突如として炎を激しく噴き上げながら燃え始めた”焼けた塔”に、アキラとゴールド、シルバーの三人は急いで向かう。
さっきまで対立していただけでなく険悪な空気が漂っていたのだが、突然トラブルが起きてもシルバーは逃げるチャンスとは捉えず、寧ろ解決に協力的だった。
今までやってきたことは褒められたものではないが、ブルーの義理の弟なだけあって根はそこまで悪く無いのだろう。
外に出ていたアキラの手持ちも彼らの後を追うが、カイリューはヤドキングとドーブルを背に乗せて”焼けた塔”へと急行するべくアキラ達の頭上を飛び越す。
「ヤドット、ブルット! ”みずでっぽう”! リュットは”みずでっぽう”を”ものまね”!」
先に飛んでいく三匹に走りながらアキラは大声で伝える。
それからしばらく走っていたが、距離的にそこまで離れていなかったこともあって、すぐに炎が噴き上がり続ける”焼けた塔”に三人は着く。
現場では既にカイリューと背に乗ったヤドキングらが上空から水流を浴びせており、それを見たアキラのポケモン達も”ものまね”をすることで同じく口などから水を放つ。
サンドパンやブーバーなどのみずタイプが苦手なポケモンは、途中で”ものまね”を使うのを止めてしまうが、代わりに砂を被せるなどをして火の勢いを止めようとする。
「よっしゃ、頼むぜニョたろう!」
彼らに続けとばかりにゴールドはニョロモを、シルバーはアリゲイツやシードラなどの手持ちを出して、同じ様に”みずでっぽう”を”焼けた塔”に浴びせるが、それでも火の勢いは止まらなかった。
まるで燃えていると言うよりは絶えず火が溢れている様な違和感を覚えたが、どうすれば鎮火することが出来るのかアキラは考えを巡らせる。
火の勢い的に、単に”みずでっぽう”を浴びせ続けるのはあまり有効では無い。ならば”ハイドロポンプ”などの強力な水技を使いたいが、そもそも手持ちの誰も覚えていない。
強力な水が使えないのなら一気に大量の水で押し流す様に鎮火させる。
解決策の一つとしてそんな方法を真っ先にアキラは閃いたが、問題点にもすぐに気付いたので実行することを躊躇う。
ならば他に何か良い方法は無いかと、ヒントを求める様に周囲を見渡すが、当然ではあるが事態を打開するのに良いヒントは得られなかった。
「クソ全然消えねえな! どうなっているんだ!」
全く衰える様子の無い火の勢いに思わずゴールドは愚痴る。
彼が出したニョロモも、体が小さくてそこまで力が無いからなのか、他の面々よりもすぐに疲れて水を噴き出すのを止めてしまう。
「…他に役に立つ手持ちはいないのか」
「うるせぇ! ニョたろうを舐めんじゃねえぞ!」
あっという間に根を上げたニョロモに呆れるシルバーにゴールドは噛み付く。
協力し合う空気から一転して、また険悪な雰囲気になってきたのアキラは感じ取り、二人を宥めようとした時だった。
疲れて座り込んでいたニョロモの体が突如として光に包まれたのだ。
「ニョたろう!?」
ゴールドは驚くが、シルバーとアキラはニョロモの身に起きている現象を知っていた。
進化だ。
見る見るニョロモの体格は変化していき、光が収まった時にはその姿はニョロモからおたまポケモンのニョロゾに進化した。
「やった!! ニョたろうがニョロゾに進化した!!!」
みずタイプのポケモンの力が必要とされている今の状況で、ニョロモがニョロゾへ進化したことにゴールドは喜ぶ。
アキラも進化した直後のポケモンは、エネルギーが有り余っている関係で一時期的に大きな力を発揮出来ることを知っていたので、ニョロゾへの進化は嬉しい誤算だった。
すぐにでもニョロゾを消火活動に加勢させるのを促そうとした時、不意にある物がアキラの目に留まった。
妙にボロボロな王冠の様なものをゴールドのニョロゾは被っていたのだ。
どこかで見覚えがあるのを感じた彼は、無意識にシルバーのシードラにも視線を移すと、シードラの体に鱗みたいなのが一枚だけ体に貼り付いているのに気付く。
その瞬間、アキラの脳裏に朧げであった
「ゴールド、シルバー。今すぐニョロゾとシードラをボールに戻すんだ」
「はぁ!? 何でなんスか!?」
「通信交換だ! 今すぐシルバーと手持ちポケモンを交換するんだ!」
「通信交換!?」
ゴールドはアキラが言っている意味がわからなかったが、シルバーは彼の意図に気付いたのか、すぐにシードラをモンスターボールに戻す。
「ゴールド、火を消したいなら早くあいつの言う通りにするんだ」
「っ! わかったよ!」
本当はシルバーと手持ちポケモンの交換などやりたくなかったが、今は目の前の火の手を消すことが優先だ。
急いでゴールドはニョロゾをボールに戻すと、手にしたポケモン図鑑を操作することで互いのポケモンを通信を経由して交換する。
「これで良いッスか?」
「交換するだけで終わらせるな! さっさと出すんだ!」
アキラがゴールドに吠えている間、シルバーはたった今交換したゴールドの手持ちをボールから出す。
だが出て来たのはニョロゾでは無く、全身が緑色の丸みを帯びたカエルみたいな姿をした見たことが無いポケモンだった。
「にょ、ニョたろうの姿がまた変わった!?」
「驚くのは後回しにしろ!」
「気にするのは後! 早く手伝って!」
驚くゴールドをシルバーは一喝し、アキラに至っては急かす。
渋々ゴールドも交換したシルバーのシードラを出すが、出て来たのはシードラの面影はあったものの姿が大きく変わったポケモンだった。
初めて見るポケモン達にゴールドは驚きを隠し切れていなかったが、アキラは二匹について知っていた。
ニョロトノとキングドラ。
二匹とも特別なアイテムを所持した状態で、特定の条件を満たすことで進化する近年正式に確認された新しい進化パターンの新種だ。
本来なら別の相手に預けて一定期間育成することで進化させるが、ポケモン図鑑を持つ者なら、通信交換を行う事でその育成期間を大幅に短縮させられる。
アキラが大急ぎで二匹をこの場で進化させた理由は二つある。
一つは二匹ともみずタイプであること。
そしてもう一つが――
「”みずでっぽう”だ!」
「えっと、こっちも”みずでっぽう”!」
ゴールドとシルバーが号令を掛けると、ニョロトノとキングドラはそれぞれ口から”みずでっぽう”を放つが、放たれる水の勢いと量は目に見えてかなりのものだった。
これこそがアキラの一番の狙いだ。進化したばかりのポケモンは通常よりも大きな力を発揮することが出来るが、それが最終進化形態なら凄まじい力だ。
ただの”みずでっぽう”でも、今だけなら並みの”ハイドロポンプ”も凌駕する勢いだ。
「しばらく二人に任せる! その間に俺は確実に火を消す用意をする!」
「はぁ!?」
下手をすれば先程よりも火の勢いを抑えられている光景を見て、アキラは二人にそう伝えると彼らの返事や反応を気にせず、手持ち達に消火活動の一時中止と集合を掛ける。
「しばらくって、あの人何を考えているんだ?」
「考えがあるんだろ。それよりも目の前のことに集中しろ」
「…お前、素っ気無い態度なのに妙なくらい信用しているな」
「信用しているのは奴個人ではなくて、奴らの力だけだ」
怪訝そうなゴールドに、アキラのやることに何も言わないシルバーはそう答える。
師事している人物や今までやって来た自身の行動故に敵対関係に近いが、彼らの桁違いの実力は本物だ。
彼らの力を知っていれば、この程度の出来事などすぐに収められることをシルバーはある意味では信じていた。
そうして彼らの準備が何なのか考えながら目の前の火を消すことに集中していた時、シルバーとゴールドは頭上に何かがあることに気付く。
見上げてみると、それは巨大な水の塊だった。
何故こんなものが落ちることなく浮いているのか疑問に思ったが、振り返るとアキラの手持ちの何匹かが、力を合わせて水の塊に向けてまるで集中して念を送っているかの様に目を閉じていた。
そして浮いている水の塊に、カイリューやドーブルなどの”ものまね”も含めた”みずでっぽう”が使える面々が更に大量の水を送り込み、その量を増やしていた。
一連の流れを見て、二人はアキラの狙いを悟った。
絶え間なく水を浴びせ続けるのではなくて、彼らは押し流す勢いで大量の水を浴びせることで一気に鎮火させるつもりなのだ。
そして念の力を利用することで浮かせる形で集めていた水の塊が、今にも重みに耐え切れずに落ちそうになった瞬間、浮かせていた面々は息を合わせてそれを”焼けた塔”の上に落とした。
破裂した水球の様に大量の水が解放され、中々消えなかった”焼けた塔”の火は、溢れる水に押し流されて、蒸気を上げながら瞬く間に鎮火するのだった。
「…如何にか収まったッスね」
「そうだけど、何で火の気が無いのに燃えたんだか」
ようやく火が消えて、建物のあちこちから煙を上げている”焼けた塔”に目を向けながら、ゴールドは一仕事したと言わんばかりに汗を拭う。
アキラも無事に鎮火させることが出来たのに安心はしていたが、何故火の気が無さそうな建物であれ程までに激しい火事が起きたのか謎であった。
これもロケット団の仕業なのかと頭を悩ませるが、出していたポケモンをボールに戻したシルバーは突然”焼けた塔”へと駆け出した。
「あっ、待てシルバー。危ないぞ」
アキラは止めるがシルバーは聞き入れる筈も無く、彼は手持ちを伴う事無く”焼けた塔”へと入っていく。
「あっ!! 待てよシルバー! 交換したままのニョたろうを返せ!」
「いやゴールド、火は消えたけどまだ中には――」
追い掛けるべきか考え始めた時、ゴールドは本来ならシルバーの手持ちであるキングドラが入ったモンスターボールを掲げながら、彼の後に続いて行く。
当然アキラはシルバーの時と同様に止めようとするが、ゴールドもまた聞き入れることなく”焼けた塔”へと突っ込んでいく。
揃いも揃って、と思いながら、アキラもまた二人の後を追おうとした時だった。
「アキラさん! 火事は…火はどうなりました!?」
遅れて駆け付けたミカンの間の悪さに、アキラは思わず遠い目になる。
シルバーは仕方ないとしてゴールドにも制止を無視され、そんな二人を追い掛けようとしたこのタイミング。
だけど彼女は今やって来たのだから、こっちの事情を知らないのは当たり前だ。仕方ないので、彼は二人を追い掛ける前にミカンに今の状況を説明し始めるのだった。
「おいシルバー! どこにいった!」
アキラがミカンに状況を説明していた頃、ゴールドはまだ焼け焦げた臭いと蒸気の様な煙が広がっている”焼けた塔”の中を声を上げながら歩いていた。
「――えぇ、はい。情報は正しかったです」
中々見つからなくて苛立ちがどんどん募って来た時、どこからかシルバーの声が耳に聞こえた。
すぐにでも声を上げてどこにいるのか聞きたかったが、ゴールドは直感的に口を閉じて耳に意識を集中させる。
どうやら彼は誰かと会話をしているらしい。
会話の内容に聞き耳を立てながら、彼はゆっくりと静かにシルバーがいるであろう方へと足を進める。
すると、建物の中に置かれているには不自然とも言える
「わかりました。直ちに向かいます」
丁度会話は終わったのか、シルバーは手にしていたポケギアの通話を切る。
「…おいシルバー、俺のニョたろうを返せよな」
頃合いを見計り、ゴールドはポケモン図鑑とキングドラが入ったモンスターボールを掲げながら、彼に話し掛ける。
彼がシルバーを今日まで追い掛けているのは、今手持ちに加えている相棒との約束や彼自身の個人的な都合だ。
これでもしシルバーが見つからなかったら、彼を追い掛ける理由がまた一つ増えることになっていたところであった。
シルバーも無言で自身が所持しているポケモン図鑑を取り出して操作を行い、二人は先程の様に通信交換を行うのだった。
「よぉ、お帰りニョたろう」
嬉しそうに手元に戻って来たモンスターボールに入っているニョロトノにゴールドは呼び掛けるが、シルバーは用は済んだとばかりに彼に背を向ける。
「あっ、待てよシルバー」
「ゴールド、さっきも言った筈だ。俺に関わるな」
「だったらさっき俺が言ったことをそのまま返すぜ」
ゴールドのどこまでも追い掛ける宣言に、シルバーは溜息をつきながら心底呆れた様な反応を見せる。
「大体、お前はロケット団をぶっ潰そうとしているんだろ。だったらワタリだか忘れたけど、変な奴に頼る必要はねえだろ」
「――俺の目的は警察やジムリーダーを頼れば簡単に済む話じゃない」
ゴールドは知らないだろうがシルバーからすれば、もし自分に周りを頼ることが出来ない事情が無かったとしても、警察やジムリーダーに自分が追い掛けている存在を止められるとは到底思えなかった。
師事しているワタルやその彼を下したアキラなら少し可能性はあるかもしれないが、それ程までに敵の力は巨大なのだ。
「それでも…お前が悪い事をしたり変な奴と手を組んででも戦い抜く理由にならねえだろ」
何事も一人で出来るのが一番気にしなくて好きにやれるが、そんなこと出来る筈がない。どれだけ力を持とうと頭を働かせようと、一人で如何にかするのには限界がある。
ゴールド自身、ワカバタウンを飛び出してからこの町にやって来る間、彼は色んな人達に出会い、そして互いに助け合ったり協力を得たお陰でここまで来れた。
旅立った期間はまだ短いが、多くの人達と協力し合ったり助け合う大切や重要性を彼はわかっているつもりだった。
しかし、それでもシルバーは聞く耳を持たなかった。
「……俺がやっているのは俺自身の運命に決着を付ける為だ。どうしようと俺の勝手だ」
「シルバー」
「アキラに伝えろ。火元はこの”奇妙な岩”の周辺だとな」
「い、岩ぁ?」
シルバーが指差した先にある大きくてちょっと白っぽい岩にゴールドは奇妙な視線を向ける。
確かに建物の中にあるにしては不自然なものだが、これが火元だというのは信じ難かった。
どういうことなのか改めて聞こうとしたが、シルバーの姿は何時の間にか音も無く消えていた。
「この岩が原因ねぇ…」
如何にも信じ難いと言わんばかりに呟きながら、アキラは目の前にある大きな岩を観察していく。
彼はミカンに状況の説明や関係者などに助けを求める連絡をした後、彼女と共にゴールドの後を追い掛ける形でやって来たが既にシルバーは姿を消した後だった。
「話だけ聞くと適当な事を口にして俺の注意を逸らした様に思えるッスけど、あいつがそんな小細工を使うとは思えなくて」
「それに関しては俺も同意見だな。確かにこの岩やその周りはおかしい」
上手いこと逃げられたが、その代わりに彼が言い残した火災の原因という目の前にある白っぽい大岩。
言われてみれば、この岩の周りが他よりも激しく燃えていた様に見えなくもなかった。
加えてあれだけ燃えていたにも関わらず、煤や焦げ跡なども一切無い。そもそも建物の中にある時点で色んな意味で怪しい岩だ。
これは何かあると判断したアキラは調べるのを続けて行くが、同時に何かを忘れている様な気がしてならなかった。
この怪しげな岩が何か大きな役割を担っている、そんな気がするのだ。
もう元の世界で最後に漫画と言う形でこの世界について目にしたのが昔過ぎて、さっきのゴールドとシルバーの手持ちを進化させた時みたいにどこか覚えのある光景や出来事にでも遭遇しない限り、全体的に何が起こるかはわかっていても細かいところの多くを彼は思い出せない。
この”焼けた塔”がどういう場所なのか、アキラは憶えている限りのことを振り返っていき――
「――そういえばこの塔のどこかに伝説のポケモンがいたんだっけ?」
「伝説のポケモン?」
「アキラさんは知っているのですか?」
「はい、この塔で三匹の伝説のポケモンが生まれたこと、そしてこの塔が”焼けた塔”と呼ばれている理由についても」
元々”焼けた塔”は”スズの塔”と同じ建物だったが、落雷によって起きた火事で二階より上は焼け落ちてしまったこと。
その火災に三匹のポケモンが不運にも巻き込まれたが、伝説のポケモンのホウオウが三匹を生き返らせ、生き返った三匹はそれぞれ落雷や火事、そして降って来た雨の力をその身に宿したこと。
それらをアキラは、確認も兼ねてミカンとゴールドに語る。
「そうです。今アキラさんが話した通り、この塔で三匹の伝説のポケモンが誕生しました」
「んじゃ、今回のロケット団の目的って、その伝説のポケモン探し?」
狙っている伝説のポケモンは異なるが、ロケット団とそれを率いている存在の目的を知っているアキラからすれば、ゴールドの指摘は中々に鋭い。
まだ憶えている記憶と状況証拠から考えて、間違いなく”焼けた塔”のどこかにエンテイ、スイクン、ライコウの三匹はいる筈だが、その居場所が全くわからない。
一番怪しいのはこの大岩周辺だが、この岩そのものが何なのかアキラにはさっぱりだ。ゲームみたいな地下空間へ繋がっている入口だとしても、そもそもこの世界での”焼けた塔”には地下空間は存在しない。
「…この辺りで一旦打ち止めかな」
もう少し調べたいが、八方塞がりでこれ以上の進展は無理そうだ。
それに本来なら”焼けた塔”は、関係者以外は立ち入り禁止なので長居する訳にもいかない為、仕方なくアキラはミカンやゴールドと共に”焼けた塔”から出る。
当然ながら、シルバーは去っているのでこの場にはいない。
彼から色々聞きたかったのは確かだが、あのままじゃどう足掻いても避難所付近まで連行するのは確実。それを察していたから、シルバーは”焼けた塔”の中を調べるついでに先手を打って姿を消したのだろう。
外で待機していたアキラの手持ち達は、戻って来た面々の中にシルバーの姿が無いのを目にして各々逃げられたことを察する。
中でもカイリューとブーバーは特に不満なのか、腹立たしそうに荒く息を吐き、ひふきポケモンに至っては憂さ晴らしにシャドーボクシングを始める始末であった。
「……ゴールド、お前はこの後どうするつもりなんだ?」
「決まってんじゃん。シルバーを追い掛けるんだよ」
「宛てはあるのか?」
「無い!」
清々しいまでの返事にアキラは何とも言えない顔を浮かべるが、時間が経つにつれてどこか納得した様な雰囲気に変わっていった。
「わかった。どうせ止めても止まんないだろうし、そもそもゴールドの冒険なんだから、好きにやれば良いよ。何だかんだ言ってそっちの方が――俺達には利が有りそうだ」
止めるのではなく、寧ろ追い掛けることを勧めるアキラに、ゴールドは呆気にとられる。
彼は頭の固い真面目な人間と認識していたので、根拠も無く動き回ることに何か小言を言われるかと思っていたのだが、逆に推奨するとは思っていなかったのだ。
「――んじゃ行って来るぜ!」
お墨付きを貰ったと認識したゴールドは、すぐに得意気な顔を浮かべると走り去って行く。
遠ざかっていく彼の背中をアキラは見届けていくが、カイリューを始めとした何匹かが向ける眼差しは懐疑的なものであった。
「ゴールドが未熟なのやシルバーに問題があることはわかっている。だけど、経緯はどうあれレッド達みたいにポケモン図鑑を手にした彼らが動き始めたんだ。彼らが行くところに必ず何かが起こる」
納得出来ていない一部の手持ち達に、アキラは自身の考えを伝える。
ゴールドが無鉄砲且つ無謀でどこか楽観的で危なっかしいのは確かだ。
だけど、過去のレッド達を見て来たからこそわかるが、本当にポケモン図鑑を持つ者が向かう先では何かが起こりやすい傾向がある。
今後この先起こる出来事に関しての記憶も薄れて来ているのだ。これから先ロケット団を倒していくのなら、闇雲に探したりするよりは彼らの行き先から目星を付けていくのが効率的だろう。
言葉は悪いが、”泳がせる”ということだ。
アキラの考えにブーバーは目を鋭く細めたり、呆れた様な息を吐きながらもカイリューも理解したのか納得する。
が、だからと言ってワタルと繋がりのあるシルバーも泳がせるのは感情的に癪だったので、二匹は後ろからアキラの頭や脛を軽く小突いたり蹴り付けて不満なのを強調し、彼もまたそれを甘んじて受けるのだった。
まだロケット団が暴れた傷跡が残るエンジュシティの町中をゴールドは走る。
アキラにはシルバーが次に現れるであろう場所は知らないと答えたが、実は
”焼けた塔”に飛び込んだ際、シルバーがポケギアを通じて誰かと会話している際に聞こえたのだ。
次は”いかりのみずうみ”に向かえ、と
そこが次にシルバーが姿を見せるであろう場所。
アキラが知ったら、すぐにでも彼を追跡して捕まえるなりするだろう。そしたら、あっという間にこの冒険は終わってしまう。
既に彼は、この冒険が単にシルバーを追い掛けるだけでは終わらないことを察していた。
しかし、だからと言って怖気づいて止めるつもりも微塵も無かった。
「とことん追い掛けてやるぜ。シルバー!!!」
恐らく既に向かっているであろう同じ図鑑を持つ者にして冒険の目的である彼の名を口にしながら、ゴールドは山を越えた先にある目的地へと駆けて行くのだった。
アキラ、”焼けた塔”での出来事含めたこの先の記憶が薄れていることに悩みながらもシルバーを追い掛けるゴールドを見送る。
原作での描写的に”焼けた塔”は度々燃えていたみたいなので、封じ込められたエンテイが何らかの方法でSOSも兼ねて炎を出していたんじゃないかと考えられます。
仮に”焼けた塔”のどこに三匹がいるかを憶えていても、必要なアイテムが無いので今のアキラにはどうすることも出来なかったと思います。
次回、アキラはゴールド、シルバーに続く三人目を探しに行きます。