでも規模が大きな事件も無くは無かった。

 

 今でもエンジュシティや怒りの湖で起こした事件は、うずまき島でのルギアとの対決や最終決戦に並ぶくらい記憶に残っている。

 この世界での報道や新聞を見る限りでは、ロケット団はまだ目立った行動をしていないどころか影も形も無かったので、まだ動きは本格化していないと見ている。

 警察やジムリーダー達にも先手や対策が取れる様にロケット団が起こすであろう事件を何らかの形で教えたいが、どれも共通して何時の時期に起こっているのか全く不明だ。特に警察は、教えたとしてもロケット団相手に対抗出来るのか少し不安でもあった。

 こうしてジムリーダーであるシジマの名の元に自由に動く許可と大義名分を得られたが、とにかくゴールド達の動向から目星を付けた時期に直接探し回り、ロケット団や怪しげな動きを見つけたらジムリーダーや警察関係者に通報などで伝えるしか手は無い。

 加えて問題は他にもある。

 

 それは全ての首謀者であるヤナギの立場だ。

 彼は世間ではジョウト地方最年長であるチョウジジムジムリーダーだ。エリカ達と同じでポケモン協会の上層部と関わりがあるだけでなく、非常時に動く戦力として扱われている。

 故にロケット団が動いている情報や通報があれば、真っ先に耳にする立場だ。

 

 ジムリーダー達や警察に情報を提供する

 ↓

 対策の為にポケモン協会へと伝わる

 ↓

 各地を守るジムリーダーに情報が共有される

 

 この流れは何もおかしくない。寧ろ正しい。しかし、内部に敵がいることを知っているとこちらの動向がバレてしまう。

 あまりにもロケット団撃退の実例が出過ぎてしまうと、大人しくなるどころか全く知らない計画を実行される可能性だけでなく、下手したらヤナギ自らが直々に出て来て事態が悪化する可能性もある。

 レッドに勝ち、ワタルを退けるなど自分が強くなっていることは実感出来ているし、対決を想定した対抗策などもアキラは準備してある。

 しかし、それでもヤナギとの戦いは――特にタイマンは可能な限り避けるべきだろう。他にも対策が通じなかった場合を考えて、すぐに退散出来る様に逃走手段などの保険はしっかりさせておく必要がある。

 

 考えれば考える程、あれこれと懸念が浮かんでくるが、彼を乗せて飛んでいるカイリューはいい加減に悩むアキラが鬱陶しく感じて来ていた。

 何時ものことであるのは理解していたが、何でこうして飛んでいる時に限って彼はそうなる頻度が多いのか。そろそろ体を翻して落としてやろうかと考え始める。

 

「よし。ウツギ博士の研究所…ワカバタウンに行ってみるか」

 

 いざ体を動かそうとしたタイミングで、アキラはようやくジョウト地方にある小さな町の名前を口にした。

 シジマやエリカにナツメの警告を伝え、そしてある程度は戦う許可を貰えたのだ。まずは今回のジョウト地方で起こる戦いで中心的な役割を担う、と言うよりは台風の目になる人物の動向を確認しに行くべきだ。

 具体的に今後について考えるのは、それからで良いだろう。

 

 それにシロガネ山でナツメから貰った”運命のスプーン”は、下山後はジョウト地方の方角を示す様になったが、実際にジョウト地方を訪れると元の状態に戻ってしまって何も示さなくなった。

 だけどクチバシティの居候先に戻るとまたジョウト地方を示すことから、使えなくなった訳では無さそうなので、今はこのジョウト各地を見て回りながら留まるのが良いだろう。

 

 やっと目的地が決まり、カイリューは呆れ気味で方向を変えようと体を捻った時だった。

 唐突にカイリューは動きを止めて、そのまま空中に留まったのだ。

 

「おっと、どうしたリュット? 何か見つけたのか?」

 

 危うく慣性の法則で体を投げ出されそうになったが、何気無くアキラは尋ねる。

 ところがドラゴンポケモンは返事を返すどころか、突如としてアキラが咄嗟にしがみ付かざるを得ないまでのスピードに加速すると同時に降下し始めた。

 

「ちょ、ちょ! リュットどうした!?」

 

 振り落とされない様にアキラは必死で手と腕に力を入れるが、カイリューは構わず飛行機雲の様な軌跡を描きながら砲弾の様に一直線に飛んでいく。

 強風で顔を打ち付けられてアキラは声にならない悲鳴を上げていたが、ドラゴンポケモンは全く気にしていなかった。

 何故なら彼の頭の中は、()()()()()()()()()()で一杯だったからだ。

 

 

 

 

 

「チクショー!! 何だよあのクソガキ!」

「あ~あ、楽な任務だった筈なのに…」

 

 これでもかと悔しさが籠った声で叫びながら、全身を黒い服で身を包んだ男は感情任せに川目掛けて石を何度も投げ付けていた。

 彼以外にも黒い服を着た者達が川の傍で屯っていたが、彼らも大小あれど愚痴を零していた。

 さっきまで彼らはとある任務の為に行動していたのだが、目的のポケモンを先に現れた謎の少年に取られた挙句呆気なく返り討ちにされて任務を達成することが出来なかったのだ。

 

「最近の子どもって…ヤバイっスね」

「何弱気になっている! たかがちょっとポケモンの扱いが上手かったり強いポケモンを連れているだけの子どもにやられたなど天下のロケット団の名が泣くわ!」

「でもその子どもの所為で、組織は壊滅状態に追いやられたんですけどね…」

「お前っ!」

「おいおい喧嘩はそれくらいにしておけよ」

 

 任務に失敗しただけでなく、一回りも小さな子どもにやられたことも相俟って険悪な空気ではあったが、集団を率いるリーダー格らしき人物が仲裁に入る。

 確かに自分達は強いポケモンを連れた子どもには悪い記憶しか無いが、それで内輪揉めを起こすのは望ましく無い。

 

「でも今日戦った赤い髪をした目付きの鋭い小僧はヤバイぞ。下手すればレッド並みに厄介になるかもしれない」

「うげ、あのヒーロー気取りのガキ共の代表格よりもかよ」

 

 その意見に何人かは反吐が出ると言わんばかりの反応を見せるが、喧嘩を止めたリーダー格は複雑な表情だった。

 確かに見方によっては、レッドを始めとしたロケット団に戦いを挑んだ少年少女達は、単に強いポケモンを連れた子どもが調子に乗ってヒーローの真似事をやっている様に見えるだろう。

 だが、本当にただ強いだけの子どもが数で勝るだけでなく実力もジムリーダー達に引けを取らない幹部達を倒すことが出来る筈がない。

 悔しいが彼らが持ち合わせている実力や運が本物であるのは、()()()()()()()()()()()()としては認めざるを得なかった。

 

「でもレッドがいるのはカントー地方ですから、こっち(ジョウト地方)には来ないでしょ」

「だが、油断は大敵だ。次あの赤い髪の子どもに会った時、確実に潰せる様に対策を練っておくべきだな」

「流石にあのレッド以上にヤバイってことは無いだろうしな」

「レッドよりもか…」

 

 次第に気が楽になってきたからなのか少し気の抜けた空気になってきたが、ロケット団になって日の浅い団員の言葉がリーダー格の一人の耳には引っ掛かった。

 確かに十代前半でポケモンリーグを優勝した少年以上の存在が出るなど普通は考えられない。

 しかし同時期にその彼と互角の少年少女が数名いたのだから、もしかしたらさっき戦った赤い髪の少年が、この地方での”レッド”みたいな存在である可能性は否定出来ない。

 

「そういえば、ハリーさんはレッドと戦ったことがあるんですよね」

「……いや、戦うところを何回も見ただけで直接戦ったことは無い。それでもあいつらは、子どもとは思えないくらい只者では無い雰囲気があったな」

 

 話を振られたリーダー格の一人であるハリーは、当時のことを思い出しながら彼らの印象を口にする。

 連れているポケモンが強かったこともあるが、的確な指示でポケモンを導く姿は、とても子どもとは思えなかった。

 ”ただ強いポケモンを連れた子どもだからトレーナーを狙えば済む”と気楽に言う者もいるが、そもそもトレーナーを狙う事さえ困難な相手だ。

 中でもレッドは、当時のロケット団最高戦力である三幹部を退けた子ども達の中心的な人物でもあるので、その実力は並大抵のものでは無かった。

 

 だけど、ハリーはそんな彼らよりももっと恐ろしいかもしれない存在がいることを知っていた。

 ハッキリとした情報が組織内に広まる前にロケット団は壊滅してしまったが、一応は中隊長として幹部の立ち位置にいたハリーは、その情報について耳にしていた。

 ロケット団が研究していた最強のポケモン――ミュウツーを相手に正面から渡り合ったポケモンとそれを率いたとされるとある少年の存在を。

 

「でも…世の中にはレッド達よりもヤバイ奴はいるんだよな」

「え? あのレッド達よりもですか?」

「あぁ、俺も詳細は把握していないけど――」

 

 そのことについてハリーが語ろうとした時だった。

 彼らから少し離れた場所に、巨大な何かが落ちて来たのだ。それは大地を大きく揺らし、衝撃で土と砂埃を舞い上げる。

 休んでいた団員達は何事かと身構えるが、舞い上がった土と砂埃が晴れると、そこには人間よりも二回りも大きい大型のポケモンが敵意を漲らせた目でこちらを睨んでいた。

 

「カ、カイリュー…」

 

 姿を現したポケモンの姿に男達は動揺する。

 何故こんなところに超が何個か付いてもおかしくない希少なドラゴンポケモンが、それもこれ以上無く敵意を抱いた鋭い目で自分達を睨んでくるのか訳がわからなかった。

 しかし、集団を率いるハリーを始めとしたリョウやケンの中隊長の三人は、その鋭い目付きをするカイリューの姿に見覚えがあった。

 一体どこで見たのか思い出そうとするが、カイリューの背中から一人の少年が顔を出す。

 

「急にどうしたかと思ったけど…納得だ。その黒い服は久し振りに見るな」

 

 辛うじて振り落とされずに済んだアキラは、カイリューの背中から顔を出すとそのままドラゴンポケモンの前に立つ形で飛び降りる。

 黒い服に胸に大きく描かれた「R」の文字。それはロケット団の証だ。

 今まで何回か戦ったことは勿論、この世界に来て間も無い頃に酷い目に遭ったのだから、忘れる筈が無かった。

 過去の経験やシジマとの約束で、突発的であってもなるべくロケット団には一人で挑みたくは無かったが、どうやらその心配をする必要は無さそうであった。

 カイリューの前に出て、目の前で驚きの余り固まっているロケット団達を観察している内に、彼の中である確信が生まれたからだ。

 

 勝てる

 

 鋭敏化するだけでなく、研ぎ澄まされた目を始めとした五感から得た情報、そしてこれまで経験してきた多くの戦いで相手にしてきたトレーナーやポケモン達から推測しても彼は奴らに勝てると確信していた。

 それは自分達に力が付いたが故の自信なのか、或いは慢心なのか。どちらにせよ表裏一体ではあったが、数で勝るロケット団を目の前にしてもアキラは冷静であった。

 

「何だ子どもか。つうか、カイリューを連れた子どもって…」

「何でも良い。任務失敗は失敗でも、あのポケモンを手土産にすれば」

「バカ。さっきも子どもだからって舐めて掛かったら返り討ちに遭ったのを忘れたのか」

 

 ロケット団が色々話しているのが聞こえるが、アキラは彼らを捕まえて警察に突き出したらどうなるのかを考えていた。

 ヤナギに警戒されるかもしれないが、所詮は下っ端がヘマをしただけと考えるのか。それともやっぱり警戒をするのか。

 だが、ジョウト地方にいるジムリーダー達に警戒を促すことや曖昧になっているとはいえ自分が知っていることを伝える際の違和感を消すには、これ以上適切な存在は無い。

 そんなことを考えていたら突然、ロケット団の一人が自分の事を指差しながら声を上げた。

 

「――思い出した!! お前あの時の!」

「?」

 

 どうやら自分のことを知っている団員がいるらしいが、アキラは特に憶えていなかったので適当に流した。

 しかし、声を上げた団員にして中隊長であるハリーは、アキラのことを良く憶えていた。

 今から三年前のオツキミ山で腹いせも兼ねて集団で彼を痛め付けていたが、何時の間にか形勢を押し戻されたのと乱入者の出現もあって痛み分けで終わったが、自身と手持ちポケモンは当時ミニリュウだった彼のポケモンに叩きのめされた。

 次に会ったのは一年前のサントアンヌ号を占拠した時だ。あの時は麦藁帽子を被った少年にコテンパンにされたが、後詰めとばかりに彼に逃げ道を塞がれて、そのまま警察に突き出されたのだ。

 

 直接対決したのはもう三年前になるが、あの時でも切っ掛けがあったとはいえ数では圧倒的に勝る自分達の手から逃れたのだ。

 しかも今連れているカイリューは、あの目付きの悪さから見て、当時かなりの強さで暴れていたミニリュウが成長した姿なのは間違いない。

 レッド達と一緒に行動していた子どもの一人であることを考えれば、間違いなく彼の実力はレッドと同等かそれ以上の存在だ。

 

「リュット、仕掛けたい気持ちはわかるけど、もうちょっと待って」

 

 仕掛けようとするカイリューにアキラは待ったを掛けるが、ドラゴンポケモンは今にも彼の胸倉を掴みそうな目付きで睨む。

 また目の前にロケット団がいるのに止めるのか、声は上げていないが今にもそう怒鳴り声を上げそうなその目付きにアキラは懐かしさを感じながらも小さな機械を取り出した。

 それは近年発売される様になったポケギアと呼ばれる小型の通信機器だ。

 これを持ち歩いて近況報告するのがシジマが許す条件に入っていただけでなく、エリカや保護者であるヒラタ博士からも持つ様に言われたので、面倒な契約を経て連絡用に持っている。

 

 使い始めたばかりなのでまだ扱いにはそこまで慣れていないが、連絡先にはタンバジムの番号やエリカなどの番号を登録している。

 そのポケギアをアキラは、連絡する為に少し不器用に操作して耳に当てようとした時だった。

 

「エレキッド! 奴の口を封じるんだ!」

 

 中隊長の一人であるケンが、突然でんきポケモンと呼ばれるエレブーの進化前であるエレキッドを繰り出すと同時に攻撃を命じたのだ。

 近々組織の復活を大々的に宣言するつもりではあるが、今のロケット団は力を蓄えるべく潜伏している真っ最中だ。

 仮に彼を退けることは出来ても、連絡を通じて世間や警察に自分達の動きを知られる訳にはいかない。特に中隊長の立場である三人は、つい最近脱走することが出来たばかりなのでまた捕まるなど御免だった。

 

 今この場で口封じをしなければならない。

 

 モンスターボールから出たエレキッドは、両腕を回転させながら小柄な体格ならではスピードを活かして、同じポケモンであるカイリューではなくトレーナーであるアキラを狙う。

 だが彼は自分が狙われているにも関わらず、避けるどころかエレキッドの動きを気にする素振りすら見せなかった。

 

 思いがけず彼が油断していることに勝機をケンが見出した、その時だった。

 アキラが頭を下げる様に体を前に折った瞬間、彼の背後からカイリューの太くて巨大な尾が勢い良く振られたのだ。

 そしてそれをまともに受けてしまったエレキッドの体は、まるで金属バットで打ち返されたボールの様に吹き飛ばされる。

 

「え? ちょ――うごっ!?」

 

 攻撃を仕掛ける時よりも早く後方に吹き飛んだエレキッドは、そのままトレーナーであるケンにぶつかり、彼らは揃って数メートル程後ろへ転げていく。

 不意打ち同然で仕掛けたにも関わらず、まさかの返り討ちに遭ったことにロケット団の団員達は驚くが、アキラの方は何の反応も見せることなくポケギアを耳から離した。

 

「仕方ない。リュット、思う存分暴れてもいいぞ。ただし、()()()()やり過ぎない様にね」

 

 釘を刺しながらではあったが、アキラがカイリューに「許可」とも言える言葉を静かに告げた瞬間、カイリューは怒りを宿した鋭い眼差しを、改めてロケット団とそのポケモン達に向ける。

 そして団員達は、そんなドラゴンポケモンの姿からこれから起こるであろう出来事に身の危険を感じるのだった。




アキラ、条件付きでジョウト各地を見て回ったり関わる事を許されるも早々にロケット団を発見してしまう。

シジマとしては、34巻でナナカマド博士が考えた様に戦う事はあっても、大体は情報収集や偵察などの形で力になってくれるだろうと思っていますが、実際はガッツリと関わることになります。

中隊長トリオを含めた団員達は、ウツギ博士の荷物や研究所にいるポケモンを盗もうとしたけどシルバーの返り討ちに遭って撤収中のところでした。
そして、もう今までの様にカイリューを止める理由も必要性もありませんので……
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