SPECIALな冒険記   作:冴龍

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強者達の領域

 ブーバーが絶え間なく仕掛けて来る攻撃を、アキラは重い金属音を度々響かせながら、両腕に付けた盾を上手く使って防いだり払う様に捌いて行く。

 

「たく、幾ら頑丈な防具を手に入れたからって、調子に乗り過ぎだろ」

 

 攻めて来るブーバーの表情は珍しく楽しそうなものではあったが、専守に専念するアキラは呆れた様子で悪態をつく。

 最初は盾の強度を確かめるだけだったが、あんまりにもアキラが上手く攻撃を防いでいくのを見て、どれだけ彼がやれるのかブーバーが試したくなったのが、ここまでの戦いに発展してしまった理由だった。

 普通なら手持ちポケモンがトレーナーを攻撃するなど一大事なのだが、アキラにとっては最近は無くなっただけで昔はそれなりに経験していたことなので、堂々と相手をしてしまっていた。

 

 しかし、今のところ物理攻撃のみしか仕掛けて来ないとはいえ、急な出来事だったのでいい加減に終わらせることにした。

 途中で片手だけで防いでいくのに限界を感じて、僅かな隙を突いてもう片腕に円形の盾を追加した即席の二刀流にしたが、そろそろ限界だ。

 出ているカイリューとゲンガーは止める気が無いのか呑気に静観、サンドパンは割り込むべきか迷っていたが、誤射が怖いのか割り込む切っ掛けを見出せずにいた。

 

 自力で止めるしかない。

 

 両腕に付けた盾で上手く防ぎながら目を凝らして、アキラは絶え間なく攻撃を繰り出してくるブーバーの動きをよく観察し、僅かな隙の有無や次の動きを予測していく。

 そしてひふきポケモンの動きに隙が見えた瞬間、アキラは盾を押し付ける様に強くぶつけた。

 

 激しい衝突音が施設内に響き渡り、ブーバーは体勢を崩す。

 ところが無理に持ち堪えようとはせず、やられたことを受け入れたブーバーはまるで体操選手の様な素早い連続バク転を披露してアキラとの距離を取る。

 が、最後のバク転を終えて着地した直後、アキラは右腕に付けていた円形の盾を取っ手から外して手にすると、大きく体を捻らせてまるでフリスビーの様にブーバー目掛けて思いっ切り投擲した。

 思わぬ追撃に、ブーバーは舌打ちをしつつも楽し気に笑みを浮かべて、回転しながら真っ直ぐ飛んでくる盾を”ふといホネ”で弾く。

 

 今ブーバーは、道具の使用が前提であるとはいえ、こうしてアキラと正面から戦えることに興奮していた。

 

 この戦いが始まってから、自身にずっと向けられた彼の鋭い目。あれこそ野生だった頃のブーバーが、自分との戦いを制したアキラに付いて行ってみようと決めた切っ掛けだった。

 当時とは種類や込められた感情は異なるが、あんな目を人間が見せるとは思えなくて怯んでしまったものだ。だけど、彼に付いていけば自分はもっと強くなれるとも感じた。

 

 当時の彼は今とは比較にならないくらい貧弱で未熟だったので賭けではあったが、結果は今見ての通り大当たりだった。

 しかも手持ちと一緒に変わっていくという彼自身の方針や最近カイリューを相手にやり始めた鍛錬関係で、こうして彼がある程度戦えるだけの力を身に付けるまでに至ったのは良い意味で予想外だった。

 

 湧き上がる高揚感と欲求に身を委ね、自身を更なる高みへと引き上げて来る期待を胸に抱いたブーバーは、再び挑むべくアキラを真っ直ぐ見据える。

 その瞬間、轟音が聞こえたと同時に頭に衝撃を受け、ひふきポケモンはモンスターボールの中に収まった。

 

「もう終わり。続きがやりたかったらタンバジムに戻って先生の監督下で」

 

 肩で抑えていたロケットランチャーの構えを解きながら、アキラはモンスターボールに戻ったブーバーに告げる。

 最初は興奮しながらもある程度は加減していたが、徐々に本気になってきていたので、手が付けられなくなる前に止めることが出来て良かった。と一安心する。

 

 記念すべき新型ロケットランチャー最初の活躍が、まさか調子に乗り始めた手持ちを止める為に使われるとは思っていなかった。

 オマケに今左腕に付けているのとさっき投げ付けた盾に、焼け跡や軽い傷跡らしきものが付いてしまったのだから程々にして欲しかった。

 額に滲ませた汗を腕で拭いながらアキラは疲れた様に息を吐くが、どこからか拍手する音が聞こえるのに気付く。

 

「凄いなアキラ! 昔はまだ野生だった頃のブーバーにやられていたのに、今じゃあそこまでやれる様になるなんて。よっぽど修行をしたんだな」

「レッド、褒めてくれるのはありがたいけどバーットを変に刺激することは口にしないで」

 

 音の元に顔を向けるとレッドが興奮した様子で手を叩いていたが、興奮気味の彼をアキラは疲れた様子で宥める。

 確かに昔、今手持ちにしているブーバーの攻撃を受けてアキラは大火傷を負わされたが、あの時と今回とでは色々条件が違う。

 それにアキラのブーバーは負けず嫌いな上に野生の頃と変わらず執念深い。途中中断とはいえ、自分に実質負けたとあっては、次出て来た時に何をしでかしてくるのか見当が付かない。

 

「あの……何なんスか…さっきの?」

 

 やっと目の前の状況が落ち着いたこともあるのか、再起動をしたゴールドはアキラにさっきまでブーバーと繰り広げていた攻防が何なのか尋ねる。

 

「――調子に乗っていた手持ちを止めていた」

「いやそれは見りゃわかるけど、何で自分が戦って止めるのがさも当然な感じの雰囲気を漂わせているんッスか? つうか良く無傷ッスね」

「まあ、アキラの手持ちではよくある事だからな。そりゃ慣れるよ」

「レッド…俺がやっていることは本来なら慣れるものじゃないよ。てか、普通ならちゃんとした目的が無い限り真似しちゃいけない類だから」

「でも、それが今のアキラ達を形作ったり、強さの秘訣なんだろ?」

「まぁ……そうだけど…」

 

 レッドの言葉を否定するどころか同意するアキラの様子を見て、ゴールドは自分の常識や認識がおかしいのか疑問を抱き始めた。

 アキラも自分がやっていることや経験は一般的な視点から見るとズレているものだとある程度は認識しているのに、止めるどころかその普通はやらないことを当たり前の様にやっているのだから尚更際立つ。

 そしてレッドも、話している内容含めて当然だろと言わんばかりの雰囲気だ。

 

「あれ? もしかしておかしいのは俺の方?」

「安心しろ。お前は何もおかしくない」

 

 そんな困惑するゴールドに、りかけいのおとこのアキヒトは安心させるかの様に肩に手を添えて告げる。

 アキラとブーバーが本格的に戦い始めてから彼とボーイスカウトのジュンジは、あまりにも激し過ぎる戦いに万が一に備えて手持ちポケモンを出しながら持ってきた盾で身を守っていたので完全に蚊帳の外だった。

 ポケモントレーナーなら体を鍛えることが必要なのは彼らも理解している。が、それでも手持ちポケモンを相手にあそこまで真正面から戦うのは流石に常識外れだ。

 

「レッド先輩、全然気にしてないッスけど、もしかしてアキラと同じタイプの人なんスか?」

「いや、あれは単に見慣れているからあんな感じなだけだと思うぞ。少なくともあんな戦いを普通にやるアキラよりは常識的な…筈」

「昔悪事を働いた人が常識を語るってね…」

 

 囁く様な小声で尋ねるゴールドの肩を持つアキヒトにジュンジは毒を吐くが、彼らには聞こえていなかった。

 そもそもあんな光景にレッドが見慣れている時点で、普段のアキラは手持ちとどんな生活をしているんだとゴールドは言いたかった。

 以前アキラは自分にとってのポケモンは”戦友”と言っていたが、ひょっとして今の手持ち達は一昔前の少年漫画みたいに拳で語り合った末、互いに強敵(とも)と認め合う過程を経て集まったのか。

 

 色々疑問は尽きなかったが、アキラに断られた後にレッドに弟子入りしたのは、今思うとそれで良かったとゴールドは思い始めた。

 もし何事も無く彼に弟子入りしていたら、今頃どんなぶっ飛んだ修行メニューを課されていたのか、想像するだけで恐ろしい。

 

 桁違いに強い彼のポケモンを倒すまで延々と戦い続けるという内容でもまだ良い方だ。

 ひょっとしたら手持ちだけでなく、ゴールドにも滝行をやれや丸太を担ぎ上げろや、挙句の果てには大きな岩を押せだとかの無茶苦茶なのをやらされていたかもしれない。

 今脳裏に浮かんだのは、いずれもゴールドの想像なので実際は違うかもしれないが、さっきの戦いでもあれなのだ。アキラ自身「心頭滅却すれば火もまた涼し」などとぶっ飛んだ根性論で、最早ポケモントレーナーがやる様なものでは無いあれ以上のトンデモ修行をやっている可能性は全く否定出来ない。

 

 アキラは確かに強いポケモントレーナーだ。

 彼と率いている手持ちポケモンの実力を知れば、自分同様にその強さを学びたいと考えて指導を仰いだり、弟子入りを希望するのは今後出て来るだろう。

 だけど、こんな無茶苦茶なことをトレーニングの一環――それも日常的にやっているとしたら、助言は求めても弟子入りを希望する者はいないだろう。

 いるとしたら彼がどんな特訓を積んでいるのか知らない無知か、知っていても仰ぐ余程の命知らず、僅かな可能性で同類だろう。

 

 そこまで考えて、ゴールドはアキラ達が何故あれだけ強いのか、その理由の一つを理解した。

 

 トレーナーがあんなことを当然の様にこなせば、そりゃ連れているポケモン達も桁違いに強くなるわ、と。

 

 彼がそんなことを考えているとは露知らず、アキラは戻した手持ち達が入ったボールを整えながらレッドと会話を交わしていた。

 

「その盾中々良さそうだな。俺も貰おうかな?」

「何に使うかは知らないけど、レッドの腕の力じゃ防ぐよりも避けた方が速いと思うよ」

 

 左腕に付けた盾を半回転させて、アキラは盾の円形部分や長方形部分を動きやすい位置に切り替える。

 一見するとブーバーの猛攻を盾を駆使して正面から防ぎ切った様に見えるが、多くは避けたり上手く攻撃を逸らしたものだ。

 軽いものなら多少は力任せに防げるが、それでも相応の威力が込められた技は躱すべきだ。でなければ力負けして吹き飛ばされるのがオチだ。

 

「――今日レッドとゴールドがここに来たってことは、俺がタマムシ大学に来るからゴールドが再戦を望んだって感じかな?」

「あぁそうだ。修業先に戻る前にアキラの視点からも今のゴールドを見てやってくれないか?」 「良いよ。そのくらいの時間的な余裕ならあるし」

「サンキューアキラ。おーいゴールド、アキラは良いだってよ」

 

 レッドに呼ばれて、アキヒトやジュンジと話していたゴールドはここに来た目的を思い出す。

 そうだ。自分はアキラと戦う為にここに来たのだ。

 さっき見た出来事はあまりにも衝撃的過ぎたが、もう既にたくさん驚く様な経験、それこそ死ぬかもしれない経験もしたのだ。

 こんなところで臆してなどいたら、シルバーに追い付くことも、ジョウト地方でロケット団を率いている首領である仮面の男を倒すことも出来ない。

 

 それに仮面の男のデリバードは、伝説のポケモン以上に強いという話も聞いている。

 レッドに弟子入りしたのも、そんな常識外れに強いのを倒す為だ。自分が彼らの領域へと至るには、傍から見ると常識外れなことをこなす必要があるのかもしれない。

 改めてゴールドは決意すると同時に気持ちを切り替えたが、それでも背中にロケットランチャーみたいな大きな銃を背負い、腕に盾を身に付けたアキラのトレーナーらしくない姿が気になってしまうのだった。

 

「本格的に鍛え始めたばかりだろうけど、レッドから見てゴールドはどうだ?」

「結構良いと思う。ポケモンとの信頼関係はバッチリだからアキラの言う通り、強い奴と戦えるだけの実力を付けるだけで良いと思う」

 

 いざ自分が教える立場になった時は上手くやれるかと少し不安に思えたものだが、意外と上手くやれるだけでなくゴールドはかなり伸びしろがあることをレッドは感じていた。

 ポケモントレーナーに必要なポケモンとの信頼関係も良く。戦い方は知っているトレーナーに例えるとブルー寄りではあるが、彼女よりも力がある感じだ。

 それにこちらが教えたこと――アキラには不評な教え方であっても、そのままでは無くて上手く彼なりに解釈してこちらの意図していることに近いことをしてくれるのだから教え甲斐があるだけでなく少し楽でもあった。

 

「そう。やっぱり俺よりもレッドの方がゴールドには合っていたか」

 

 同じ”育てる”や”鍛える”でも、人とポケモンは違う。

 ゴールドが自分から何かを学びたいと思っていたのは確かだが、それは自分達が発揮する桁外れな力に注目していた節があることにアキラは気付いていた。

 確かにカイリュー達の戦い方は、派手な上に一目で”強い”ことがわかるものだが、それだけの力を身に付けるだけでなく十分に使いこなすには相応の能力と鍛錬が必要だ。

 アキラ達でも力を発揮することは出来ても、上手く制御出来ているのか怪しいところがあるのだから、手持ちポケモンがまだ発展途上であるゴールドが身に付けるには時期尚早だ。

 後、自分よりもレッドの方が性格的にも合うと思っていたので、二人の様子見る限りでは上手くやれている様だ。

 

「今俺はこのカントー地方にいるからあんまりわかんないッスけど、今ジョウト地方はどうなんスか?」

「何にも無いよ。一転して音沙汰無し」

「やっぱり、騒ぎを起こしてアキラが来るのを警戒しているんじゃないか?」

「そうなるのかな」

 

 コガネシティで治療も兼ねて口封じの襲撃を防ぐ為の軟禁状態からアキラとゴールドが開放されて以降、あれだけニュースや新聞で騒がせていたロケット団は大人しくなった。

 正に小休止状態と言ったところだが、こうもタイミングが良いとレッドの言う通り、下手に騒ぎを起こすのを避けているとしか思えない。

 刑務所とかを襲撃してまで下っ端の団員達を開放したのだ。下手に使い捨て同然に動かして、また大勢捕まる訳にはいかないのかもしれない。

 

「今ロケット団を率いているのは、サカキじゃなくて仮面の男なんだっけ? それもかなり強い氷使い」

「そうそう。他にも色んなタイプを使うけど、正直に言うと以前レッドに後遺症を負わせた四天王のカンナ以上の氷使いだ」

「カンナ以上か…良く勝てたなアキラ」

「勝っていない。こっちは全力を出したのにあっちは明らかに余力を残していたんだから実質負けだよ」

 

 そうこう話していたら、会話の内容はロケット団を率いている存在へと移る。

 見方によって痛み分けかもしれないが、こちらは使える手全てを使って消耗し切っていたのに、あちらは健在なだけでなくまだ奥の手を使っていないのだから負け以外の何物でもない。

 次戦う時に本気を出されたら、冗談抜きで危うい。だからこそ、残された時間の間に可能な限り更なる対策や力を付けて行かなければならない。

 今年開催されるポケモンリーグの前に終わらせるのは無理かもしれないが、それでも出来る事なら開催前に終わらせたい。

 そう考え込んでいた時、アキラはレッドが自分の体をジロジロと見ていることに気付く。

 

「――どうした?」

「いや、それだけ激しく戦ったってことは何か変わった氷技を受けて、俺みたいに後遺症が出ていないか心配になって」

「あ~、後遺症ね。幸い直接技は受けずに済んだ。てか、あんなのをまともに受けたら後遺症が残る前に死ぬ」

「そうなのか。カイリューとかの技を良く受けるアキラでも死ぬくらいか……結構ヤバイな」

 

 敵の力が具体的にイメージ出来たのか、レッドは難しそうな顔で考え込む。

 彼のヤバイと判断する基準が何かおかしいことにアキラは気付いたが、気にする程のことでは無かったのでゴールドから向けられる引き気味な視線も含めてそのまま流して話を続ける。

 

「特に”ふぶき”の威力がヤバイ。手持ち全員が全力を尽くしてやっとデリバード一匹の全力の”ふぶき”と互角なんだから洒落にならない。でも、個人的には不用意に触れたり物理攻撃を仕掛けると凍り付く厄介さが今の悩みの種」

 

 強過ぎる”ふぶき”などの氷技やまだ使ってこない奥の手など色々あるが、まともに直接打撃攻撃が出来ないことがアキラにとっては一番の悩みだ。

 今のアキラが連れているポケモン達は、格闘系のトレーナーであるシジマに師事している影響で、接近戦でこそ全力が出せるのが多い。

 なのにそれが封じられているのだ。ゲームで例えれば、直接触れる攻撃をしてきた相手にダメージを与えるだけでなく一定確率で”こおり”状態にしたり能力を下げたりする特性を持っている様なものだ。

 

「なら触れなきゃ良いんじゃなくね? あんな馬鹿デカイ火柱が出来るくらいの炎技をアキラは使えるんじゃねえの?」

「それが一番なんだけど、あれは時間が掛かるし手段がそれだけだとな」

 

 最後に繰り出した奥の手を見たことがあるゴールドが対策例を挙げるが、そう簡単に出来るものでは無い。

 強靭な肉体を持つカイリューやほのおタイプであるブーバーでも、全力を出し切ったあの大火力の反動はかなりのものだったのだ。

 多少威力が落ちた状態だとしても、他の手持ちがやるには反動が大き過ぎるし、対抗手段がそれだけでは一度手の内を見せたことも相俟って不安だ。

 

「――ブーバーみたいに、何かポケモンが持っている武器みたいな道具を持たせるってのは?」

「レッドも同じ考えか」

 

 レッドの提案にアキラは同意をするが、途端に頭を痛そうに抱える。

 氷漬けを防ぐ為に今は威力が弱くても良いから、”げきりん”や”ほのおのパンチ”みたいに常に両手から技のエネルギーを放出させることで格闘戦を行う練習をしているが、皆が上手く出来る訳では無いのと出来たとしても疲労などの消耗が早くなってしまう。

 そのことを考えると、間接的に相手を攻撃出来る武器として使えるアイテムを持つことは、間接的に凍らされるのを防ぐだけでなく数値には現れない攻撃力アップが望める。

 

 問題があるとすれば、かつてブーバーが”ふといホネ”を手にする切っ掛けになった知り合いの暴走族を頼る事になりそうなことだ。会う度にやたらと祭り上げられるのであまり関わりたくなかったが、背に腹は代えられない。

 ただ、以前みたいにすんなり手に入るのかということや仮に手に入れても”ふといホネ”をブーバー以外が手にしても使いこなせるのかも不明である。

 

 ゲンガー、すぐに使えるイメージはある。

 カイリューとヤドキング、ドーブルにカポエラー、扱えない事は無いだろうけどすぐに出来るかと言うと難しい。

 サンドパンにサナギラス、骨格や手の形的に無理。

 エレブー、不器用過ぎて論外。

 

 まだ時間はあるので、準備さえ整えば練習をすることは出来る。だけどその練習に必要な準備が出来ていない。

 もういっそのこと”ふといホネ”などの道具に固執はせずに、ドーブルみたいにその場に転がっている木の枝や石を即興で武器にするみたいに、最初から武器を持たせる野良バトル限定の特化をしてしまった方が楽かもしれない。

 

「武器…バトルに使える……バトル中」

 

 そんなことを考えていたら、レッドが何かを呟きながら腕を組んで深く考え込んでいた。

 しばらくすると考えが纏まったのか、彼は顔を上げる。

 

「アキラ、お前の求めていることに合っているかはわからないけど、心当たりがある」

 

 思いがけない発言にアキラは少し驚く。

 今までレッドとは何十回も戦ってきたが、そんな武器みたいなものを彼の手持ちが使って――来たことがあることを思い出した。

 

「もしかしてレッドのニョロが使ったことがある即興で編み出した氷の棒? 確かにああいう感じでバトル中にすぐに用意出来るのが望ましいけど、使えるポケモンが限られるのが…」

 

 仮面の男のデリバードも似た様な使い方の二刀流でこちらを圧倒したのだから、使いこなせれば強力な武器にして攻撃手段になり得るのは証明されている。

 だが実戦レベルで使うには、ある程度強力な氷技が使えるだけでなく、細かい操作が手早く出来るまでの技術、場合によって生成するのに必要な水を確保するなどの多くの問題が考えられる。

 それに記憶では、ニョロボンが使った際はすぐに砕かれていたので、あのデリバードに近いレベルにまで仕上げるのは大変だ。

 ところがアキラの予想に反して、レッドは首を横に振った。

 

「いや、近いけどそれじゃない」

「――近いけどそれじゃない?」

 

 レッドの否定に、アキラは尚更わからなくなる。

 だけど彼が続けて話し始めた内容を聞いて、ゴールドは驚き、アキラは納得をした。

 

「え? そんなことホントに出来るんッスか?」

「いや、レッドの言っていることは出来る。俺も実際に見たことがある。こうして言われるまで思い付かなかったけど、確かにそういう使い方も出来るな。そして、レッドの言う通り俺の()()()()()が使える可能性もある」

「だろ。アキラのポケモンって頭が良いのが多いから、やり方さえわかればすぐに出来ると思うし」

 

 レッドは得意気な顔だが、アキラは今彼が教えてくれたことに関してのメリットとデメリットについて考える。

 全ての問題が完璧に解消される訳では無いのと新たなリスクが生じてしまうが、それでもある程度の効果は望める。

 何よりレッドの言う通り、テレビの影響を受けたりと奇妙な方向へ頑張る傾向が強い一部の手持ちは大歓迎だろう。現段階でも判明している問題などちっとも気にしないどころか、寧ろ積極的に使いまくるのが目に見える。

 じゃなければ、ブーバーはあんな”フォルムチェンジ”擬きみたいな力と技術を身に付けようなどしないし、ゲンガーとヤドキングだって人の文字を学んだりしない。

 

「でも、そんな珍しい使い方を俺に教えちゃって良いの?」

「何言っているんだ。今戦っているのはアキラでも勝てるかわからないどころか、負けたら一巻の終わりのヤバイ相手だろ? だったら少しでも強くならなきゃ。それにお前だったら何時か気付くだろうから、それが早まっただけだ」

 

 以前アキラは、カントー四天王との戦いに備えて、レッドにこれまで明かすことなく考えて来た手の内や戦い方などを惜しみなく教えてくれた。

 そして今、彼はかつての自分みたいに強大な敵との戦いに備えようとしているのに困っている。

 今度は自分が今まで身に付けて来たものを教える番だとレッドは考えていた。

 

「…ありがとう。レッド」

「気にすんな。問題があるとしたら俺がちゃんとアキラに教えられるかってことだけどな。あれ、結構難しいし」

「それは……うん。俺達がちゃんとレッドの言う事を理解出来るかって点は心配だな」

 

 レッドの教え方は、彼自身の感性などの感覚的なものをそのまま表現したかの様な擬音だらけなものだったりと独特なものだ。

 ブーバー辺りは理解出来るらしいが、それ以外の手持ちは自分含めて理解出来なかった。

 オマケに今レッドが話したことが出来るのは、()()()()()()()()()。なので実物や実演無しでの口頭指導だ。

 最後に教え合った時よりも実力や知識は身に付いたが、それでもちゃんと学べるのか不安なアキラだった。

 

 ちなみにこの後、ゴールドは目的通りアキラにフルバトル形式で戦いを挑んだが、勝手に飛び出したブーバー一匹に完膚なきまでに叩きのめされた。

 修行の成果はあったのか多少はダメージを与えたりと手こずらせたが、アキラとの戦いを不完全燃焼気味で終わらされたことも相俟って、八つ当たり気味で暴れるブーバーの勢いを止めることは出来なかった。

 そしてアキラは、レッドが教えてくれる方法を一部を除いた手持ち達と一緒に、頭を抱えながらも必死にコツなどを身に付けるべく学ぶのだった。




アキラ、新装備を整え、レッドから悩みを改善することが出来るであろう手段を学ぶ。

アキラが新しい装備を整えた様に、連れている手持ち達も次の戦いに備えて、新しい戦い方を身に付けます。ちなみにレッドが彼らに教えるものは、原作中にベースになるのが出ているのと本作中に既に出しています。

ゴールドがアキラがやっていることにあれこれ想像していますが、アキラ自身、自分達がやっている鍛錬の一部が一般的なのから外れているのは流石に自覚していますので、仮に師事していたとしてもそんな過剰なことは要求しません。

途中で止まったりしてしまいましたが、今話で更新は一旦終了になります。
次回の更新については、今予定している流れを考えますとどこで一旦止めてもキリが良く無く中途半端になってしまいそうなので、次の更新時でこの第三章を終えることを目標に考えています。
ですが予想外に長くなって、その上でキリが良いと思えるところを見付けたら更新を再開すると思いますので、更新再開時に前書きの方で途中で更新が終わるか、三章の終わりまで更新するかを明言致します。

それでは読者の皆様、良いお年を。

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