SPECIALな冒険記   作:冴龍

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要警戒対象

 とある小さな町に構えられているポケモンセンターのすぐ近くに、飛来したカイリューが勢いを抑えないまま地響きを鳴らして着地する。

 砂埃だけでなく衝撃で土も舞い上げる程の着地だったため、付近にいた人達は突然やって来たカイリューへ何事かと目を向ける。

 ドラゴンポケモンのトレーナーであるアキラが背中から顔を出すが、普段の様に滑るのでは無くカイリューの肩を踏み台に飛び降りると周囲から向けられる視線とまだ舞い上がっている砂埃を気にも留めず、飛行用のゴーグルを外しながらポケモンセンターの中へと駆け込む。

 その表情は焦っており、センター内に飛び込んでから彼は何かを探す様に右往左往していたが、あるタイミングでようやく落ち着きを見せた。

 何故なら彼がここにやって来た目的の人物が居たからだ。

 

「ん? アンタ、確か…」

「話は聞いたぞ。――ゴールド」

 

 相手もこちらに気付いたのを見て、アキラはポケモンセンター内に備え付けられていたパソコンの前で紫色の髪をした青年らしき人物と一緒に居るゴールドに声を掛ける。

 怪我を負ったのか体の至る箇所に包帯などの治療の痕が見られたが、それでも如何にか無事なゴールドの姿にアキラは心底安心する。

 

()()()()()で、ヤバイ奴に遭遇したらしいな」

「…知ってたんスか」

「そのことについて実際に戦った君から話を聞きたいのが、俺がここに来た理由でもあるからな。ヤバイ奴なら、今世間を騒がせているロケット団の残党を纏めているボスや幹部の可能性が高いからね」

 

 アキラがこの場に大急ぎで駆け付けた理由。それは今彼らがいるこのポケモンセンターを構えているヒワダタウンにあるジムのリーダーであるツクシが、ウバメの森で事件性を疑われる被害者数名を保護したという話を聞いたからだ。

 最近ヒワダタウンの近くにあるヤドンの井戸で悪事を働いていたロケット団が、何者かに一網打尽にされていたことについてはアキラは知っていた。しかし殆ど間を置かずに今回の情報をシジマ経由で知った彼は、タンバジムで行っていた鍛錬を早めに切り上げて急いで来たのだ。

 口では彼が遭遇した敵の情報を求めてきた様な口振りだが、実際のところゴールドが無事なのか気になっていたことの方が大きい。

 

「ゴールド、彼は?」

「アキラっつう、何か頭が固い奴ッスよ」

「か、固いって……」

 

 隣に立っていた紫色の髪の青年に自分が何者なのかをゴールドは端的に教えるが、彼の説明にアキラは何とも言えない表情を浮かべる。

 ゴールドはその性格故に初対面でも馴れ馴れしい態度を取ったり変な渾名を付けたりする時があるが、まさか”頭が固い奴”扱いされるとは思わなかった。

 レッドからも「頭が固い」だとか「変に真面目」だとか言われたことはあるが、彼から見ても自分はそういう人間だと認識されているのだろうか。

 

「アキラ? ひょっとして、君がシジマさんのお弟子さんの」

「――初めまして、タンバジムでシジマ先生の元で修業をしているアキラです」

 

 初めて会うこの町のジムリーダーであるツクシに、気を取り直したアキラは頭を下げて挨拶をする。横でゴールドが「そういうところが固いんスよ」と言っているが気にしない。

 ツクシはウバメの森でボロボロになっていたゴールドを保護するだけに留まらず、祠付近にいた全身を外套で身を隠した仮面を被った謎の人物と、軽くだが一戦を交えたと言う話もアキラは聞いている。

 何故そのタイミングでツクシがウバメの森に居たのかは、最近のロケット団の活動とアキラ自身の行動が関わっている。

 

 前にカイリューが叩きのめしたロケット団をアキラが警察に突き出したことで、シジマやエリカなどの知り合いのジムリーダーを経由して伝えて貰っていたナツメの予知の信憑性が高まり、ジョウト各地のジムリーダー達が警戒感を強めているからだ。

 更に彼は、結局逃げられてしまったがウバメの森で起きた出来事――イツキとカリンについてもシジマに報告をしている。

 悪事を働いた証拠は無いのでウバメの森に怪しい奴が関心を寄せている程度の扱いだったが、ヒワダタウンの近くの井戸でロケット団が確認されたことでツクシはウバメの森も見回っていたらしく。その際、ポケモンの糸で体を縛られて動けなくなっていたゴールドを発見し、犯人と思われる仮面で顔を隠した人物と軽く交戦したとのことだ。

 

「君やシジマさんの警告にヤドンの井戸での出来事から見回る範囲を広げていたけど、あんなのが出て来るなんて想像していなかったよ」

「…強かったですか?」

「あっちもすぐに退いちゃったから少ししか戦わなかったけど……かなり手強かったよ」

 

 かなり手強かった

 その言葉を口するタイミングで、ツクシが声色だけでなく目付きも真剣なものに変えたのを見て、アキラは仮面の人物ことヤナギに対する警戒心を更に強める。

 現役のジムリーダーが軽く戦っただけで、ここまで警戒すべき相手と判断しているのだ。

 本気だったのかどうかは定かでは無いが、こういう時は常に最悪の状況を考えるべきだ。

 

「あれ程のトレーナーがロケット団に所属している可能性を考えると、ジムリーダーとしても気が抜けないよ。アキラは昔ロケット団と戦ったことがあるんだよね? 何か過去の経験とかも含めて知っていることは無いかな?」

「知っていることですか…」

 

 戦ったとは言ってもロケット団が全盛期だった頃は、実力不足故にレッド達と違って逃げることを優先していたので求められる程の実戦経験は無いのが実情だが、この世界を作品として読んでいたアキラはこの先に起こるであろう出来事を印象に残っているのから順に思い出していく。

 ポケモンリーグ、チョウジタウンや怒りの湖、タンバシティ近くのうずまき島、そして――

 

「――確証はありませんが、前ウバメの森で戦った二人組の男女がエンジュシティでロケット団の残党が何かの計画をしているらしいという話を耳にしました」

 

 具体的な目的はもう忘れてしまっているが、ロケット団がスズの塔やエンジュシティの町を滅茶苦茶にしていたのを彼は良く憶えている。

 細かな詳細は忘れても、災害規模の事件が起こるというのは三年経っても忘れるものではない。

 一年前のクチバシティで起こった様な街一つが壊滅的な打撃を受ける様な出来事。それも人為的に引き起こされるのだ。戦いに関われる力が有る無い関係無く、見過ごすことは出来ない。

 

「エンジュシティ…マツバさんの町か」

「本当に何かが起こるのか、それとも起こらないのかはわかりませんが」

「いや、例え可能性でも警戒はすべきだと思うよ。今のジョウト地方は至る所にロケット団が潜んでいる様なものだから」

「幹部――いえ、ボスなどの纏め上げている存在を潰さない限り、ロケット団は抑えられないでしょう。使い捨ての下っ端の代わりになる存在はそれなりにいますから」

 

 壊滅させられたとはいえ、ロケット団のネームバリューは全盛期程では無いが健在だ。

 そして力を持て余したり、ポケモンの力を自らの力そのものと勘違いしたりしてやらかす奴は常に一定数はいる。

 組織そのものにプライドを持っている者はいるが、多くの団員はロケット団の一員となることで、その名を利用して好き勝手なことをやりたいと考えている者ばかりだ。

 そしてロケット団を動かす幹部級も、それらの思惑を承知の上で勢力的にも戦力的にも使い捨てでも良いから都合の良い下っ端、出来れば実力者が欲しいと考えている。

 そう言った双方の思惑や利害が一致することで、ロケット団の勢力は強まっていく。

 今は残党達を一方的に捕縛しているが、もしジムリーダーが負けてしまったなどの悪い意味での情報が広まりでもしたら勢いに乗られる可能性も十分に有り得る。

 

「警察も過去にカントー地方で起こった出来事は防ぎたいみたいだけど、中々上手くいっていないみたい」

「やっぱり、ポケモンバトルになると不利なのでしょうか?」

「巧妙に隠れているってこともあるんだけど、いざ見付けてもアキラの言う通り、バトルとかのポケモンの力を使われると何人か取り逃がしたりと結構苦労するみたい」

 

 アキラの疑問にツクシは補足する形で肯定する。

 本来ロケット団が起こす犯罪に対応すべきである警察なども動いてはいるが、ロケット団と戦う上で必須と言えるポケモンバトルの実力があまり良くない警察官が多い問題はこのジョウト地方も同じだ。

 もっと警察の中から腕の立つ人達が出て欲しいが、ポケモンバトルが強い者はトレーナーとしてある程度やっていける場合が多いので、強いトレーナーで警察を志す者は多くは無い。

 

 そんな十分な対応力が欠けている状態なのに、今まで警察が手に負えない強力な野生ポケモンや腕の立つ犯罪者を相手に何とかやってこれたのは、ジムリーダーなどの実力者に協力を要請することで撃退や無力化を引き受けて貰っていたからだ。

 

 ポケモンバトルはその分野に強い専門家に任せる。

 

 そういう風潮が長く続いた為か、警察は犯罪者の捕縛術や野生ポケモンの誘導などの技術は磨いているが、ポケモン同士を戦わせるバトルの実力を身に付けることにはあまり力を入れてこなかった。その結果、集まる人材や所属している面々の多くは、ポケモンバトルの実力が中途半端だったり怪しい者ばかりだ。

 

 しかし、数年前に個人レベルからいきなりロケット団の様な大規模組織レベルでポケモンを悪事に利用する存在が現れたことで、これまであまり気にされていなかった問題が一気に露呈してしまうことになってしまった。

 どうすれば良いのか、二人は悩ましいと言わんばかりの表情を浮かべ、そんな彼らの雰囲気に耐え兼ねたのかゴールドは二人に話し掛ける。

 

「なあに二人揃って難しい顔をしてんスか」

「どうすればロケット団を大人しくさせられるのか悩んでいるんだよ」

「…アンタらの実力でも悩むくらいなんスか」

「確かに僕達は強いけど、何時も勝てるって訳じゃ無い。どれだけ手を伸ばしても届かないものもあるし、限界もある」

 

 ツクシの言葉に、アキラは同意する様に頷く。

 昔と比べれば天と地どころか、当時なら絶対に想像出来ないまでにアキラは強くなれたが、それでもまだまだ最強には程遠い。

 この世界で最強を名乗れるとしたら、ポケモンリーグで優勝するだけでなく、サカキやヤナギなどの並み居る強敵を蹴散らし、伝説のポケモンなどの常軌を逸した存在を打ち負かせる程にならないととてもじゃないが名乗れない。

 それにツクシの言う通り、幾ら高い実力を身に付けたり安定して維持出来ても、常勝であり続けるのは難しい。

 

「――何で悪いことを企む奴に限って強いんだよ」

 

 もう何十回も考え、その理由も自分なりに考えた上でそれがこの世界なのだと受け入れているが、思わずアキラは溜息交じりで愚痴をこぼす。

 そんなアキラの姿にゴールドは、改めて「やっぱ頭固いなこの人」と思うと同時に「疲れているな」とも思うのだった。

 

 

 

 

 

 窓が一つも無い長い通路を一組の男女が静かに歩いていた。

 彼らが身に付けている服には、現在ジョウト地方各地を騒がせているロケット団を示す大きな「R」が刻まれていたが、身に纏う空気は一線を画していた。

 やがて彼らは通路の先にある一室の前にやって来ると、部屋に入ってすぐに中で背を向けている長い白髪をした人物に揃って恭しく頭を下げる。

 

「御呼びでしょうか? 首領様」

 

 男の方が尋ねると、部屋の中に立っていた全身を外套で身を包んだ不気味な白い仮面で素顔を隠した大柄な人物――ロケット団の残党達を纏める新首領、仮面の男(マスク・オブ・アイス)が振り返る。

 

「――カーツ、シャムよ。計画は順調か?」

「はっ。既に事前調査は済んでおり、実行部隊を編成次第すぐにでも取り掛かれます」

 

 尋ねられた内容を察し、今度は女性の方――シャムが質問に答える。

 今彼らが進めている計画は、目の前にいる首領から直々に任せられて念入りに進めてきたものだ。今すぐは無理だが、準備さえ整えば必ず成功させる自信が彼らにはあった。

 仮面の男もそんな彼らの様子を見て、満足気に頷く。

 

「よろしい。お前達に任せている作戦は今後の計画を進めていく上でとても重要だ。心して掛かれ」

「必ずや成功させてみせます」

「各地で失敗ばかりしている間抜けな残党共と違い、お前達二人は私が直々に鍛えたのだからな。期待している。だが、下っ端の数には注意して貰おう。あまり減り過ぎると今後の計画に支障が出る可能性がある」

 

 サカキを筆頭とした幹部格を失って路頭に迷う残党達を纏め上げたところまでは良かったが、あまりにも失敗続きなので最近は陽動以上の利用価値を見い出せていなかった。

 しかし、それでも人手の多さ、数の暴力と言うのは無視出来ない。

 予想以上に早い段階でジョウト各地が警戒し始めたことで、捕まる団員の数が予想を大きく超えつつある為、これ以上増えては今後の計画に支障をきたしかねない。

 

「ご心配には及びません。作戦当日はエンジュシティのジムリーダーが町から一時的に離れることがわかっています。そしてあの町にはジムリーダー以外に我らの脅威になり得る存在はいません」

 

 仮面の男の懸念を払拭するべく、男の方――カーツが作戦の一部について述べる。

 下っ端達が任務に失敗したり簡単に捕まってばかりなのは、一言で言えば”実力が無い”、それに尽きる。

 本当は負けてしまったり簡単な任務すらこなせなかった無能は切り捨てるところだが、仮面の男の言う通り最近はそういう訳にはいかなくなってきていた。

 その為、それらも考慮した結果、決行日としてエンジュシティのジムリーダーが留守にする日を選んだのだ。

 町一番の実力者がいない状況下なら、自分達が直接現場で下っ端達の指揮を執れば、そこまで人員を消耗させることは無いだろう。

 

「――ジムリーダー以外に脅威になり得る存在はいない…か」

 

 だが自信に満ちている二人に反して、仮面の男の反応はあまり良いものでは無かった。

 何か不興を買ってしまったのかと二人は冷や汗を滲ませるが、仮面の男は近くの机に置いてあった紙の束を手に取ると投げ捨てる様に二人の足元に放り投げた。

 

「これは?」

「最近、イツキとカリンがウバメの森で蹴散らされた話を知っているだろう」

 

 仮面の男の問い掛けに二人は頷く。

 予行演習も兼ねた簡単な任務を達成することが出来なかっただけでなく、祠にやって来たトレーナーに返り討ちにされて無様にも敗走した二人の姿は記憶に新しい。

 そして目の前の人物の怒りを買った二人は、次の任務に向けて今は仮面の男から直々に再教育を受けている真っ最中でもある。

 

「二人の話から退けた者が何者なのか調べてみたところ、どうやら我らの計画の障害になりそうな厄介な奴なのがわかった」

「厄介な奴?」

 

 どういう意味なのか知るべく、足元にある一枚の写真が添えられた資料をカーツは拾う様に手に取る。

 写真は離れた距離の横から隠し撮りされたものであったが、モンスターボールに入れずに連れ歩いているポケモン達の集団の先頭に立つ一人の少年が写っていた。

 それなりに情報は多いのか資料の束は少し厚みがあったが、中身を詳しく見るのは後回しにして資料の一枚目に記載されている簡易プロフィールや記録に彼は軽く目を通す。

 少年の名はアキラ。公式戦績は三年前のポケモンリーグ予選敗退。カントー地方のバッジを三つ保持。そして一年近く前に起きたカントー地方での事件では、ジムリーダー達と共に戦った多くの一般トレーナーの一人。

 現在はタンバジム・ジムリーダーであるシジマの元でポケモントレーナーとしての修業を積んでいることなどが記されていた。

 

「奴によって下っ端の中でもそこそこ使える中隊長の三人も捕まった。更に正確な時期は不明だが、()()()()()()イブキも奴に負かされたそうだ。もしかしたらお前達の前にも姿を見せるかもしれない」

「フスベジムのジムリーダーに勝ったのが事実でしたら、確かに我らの脅威になり得ますね」

 

 ロケット団中隊長を名乗る三人の団員だけならまだしも、ジョウト地方でも最強と名高いフスベジムのジムリーダーも本気で挑んだにも関わらず彼に負けた。

 添付されている写真には、カイリューなどの強力とされるポケモンを手持ちとして連れているのが写っているが、率いているトレーナー本人からはそこまで強いという印象は受けなかった。

 だが、現に自分達に引けを取らないイツキとカリンを負かしてもいるのだ。公式記録では大した成績は残していないが、今タンバジムで行っているトレーナー修行によって急成長した可能性も考えられる。

 油断はせず、写真に写っている少年とポケモン達が自分達の前に立ち塞がった時のことを考えて最大限の警戒をして備えるべきだろう。

 

「現在奴についてわかっているのはその資料の範囲内だけだが、油断するでは無いぞ」

「御助言、ありがとうございます」

 

 二人は改めて頭を下げると、仮面の男はもう用は無いと言わんばかりに背を向けるのだった。

 

 

 

 

 

「あむ。――やっぱりみたらし団子はシンプルで美味いな」

 

 同じ頃、自分に関する不穏なやり取りがされていることを露程も知らないアキラは、木造建築である和風な建物が多く立ち並んでいる町――エンジュシティを訪れていた。

 ヒワダタウンで状況を確認した後、彼はロケット団が次に大きな事件を起こすと見ているこの町を訪れ、何か怪しい点が見られないか気にしながら町の中を散策していた。

 最初は警戒心だらけだったが、途中で見付けた無料の観光パンフレットをゲンガーが持ってきたのを機に徐々に町の雰囲気の影響を受けたことで、今では和菓子店で手持ちと一緒に長椅子に座ってのんびりと団子を食べていた。

 

 シロガネ山同様に元の世界に存在している町をモチーフにしていることがハッキリと認識出来るからなのか、今では気分は修学旅行をしている学生の気分だった。

 頼んだ団子全てを食べ終え、程々の苦味のお茶で口の中に残った甘味を流すと同時に喉を潤し、アキラは一息つく。

 横を見るとまだ何匹か団子を食べていたが、程無くして彼らも団子を一通り食べ終え、多くは小腹を満たせたことで満足気であった。

 

「食べ終えたから、そろそろ行くぞ」

 

 既に団子の代金は支払っているので、アキラはサンドパンらと一緒に皿と残った串を片付けながら告げる。

 その言葉を合図に、ゲンガーやブーバーら何匹かがエネルギー補給完了と言わんばかりに気合を入れる。それから彼らは、周囲に散開して辺りに目を配ったりと警戒するが、さっきまでとは違って単に観光気分でテンションが上がっているだけなのは一目瞭然だった。

 後、普通に悪目立ちしているので、このままだと町の人達や観光客から変な視線を向けられるだけでなく、下手すれば自分達が警察に通報されるのでアキラは頭を痛そうに抱える。

 

「お前ら、程々にしないとボールに戻すぞ。目立ち過ぎ」

 

 今アキラはポケモンを九匹連れ歩いている状態だが、トレーナーとしてでは無くポケモン達と一緒に観光をしている観光客の一人みたいに見られている。なので六匹以上もポケモンを連れているマナーが悪いトレーナーとか気にされていないが、こうも目立ち過ぎるのは考え物だ。

 流石にアキラの言葉に納得したのか、散開していた面々は団子屋の前に戻る。皆が揃っていることを確認したアキラは、彼らを先導する形で再び町の中を歩き始める。

 

 それからアキラ達は、街の隅々を散策するだけでなく、パンフレットにもあるエンジュシティの観光名所や目に付いたお店や建物に入ったりとする。

 傍から見ると観光客そのものであったが、時折さり気なく周囲を確認するなど警戒することも忘れていない。

 たまに私服姿ではあるが目から見える印象や体の動かし方などから警官らしき人物を見掛けたりするので、この町も表向きは賑やかではあるがロケット団に備えていることが彼の目から見ても窺えた。

 

「警察の人達が結構動いているんだから、デカイ事件を起こさずに大人しくしてくれないかな」

 

 私服警官らしい人を見送った後、心底願う様にアキラは呟く。

 普通なら警察官が巡回していたりすると、抑止力が働いて犯罪発生率は低下したりするものだが、相手は警察が全く怖くないのだ。

 

 今まで彼が見てきた警察官達のポケモンバトルの実力は、その多くが下っ端が相手ならそこそこ戦えるが幹部格が相手だと束になっても敵わないくらいのレベルだ。

 これではロケット団の数が多いから対処に手が回らない以前に、追い詰めたとしても手持ちポケモンの実力差でゴリ押されて返り討ちに遭ったり逃げられるのがオチである。

 カントー地方では、エリカ達ジムリーダーが中心になってこの現状を改善しようと動いていることをアキラは知っている。しかし”喉元過ぎれば熱さを忘れる”なのか、どうも動きが鈍いのと本人達の多忙さなども相俟ってまだ十分に解消されていない。

 もし今この場でロケット団が騒ぎを起こしたとしたら、この町に居る警官達はジムリーダーなどの実力者に頼らず自力で鎮圧することが出来るのか。

 

 そんなことをぼんやり考え始めた時、唐突にゲンガーがアキラの服の裾を引っ張って来た。

 

「どうしたスット?」

 

 意識を手持ちに向け直してアキラが尋ねると、ゲンガーはまるで強請る子どもの様に頻り何かを指差していた。

 視線をその指差す先に向けると、そこには観光地などで良く見られる使い捨てカメラの自販機が置かれていた。

 

「何だ? カメラが欲しいのか?」

 

 アキラの問い掛けにゲンガーは頷く。

 何故カメラを欲しがるのか、そもそも使い方はわかるのかなど色々な疑問が浮かぶが、周囲を良く見渡すと道行く人達の多くがカメラを持っていた。

 それだけで彼は欲する理由を察したが、最近はゲンガーの助けを借りる機会が増えてきているので、少しくらいは我儘は許しても良いかとも思っていた。

 

「わかったスット。買うのが決まったら教えてくれ」

 

 購入許可を貰えたゲンガーは、喜びを露わにするとスキップする様な足取りで使い捨てカメラの自販機の前に居座るのだった。

 

「――ヤドットは何か欲しいのある?」

 

 シャドーポケモンの姿を見て、アキラは自分の横にいるおうじゃポケモンに欲しい物は無いのか聞く。

 ヤドキングも同じくらい”単語の勉強”をして自分の力になっているのだ。不公平にならない様にと思ってのことだったが、彼は首を横に振る。

 要らないのか、と思ったが、代わりにヤドキングは何かをグイッと飲む仕草をアキラに見せる。

 

「わかった。今度タンバのきのみジュースを買う時はお前の分のサイズを大きくするよ」

 

 訳さなくてもわかりやすい仕草だったが、口約束ではあるが確約して貰えたことにヤドキングは満足気に頷く。

 使い捨てカメラを買うお金があるのか財布の中を確認する前に、アキラは他の手持ちが今どこで何をやっているかに意識を配る。

 カイリューやサンドパンは、横にいるヤドキングと同じで自分の近くいたが、何匹かはエンジュシティでの観光を満喫しているみたいであった。

 

 ゲンガーはどの使い捨てカメラを買うかまだ考えており、エレブーとサナギラスは甘い匂いに惹かれたのか、エレブーがサナギラスを肩に乗せる形で観光客に交じって、目の前で作られていくお菓子の実演販売を一緒に見ていた。

 そしてブーバーとカポエラー、ドーブルの三匹は土産屋にいたが、えかきポケモンはキーホルダーやアクセサリーに興味津々で、他の二匹は展示される様に並べられている木刀や模造刀を眺めていた。

 ポケモンが商品であるそれらに触れてはいけない注意書きがあったので彼らは律儀に守ってはいたが、武闘派の二匹は腕を胸の前で組んだ大真面目な目付きをしているからなのか揃って近付き難い空気を醸し出していた。

 特にカポエラーは忍者系の武器を模した土産物、中でも特大サイズの手裏剣にある意味熱い視線を送っていた。

 

「……買っても良いけどバトルでは使えないからな」

 

 ポケモンが道具を使う事は公式ルールでも認められてきてはいるが、それでも使用可能な得物系は今ブーバーが所持している”ふといホネ”やカモネギらが持つ”ながねぎ”くらいだ。

 野良バトルならルール無用なので何でも使用することは出来る。だが、外聞が悪い上に公式ルールでは使えない戦い方に慣れてはアキラとしても困る。

 そもそも実戦に耐えうる強度では無いので実用性に欠けている。

 

 使う事が出来るとしたら、ブーバーの様に本来適性が無い道具を上手く使いこなせる様にするか、以前レッドのニョロボンが氷技を使った時の様にバトル中に何かしらの技を利用して武器を編み出すくらいだ。

 ゲンガーも以前は武器を欲していたが、”ふといホネ”はブーバーと被る――否、真似ている感があるからなのか強請ることはなくなった。

 ならばカモネギの”ながねぎ”でもと思ったが、”ふといホネ”程ではないが入手が面倒なだけでなく強度がある以外は普通のネギと変わらない問題が調べていく内に判明して断念している。

 

 だけどアキラとしては個人的には心を擽られるので、居候先の保護者であるヒラタ博士とその家族への日頃の感謝も兼ねた土産だけでなく、自分の分の木刀でも買おうかどうかちょっと本気で考える。

 その悩みは今買う事が出来るだけのお金が無いことが判明する形で、ある意味解消されることになるのだが、この時の彼は知る由も無かった。




アキラ、エンジュシティを回っていた頃、遂にロケット団に警戒される人物としてリストアップされる。

今までアキラは存在を知られても殆ど警戒されていませんでしたが、今後は何かと敵対する側も彼の存在に用心したり対策などを練ってきたりとすると思います。
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