しばらくは更新していきますが、これからも自分も楽しみながら頑張って書いて行きたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「――ゴールド、彼を追って。俺は彼の置き土産の後始末をする」
離れて行くシルバーを見ながらアキラはゴールドに伝えるが、彼は返事を返すことなく二匹の大型ポケモンの戦いを余所に走っていく。
言われるまでも無く彼はシルバーを追うつもりだったのだろう。シルバーを追い掛けて行くゴールドをアキラは見届けると、今も砂嵐の中で取っ組み合いの肉弾戦を繰り広げるカイリューとバンギラスに目を向ける。
「…ワタルが連れていたバンギラスか」
ポケモンは彼が連れているカイリューの様に目付きが悪いなどの目立った特徴が無ければ、同種だと見分けがつきにくい様に思えるが、意外とわかりやすいものだ。
そして今カイリューと戦っているのは、以前戦ったことがあるワタルのバンギラスだ。
確かにレベルや能力的に考えるとカイリューを相手に正面から対抗出来る戦力ではあるが、シルバーはこのよろいポケモンを御している様には見えなかった。
人のことはあまり言えないが、これだけの力を持つポケモンを野放しにするのはハッキリ言って良くない。
やっていることがさっきニドキングに任せて逃げようとしたロケット団と同じだし、言う事を聞いてくれないが故の暴走も考えて欲しかった。
「バーット、サンット」
前の戦いで、ワタルのバンギラスを倒し損ねたのを気にしていた二匹をアキラは呼ぶ。
すぐにブーバーとサンドパンは呼び掛けに応じて彼の傍に集い、何時でも戦いに飛び込める様に構える。
そして、バンギラスの鋭い牙を剥き出しにした噛み付きを捌いたカイリューが、その勢いを利用してよろいポケモンの巨体を投げ飛ばした時、二匹は駆け出した。
「リュットは下がって、後は彼らにやらせてやれ」
急いで駆け寄ったアキラが告げた言葉が不服なのか、カイリューは自分も戦わせろと息を荒く主張すると二匹の後に続こうとするが、彼は片手を上げてドラゴンポケモンを止める。
確かにカイリューも加われば勝利は確実なものになるが、以前の戦いでカイリューはワタルのカイリューを打ち負かしたのだ。
ここは二匹に任せる、と言うよりは仕留め損ねた心残りを払拭させる為にも譲ってやるべきだ。
「アキラさん、一体何が――」
少し遅れてミカンも駆け付けるが、すぐに現場の物々しい空気に気付く。
「ミカンさんは下がっていてください。すぐに終わらせます」
本当は彼女も加勢してくれた方が良いのだが、相手を考えるとアキラはどうしても自分達の手で倒したかった。
前に出たサンドパンとブーバーは、各々爪や手にした得物を構えて、カイリューに投げ飛ばされて地面に転がるバンギラスとの距離を詰める。
立ち上がったよろいポケモンは、新手である二匹目掛けて”いわなだれ”を放つが、飛んでくる無数の岩をブーバーとサンドパンは軽快に躱していく。
先に仕掛けたのはブーバーだった。
全ての岩を避け切ったタイミングに強い踏み込みで加速したひふきポケモンは、あっという間に懐に飛び込む。
吹き荒れる砂が体を打ち付けていたが、ひふきポケモンは全く気にせずにバンギラスの顔の高さにまで跳び上がると、”いわくだき”の裏拳でバンギラスの横顔を強烈に叩く。
しかしそれだけでは終わらず、素早く流れる様に体を捻らせると、”いわくだき”を打ち込んだ箇所に”まわしげり”決め、最後に体をもう一回転させて”ふといホネ”による”ホネこんぼう”を追撃に叩き込む。
弟子として面倒を見ているカポエラーが使う蹴りと体を捻らせる技術を取り入れた連続攻撃。三回も同じ箇所に打ち込まれて、バンギラスの鎧の様に固い顔の体皮にヒビが入る。
打たれ強い手持ちのエレブーでも暫く悶絶しそうな攻撃。しかも繰り出した技の全てが、バンギラスが苦手とするタイプだ。
確かにバンギラスの物理攻撃に対する防御力は高い。それがワタルの手持ちなら尚更だ。
だけど、シジマの元で学んで来たことで一流の格闘ポケモンと遜色無いレベルにまで鍛えられたブーバーの打撃攻撃を顔面に受けて耐えられるかとなると話は別だ。
攻撃を終えたブーバーは、バンギラスからの反撃に備えてすぐに距離を取るが、余程ダメージが大きかったのかよろいポケモンはヒビが入った部位を手で抑えながらよろめいていた。
そんな無防備な姿を晒すバンギラスに、サンドパンは間髪入れずに”じわれ”を放つ。
両手の爪が突き立てられた地面を起点に裂け目は瞬く間にバンギラスの足元まで広がっていくが、ブーバーから受けた攻撃のダメージが大きかったのか、よろいポケモンは避ける素振りを見せることなく、体勢を崩すとそのまま裂け目に呑み込まれるのだった。
「――呆気なく終わったな」
最終的に勝つとしても、相手を考えるともう少し時間は掛かるだろうと想定していたが、思いの外呆気なく終わってしまった。
念の為にブーバーとサンドパンが地割れに落ちたバンギラスの様子を窺うが、裂け目の底に転がるよろいポケモンはピクリとも動かなかった。
カイリューを相手に渡り合えるだけの力は持っていたが、あまり考えずに力に物を言わせて暴れていたのやその力を上手く導ける存在がいなかったのが、今回の早い勝利に繋がったのだろう。
さっきまで周囲に吹いていた砂嵐も収まったので、これで一先ず一安心とアキラは気を緩めるが、唐突ではあるもののあることに気付く。
「そういえば、リュットっていわタイプへの有効な技を覚えていなかったな」
いわタイプは他のタイプと比べると弱点を突きやすいタイプではあるが、意外にもカイリューは即座に繰り出せるいわタイプに効く技を覚えていない。
駆け付けた時点でバンギラスとの戦いが硬直状態だったのも、それが要因だろう。
一応いわタイプに効果的な格闘技をカイリューはある程度身に付けているが、使えるかくとうタイプの技は精々相手の勢いを利用した”あてみなげ”擬き。
覚えた方が今後戦いやすくなるだろうとアキラは考えながら、シルバーを追い掛けたゴールドが走った方角を振り返るのだった。
「おい待てシルバー! 待てって!!!」
アキラがバンギラスを下していた頃、ゴールドは逃げる様に走るシルバーを必死に追い掛けていた。
瓦礫だらけで足場が悪い道でもシルバーは軽々と進んでいくので、差は一向に詰まらなかった。
しかし、それでもゴールドは途中で転び掛けたりしたも、意地で追い縋っていた。
「この野郎! 絶対に逃がさねえからな!!」
「………」
背後から自身の名を呼ぶゴールドの声は当然シルバーには聞こえていたが、彼は構わず振り切るつもりで走る。
自らの目的を果たすべくこの町にやって来たが、来て早々に今自分が師事しているのと同時に指令を受けているワタルの宿敵、アキラが連れるカイリューに目を付けられたのは流石に予想外だった。
ワタル本人もそうだが、アキラは手持ち含めて互いに不倶戴天の敵と言える程に毛嫌っている。
その彼の手持ちの中でも、カイリューは特に敵意が強くて過激な方だ。だからワタルと何かしらの関係がある自分の姿を見掛けて、何か企んでいると考えたのだろう。
敵意を剥き出しにしたドラゴンポケモンの、まるで砲弾の様な突撃こそ辛うじて回避出来たが、次も上手くいくとは限らなかった。
すぐにワタルに渡されたハイパーボールから、カイリューと同じ巨体のポケモン――バンギラスを出すことで対抗した。
もしもの時、それこそアキラのカイリューの様な今の自分達ではまず勝つ見込みが無い敵と戦う時の対抗手段として持たされていたが、まさか役に立つ時が来るとは思っていなかった。
出現と同時に起こした”すなあらし”によって、カイリューの動きを鈍らせたバンギラスはすぐに仕掛けたが、それだけで仕留められる程カイリューは弱くは無かった。
結局、仕掛けた攻撃は防がれた挙句、”すなあらし”に掻き消されないだけの威力を有する”りゅうのいかり”の反撃を受けて有利な状況を瞬く間に失ってしまった。
体格や能力は互角、タイプ相性や戦い方ではバンギラスの方が有利そうに見えたが、実際はそう見えているだけで戦いが続けばどうなるかわからなかった。
何よりカイリューの行動をトレーナーであるアキラが放置する筈がなかった。そして案の定、遠くからこちらに真っ直ぐ迫る影が複数見えた。
幾らバンギラスが強くても、目の前のドラゴンポケモンと同格のポケモンが複数加勢すれば流石に無理だ。
このまま戦い続けるのは得策では無い。だけど、どんな手を使ってでもこの場から逃れなければ間違いなく捕まる。
そこまで考えたシルバーは、一度出したら言う事を聞かないバンギラスにカイリューの相手を任せて目的を果たすべくその場から離れたが、どうやらそれも上手くいきそうになかった。
そして瓦礫が殆ど無い場所にまで来た時、シルバーは足を止めた。
「ゴールド、前も忠告した筈だ。俺に関わるな」
それは以前、ゴールドがヒワダタウンでボール職人ガンテツの孫娘の為に山を登った際、偶然彼に会った時に告げられたのと同じ言葉だった。
しかし、ゴールドの答えは決まっていた。
「んなこと知るかよ。俺がお前を追い掛けると言ったらどこまでも追い掛けるんだよ!」
ゴールドとしては最初は仕返しや連れている手持ちポケモンの友達を取り返すなどが目的だったが、冒険を続けて行く内にそれ以外の目的も出来てきた。
復活を目論むロケット団、ウバメの森での仮面の男、そして盗みなどの悪事を働きながらもロケット団を容赦無く倒していくというシルバーの行動。
明らかに彼は何かの目的に沿って行動している。一体彼が成し遂げたい「目的」とは何なのか。そして彼の「正体」。
知りたいことが山の様に出来ていた。
「……痛い目に遭わせないとわからないようだな」
「俺がそんな脅しに屈すると思うか?」
モンスターボールを手にしたシルバーに応じ、ゴールドもボールを手にする。
以前なら彼とは、アキラ程では無いがそれでも実力差があることは嫌でも理解していたが、育て屋老夫婦の元で本格的に鍛えたお陰でかなり力を付けた自信があった。
それこそ、今なら全く歯が立たなかったアキラのカイリューに一泡吹かせられるのでは無いかと思えるくらいにだ。
シルバーの方も、今までの経験からゴールドが脅しや警告程度で止めるつもりが無い事は理解出来ていた。必要であれば、今ここで物理的に追えなくすることも視野に入れていた。
互いに出方を窺い、示し合わせたつもりは無かったが同時にボールを投げた。
「アリゲイツ、”かみつく”!」
「バクたろう、”かえんぐるま”!」
二人が投げたモンスターボールから飛び出した二匹は、同時に技を繰り出す。
思惑は何であれ、互いに目的を叶える為に持てる力の全てを発揮しようとした時だった。
目にも留まらない速さで両者の間にでんげきポケモンのエレブーが割り込み、二匹の攻撃を左右それぞれの腕を盾にする形で防いで止めた。
「!?」
「はぁ!?」
エレブーの突然の乱入にゴールドは理解出来ないと言わんばかりの反応をするが、シルバーはすぐにまずいことを悟る。
「アリゲイツ! 退くぞ!」
簡単に片腕で攻撃を防がれて困惑するアリゲイツを呼び、シルバーは急いでその場から離れようとする。
ところが彼が逃げようとした先の土が爆発した様に盛り上がり、土埃の中からサンドパンとカポエラーが退路を断つ様に姿を見せる。
咄嗟にシルバーはアリゲイツ以外のポケモンを出そうとしたが、シャドーポケモンのゲンガーもやって来たのを見て思い止まる。
現れたポケモン達はいずれもアキラの手持ち。相手がカイリューでなくても新加入の三匹を除けば、彼が連れるポケモンはどれも腕利きのトレーナーの手持ちでエースを張れると言っても良い猛者揃いだ。
そんなのが何匹も現れては、今シルバーが連れているポケモンでは強引に突破するのは困難を極める。
「もっと遠くまで行っているかと思ったけど、ゴールドが粘ってくれたお陰だな」
そしてゲンガーに続いて、彼らのトレーナーであるアキラも手持ちを数匹引き連れて姿を見せる。
手持ちだけでなく、彼自身もこの場に姿を見せたことにシルバーは驚く。
普通のトレーナーとは異なり、彼がたまに手持ちを六匹以上連れる時があることは知っていたが、何故こんなにも早く彼がやって来たのか。
さっきまでワタルから借りたバンギラスと戦っていた筈だ。
「――バンギラスは?」
「さっき倒した」
少し遅れてアキラの後ろから土埃を舞い上げながら、ドーブルが”へんしん”したミルタンクとカイリューにブーバーの三匹が、白目を剥いて気絶しているバンギラスを足や尻尾を掴んで引き摺る形で運んでくる。
そのまま放置する訳にはいかないのでこうしてシルバーに返す意味で連れて来たが、今思うとシジマから現場を一時的に任されているミカンがいるから、彼女に任せて放置していた方が良かったかもしれない。
と言っても、そのミカンも騒動を起こしたシルバーが何者なのか知りたいのか、遅れて三人がいる場所にやって来た。
自身の目の前に放り投げられたバンギラスの力尽きた姿に、シルバーは僅かに悔しさを露わにする。
自分でさえ言う事を聞いて貰えない程の力を持ったバンギラスをこうも容易く片付けるなど、やはりワタルが敵視するだけのことはある。
そして、今の自分ではどう足掻いても勝てない存在であることを嫌でも思い知らされる。
「――聞きたいことは色々あるけど、ワタルとはどういう関係なのか教えて貰えるかな」
シルバーがバンギラスをハイパーボールに戻したのを見届けてからアキラは尋ねる。
一応は彼の事情や目的はある程度知っているが、アキラとしては念の為本当に自身が把握している通りなのかの確認も兼ねていた。
「ワタルって…誰?」
「その人って、一年前にカントー地方で事件を起こして警察が追い掛けている人の名前ですよね?」
ワタルを知らないゴールドは首を傾げるが、ジムリーダーの立場であるミカンは知っていたので、アキラは彼女の発言を肯定する様に頷く。
「ミカンさんの言う通りの奴です。ついでに個人的な事情絡みですが、俺達の宿敵みたいな奴」
「宿敵って、おいシルバー。お前どんだけヤバイ奴と繋がっているんだよ」
「誰とどういう関係を築こうと俺の勝手だ」
「そりゃそうだろうけど、お前はそこまでして何がしたいんだ」
「……お前に教える義理は無い」
話す気が無いのかシルバーはゴールドの言う事をまともに取り合わなかった。
それもそうだろう。アキラが知っている通りなら、彼は仮面の男ことヤナギを止めるか倒す為に動いている。
その為の手段や力が得られるなら、ワタルに協力を求めている様に合法だろうと非合法だろうと彼は顧みるつもりは無い。
「まぁ…教える気が無くても、今ジョウト地方各地で起きているロケット団絡みなのは見当が付くけどね」
意味有り気にアキラが口にした内容にシルバーは反応を見せる。
「彼の行動がロケット団絡みとは…どういうことでしょうか?」
「端的に言えば連中の悪事を止める為の力を欲しているってところだと思います」
ミカンの疑問を良い言葉で答えれば、シルバーの行動はそれだ。
ただし無関係な人はあまり直接傷付けないだけで、必要と判断すれば盗みとかの犯罪行為を躊躇わず実行するのは頭が痛いが。
「何だよ、良いことしてんならワタルとか言うヤバそうな奴を頼らずに、素直に誰かに助けを求めれば良いじゃんか」
「それが出来ないから、彼はその”ヤバそうな奴”を頼っているんだよゴールド」
理由は幾つか知っているし、仮に知らなくてもある程度は察することも出来る。
そもそも彼には頼れる実力者以前に、信頼出来る大人がいない。誰かを頼ることが出来ないが故に目的の為なら使えるものは全て使う。
彼が姉と慕い、行動を共にしていたブルーが、生きていく為に詐欺やら言葉巧みに人を騙す術を身に付けたのと理由は同じだ。それ故に世間に顔向けできない何かしらの事情持ちになりやすく、更に頼れる存在は限られてしまう。
だからなのか、事情をわかっていないゴールドの発言に呆れているのか、シルバーは小馬鹿にする様な眼差しを彼に向けている。
「まっ、俺としては君の事情や目的関係無く、何回も言うけどワタルとの繋がりが気になる。奴が今ジョウト地方各地で起こっているロケット団に関して何を知っているのか」
「………」
状況的に不利なのを理解している筈だが、それでも何も話す気は無いのか相変わらずシルバーは黙ったままだ。
だけど残念ではあるが、アキラは彼が全く予想出来ない方法で過去も含めた事情をある程度知っているので無意味だ。
「あいつに従っているのか従わされているのかで扱いは変わるけど、その様子だと有益な情報と引き換えに従っているってところかな。堂々と出歩いている様子も無いのに、どこからこの地方で起こっている事件や異変の情報を仕入れているんだか」
「……そこまで察しているのなら俺に聞く必要は無いだろ」
「直接ワタルから情報源とか知っていることを吐かせようにも、探すのも戦うのも面倒だ」
前のタンバシティでの戦いや今回のバンギラスとの戦いでの感触だが、よっぽど大きな力を手にするなどで更に強くなっていない限り、今の自分達はワタルに勝てる。
しかし、確実に勝てるかとなると断言は出来ない。最終的に勝利出来たとしても、どれだけ負傷するかわからないので今は奴と戦うのに力を費やしたくないのや回復に当てる時間も勿体無い。
そしてシルバーは、アキラが語る内容を半分程理解する。
端的に言えば、自分が弱いからワタルとの繋がりのある自分が狙われた、と言う事だ。
ワタルとの連絡手段はポケギアを介しての一方的なものではあるが、繋がりがあることには変わりない。
得るものが少ないことは察しているだろうが、それでも何かあると見ているのだろう。
周囲を見渡して、シルバーは諦めずにアキラの手持ちポケモンの包囲網をどうやって突破するか考えるが、どれだけ探っても隙は見当たらなかった。
力任せに突破しようにも、ワタルから借りた最高戦力であるバンギラスは既に倒されている。
どう足掻いても返り討ちにされる未来しか見えなかった。
シルバーがどうやってこの状況を打開しようと必死で考えていた時、アキラの方も彼をどうしようか考えていた。
直接目撃した訳では無いが、シルバーはポケモン図鑑やワニノコを盗むなどの犯罪を重ねていて、本来なら指名手配のお尋ね者だ。
しかし、ゴールドの妙な意地の影響で一般に広がっている手配書の顔は髪の色以外は別人レベルで全く似ていない。
なので彼に関する背景や事情を知っていることも相俟って、周りがそう強く追及しなければアキラもその流れに乗るが、ワタルとの繋がりがあることは個人的に無視することは難しい。
追及するのなら、今この地方で起こっている戦いが終わった後の方が都合が良い。
だけど自分がこの先を考慮して見逃すことを考えたとしても、カイリューら手持ち達は見逃す気は無い。ロケット団と同等かそれ以上に、彼らはワタルを敵視している。
一部の面々は何か月か前と同様に実力行使の準備は万端であったが、前と同様にシルバーは拷問紛いなのをチラ付かせても口を割らないだろう。
それにシルバーの性格や今までの行動を考えれば、彼は目的を果たすまで諦めるつもりは無い。
仮に今ここで捕まえて警察に突き出すなりしても、彼はヤナギを止めるまではそれこそ意地でも脱走することが容易に想像出来た。
色んな問題が次々と出て来るのに悩むが、取り敢えず落ち着いて今後について考えられる様に、避難所がある場所まで彼を連行しようかと考え始めた時だった。
昼間であるにも関わらず、急に周囲が照らされるかの様に更に明るくなったのだ。
何事かとアキラは警戒心を強めたが、すぐにその原因はわかった。
ここから少し離れた場所にある木造の建物から炎が、まるで噴火しているかの如く勢い良く噴き上げていたのだ。
「? 何だ…ありゃ?」
「”焼けた塔”が燃えている!? どうして!?」
突然の火柱の発生を目にしたゴールドはその勢いに戸惑うが、ミカンは青ざめた顔で建物の名前を口にする。
”焼けた塔”、それは今から百五十年以上前に起こった火災によって大部分が焼け落ちてしまった建物だ。
”スズの塔”と違って観光客が近付くことすら出来ないが、エンジュシティでは歴史的背景も関係して焼け落ちた状態でも大切に保存されている重要文化財と言える建物でもあった。
そんな大切な建物が燃えているのだ。彼女が驚くのも無理は無かったが、一斉にアキラとシルバーは燃えている”焼けた塔”目掛けて駆け出した。
「みずタイプや水技を使える手持ちは!?」
「勿論」
「待て待て! 俺も忘れちゃ困るぜ!」
アキラの問い掛けに、シルバーだけでなく少し遅れたが追い付いたゴールドも即座に答える。
示し合わせた訳でも無いのにほぼ同時に走り始めた三人が目指す先は同じ、ならば考えていることと目的も同じだった。
アキラ、シルバーを追い詰めて対応に困るが、突発的なトラブル対処に共闘する。
この頃のシルバーは自分の運命に決着をつけるのに全てを懸けているので、アキラが懸念している様に何があろうと諦める気が無いので捕まえたとしても脱走してイタチごっこになってしまうと思います。
ブルーといい、青銀姉弟とは手持ち含めて相性が悪いアキラ。
次回は二人との初の共同戦線になります。