SPECIALな冒険記   作:冴龍

139 / 172
ポケモン協会

 ポケモン協会理事長は、最近薄くなっている髪がストレスで更に失われるのを感じていた。

 ただでさえ近年のポケモン協会は不祥事続きで、その対応に追われていたのに壊滅した筈のロケット団がジョウト地方での活動を再開するなど、何故自分の任期にこんなにもトラブルが続くのかと自らの運の無さを呪っていた。

 しかし、ここに来て更なる爆弾が投下されてしまった。

 

「今このコガネシティにジムリーダー達が”エキシビジョンマッチ”の準備の為に集まっていて、その中にヤナギのジジイもいるんだろ? 今すぐしょっぴかねえか?」

「早々に終わらせたいのはわかるけど、相手は”いかりのみずうみ”を丸ごと凍らせる相手だぞ。それに今も捕獲したルギアを連れている可能性がある。勝ててもコガネシティが壊滅する可能性があるぞ?」

「それは嫌だな。しばらくゲームコーナーで遊べなくなる」

「そんなふざけたことを言っている場合じゃないでしょ」

 

 聞くだけで胃痛になりそうな会話が会議室で交わされて、ポケモン協会理事長はいけないことだとは思いつつも現実逃避したかった。

 ポケモン研究の権威であるオーキド博士、その彼から見出された図鑑所有者と呼ばれる少年少女達、そしてシジマの弟子にしてカントー地方のジムリーダー達が一目置く少年が会議室の椅子に座っていたからだ。

 

 話を聞けば、彼らは今ジョウト地方各地で暗躍しているロケット団の新首領と思われる仮面の男と遭遇、そして戦ったという。

 今回やって来たのは、ポケモン協会に仮面の男やロケット団に関しての情報提供と今後の対策の為と言うことなのだが、彼らが齎した情報はとんでもないものばかりだった。

 

 仮面の男は伝説のポケモン、ルギアを手中に収めている。

 強力な氷技を使うポケモンを複数所持しているのと、その体は動き回る氷で構成されている。

 既に協会側が把握している仮面の男の正体がジムリーダーという点から様々な情報を元に考えた結果、該当するジムリーダーはチョウジジム・ジムリーダーのヤナギ。

 

 最初の伝説のポケモンを手に入れただけでもとんでもなく頭が痛いのに、動き回る氷についても最近覚えがあるだけに彼は気が遠くなった。

 否、すぐに起こされたが実際に気絶してしまった。

 

 しかも証拠品として慎重且つ隠されて持ち込まれた溶ける気配が見られない氷の腕。戦いの影響があるのか多少の粗はあれど、その精巧さとその質に理事長は見覚えがあった。

 それも見たのはつい最近だったのだから、尚更良く憶えていた。

 

「理事長…信じたくない気持ちはわかるが、それでも今このジョウト地方を脅かす黒幕を見つける為にジムリーダー達を招集したのじゃろ」

「それは…そうですが…」

 

 重々しい表情で近くの席に座るオーキド博士に指摘されて、理事長はしどろもどろになる。

 三年前にロケット団がカントー地方で暴れていた時、当時のジムリーダーの半数以上がロケット団の悪事に加担していた疑いが持たれた。

 結局は証拠不十分などの理由で罪に問われることは無く、言い訳に聞こえてしまうが間違い扱いで済んだ。

 だからこそ、本当にジムリーダーが悪事を働いているという疑惑が再び浮上してしまったことに、ポケモン協会理事長は嘘だと思いたかった。

 

 しかも若手などでは無く、長年に渡ってポケモン協会やジョウト地方に貢献してきた人物が犯人なのだ。信じろと言われても信じられないし、そもそも信じたくなかった。

 

 だが車椅子で満足に動けなくても、手足や胴を氷で構成すれば確かにヤナギ本人とはかけ離れた体格の人物が出来上がる。

 そして氷で構成された存在をどうやって動かすのか、その技術についても理事長は実際に目の当たりにしている。

 仮面の男と戦い、その証拠を持ち込んだ当事者達は揃って子どもではあるものの、子どもの見間違いや思い込みと断じるには辻褄が合い過ぎるのと説得力が有り過ぎた。

 

 責任問題やら様々な大人の事情などの考えが脳裏を過ぎっていくが、徐々に理事長は落ち着き始める。

 今更自らの不運を呪っても、仮面の男の正体がヤナギであろうとなかろうとジムリーダーの一人であることは確定なのだ。

 ならば少しでも事態を良い方に解決する方が先決だと自分に言い聞かせた。

 

「――わかった。君達の話を信じてヤナギ老人が……全ての黒幕と言う前提で今回の話を進めよう」

 

 苦渋と言わんばかりの様子でポケモン協会理事長は声を絞り出す。

 オーキド博士だけでなく、会議室にいた四人も理事長に視線を向けながら黙り込むなど空気はまだ重かったが、アキラだけは安堵しつつようやくと言った感じの表情を浮かべていた。

 こうして周りからのお墨付きと呼ぶべきものが貰えれば、こちらとしても動きやすい。

 なので、早速アキラは話を切り出すことにした。

 

「問題は、どうやって取り押さえるかですね。ジムリーダーが集結している今から拘束しようとしても、抵抗されたらコガネシティは壊滅的被害を受けてしまう」

「ポケモンリーグが終わった後に、ヤナギがリーダーを務めているジムに乗り込むのは?」

「敵拠点に攻め入るのは不利だ。そもそもポケモンリーグの会場で何か事を起こす可能性も十分にある。行動を起こすならすぐの方が良い」

「戦う前に適当な理由でとっ捕まえるのは?」

「悪くないけど、ヤナギから上手く手持ちを取り上げるのが難しそうだな」

 

 アキラが話し始めたのを皮切りに、レッドやゴールドも様々な提案をする。

 この世界で悪事を働く存在が中々減らなかったり捕まらないのは、単純にそういう存在の力が強過ぎるからだ。

 そしてヤナギは、その力がトップクラスの存在だ。伝説のポケモンを倒すだけでなく、手中に収めているのだ。並大抵の存在では束になっても敵わない。

 力を保持しているのはポケモンの方なので、手持ちがいなければヤナギはただの老人ではあるが、その手持ちを封じるまでの過程が面倒だ。

 あれだけやった上に普段は表舞台に出ないのに、ポケモン協会の招集に応じて姿を現したのだ。全く警戒していないとは考えにくい。

 

 すぐにでも捕まえに行くのなら、実力行使も視野に入れなければならない。

 しかも、恐らくこの世界で今一番手強い存在を相手にだ。念入りにやるのは勿論、相手も何かしらの策を駆使することも考慮しなければいけない。

 

 そんな会話をアキラとレッド、ゴールドの三人が交わしてた時、ポケモン協会理事長の席からコール音の様なのが鳴り響き始めた。

 オーキド博士はともかく、今この場に自分達が来ているのは秘密だ。そもそも今会議室が確保されている理由もオーキド博士との相談という扱いなので、終わるまで緊急以外の連絡はしない筈だ。

 つまり、緊急で伝えなければならない余程の何かということだ。

 

「すまない。少々席を外す」

 

 先程までの憂鬱そうな表情から少しは持ち直した表情を浮かべて、ポケモン協会理事長が会議室から出る。

 会議室の扉が完全に閉まったのを見届けたタイミングで、アキラ達は会話を再開する。

 

「何かあったのでしょうか?」

「余程のことがあったんだろう」

「ヤナギが姿を消したとかなら、ちょっと面倒だけどな」

 

 あれこれと意見が出るが、アキラとしてはこのタイミングでヤナギが姿を眩ませるのが一番厄介だと考えていた。

 ヤナギの目的と時期を考えれば、ジムリーダーとしての地位もいざとなれば捨てる。それくらいのことをやってもおかしくない。

 様々な可能性について考えを巡らせていたら、ポケモン協会理事長が悩ましそうな表情を浮かべて戻って来る。

 

「――悪いニュースだ。ロケット団の活動が確認された」

 

 伝えられた内容にゴールドとクリスに緊張が走るが、アキラとレッドは怪訝そうな顔で見合わせるだけだった。

 予想していた内容よりは幾分かマシだったので、正直言って拍子抜けだったのだ。

 だけど判断するのはまだ早いので、詳細を聞くことにする。

 

「久し振りですね…でも単に確認された訳では無さそうですね」

「そうだ。各地でロケット団らしき集団がチョウジタウンの山奥へ向かって移動しているという連絡があった。そして、ほぼ同時刻にチョウジタウンの外れにある土産屋が仮面の男が率いるロケット団の襲撃を受けたとのことだ」

「え? でも仮面の男の疑いが持たれているヤナギさんは今はコガネシティの宿舎にいるのでは?」

「おいおいクリス、相手は”仮面の男”だぜ。本人じゃなくても適当な奴に仮面被せて同じ格好をさせりゃ誤魔化せるぜ」

 

 ゴールドの指摘は尤もだ。

 仮面の下の素顔はわからないのだから、それこそ適当な人に同じ格好をさせれば、張本人とは別の仮面の男の出来上がりだ。

 一見すると、仮面の男の正体をジムリーダーでは無いアピールにも見えなくも無いが、狙いはそれでは無いだろう。

 

「このタイミングで動きがあるのは露骨ですね。本当の目的は別にある」

「我々は何かしらの大きな作戦の前触れと考えている。集まる数があまりにも多い」

 

 何を企んでいるのかはわからないが、この時期にロケット団が目立つくらいに動き始めるのはあまりにも不自然だ。

 もう少し隠れて動くのではなくて、敢えて自分達の動きを教える様に動くのはおかしい。

 ポケモン協会理事長の言う通り、”何か大きなことをやります”と言っている様なものだ。

 

「今警察が各地から人員をチョウジタウンに集めて、集結しつつあるロケット団が何時行動を起こしても良い様に備えているが…」

「あ~、理事長さんよ。お巡りさんがロケット団を止める事って、出来んのか?」

「ちょ、ちょっとゴールド! 失礼でしょ!」

 

 クリスは叱るが、あまり触れられたくないことをゴールドに指摘されたポケモン協会理事長は頭を痛そうに抱える。

 アキラとレッドも口にはしなかったが、正直言ってゴールドと同意見だった。

 

 個々に強い警察官はいるが、総合的な戦力はポケモンバトル関係ならルールを守らない無法バトル以前にロケット団の方が上だ。

 仮に幹部格かそれに近い実力者がいたら非常に不味い。同規模の戦力どころか上回っていたとしても返り討ちに遭う可能性が高い。

 

「以前脱走されたのが、ここに来て結構響いているな…」

「今集まっているジムリーダーの方々に協力をお願いすることは――」

「クリス、ジムリーダーの中に悪の親玉がいるんだぜ。そんなことをしたら後ろから刺されるぞ」

「それにジムリーダーの何人かが加勢出来たとしても、今度はヤナギと奴が連れているかもしれないルギアを抑える戦力が減ってしまう。敵の狙いはこちらの戦力の分散、或いは陽動と見るべきだろう」

 

 アキラはこのタイミングでのロケット団の動きをこちら側の戦力の分散か陽動のいずれかと判断する。

 黒幕はジムリーダーなのだ。こちらの戦力や警察の事情はそれなりに把握している。

 ジムリーダー達に警察への加勢を頼めば、黒幕を抑える戦力が減少するか、ゴールドの言う通り後ろから刺されてもおかしくない。

 かと言ってロケット団の対処を今の警察だけに任せたら、動き出したロケット団に負けてしまった場合の損害が大きいどころか、勢いのままに近くの町が蹂躙される恐れもある。

 

 集まるロケット団か正体が掴めている黒幕のどちらに力を注ぐか。

 警察が強ければこんなことに悩まないのだが、仕方ないものは仕方ない。

 何が目的にせよ集結しつつあるロケット団の軍勢の存在を無視することは出来ないので、このタイミングでは厄介極まりない。

 アキラも頭は働かせてどうしたら良いか考えるが、難しい顔で考えていたレッドが口を開いた。

 

「……アキラ、ロケット団と仮面の男。どっちが手強い?」

「どっちが手強い? 仮面の男の方がずっと手強いよ」

 

 レッドの質問の意図がわからなかったが、アキラは正直に答える。

 集まっているロケット団の数がどれだけかは知らないが、ヤナギと伝説のポケモンを相手にするのと比べれば、数が多いロケット団を相手にする方が遥かにマシだ。

 そこまで答えた時、アキラはレッドが何を考えているのかを察した。

 

「レッド、まさか…」

「オーキド博士、もし俺達がポケモンリーグの会場に向かっていたら何を頼むつもりでしたか?」

「会場内でエキシビジョンマッチを行うジムリーダー達の動向を監視、いざという時の加勢を頼もうと考えていた」

「そうですか…なら、どの道戦力を分散させる必要があるのでしたら、俺とアキラが警察に加勢してロケット団を片付け次第すぐにポケモンリーグ会場に駆け付けます」

 

 思い切ったレッドの進言にオーキド博士とポケモン協会理事長は驚きを露わにする。

 

「それってつまり…」

「今回のポケモンリーグに俺達が出場出来なくなるどころか、開催出来なくなるのはわかる。だけど、奴らを止めるにはこれしかないと俺は思う」

 

 レッドの考えは単純だ。

 ポケモンリーグの会場で予定通りにジムリーダー同士のエキシビジョンマッチを開催。

 大勢のジムリーダー達がいる場所に身を置かせることで、ヤナギが行動に出ることを抑止。

 その間にアキラとレッドが、集結するロケット団に挑む警察達に加勢して速やかに鎮圧。

 その後、セキエイ高原にすぐに戻って、仮面の男の疑いがあるヤナギの捕縛に備えつつジムリーダー達に加勢すると言うものだ。

 

 都合が良過ぎるというか、提案した本人は良くても負担が大きい提案であった。

 

「あの…レッド先輩。それは幾ら何でも無理をし過ぎなのでは?」

「いや、案外良い考えかもしれないと思うぜ。レッド先輩とアキラが力を合わせりゃ、仮面の男が相手でも無い限り敵無しだ」

 

 レッドは前回のポケモンリーグの優勝者にして、三年前のロケット団壊滅の立役者だ。実力も当時よりもずっと増している。

 アキラに至っては規格外の破壊力を有しているだけでなく、集団戦が中心であるロケット団との戦いをレッド以上に経験しているどころか最も得意としている。

 この提案を採用するだけの価値は十分にあった。

 

 そんな提案を聞いていた一人であるポケモン協会理事長だが、彼はどうするべきか頭をこれ以上無く働かせていた。

 

 レッドの実力は度々耳にしているし、最近ではアキラの活躍も彼は良く聞いていた。

 ”スズの塔”で百人規模のロケット団を相手に大立ち回りをして返り討ちにしたことを始め、大量発生したギャラドスが暴れた扱いにされたが、仮面の男を相手に一部の地形が変わる程の激戦を繰り広げた。

 それ以外の時でも見掛けたロケット団を、やり方は荒っぽいものの良く言えば懲らしめて警察に突き出して来た。

 

 過去に遡れば、カントー四天王が従えた軍団を増援が駆け付けるまで手持ちと共に注意を集めて孤軍奮闘したなど、人によってはレッド以上に場数を踏んでいる。

 そんなたった一人で戦局を大きく変えられる存在が二人も加勢すれば、確かに集結しているロケット団を打ち負かすことも十分可能かもしれない。

 

「……我々の不甲斐無さは本当に申し訳ないと思っている。出来る限りの支援や要望には応える。だから………君達の力を貸して欲しい」

 

 頼み辛そうではあったが、それでもポケモン協会理事長はレッドの提案に乗る形で二人に加勢を要請する。

 ここまで理事長が迷ったのは、単に彼らが強いだけで、何の権限も持たない”一般の子ども”という大きな問題があるからだ。

 本来なら、ロケット団やポケモンを使った悪事の対処は大人や警察がするべきこと、言い方は悪いが子どもがヒーロー気取りで危険なことに首を突っ込んで欲しくは無かった。

 だが、現実はまるで歯が立たず、代わりにポケモンバトルに優れた実力を持つ彼らがここ数年間に起きた様々な事件や戦いを終わらせてきた。

 

 情けないと言われても何も言い返せない。何時の日か改善しなければならない問題だ。

 しかし、今はまだとてもではないが力が足りない。

 そんな苦しい気持ちで胸が一杯だった。

 

「理事長、頭を下げなくても大丈夫です。それが…今のところ考えられる有効な手かもしれないですし、断る理由もありません」

 

 今まで見て来た警察の戦力面での不安を考えると、自分達も積極的に関わった方が良いのはわかり切ったことなので、アキラもチョウジタウンに集結しているロケット団と戦うことを了承する。

 今年のポケモンリーグは無事に開催出来ても、自分達は出場出来ないことになってしまうが、状況的にもう仕方ないだろう。

 

 このタイミングに現れたロケット団の軍勢は、どんな狙いや意図が有ろうと無視することは出来ない。

 今からアキラ達がジムリーダー達と協力してヤナギを捕まえることが出来たとしても、確実に消耗する。

 そうなればリーダーを失ったロケット団の軍勢が警察でも止め切れない程に暴発してしまう恐れもある。

 ならば、大勢のジムリーダー達が集まるポケモンリーグの会場でヤナギの行動をなるべく抑えながら、アキラとレッドが警察に加勢して手早くロケット団を片付ける方が良いだろう。

 警察が苦労したり手に負えない相手を引き受けるだけでも、かなり違う。

 

「――俺とレッドはどうするか決まったけど、ゴールドとクリスはどうする?」

「俺達はセキエイ高原に向かって、変な動きが無いか目を光らせる。それに俺やクリスが加勢しても二人の足を引っ張るだけッスよ」

 

 ロケット団との戦いは、間違いなく多くのポケモンと人が入り乱れる大規模な戦いになる。

 ルギアとの戦いの時に感じたが、実力不足もそうだが全ての手持ちを同時に適切に導き切れない今の自分達では、二人の動きに付いて行けずに足手まといになってしまう。

 寧ろアキラは、以前ゴールドが遠目で見た”いかりのみずうみ”で起きた光景や”うずまき島”での戦いを考えると、下手に味方が周囲にいない方が思う存分戦えるかもしれない。

 

「――仮に俺達が戻る前に会場でヤナギが暴れ始めたらどうする?」

「レッド先輩達が戻って来る前に何か起きても、それまでは持ち堪えてやるつもりッス」

 

 時間稼ぎ上等と言わんばかりのゴールドの姿勢に、アキラは無謀だと思いつつも頼もしく思えた。

 何だかんだ言ってゴールドは諦めずに抗う姿勢を持ち続けたからこそ、色んな困難やピンチを乗り越えて来たのだ。

 今回もやってくれるだろうという信頼があった。

 

「何ならルギアが出て来たら逆に倒してやるつもりッスよ」

「そこまで無茶はしなくても良い…と言いたいけど、伝説のポケモンを倒してくれたら大分楽になる」

「ほ…本当に伝説のポケモンに勝てるのかね?」

「戦った感じでは、こちらの攻撃は通じていましたし、消耗もしていました。ジムリーダー達が協力し合えば勝算は十分過ぎるくらいあります」

 

 理事長は半信半疑だが、アキラは今までの経験からルギアと戦ったどうなるかを伝える。

 ルギアに限らず伝説のポケモンはその名の通り、滅多に姿を見せないだけでなく凄まじい力の持ち主だ。記録上では伝説のポケモンを一般ポケモンが何とか追い返したくらいなら僅かにあるが、倒した記録は皆無に等しい。

 神聖視するあまり、本当に倒せるのか疑ってしまう気持ちはわかる。

 

 だけど、幾ら攻撃しても倒せる気配が全くしない訳では無い。

 悪役みたいな考えだが、単なる規格外の力を持つだけのポケモンだ。現に仮面の男は自分達の目の前でルギアを捕獲している。

 十分に対策を練った上で全力で挑めば、仮面の男よりは勝機はある。

 だが戦いでの勝ち負け以前に解決すべき問題は他にもあった。

 

「だけどレッド、ヤナギと戦うことになるのがポケモンリーグの会場にするとしたら、観客の人達はどうする?」

「…う~ん、入れないのは不自然過ぎるしな…かと言ってもし戦い始めたらパニックになるのは間違いないしな」

 

 アキラが挙げた”観客”の存在について、レッドも悩ましいとばかりに腕を組んで考え始める。

 彼らは大規模な戦いになることを承知の上で話を進めているが、戦いの舞台になる片方はポケモンリーグが開催されるセキエイ高原だ。

 つまり、そこには裏事情を知らない観客やポケモンリーグに参加するトレーナーなどの多くの人達が集まる。

 

 ルギアが暴れても、ヤナギ個人が暴れるのどちらでもパニックは免れない。

 観客を入れないことにしようにも、今カントー地方とジョウト地方のジムリーダー達が集まっているのは、そのポケモンリーグで観客達の前で”エキシビジョンマッチ”を行うという名目があるからだ。

 ここで中止や観客を入れないなどしたら、ヤナギは姿を眩ませることは間違いない。そもそもエキシビジョンマッチは一般向けの宣伝や単に黒幕を引き摺り出す以外にも、相手の手の内を味方側に少しでも把握させたり手持ちを多少は消耗させると言ったことを行う意義もあったりする

 なので警備を増やしたり、避難ルートを明確にするくらいしか良いのは浮かばない。

 

「相手の実力を考えれば、どこで戦おうと被害が出るのは確実。だからと言って仕方ないで済ませてはいけませんから、もう少し考えましょう」

 

 ロケット団が乗り込んでくる可能性もあるので、その辺りも警戒しなければならない。

 そもそも乗り込んでくることをアキラは知っているので、会場の設備を守る人員の強化を念入りに伝えておく。

 

 彼がそこまで”観客”について気にしているのは、そう簡単に戦場にしたくないのもあるが、この世界の居候先であるヒラタ博士の孫が今年はポケモンリーグを見に行くと言っていたからだ。

 前にその話を聞いた時はジョウト地方がロケット団で荒れているから、収まるまで止めた方が良いとアキラは伝えているが、最近は大人しくなったので行くだろうからだ。

 戦うなら戦うで、何とかして観客の安全確保が出来る体制にしておきたいというちょっとした私情もあった。

 

 それからも彼らの作戦会議は続いた。

 状況を整理すれば、力を注ぐべき敵は二つだ。

 一つ目はヤマブキシティでの事件よりは少ないが、チョウジタウンから離れた山奥にある施設に集結しつつあるロケット団の軍勢。

 そして最後は、ロケット団残党を纏め上げている容疑が強まったチョウジジム・ジムリーダーのヤナギ。

 

 コガネシティにあるジムリーダーの為に準備された宿舎にいるので、やろうと思えば今すぐヤナギを捕まえに行くことは出来る。

 だが、伝説のポケモンであるルギアが手元にいる可能性とヤナギ本人の実力も相俟って危険度はかなり高い。

 そこで今回のポケモンリーグでジムリーダー達が行う予定であるエキシビジョンマッチに手を加えることをポケモン協会理事長は提案した。

 

 それは両地方のキャプテン同士は固定で戦うというルールだ。

 これにヤナギをジョウト側のキャプテンにして、カントー側のキャプテンはほのおタイプのエキスパートであるカツラに頼む。

 そうすれば、ヤナギの手持ちは相性の悪い相手と戦うことで勝ち負け関係無く消耗する。そうなれば、エキシビジョンマッチ終了後の身柄確保が多少は楽になる筈だと彼は考えた。

 

 他にもあやふやだった警備員の増員や明確な避難ルートの設定、パニック時の対応法の用意するなどを前提にポケモンリーグ開催日に全ての行動を開始することが決まった。

 警察の加勢に向かうアキラとレッドは、警察に任せても大丈夫だと判断したら、アキラの手持ちポケモンの”テレポート”による長距離移動でセキエイ高原に向かう事もだ。

 

 それらの当日の行動や流れを決め、オーキド博士とポケモン協会理事長以外の四人は他人に見られない様に慎重に会議室から出るのだった。

 

「…大変になるな」

「あぁ、奇襲や情報漏洩を考慮して、俺とレッドが加勢することを警察に連絡するのはポケモンリーグ開催当日だから、ある意味でぶっつけ本番だ」

 

 レッドからの問い掛けに、アキラは真剣な表情で答える。

 二人ともロケット団と戦う警察達の方に加勢に向かうのは良いが、連絡や合流などが全て当日に行うのが少し悩みであった。

 幾ら情報漏洩を警戒しているとはいえ、ちょっとやり過ぎな気はしたが決まったことだ。そもそも相手はジムリーダーで、こちら側の事情に精通している。

 お陰でアキラとしては、ヒラタ博士を含めた今年のポケモンリーグを見に行くことを考えているお世話になった人達に警告することも出来ない。

 でも、どこから情報が洩れるかもわからないので正直言って複雑だ。

 

 出来ることなら、自分とレッドが会場に戻って来るまでヤナギが行動を起こさない事を祈るしかない。

 

「ゴールドとクリスは変に気合を入れ過ぎて無理しない様に…と言いたいけど、この戦いに参加している時点で無理している様なものか」

「おう、任せとけ! 何ならさっきも言った様に戻ってくる前に全部終わらせても良いぜ!」

 

 ゴールドは自信満々に返事するが、クリスは少し不安げな表情だった。

 

「…私達の方はいざとなったらジムリーダーの方々がいますけど、お二人が向かうところに、もし敵に回った伝説のポケモンが現れたりしたら――」

「心配し過ぎだクリス。アキラは一回スイクンを軽々と打ち負かしているんだぞ。ルギアだって横槍が無ければ勝っていただろし、この二人を常識で判断しない方が良いぞ」

「……え?」

「ゴールド、スイクンを負かしたのは事実だけど、ルギアはあのまま戦っていたらどうなっていたか…」

 

 二人は何ともなさげに会話を続けるが、内容が衝撃的だったのか、クリスの視線はゴールドとアキラを交互に忙しなく向けられる。

 アキラとしてはスイクンを負かしたのは事実だがそこまで余裕じゃなかったし、ルギアもあのまま戦っていたらどうなっていたのかわからないので、そこまで強気にはなれなかった。

 後、遠回しに自分達は非常識と言われたのも地味に気になった。

 

「あんな無茶苦茶な特訓をしといて勝てるかわからないって良く言えるッスね。口では濁していても勝つつもりだったんじゃないか?」

「…まあ勝つことは考えていたけど」

「それに、レッド先輩も伝説を倒せるッスよね?」

「俺の場合は”負けるつもりは無い”、だ。いざ挑んだらどうやって倒すかは手探りになるだろうな。でも――」

 

 そこで区切るとレッドはアキラに目を向ける。

 

「アキラ、お前なら具体的にどうやって”伝説のポケモンを倒す”かまで考えているだろ」

 

 ゴールドとは違う真面目な視線を向けられて、アキラはちょっと困った顔を浮かべる。

 

「――確かに”どうやって倒す”かは考えているけど……あんまり期待しないで」

 

 

 

 

 

 

 閉めていたカーテンを開け、窓の外から見える街並みを眺めながらポケモン協会理事長は疲れた様に息を吐く。

 頭の中を過ぎるのは、先程まで行っていた作戦会議よりも彼らの様な子ども達さえも戦力に数えなければならない自分達大人の不甲斐なさばかりだ。

 

「彼らには本当に申し訳ない」

 

 それが偽り一つの無い本音であった。

 三年前にロケット団がカントー地方で活動していた頃から、一部のジムリーダーがロケット団に加担していた疑惑もあったものの既に警察の力では如何にもならなかった。

 だからなのか、タマムシジムでリーダーを務めるエリカや一部の市民達は警察などの公的組織よりも、自分達で結成した自警団を頼りにする様になった。

 更にはワタルを始めとしたカントー四天王の様に、一個人で驚異的な力を持つトレーナーが敵味方問わずに現れる様になった。

 

 ポケモントレーナーと彼らが連れるポケモンの力が年々増しているのは明白だった。

 

「昔と比べると、今はもう色々と変わったな」

 

 自分が若い頃とは大違いだ、と理事長は回顧する。

 昔はポケモンを捕獲、或いは連れるだけでも難しく。共に戦えるだけで優れたトレーナーと呼ばれていた時代があった。

 しかし、今は誰もがポケモンを連れるのが当たり前の時代。そして、ポケモン達が持つ力を引き出す術も急速に発達してきた。

 それらの発展はポケモンのことを良く知ろうとしてきた先人達が積み重ねてきた努力のお陰だが、その発達に追い付けていないのも多い。

 その代表こそが、警察などの公的組織だ。

 

 今まで強力な野生ポケモンやポケモンを悪事に利用する人間の相手をジムリーダーや実力のあるトレーナーに依頼してきたツケが来たのだ。

 ロケット団の様なポケモンの扱いに長けた実力者が何人も属している組織的な犯罪者集団には、今の警察はあまりにも無力だ。

 その結果、彼らの様なポケモンバトルに優れている少年少女、またはタマムシシティのジムリーダーであるエリカを始めとした各地で組織された自警団に頼らざるを得ないことになっている。

 

 だが何時までも手をこまねいている訳では無い。

 警察の方もポケモンバトルの実力を磨くことは勿論、ポケモン協会側も一応だが、今の現状を解消する為の案は幾つか出ている。

 それらの案を採用するか検討を重ねてはいたが、こうも毎年頻繁に大事件が起きていてはゆっくり話し合っていられない。

 この騒動が終わってからでは遅いかもしれないし、終わった後でも今の地位にいるかもわからないが、何時でも整えられる様にしなくてはならないだろう。

 

 まずは今ジョウト地方を襲っている巨悪を退ける方が先決と強く決意を固めるが、先程まで椅子に座って思い詰めた様に深刻な表情で座っていたオーキド博士が静かにその場から去って行ったことには、ポケモン協会理事長は気付いていなかった。




アキラ、話し合いの末、レッドと共に警察の加勢に向かうことを引き受ける。

レジェンズアルセウスをプレイするとポケモンを何匹も連れて、しかも高いレベルに育成した上で統率するのはかなり大変なことなのが良くわかります。
技術の進歩やポケモン研究の進展による恩恵は凄いです。

本作や本編でも一部を除いて、警察はロケット団とかの悪の組織には苦戦を強いられていることを描いていますが、サカキがロケット団を結成するまでは力を持った複数のトレーナーによるポケモンを悪事に利用する組織的な犯罪者集団は殆どいなかったのでは無いかと考えています。

次回、アキラとレッドは念入りに準備を整えてから決戦の場へ向かいます。

次回から更新する予定の数話は調整がまだ終わっていないので遅れます。
ただ諸事情の為、確認の時間確保が思う様に出来ないのですぐに更新は難しそうです。
アンケートも回答ありがとうございます。次回の更新までは残しておきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。