SPECIALな冒険記   作:冴龍

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動き始める運命

 ”思う存分暴れてもいいぞ”

 カイリューのトレーナーであるアキラがそう告げた瞬間、団員達の脳裏にあのドラゴンポケモンが怒りのままに暴れて自分達が蹂躙される姿が過ぎった。

 そんなことを考えるべきでは無いものだが、嫌でもそんなイメージが浮かび上がってしまう程にカイリューから発せられる殺意と言っても過言では無い怒気と威圧感は凄まじかった。

 身の危険を感じ取った団員達は、時間稼ぎでも良いから少しでも抵抗、或いは自らの盾とするべく手持ちを召喚する。

 

「待てお前ら! 相手はカイリューを連れているんだぞ。子どもがトレーナーだからって簡単に倒せる相手じゃない!」

 

 他の団員達が警戒しながらも戦う気なのに対して、ハリーともう一人中隊長であるリョウは戦おうとする他の団員達を止めようとする。

 しかし彼らは、カイリューが放つ殺意にも似た威圧感に呑まれて少しでも抵抗して身を守ることしか頭に無かった。

 

 目の前にいるロケット団が戦う気であるのを見て、アキラはその目をより一層凝らす。

 偶然ではあるが、並外れた力を身に付けたカイリューが見つけてしまった時点で、黙って見逃すと言う選択肢はアキラ達には無い。昔ならドラゴンポケモンを抑えてコソコソ逃げたり警察に連絡して対処を待っていたが、「戦って勝てる」ことを確信している今なら正面から打ち負かせる。

 どうせ降伏する様に言っても抵抗するのは目に見えている。

 

 もう目の前にいる奴らは、改心もしていないし、今の自分達の不満を抑える程の利を齎してくれる奴でも無い。

 放置すれば自分達どころか、無関係な人間にも害を振り撒くだけの敵。

 今後の為にも、今ここで奴らを倒す。

 

 その直後、ロケット団とそのポケモン達を見据えていたカイリューの姿が消える。

 

「――え?」

 

 団員の一人が間抜けな声を漏らした時点で、”こうそくいどう”による瞬発力を発揮したカイリューは跳び掛かる様な体勢で一気に距離を詰めていた。そして振り上げていた拳を振り下ろし、彼らのすぐ足元の地面を殴り付けた。

 相手を考えれば過剰と言っても過言では無い強烈な力が炸裂し、カイリューが殴り付けた場所を中心に地面が砕ける様に割れた。

 衝撃で多くのロケット団のポケモン達が蹴散らされるが、近くにいたトレーナーである団員達もその余波で体が吹き飛んだり、揺れで倒れ込む者も出た。

 

「てめっ! 危ねえだろ!」

「…そんな近くにいたら巻き込まれても仕方ありませんよ」

 

 ロケット団から文句が飛んでくるが、アキラは冷たく返す。

 カイリューが抱いているロケット団に対する敵意や殺意を、色んな出来事もあって彼は()()()()()()()()

 ミニリュウ時代の指示無視どころか冗談抜きで容赦が無かった頃と比べれば、これでもかなりマシになっている方なのだ。

 今までは状況故に何かと我慢させたりと抑えてきたが、今後ロケット団と対峙する機会が増えることを考えると完全に抑えるのはもう無理だろうから、やり過ぎない程度に適度に暴れさせるつもりであった。

 

 たった今カイリューが放った一撃で、ロケット団も手持ちポケモンの半分近くはダメージを受けたが、無事だったのと体勢を立て直したのがすぐさま反撃する。

 しかし、体を大きく捻らせて尾を振ったカイリューの”たたきつける”は尾の強靭な皮膚で攻撃を弾くだけなく、先程のエレキッド同様にその一振りで何匹ものポケモンを瞬く間に薙ぎ払う。

 尾を振るだけで暴風同然の風圧を放ちながら蹴散らすドラゴンポケモンの姿を見て、ロケット団達はすぐに悟った。

 

 レベルが違い過ぎて戦いを挑む以前の問題だ。

 

「だから言っただろ!! 退け! 退くんだ!!」

「相手が悪過ぎる!」

 

 ハリーとリョウ、中隊長二人の必死の呼び掛けでようやく我に返った一部の団員達は、真っ先に背を向けて逃げ始める。

 やられてしまった手持ちの回収すらせずに逃げ始める団員達に、ドラゴンポケモンは怒りの雄叫びを上げる。勝てない相手と判断して逃走を選ぶのはアキラも選択肢に常に入れているので悪い判断では無いが、平気で手持ちを見捨てるのは見過ごせないのや、それ以前にカイリューが大人しく逃がすつもりは無い。

 

「リュット、気持ちはわかるが”はかいこうせん”とかはダメだぞ」

 

 荒ぶるカイリューの姿を見て、アキラは先手を打って注意する。

 昔でも威力があったのに、進化した今は数倍も強力になったのだ。そんなものを直接当てなくても、至近距離で炸裂させても危ない。

 それに今の自分は、一応は立場上タンバジム所属のジムトレーナー扱いなのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()ことは多目に見て貰えるが、意図的に直接攻撃するなどは余程追い詰められた時でも無い限りやるべきではない。

 後、ワタルを思い出してしまうので精神衛生的にも良くない。

 そう伝えた瞬間、カイリューは昔アキラが手持ちに迎えたばかりの頃を彷彿させる目で彼を睨むが、すぐに舌打ちをすると翼を使って再び大きく跳び上がり、逃げる団員達に立ち塞がる様に大地を揺らしながら着地する。

 

「げぇ! マジかよ!」

「こうなればあのガキを狙え! トレーナーを狙えば、トレーナーを守ろうとカイリューの動きは鈍る筈!」

 

 カイリューとアキラが自分達を逃がすつもりが無いことを察したロケット団は腹を括った。

 何人かは手持ちをカイリューと対峙させるが、団員の一人はアキラ目掛けてボールを投げた。

 その投げられたボールから、ボールポケモンと呼ばれるマルマインが飛び出す。アキラの記憶でもスピードはポケモンの中でトップクラス、そして自ら瀕死状態になる代わりに相手に大ダメージを与える”だいばくはつ”を使う事が出来る要注意ポケモンだ。

 仮にカイリューを倒すことは出来なくても、一矢報いてやろうという団員達の意地が窺えた。

 

 マルマインが飛んでくるのを見て、アキラは別のポケモンを繰り出そうと別のモンスターボールを手に取る。

 新たにポケモンを出して我が身を守る盾にするつもりとロケット団は見たが、マルマインが仕掛ける捨て身の攻撃はポケモンを盾にした程度では防ぎ切れるものでは無い。

 

「マルマイン、”だいばくはつ”だ!!!」

 

 全身にエネルギーを行き渡らせ、マルマインの体は目も眩む程の光を放って、アキラのほぼ目の前で”だいばくはつ”を起こす。

 その瞬間、凄まじい爆音と共にエネルギーと衝撃波が炸裂して、アキラの周囲にあった地面を大きく抉ると同時に草木も吹き飛ばした。

 

「へっ、ざまぁみろ」

「さっきの赤い髪のガキと戦った時もこうすれば良かったな」

 

 離れたところにいる団員達にも届く爆風を見て、彼らの気分はスッキリするが、すぐに残されたカイリューをどうするかに目的を変える。

 だがトレーナーがやられた筈なのに、カイリューは動揺していなかった。それどころか怒りに燃えるその目が、どこか小馬鹿にしている様な色を帯びていた。

 ドラゴンポケモンの様子を不審に思った団員の何人かが後ろを振り返ると、そこには至近距離で爆発に巻き込まれた筈のアキラが、何時の間にか出ていたでんげきポケモンのエレブーが放っている不思議な光に包み込まれる形で無傷で立っていた。

 

「え? 無傷!?」

 

 ”だいばくはつ”が全く効いていなかったのが信じられなかった団員だったが、カイリューが殴り飛ばした仲間の手持ちに巻き込まれて揃って伸びてしまう。

 それからカイリューは挑んできたロケット団のポケモンを素手で片付けるだけでなく、翼を羽ばたかせて”たつまき”などの派手な攻撃で吹き飛ばしたりする。

 当然、直接狙っている訳では無いがそれでも余波でロケット団の何人かが、手持ちと一緒に巻き込まれる形で吹き飛んでいく。

 

 そんなトレーナーも容赦無く巻き込む攻撃を仕掛けるカイリューに対する報復のつもりなのか、ロケット団のポケモンの何匹かが飛び技を放って直接アキラを狙って来る。

 だがそれらの攻撃をエレブーは、”リフレクター”などの壁を張るどころかまるで自らの肉体を誇示しているのか両手を腰に当てると、何と飛んで来た技全てを堂々と誇示する様に張った胸で受け止めて防ぎ切る。

 

 シジマの元での修行は、技や技術を磨くだけでなく肉体トレーニングも行っているので、エレブーの体は以前よりも強靭で筋肉質になっている。

 その成果が出たのかとアキラは感心――と思いきや、エレブーは攻撃を受け止めた胸を擦りながら若干涙目で振り返る。

 先程”まもる”で防いだマルマインの”だいばくはつ”と比べれば、大して威力が無さそうだと甘く見ていたが、やっぱり痛かったらしい。

 

 調子に乗ったらすぐこれだとアキラは呆れるが、気が付いたらカイリューの方は戦いを終えたのか、彼の周りにはロケット団とそのポケモン達が力無く伏していた。

 戦いそのものは数分程度だったので瞬く間に終わっているが、彼らにとっては不思議と時間の流れはゆっくりと感じられた様な気がしたのだ。

 傍から見ると死屍累々の光景だが、それでもアキラはどこかホッとしていた。

 

「リュット、感情的に暴れていたのによく抑えてくれた」

 

 以前だったら、こちらが許そうがルール違反だろうがそんなこと関係無くカイリューは直接叩きのめしていたかもしれないが、本当にあれだけ暴れていたのに巻き込み程度に留めてくれた。

 今の手持ちの影響をアキラが受けているのと同じ様に、カイリューも少しは穏やかになる影響を受けているのかもしれない。

 しかし、昔だったら余程追い詰められない限りモラル的にダメだと考えていたものだが、自分も随分と危なっかしい考えを平気でする様になったものだとアキラは思った。

 正当防衛も少しあるとは思うが、これが当然だとは思わず、今後も気を付けないといけない。

 

 それからアキラは、気絶しているロケット団と彼らの手持ちポケモンを見渡す。

 彼らを近くの警察署に突き出せば、今後起きるかもしれない事件に関する証言に信憑性を持たせるだけでなくシジマなどのジムリーダー達に警戒を促すのには十分だろう。

 カイリューが転がっている団員達を雑に蹴り飛ばしたり乱暴に投げるなどして積み上げていく形で集めるのを眺めながら、アキラはどうやってこの人数を警察がいる場所へ引っ張っていくのか考えるのだった。

 

 

 

 

 

 その後、アキラは手持ちポケモンと協力して伸びていたロケット団を近くの街――キキョウシティにある警察署へ突き出した。

 突然複数のポケモンを伴った少年が、悪名高いロケット団と同じ格好をした人間を何人も抱えたり雑に引き摺って来る光景は、ビジュアル的に色々アレだったのか警察署内は一時騒然となった。

 当然、アキラはロケット団を突き出す以外にも、警察から何があったのかなどを含めた事情聴取を受けることとなった。

 そんなこんなで警察に状況説明などをしていたら、昼頃に訪れた筈なのに彼が警察署を出た時には外は夜に変わっていた。

 

「ロケット団と戦う度にこうなると考えると大変だなこりゃ」

 

 全身を伸ばして、体の各部の凝りを解消しながらアキラはぼやく。

 一応ジムリーダーのシジマとエリカから”調査”名目の許しや立場を得ているが、その説明やら警察からの苦言とかで凄く時間が掛かってしまった。

 だけど警察側の気持ちもわからなくは無い。幾ら実力者達のお墨付きを頂いているとしても、子どもが危険なことに首を突っ込むのはなるべく控えて欲しいだろう。

 でも今回の出来事を切っ掛けに各地のジムリーダー達や警察などの組織が、ロケット団の存在を強く意識して警戒してくれる筈だとアキラは考えていた。

 果たしてどこまで被害を減らせるのかは知らないが、警戒しているのとしていないのでは大きく違う。

 

 一応警察署に留まっている間に、保護者であるクチバシティのヒラタ博士やタンバシティのシジマの元へは約束通り報告も兼ねた連絡をしている。

 もう暗くなっているが、高速飛行専用のカプセル無しでもカイリューの飛行速度を考えれば、タンバジムでもクチバシティのどちらでも変わりないのでどちらに帰ろうかなと悩んでいた時だった。

 

「君は、ひょっとしてアキラ君か?」

 

 自分の名を呼ぶ声にアキラは反応する。

 有名人でも無ければ、ここは自分にとって所縁のある地でも無い。ならば自分の名を呼ぶと言う事は、知り合いしかいない。

 そして、彼のその考えは当たっていた。

 

「オーキド…博士?」

 

 振り返ると、彼がよく知る人物であるこの世界でのポケモン研究の第一人者であるオーキド博士が立っており、アキラは驚く。

 オーキド博士の拠点はカントー地方だ。ジョウト地方に来る理由は全く無い筈――と思っていたが、ジョウト地方に研究所の支部があったことや最近はラジオ関係の仕事をやっていることを彼は思い出した。

 しかし、いずれもジョウト地方にいる理由ではあるが、キキョウシティの警察署にいる理由では無い。

 

「え? 何でオーキド博士が、ここにいるのですか?」

「儂も君が何故警察署にいるのか聞きたいが、儂から話そう。実は新しく開発した新型のポケモン図鑑が何者かに盗まれてしまったのじゃ」

「盗まれたって…え!?」

 

 予想していなかった返答にアキラは驚きを露わにするが、すぐにそれが一体何を意味するのかを思い出した。

 

 ブルーの弟分であり、これから起こる戦いに大きく関わる少年――シルバーが本格的に動き始めたのだ。

 

 更に話を聞けば、後輩のウツギ博士の研究所からポケモンが盗まれたこともあり、オーキド博士はこれらの事件に関連性があると考えてキキョウシティの警察署に来ていたと言う。

 

「それにしても何故アキラ君がここにおるのじゃ? タンバジムで修業していることは聞いておったが」

「この近辺の空を飛んでいたら運悪くと言うべきでしょうか。リュットがたまたまロケット団を見つけてしまいまして、そいつらを叩きのめしたので警察に突き出していたんです」

 

 話ながらアキラは、オーキド博士に目線で警察署の近くで退屈そうに座り込んでいるカイリューの姿を示す。

 オーキド博士は自分がシジマやエリカから許しを得て調査名目でジョウト各地を飛び回れることは知らないが、カイリューがロケット団に対して強い敵意を抱いていることは知っている。

 アキラもまさか偶然とはいえ早々にロケット団に遭遇するとは思っていなかったが、何かしらの悪事を目論んでいる可能性があるのと叩きのめせる力があるのにカイリューが大人しく見過ごす筈が無い。

 そこまで話すと、オーキド博士は腕を組んで神妙な表情を浮かべる。

 

「そうか。立て続けにそんな事が起こると言う事は……運命が動き出したのかもしれんの」

「――運命ですか…」

 

 オーキド博士が話すことは、アキラでも何となく理解出来る。

 完成したばかりの新型のポケモン図鑑と特別に研究されていたポケモンが盗まれ、更には壊滅した筈のロケット団の暗躍。

 多少異なってはいるが、丁度レッド達が旅を始めた頃と状況は似ていると言っても良い。当時を知る者であれば、今年も何かありそうだと感じるのはわからなくもない。

 

「と言う事は、このタイミングで新型のポケモン図鑑が出来上がったことを考えると、誰かにそれらを()()()()()でもあるってことですね」

「――何故そう考える?」

「今までの経験や勘…ですかね? 偶然かもしれませんけど自分が知る限りでは、ロケット団絡みの事件や戦いでレッド達が凄い活躍していましたから何となく」

 

 今オーキド博士がその考えを持っているかは知らないが、ポケモン図鑑を手にした者は何故かその地方を揺るがす大事件や戦いに巻き込まれる運命にある。

 物語の都合だとしても、ポケモン図鑑を手にしただけで何かしらのトラブルに巻き込まれるなど、普通は有り得ない。

 とはいえ、ポケモン図鑑を持っているから巻き込まれやすくなるのか、ポケモン図鑑を持たなくても巻き込まれやすい人物なだけなのかは判断し難いのに変わりはない。

 

「……何でも盗んだ犯人の顔を見た少年が近くにおるらしい」

「そうなのですか。それは…何だか期待出来ますね」

「どういう意味じゃ?」

「レッド達に続く図鑑を持つべき人物って意味ですよ」

「何を言っておる。レッドにグリーン、ブルー、偶然ではあったがイエローもトレーナーとしての実力があっただけでなくポケモン図鑑にデータを集めていたのじゃ。そんな簡単に渡せるものではない」

 

 レッド達の普段の様子を見ると忘れてしまうが、オーキド博士が作ったポケモン図鑑の目的は新種も含めたポケモンのデータ収集だ。

 戦うポケモンのレベルや能力値、技構成を瞬時に読み取る機能は、正確なデータを収集する為の必要な要素に過ぎない。

 本来のポケモン図鑑は、身分を証明する為の道具でも、手にしたら戦いに巻き込まれる呪いの装備でも無いのだ。

 

「まぁとにかく会ってみましょう。図鑑を持つのに相応しく無いとしても、盗んだ相手の顔を唯一見たんですから、情報くらいは期待できます」

「それもそうじゃの」

 

 それを機に二人を話を切り上げる。

 アキラは待っていたカイリューの元へ、オーキド博士はモンスターボールから大きな二本のツノを持ったオドシシと呼ばれるポケモンを出す。

 二人はそれぞれ手持ちの背に乗ると、キキョウシティの警察署を後にする。

 オドシシの走るスピードもそれなりにあった為、カイリューの方もそのスピードに合わせて並走する形で低空飛行する。

 

「ウツギ博士の研究所からポケモンを盗んだ奴と戦った少年はどんな人物なのですか?」

「詳細はわからんが、ヒノアラシを連れたレッドに近い年だとは聞いておる」

 

 口振りからオーキド博士は盗んだ人物に関する話を聞ける以外は全く期待していないのが感じられたが、アキラとしては犯人の顔を見た少年――恐らくゴールドに会うのをちょっと楽しみにしていた。

 以前勘違いでジョウト地方中を駆け回った時、彼はゴールドを遠目で見たことはあるが直接接触したことは無かった。

 態度や振る舞いはいい加減で不真面目な印象を受けたが、ポケモンとの接し方や困っている人を助ける姿は、ある意味ではレッドに似ている側面があったりと少し判断に困っていた。

 

 そんなことを考えながら人が通れる様に整備された道をしばらく移動していると、星空以外に明かりが無い森の傍の拓けた場所から焚火らしき明かりが見えてきた。

 焚火の近くには二人の少年らしき姿が見えたが、連れているポケモン達の姿を目にしたアキラは確信を抱く。

 

「どうやら彼らしいですね」

「じゃな」

 

 オドシシが速度を緩めて足を止めると、飛んでいたカイリューも着地する。

 その際に軽い揺れと地響きを鳴らしたので、焚火をしていた二人がこちらの存在に気付いて目を向けるのだった。

 

「オッ、オーキド博士!? な、何でここに!?」

 

 二人の内の一人である短パン小僧らしき少年は、オーキド博士がいることに驚きを露わにしていたが、もう一人の特徴的な前髪に逆向きに被った帽子の上にゴーグルを掛けた少年の方は怪訝な眼差しだった。

 

「なんスかいきなり、俺は偉い博士に用なんか無いッスよ」

「ゴ、ゴールド!」

 

 ゴールドと呼ばれた少年は、やって来たオーキド博士に興味が無いのか失礼な態度を取る。

 そんな彼の態度が少々気に入らないのか元々悪いカイリューの目付きが更に悪くなるが、アキラは目線を向けて抑える様に促す。態度の悪さはカイリューも似た様なものだからだ。

 だがカイリューは彼の意図を理解しながらも、目線だけでも余所に向けて知らんぷりをする。

 

「君には無いかもしれんが、儂は君に用がある」

 

 そんなゴールドの不遜な態度を気にせず、オーキド博士は開発したばかりという新型ポケモン図鑑をゴールドに見せる。博士と彼らのやり取りを気にしながら、アキラはゴールド自身と彼が連れているポケモン達を観察する。

 鋭敏化した目を通して認識出来る範囲内では、ゴールドの身体能力は同年代と比べたら良い方だが、シルバーと比べたら彼よりは低い。

 そして手持ちポケモンの鍛え具合も含めてあらゆる面で負けている。

 

 だが、アキラが鋭敏化した目を通して認識出来るのは主に肉体面での能力なので、彼が完全にシルバーに敵わない訳では無い。

 ゴールドの真価は、単なるパワー不足を補うだけでなく、時には逆境さえも覆してしまう機転の良さだった筈だ。

 

 方向性は道具や挑発を駆使するのでブルーに近い戦い方ではあるが、機転の良さでピンチの状況を乗り越えるのはレッドを彷彿させる。

 そして実力そのものも現段階ではシルバーと比較すると彼には負けるが、短期間でこの地方を脅かす巨悪を直接負かすまではいかなくても追い詰めるまでに力を付けるのだ。

 今は力を付けたことである程度の実力が付いた自信があるアキラでも、その急成長は羨ましく思えた。

 

 そんなことをぼんやりと考えていたら、オーキド博士とゴールドの話は徐々に騒がしいものになってきた。

 原因はゴールドが盗んだ相手――恐らくシルバーと対等な条件で戦いたいからポケモン図鑑をくれと言い出したからだ。

 強請る彼に対して、オーキド博士は断固として渡すつもりは無かった。

 

 残っているのが二機しか残っていないこともあるが、博士としては戦いに活用されるよりは色んなポケモンのデータを集めて貰いたいのだ。

 アキラとしてはどちらの気持ちもわからなくも無かったが、どちらかと言うとゴールド寄りであった。

 何故なら友であるレッドは旅立ったばかりの頃は集めていたものの途中から止めてしまい、ブルーに至っては作中内で集めていたのかさえ彼の記憶では曖昧だ。

 

 後のことを考えると、真面目にポケモン図鑑のデータ集めをしていた図鑑所有者は一人を除いて殆どいなかった記憶がある。

 ある種の身分証明書、或いはそれこそ今オーキド博士がゴールドに渡したくない理由である戦いを有利に進める為にしか活用されていなかった。

 一応結果的にそうなることを見越して、捕獲することなく単純に遭遇したりバトルしただけでデータ収集が出来る様に、後継機は改良を重ねた可能性も考えられなくは無いけれども。

 

「良いじゃんちょっとくらい借りたって」

「ダメじゃダメじゃ! 図鑑は実力があって信頼出来る者にしか託さん!」

 

 徐々に両者の話が拗れてきていたのを見て、アキラはこの後にあるであろう出来事を思い出そうとする。

 最終的にオーキド博士はゴールドに図鑑を渡していたが、果たしてどういう経緯だったのか。

 博士がポケモン図鑑を渡すに値するトレーナーの基準をある程度把握していたつもりだったが、詳しい過程や切っ掛けの記憶はあんまり憶えていない。

 よく思い出そうと頭を捻り始めた時、唐突にゴールドがアキラに視線を向けて来た。

 

「つうことは…その目付きの悪いドラゴンを連れている奴とかが、ジジイの言う実力がある奴ってことッスか?」

「そうじゃ。アキラ君は図鑑は持っていないが単に実力があるだけでなく、その力を活かして多くの人達の為に幾つもの危険な脅威を退けてきた正真正銘の実力者じゃ」

 

 思い掛けないオーキド博士のかなりの高評価にアキラは少し照れ臭い気持ちになったが、同時に嫌な予感がした。

 博士が自分のことをそう評した直後、向けられていたゴールドの目付きが鋭くなったからだ。

 

「お前! 俺と勝負しろ!」

 

 どうやら余計な事に飛び火してしまったらしい。




アキラ、ゴールドと初めて対面するもいきなり勝負を挑まれる。

次回はゴールドとアキラのバトルになります。

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