SPECIALな冒険記   作:冴龍

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書いていたら予想以上に長くなったので分割します。
遅くなってすみません。今話と次回更新で今回の更新分は終わりです。


砲と盾

 証明に照らされた屋内施設で、アキラは足音を響かせながら広々とした空間の丁度真ん中の位置に立つ。

 その手には、大きな砲身を有したロケットランチャーに似たものが握られていたが、彼が扱いに困っている様子は無かった。

 寧ろ、新しい玩具を手に入れた子どもの様に嬉しそうな顔だった。

 

「良くそんなデカイのを軽々と持てるな」

「片手でも取り回しが良いことも、カツラさんに要望していましたからね」

「もうロケットランチャーと言うより、砲身がデカイ銃みたいなものだけど」

 

 少し離れたところで様子を窺っていた眼鏡を掛けた青年――りかけいのおとこのアキヒトにアキラは答えると、隣に立っていた緑色の帽子を被った少年――ボーイスカウトのジュンジは彼が持っている道具の形状に本音を漏らす。

 

 二人は今日、アキラが数カ月前から修理と改造を依頼していたロケットランチャーを、グレン島から離れられないカツラの代わりに今いるタマムシ大学に運んで来てくれたのだ。

 ジュンジの指摘通り、外見は口径の大きな砲身以外は以前の面影は殆ど無く、新造と言っても過言では無かった。

 だけど、アキラとしては持ち上げた時の重量感やグリップ部分の握り心地から良く手に馴染むのを感じていた。本来ならこんなものを片手でも自由に扱える様にするなど面倒な要求なのに、カツラはそんな面倒に応えてくれた。

 

 ぶら下げる様にグリップ部分を片手で持っていた新造ロケットランチャーを持ち上げると、アキラは真剣な目で添える様に空いている片方の手で砲身を支え、以前の様に砲身の一部を肩に乗せるのでは無くてまるで狙撃するかの様に抑え込む形で狙いを定める。

 しっかりと準備を整えた彼が引き金を引くと、装填されていたモンスターボールが轟音と共に撃ち出されて、用意されていた的に命中する。

 

「うん。前よりも反動がずっと少ない」

 

 かなりの速さでモンスターボールは撃ち出されたが、速さと発射音の割には思っていたよりも体に来る反動は少なかった。

 もう一度確かめようと今度は少し崩れた姿勢でアキラは構えると、既に次のモンスターボールが込められているのかさっきと同じ様に撃ち出される。

 

 以前は一発ごとに手動で再装填していたが、撃ち出したらすぐに中にある次のボールが自動的に装填される様にリロードの問題は解消されていた。

 何より撃つ時の構えも、肩の上に乗せて構えるのではなくて抑えることで反動に耐える形にもなっているので動きやすい。

 

 これだけでも第三者から見れば十分に見えるが、アキラは手にした新しいロケットランチャーを調節する様に軽く弄ると、今度は腕を伸ばした片手の状態で構えた。

 見ていた二人の視線が変わるのを感じたが、アキラは意を決して引き金を引く。先程よりも勢いは弱かったが、変わらずモンスターボールが撃ち出されて、そのまま的に命中するのだった。

 

「――カツラさん凄い。威力調節が必要だけど、本当に片手でも撃てるのは助かる」

「いや待て待て!! 何片手で当たり前の様に使っているんだよ!」

 

 腕や肩に異常が無いか確かめながら嬉しそうに使い心地を口にするアキラに、アキヒトは盛大にツッコミを入れる。

 ここまで運んで来たからこそわかるが、アキラが手にしているのは単純に持つことなら普通の成人男性でも出来る。だが、今の彼の様に片手で自由自在に軽々扱うとなると途端に難しくなる。

 しかも幾ら鍛えているとはいえ、威力を弱めている状態なら片手で撃ち出しても反動に平気で耐えているのは流石に予想外過ぎる。

 

「大体、ポケモントレーナーがそんな重火器を使う必要は無いだろ」

「その意見はわかりますが、これがあったからこそ助かった場面が多かったので」

 

 初めは手持ちが戦利品扱いで勝手に持って来たのを管理する形で手にしたものだが、今まで重要な場面では必ずと言っても良いくらい役に立ってくれた。

 今後も必ず役立ってくれる確信がアキラにはあった。

 何故ならその理由には、単に今まで以上に扱いやすくなった以外のこともあるからだ。

 

 腰に付けていたモンスターボールの一つを手に取り、アキラは中の様子を窺った後にロケットランチャーに装填すると、再び的の一つに狙いを定める。

 そして先程の様にボールを撃ち出すと、撃ち出されたボールが途中で開き、中からドラゴンポケモンのカイリューが勢いを維持したまま飛び出して的を殴り付けた。

 

「今のは…」

「カツラさんに要望してモンスターボールを撃ち出す以外にも、ボールに入っているポケモンを撃ち出す機能を付けて貰いました」

 

 この機能は、アキラが尊敬しているシバが使っていたモンスターボール付きヌンチャクやエリカがたまに使うモンスターボール付きの弓矢などから着想を得たものだ。

 わかりやすく説明すれば、撃ち出したポケモンに先制攻撃可能な素早さを一時的に付与と言ったところだ。だけどそれ以外にも、素早く手持ちポケモンを離れた場所へ送るなどの手段としても使える。

 以前ならそれこそ、モンスターボールを撃ち出すくらいしか使い道は無かったが、新しく機能を追加したお陰で使い道は前よりもずっと多くなるだろう。

 他にも追加している機能は存在しているが、アキラが求めているのはこれで全て確認出来た。

 

 だけど、今回はこれだけでは無い。

 

「そういえば、タマムシ大学の工学部の人達が、カツラさんの協力を得て作ったものを譲ってくれるという話をここに来る前に聞いていましたが」

 

 まるで大剣を納める様に生まれ変わったロケットランチャーを背負いながら、アキラは二人にもう一つの用事について尋ねる。

 するとジュンジは、隣に置いてあった滑車付きの台の上に乗せられている物――一目見て盾だとわかるものを筆頭にゴツイ見た目の防具と呼べるものをズラリとアキラの前に出した。

 

 事前に話は聞いていたが、台の上に乗っている多様な形をしたこれらの道具は、今でもアキラがタンバシティからクチバシティの間をカイリューで弾丸飛行する際に利用しているカプセルの簡易版と言えるものだ。

 今回のロケットランチャーの完成に合わせて、開発に協力しているカツラの提案もあって日頃からタマムシ大学に協力しているお礼に、ポケモンに騎乗して飛行する際の安全防具開発の一環として作ったこれらの試作品を一つくらい譲ってくれるという。

 

「い、言っておくけど、それらを作るのに俺も少しは協力したからな。カツラさんの代理人みたいな感じだったけど…」

 

 並べられた品々を眺めていたら、唐突にアキヒトは緊張した様子で自らも開発に関わった事をアピールし始める。

 そんな彼にアキラと出ていたカイリューは、一転して珍しく感情の読めない目を向ける。彼の意図を察したからだ。

 彼は過去に、カントー四天王のキクコに唆されてアキラ達と敵対するどころか、彼らが激怒しても仕方ないくらいのゲスな行為をやらかしたことがある。

 あれから本人は心底反省して心を入れ替えたが、当時のアキラ達の怒りは彼の中では強烈に印象付いていた。さっきから何気無く会話したりツッコミを入れたりはしているが、正直に言うとまだ少し怖かった。

 

「……まぁ、そんな強調しなくてももう怒っていませんから」

 

 淡々とした態度ではあったが、言葉は穏やかではあったのやカイリューも冷たい目だが興味無さげなで怒っている様子も無かったので、アキヒトは安心した様に息を吐く。

 反省をして謝るだけでなく、今も償いと言えるのをやっているので、アキラはあまり気にしていない。暴挙を知って怒り心頭であった彼のポケモン達の何匹かも、本人了承の上で強弱あれど一発ぶん殴ることで遺恨は晴らしている。

 

「あの…持ってきた僕が言うのも何ですけど、ここにあるのって本当に人がポケモンに乗って飛行する際に利用することを考えているのですか? 盾が空を飛ぶ際に何の役に立つのか全然イメージ出来ないのですけど」

「昔は飛行用のゴーグルやフルフェイスヘルメットとかは無かったので、可能な限りトレーナーが乗った状態でポケモンが全力飛行出来るように風圧とかを防ぐ目的で使われていた時がありましたからね。多分、それらを現代技術で再現した感じでしょう」

「そうなのですか?」

「おいおい、何でお前がそんなことを知っているんだよ」

「昔読んだ歴史の本にそんなことが書いてありましたので」

 

 アキヒトの疑問にアキラは何のことも無い様に答える。

 どれもどことなく昔ゲンガーやブーバーらが挿し絵目当てに好んで見ていた歴史の本に載っていたのに似ている気がするので、ひょっとしたらそれを参考にしたのかもしれない。

 

 空を飛ぶポケモンの中には、カイリューやピジョットの様にマッハに匹敵するスピードで飛行出来る種が存在しているが、生身の人間はそんな超スピードでの飛行に耐えることは不可能だ。

 仮にマッハで飛べるポケモンに拘らなくても、そもそも空を飛ぶポケモンの多くは、その気になれば人間には耐えられない速度で飛行することは出来る。

 

 だが何時の時代、本気を出した相棒と共に空を飛ぶことを望み、技術と知恵を駆使して挑む人間は存在する。その試行錯誤の産物が目の前にあるこれらだ。

 試作品やらテスト品などという話は聞いているので、ノウハウなどを得る目的で先人達の知恵を現代技術を組み込む形で再現しただけで、本気で盾や鎧みたいな防具を採用する気は無いだろう。

 それにこれらが利用された頃は時代背景的に荒っぽい時代だったのも、防具寄りの形状になっている理由の一つだ。

 

 並べられた盾の一つを手に取り、アキラは左腕に固定する。

 そしてその状態での使い心地やロケットランチャー同様に取り回しが良いかも確かめて行く。

 

 装備が増えることでの一番の懸念は動きにくくなることだ。

 ここにある盾は飛行時の利用を前提としているが、基本的な用途は文字通りその身を守るのに役に立たないといけない。それは”リフレクター”や”まもる”を使うエレブーとサナギラスを見ればわかる様に、相応の大きさになる。

 多少の重量は今の自分なら苦にならないが、構造の関係で動きにくくなるのは改善が難しい。

 

 無理に貰わなくても良いが、折角のご厚意なのだ。どうせ選ぶなら使い勝手が良いものが良い。

 それに盾を使いこなせれば、今までの”回避”以外にも多少は”防ぐ”という選択肢が出来るので、より近くで手持ち達の傍で戦うことが出来る。

 

 背中に背負っているロケットランチャー同様に、大手を振って持ち歩くことが出来ないのや公式戦で使えないのは重々承知している。

 だけどこれからも手持ちと共に戦い抜いて行くからには、ポケモン達の動きに付いて行ったり耐えられる様に体も鍛えるだけでなく、付いて行くのに役立つ装備を整えるのも必要だとアキラは考えていた。

 幾つか手に取っては、自分にとって扱いやすいのを探していく。

 

 鎧に近い防具っぽいの――部分的には使えそうだが却下。

 逆三角形に近い形状の盾――取り回しは良いが少し小さい気がする。

 長方形の板みたいな形状の盾――大きいが取り回しが悪過ぎる。

 楕円形っぽい形状の盾――大きくて取り回しも悪くは無い。

 近い系統である完全な円形の盾――身に付けた感じでは悪くは無いので貰う最有力候補。

 

「おっ、これは…」

 

 そうして見ていく内に、良さげなのをアキラは見つける。

 形状は大まかに見ると、円形の盾に先端が楔状である縦長の盾の二つが合体した様なものだ。

 普通に身に付けると感覚的には楕円形っぽい形状の盾と変わらないが、一番の違いは形状よりも取っ手部分の構造だ。腕に固定した取っ手の部分を弄ってから腕を振ると、盾そのものが半回転して向きが変わるのだ。

 

 円形部分の盾が肩回り、縦長部分の盾が腕を守っている時は動きやすく。その逆だと守る範囲が広がって可能な限り体を縮込めれば、良い感じで体を守れる。

 そう言った向きを変えることで状況に応じて、守りに専念か動きやすい形に整えられるのが、彼には魅力的に感じられた。

 

「ここにある盾って、飛行時に利用する防具の扱いですけど、強度はどれくらいなのですか?」

「そんなこと聞いてどうするんだよ。――と言いたいところだけど、カツラさんと学生の奴らが勝手に色々教えてきたから教えてやるよ。”リフレクター”とかの技の性質を再現したお陰で、カイリューの”はかいこうせん”の数倍の威力に耐えられるくらい無駄に頑丈だ。しかも素材を変えたことで昔のよりも軽量化出来ているとか」

 

 アキヒトは理解出来ないと言わんばかりの態度で教えるので、アキラは苦笑いを浮かべる。

 元々この世界では、ポケモンの技や能力を科学的に再現することで人の生活に役立つものを作ったりすることが多い。目立たないが、オーキド博士の孫であるグリーンと姉のナナミが付けているペンダントは、”リフレクター”の性質とその強度を再現しているという話をアキラは聞いている。

 

 しかし、それでも”無駄に”を強調している辺り、本当に本来なら不必要なくらい頑丈に作られたのだろう。

 もしかしたらカツラを含めた開発に関わった面々は、ノウハウを得るのも兼ねて最初からそういう用途で使うであろう自分に渡すつもりで、これらを作ったのかもしれない。

 後でお礼を伝えようとアキラは決めると、モンスターボールからサンドパンを出した。

 

「サンット、何でも良いから飛び技を俺に向けて放って」

 

 盾の幅が広い部分が腕になる様に向きを変えた状態で構えながら告げると、サンドパンは少し戸惑いながらも”スピードスター”を放つ。

 放たれた数発の星型の光弾は命中する度に盾は音を立てるが、構えていたアキラは殆ど微動だにしなかった。

 軽めに技が放たれたこともあるが、単に頑丈なだけでなく衝撃を吸収して軽減している様な感触にアキラは予想以上のを感じていた。

 

 もう少し試すべく、今度はカイリューに頼もうとした直後、腰に付けていたモンスターボールが唐突に外れて、床に落ちると同時に中からゲンガーが飛び出した。

 出て来たゲンガーは軽く距離を取ると、そのまま何も告げずに”シャドーボール”をその手に形成し、嬉々としてアキラ目掛けて投げ付けて来た。

 こちらの望みを読み取った様に思えるが、面白半分で仕掛けてきたのは明らかだった。

 突然の攻撃にアキラは呆れながらも、すぐに盾を両手で支えてしっかり構えることで球状に集められた影も受け止める形で防ぐ。威力が高いからなのか先程よりも強い衝撃が伝わったが、それでも耐えられない程では無かった。

 

「へえー、これは…予想以上に凄いかも」

 

 感嘆の意味を込めてそうぼやいた時、今度は何時の間にか出ていたブーバーが容赦無く”かえんほうしゃ”を放ってきた。

 盾がどれくらい頑丈なのか試す意図があるのだろうけど、自分に避ける以外の選択肢が出来たからなのか、今日の彼らは随分と遠慮が無い。

 が、”かえんほうしゃ”に関しては流石に規模が大きかったこともあって、防ぐよりも躱す方をアキラは選んだ。

 

 だが、避ける方を選んだのがブーバーにとって癪だったのか、ひふきポケモンは背負っていた”ふといホネ”を抜くと飛び込む形でアキラに迫る。

 ”ホネこんぼう”が繰り出されるが、アキラは先程と同様に万全の体勢でブーバーの攻撃を受け止める。

 

 重い金属音と共にさっき受け止めていた二匹の攻撃以上に強い衝撃が腕に伝わったが、”リフレクター”などの攻撃技を防いだり威力を軽減させる技を再現しているだけあって、ブーバーが力を込めた割には伝わる衝撃は弱かった。

 ブーバーはそれだけで終わりするつもりは無かったのか、”ほのおのパンチ”や”いわくだき”などもアキラが構える盾に次々と叩き込むが、金属音が響くだけで盾は凹みすらしなかった。

 本当は飛行用では無くて、やっぱり最初からこういう用途で使われるのを想定して作ったのではないかと聞きたくなる程に、あらゆる面で想定以上であった。

 

「後は、”かわらわり”かな。不安なのは」

 

 ブーバーの攻撃が止んだのを機に、アキラは考えられる懸念要素について思案する。

 今彼が口にした技はまだ未確認の技扱いだが、この盾の素材かベースになっているであろう技を破壊することで無力化する効果を持っている。

 人の手による改良が加えられているが、それでも技の性質を再現している部分が有るので、その点がアキラは心配だった。

 折角、作ってくれた道具がそう簡単に壊れてしまう可能性はなるべく無くしたい。

 後、強過ぎる技を受けた際、盾そのものは耐え切れても受け止める自分自身が受け切れるかは話は別なので過信は禁物。

 

 そんなことを考えていたら、何時の間にかブーバーが助走の勢いを付けて”メガトンパンチ”を仕掛けてきた。

 避けるには気付くのが遅すぎたので、咄嗟にアキラは足腰に力を入れた状態で防ぐ。しかし、ブーバーが繰り出す攻撃ではトップクラスの威力の技。

 衝撃を殺し切れないその威力は懸念した通り、盾自体は耐えられたが構えていた彼の体は受け切れずに吹き飛ぶのだった。

 

 

 

 

 

 アキラがブーバーの攻撃で吹き飛ばされていた頃、タマムシ大学にある屋内通路をレッドとゴールドの二人が歩いていた。

 事前に彼から今日、この大学を訪れると聞いていたので会いに来たのだ。

 

「大学って初めて来たッスけど、意外と色んな人がいるものなんですね」

「だろ? 俺も昔は眼鏡を掛けた勉強大好きなガリ勉ばかりかと思ったけど、寧ろそういう奴の方が珍しいんだよな」

 

 途中で見掛ける学生達の姿に、二人は各々が抱いていた大学や通っている学生についてのイメージを語り合う。

 二人がこうして行動を共にする様になったのは、今から一週間近く前からだ。

 

 シロガネ山の奥地から湧き出る秘湯の源泉のお陰で、ずっと体を悩ませていた後遺症が完治したレッドは、下山してすぐにオーキド博士を通じてアキラを探した。

 彼がジョウト地方各地で起きているロケット団の事件に、積極的に関わっていると聞いていたので加勢する為にだ。

 

 やっと見つけたアキラは、彼の復活と加勢宣言を知るや大歓迎だった。

 一緒に居たゴールドも、レッドが同じポケモン図鑑を持つ者として先輩に当たる人物だと知ってからはアキラ同様に歓迎するだけでなく後輩らしく敬った。

 

 それからアキラとレッドは情報交換も兼ねて積もる話をしていたが、その時ある提案をアキラはレッドに持ち掛けた。

 

 それは彼にとって後輩であるゴールドを鍛えることだ。

 

 提案当初レッドは面食らったが、アキラから今ゴールドが置かれている状況やロケット団を率いている存在のことを教えて貰い、必要性を感じた彼はその提案を引き受けた。

 ゴールドの方も、アキラには断られたことやレッドが自身の先輩であること、前回のポケモンリーグ優勝者でアキラの好敵手(ライバル)と聞いて積極的に弟子入りを志願した。

 そんなこんなで今二人は、このカントー地方のマサラタウンにあるレッドの自宅に滞在しながら毎日修行をしていた。

 

「今日こそ、カイリューを引き摺り出してやる。最初から相手でも倒してやる」

「その意気だ。頑張れよ」

 

 アキラへのリベンジに燃える後輩にレッドは軽くエールを送る。

 アキラの推薦や先輩後輩関係を利用する形でレッドに弟子入りをしたゴールドではあったが、既に彼から色んな事を学び、それらを物にしようとしていた。

 

 レッドの指導は、基本的に実戦形式でひたすら戦っていくものだった。

 本人は口で説明するのが得意では無いこともあるらしいが、強者を相手にした実戦経験が足りないと考えていたので、ゴールドとしては有り難かった。

 ただ、口頭での助言や指摘は良くも悪くも感覚的なものが強くて洗練されたものでは無いので、バトルの後での反省会や振り返りでは理解出来るのもあれば理解出来ないものもあったりとその辺りでは苦労していた。

 だけど、頻繁にバトルを繰り返したり教わっていく内にアキラがレッドをライバルと呼ぶだけでなく、彼の方が学べることが多いと言っていたのかなどの両者の違いを徐々に理解していた。

 

 アキラが率いるポケモン達の戦い方は、相手を圧倒する程の高い能力や強力で洗練された技を豊富且つ存分に振るう派手なものだ。

 ただゴリ押すだけでなく、それだけの力を巧みに活かす技術や策も身に付けているが、地形を変えてしまうだけでなく伝説のポケモンさえも圧倒するその強さは、一目でわかるくらい見栄えも良く魅力的だ。

 

 しかし、そんな見栄えの良いド派手な強さを実現出来ているのは、連れているポケモンが元々有していた高い能力や技を長年の鍛錬によって更に伸ばした結果だ。

 元から伝説のポケモンと同等と言っても良いだけの力を潜在的に秘めているカイリューを筆頭に、彼のベストメンバーは軒並み能力が高く、単純な能力の総合値で見たらレッドの手持ちを上回っている。

 

 仮面の男のデリバードみたいに、能力が低い筈なのにとんでもないくらいに強いのもいるが、流石にあれは例外だ。

 なのでアキラ達のやっていることを真似しようにも、今のゴールドのポケモン達では実現するには基礎能力が大きく足りず、短期間で身に付けるのも無理だ。

 

 一方の今ゴールドが教わっているレッドはと言うと、今は事情もあって手持ちは変わっているが、ポケモンリーグ優勝者の肩書も納得の強力なベストメンバーを率いている。

 だけどゴールドの目から見ると、目に見えてわかる威圧感などはアキラのポケモン達と比べたら少し弱かった。

 

 しかし、レッドのポケモン達が繰り出す攻撃や技は、一目では強力には見えないちょっとしたものでもまるで凝縮されているかの様に重かった。

 その使って来る技も、何を仕掛けて来るかわからないくらい豊富だったり、意外な技を使って来ることも少なく、ただただシンプル。そのポケモンなら覚えられるイメージが容易に想像出来るか広く知られている様なものが中心だ。

 言うなれば、そのポケモンが生来持っている力を有りのまま且つ最大限に引き出している感じだ。

 

 そして何より凄いのは、ポケモン達を巧みに導くレッド自身だ。

 端的にその凄さを言えば、逆境などの窮地に追い込まれてからの彼の強さ――判断力は神懸かり的なものだった。

 追い詰められたとしても、粘り強く戦う事で全力で挑む相手の勢いを利用したり、時には思い付かない閃きや機転を働かせて、僅かな隙や無防備な瞬間を狙って強烈な一撃を叩き込んで逆転したり流れを変えるのだ。

 勿論全てが上手くいく訳ではないが、レッドはそう言ったポケモンバトルに関するあらゆるセンスやポケモンとの意思疎通に優れていた。

 

 そんな経験を何回かしていく内に、ゴールドはアキラのポケモン達が、あそこまで圧倒的な力を持つまでに至った理由の一端が何となくわかる気がした。

 相手が反撃や逆転の手を打つ前に圧倒的な力で押し切る、仕掛けて来たとしても事前に知識や策を駆使した上で捻じ伏せるのだ。

 相手を圧倒する力や破壊力と言う点では、アキラは完全にレッドを上回っている。だけど、追い詰められた際の逆境を覆す粘り強さや極限状態での判断力が求められる状況下での戦いではレッドの方が上だ。

 

 アキラがレッドの方が適任だと言った理由も今ならわかる。

 彼が自分に教える余裕が無い事は本当だろうが、短期間で成長するなら連れているポケモンもトレーナーも基本的なことや重要な要素が優れているレッドの方が、学び取れることや参考に出来ることは多い。

 

 アキラが力なら、レッドは上手さが光る。

 この数日の間で、ゴールドの中では二人の戦い方の特徴や長所とする点からそういう認識が生まれつつあった。

 

 それにもしかしたらアキラは察していたのかもしれないが、レッドのやり方はゴールドの性にも合っていた。

 今まで戦ってきたロケット団などの悪党は、戦う前からこちらを見下したり優勢になるとすぐに気を抜く傾向がある。

 そういう勝利を確信した様な余裕な態度をしている相手から逆転してアッと言わせるのがゴールドは大好きなので、レッドの追い込まれても逆転していく戦い方は理想的で学び甲斐があった。

 実際、アキラのサナギラスを倒した際の彼が一瞬見せた驚愕の顔は見てて気分が良かった。

 

 今はジョウト地方から離れているが、もう少し修業を積んだら、ジョウト地方各地を回っていく様な修行の旅をすることをゴールドは考えていた。

 なので、短い間ではあるが早速修行の成果をアキラにぶつけようと考えていた。

 

 そう意気込みながら、彼がいると聞いている屋内施設へと足を運んでいたが、近付くにつれて何だか騒がしい音が聞こえて来た。

 

「何か…音がするッスね。バトルでもしているのか?」

「カツラさんが修理してくれたロケットランチャーとかの道具を受け取るだけの筈なのにバトルする必要ってあるかな?」

 

 歩きながらレッドは首を傾げるが、何かを思い出すかの様にハッとする。

 

「わかった。もしかしたらカイリューとかの手持ちを相手に実戦で使う練習でもしているかもしれない」

「練習って……どういう?」

「まあ俺が口で説明するよりは実際に見るか、本人から説明して貰った方が早いと思うよ」

 

 レッドの口から語られることに、ゴールドの頭は理解が追い付いていなかった。

 化石みたいに考えが固い真面目な少年に見えて、変わっている一面がアキラにあることは最近の彼も知りつつある。だけど、”ロケットランチャーを受け取る”だけでもあれなのに、それを扱う練習を手持ちも交えて行っているとはどういうことなのだろうか。

 二人は扉の前に辿り着くが、中から聞こえる音は変わらず激しいままだ。

 

 一体、中では何が起こっているのか。

 思わずゴールドは妙に緊張するが、レッドは特に気にした様子は見せずに普通に硬い扉を開いて施設内に足を踏み入れる。

 

「おっ、今回は何時になく白熱しているな」

 

 レッドは如何にも見慣れたと言わんばかりの反応だったが、続けて中に入ったゴールドは、思わず足を止めるだけでなく中で繰り広げられている光景に顔を強張らせ、目を疑った。

 

 何故なら、両腕にそれぞれ異なる形状の盾らしきものを付けたアキラが、手にしたホネを振るって来るブーバーを相手に目まぐるしい早さで腕を動かして戦うかの様に立ち回っていたからだ。




アキラ、幾つかの新装備を手に入れる。

アキラがモンスターボールだけでなく手持ちを撃ち出す機能を持ったアイテムを装備をするのは、初期から考えていたのでやっと出せるところまできました。
作中でも示唆していますが、他にも追加機能があるので盾の方と合わせて色んな用途でガンガン使っていきます。

次回、ゴールドがアキラ達の認識を色んな意味で改めるかも。
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