SPECIALな冒険記   作:冴龍

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仮面の男対抗戦線

 突然現れて敵対し始めたシバとキョウの存在に、仮面の男は一向に状況が良くならないことに苛立ちを募らせていた。

 当初の思惑通り、大きな障害になると考えたレッドとアキラ、そしてジムリーダー達を引き離すことには成功した。

 それでも多少の邪魔が入ることは想定していたので、それらも黙らせてこれからという時に思ってもいなかった実力者の乱入。

 しかも彼らが乱入する切っ掛けになったのがアキラとレッド絡みなのだから、散々彼ら――特にアキラに邪魔されて来た仮面の男からすれば、冗談抜きで彼は疫病神だった。

 

「デリバード」

 

 連れているデリバードに命じると、仮面の男の意図を察したプレゼントポケモンは素早く動く。

 仕掛けるのかとシバとキョウは手持ちと共に警戒し始めるが、デリバードが向かった先はルギアの肩に乗るカーツだった。

 デリバードはカーツにプレゼント袋から何かを渡すと、流れる動きでルギアの翼から何かを引き抜き、シャムとホウオウにも同じ様な行動を取った後、仮面の男の元へと戻った。

 

「カーツ、シャム。当初の予定通りこの場は任せる」

「はっ!」

「必ずやあの戦闘狂(バトルマニア)共を打ち負かしてみせます!」

 

 デリバードから何かを受け取った仮面の男は、己の部下達に発破を掛けるとその体を浮かび上がらせる。

 ゴールドとクリス、シルバーは仮面の男がこの場から去ろうとしていることを悟るが、シバとキョウは一瞥するだけで二人とも目の前に立つルギアとホウオウに意識を向けていた。

 放置すれば何かをやらかすのが目の見えているのに、追い掛けるつもりは更々無いらしい。そもそも伝説のポケモンを相手取るつもりなのに、これ以上手を広げたくは無いのだろう。

 

 どうしたら仮面の男を自由にさせず、この場に釘付けにすることが出来るのか。

 再び頭をフルに働かせてゴールドが考え始めた時だった。

 

 ルギアとホウオウの攻撃で半壊していた天井から、三つの光が突如として飛び込んで来たのだ。

 

「っ!?」

 

 それらの存在に気付いた仮面の男は、即座に振り返って警戒するが、その判断は正しかった。

 仮面越しに向けられた視線の先に、破壊した建物の瓦礫が積み重なった上に見覚えのある三匹のポケモンと三人のトレーナーが立っていたからだ。

 

 スイクン、エンテイ、ライコウ

 

 かつてホウオウを従わせていた仮面の男に戦いを挑み、主であり大恩あるホウオウの開放と引き換えに”焼けた塔”に封印した伝説のポケモン達。

 最近、その封印が破られて各地でジムリーダーを含めた強豪トレーナーを相手に勝負を挑んでいた三匹が、遠くへ引き離した筈の三人のジムリーダーと共に仮面の男の前に現れたのだ。

 

「貴様ら…ジムリーダーの…」

「ええ、そうよ」

「俺達はこいつらにてめえと共に戦うパートナーとして選ばれた!」

「水・炎・電気のエキスパート!」

 

 スイクン、エンテイ、ライコウと一緒に駆け付けた三人――カスミ、カツラ、マチスが仮面の男を見据えて力強く相対する。

 そして彼らが駆け付けたことに、立ち上がろうとしていたゴールドやクリスも驚いていた。

 クリスはスイクン、ゴールドはライコウ以外の二匹と直接会った経験はあったが、まさか三匹が駆け付けるだけでなく遠く離れた場所に隔離されていたジムリーダー三人も伴って来るとは思っていなかったからだ。

 

「おっ、おっさん」

「よう小僧共。随分とボロボロじゃねえか」

 

 駆け付けた三人の中で唯一面識があったゴールドとシルバーに、マチスは気付くと軽く声を掛ける。

 彼らの様子を一目見ただけで、伝説のポケモンや仮面の男を相手に戦うも力及ばずといったことが容易に想像出来た。

 他にも少し離れた場所にここ一年間音信不通で行方知れずだった人物がいるのにも気付いたが、状況も状況だったので少しだけ視線を向けるだけで今は触れないことにした。

 それはカツラやカスミも同じであったが、様子から見て仮面の男とその配下とはシバとキョウの二人は敵対している様子であることだけは理解出来たので、今は目の前の敵に集中する。

 

「ふん、以前私に挑んで敵わなかった負け犬共か」

 

 隔離した筈のジムリーダー達が伝説のポケモンという強力な戦力を連れて自分の前に立ち塞がったにも関わらず、仮面の男は狼狽えるどころか鬱陶しそうな反応だった。

 それどころか耳を疑う様なことを口にし、それにゴールドは反応した。

 

「敵わなかった? どういうことだ?」

「そのままの意味だ。スイクン、エンテイ、ライコウ。その三匹はかつて私に無謀にも戦いを挑み、そして負けたのだ」

「えっ? 嘘?」

 

 仮面の男の口から語られた驚愕の告白にゴールドとクリスは驚きを露にする。

 ルギアとホウオウを手中に収めているのだから、仮面の男に相応の実力があることはわかっていたつもりだった。

 だけど、伝説のポケモンが三匹掛かりで挑んでも勝てなかったというのはにわかに信じ難かった。

 

「ジムリーダーと組んだのも私との力の差を埋める為だろう。だが、その程度で如何にかなる様なものでは無いだろう」

 

 冷静に仮面の男は、スイクン達がジムリーダー達と手を組んだ理由も分析する。

 自らのタイプと同じエキスパートをパートナーに選んだのは、急繕いな関係でも特定のタイプの力を引き出すのに長けていることを重視したからだろうが、それだけで自分との力の差を埋められるとは思っていない。

 寧ろ、伝説のポケモンと呼ばれる程に強力なポケモンは、下手にトレーナーと共に戦った方が不利になることだらけだ。

 

「えぇ、確かに私達は彼らと会って間も無いわ。でも甘く見ない方が良いわよ」

 

 並んでいた三人の中で、カスミは一歩前へ踏み出しながら力強い目付きで仮面の男を見据える。

 仮面の男の言う通り、スイクン達が自分達の元に来たのは()()()()()だが、それでも短い時間の間に彼らとの関係や意思疎通、連携を深めることは出来た。

 何を考えているのかやどういう意図で自分達をパートナーとして見出したのかもだ。

 

 そして三人はそれぞれ彼らの意思に共感した上で力を貸すと同時に、この戦いの場に駆け付けたのだ。かつて彼らが敗れたという仮面の男を相手にどう戦っていくのか、その作戦も考えてきた。

 

 気を引き締めて、いざ三人が仮面の男に挑もうとした時、突如として彼ら目掛けて巨大な炎と空気の塊が飛んでくる。

 すぐさま三人は三匹の背に乗ってそれぞれ回避すると、負傷して動けないゴールドやクリス、シルバーのすぐ傍に着地する。

 

「待てジムリーダー共」

「あの御方と戦うなら、まずは私達を倒してからにしなさい」

 

 攻撃から逃れた三人に対して、ルギアとホウオウを配下にしたカーツとシャムが宣戦布告をする。

 一般的な扱いとしては同じ伝説のポケモンではあるが、実力と格で言えばルギアやホウオウの方が三匹よりも上の存在。しかもスイクン達にとってホウオウは主と言える存在だ。

 更に念を入れてか、彼らはルギアとホウオウ以外にも手持ちであるマグカルゴとヤドキング、更に複数のヘルガーやペルシアンも出すなど迎え撃つ準備を整えていた。

 

「どうするよカツラの旦那」

「むう…作戦通りにいきそうには無いがやるしかない」

 

 当初の予定では仮面の男か率いられているであろうルギアとホウオウを相手にするつもりだったが、少数ならまだしも他の多くのポケモンを相手にすることまでは想定していなかった。

 シバやキョウが味方してくれるので多少は負担は軽減されると思われるが、彼らがどう動くつもりなのか読みにくかった。

 

 だけどこの場に駆け付けたからには、どんな状況であれ、仮面の男のこれ以上の悪事を防ぐ為に戦うつもりなのには変わらない。

 彼らはゴールドとクリスにシルバー、更には動けないオーキド博士を守る様な形で体勢を立て直すと、どの様にしてこの状況を突破して仮面の男へ挑むのか思案し始める。

 

 そうして両陣営が睨み合っていたそんな時だった。

 誰かが、ある異変に気付く。

 

 どこからか轟音が聞こえ始め、しかもその音は徐々に大きくなりつつあることにだ。

 

「…何だ?」

「まるでジェット機が近くを飛んでいるみてぇだな」

 

 カツラはその音に疑問を抱くが、元軍人だったマチスは、それが経験したことがある音に近いものなのを口にする。

 だが、こんな近くをジェット機が飛ぶとは聞いていないし、第一そんなものが来ること自体おかしい。

 聞こえ始めた謎の轟音に、駆け付けたジムリーダーの三人だけでなく、仮面の男も外が見えるまでに倒壊した会場の大穴から空へと顔を向ける。

 

 そして、太陽を背にそれは飛んで来た。

 崩壊したスタジアムから見えたそれは、そのまま真っ直ぐ半壊した会場へと突っ込んで行き、その姿を認識するや仮面の男は仮面越しに目を見開いた。

 

 飛んで来たそれが見覚えのあるポケモン――カイリューであることにだ。

 

「デリバード!! 撃ち落とせ!!!」

 

 仮面の男に命じられてすぐにデリバードは無数の氷柱を瞬時に生み出すと、それらを真っ直ぐ突っ込むドラゴンポケモン目掛けて次々と撃ち出す。

 カイリューは攻撃が迫っていることを認識するやすぐに()()()()()()()()()()しっかりと固定、真っ直ぐ飛びながらも飛来する氷柱を体を捻らせていくことで辛うじて回避していく。

 

 だが、猛スピードで飛行しながら急に体勢を変えたことでバランスを崩したドラゴンポケモンは、大きく壊れた天井から錐揉みしながら落ちる様に会場へと突っ込んでいく。

 そのまま地面に叩き付けられるのかと思いきや、平衡感覚がままならない状態でもカイリューは爆発でもした様な地響きを響かせ、滑りながらも両足を叩き付ける様にしっかり地を踏み締めた。

 そこでようやく、ゴールドとクリスも轟音を発していたのがカイリューであることに気付くと同時に悟った。

 

 彼が駆け付けたのだ。

 

 着地したカイリューは、勢いを保ったまま埃と散乱する瓦礫を巻き上げながら会場内のフィールドを滑っていき、ヘルガーやペルシアンなどの多くのポケモン達を巻き込む形で薙ぎ倒していく。

 気付いたホウオウが狙いを定めると、察知したカイリューは両腕に抱えていた人影を余所へ高々と放り投げて、自由に動ける様になった状態でホウオウの片足に強烈な体当たりをかました。

 勢いに乗ったカイリューの体当たりで足を取られたホウオウはバランスを崩して倒れ、ようやくカイリューも少し滑りながらもその勢いを止める。

 

 一方放り投げられたドラゴンポケモンが抱えていた人影は、宙を舞っている間に様々なポケモン達が飛び出して、地面に叩き付けられそうになっていたその体を何匹かがまるでボールの様にトスを繰り返していき、最後はしっかりと受け止められるのだった。

 

「チッ! 始末しろルギア!」

 

 カーツの指示で倒れてしまったホウオウの代わりにルギアは新手の出現に対応しようとするが、ようやく止まったドラゴンポケモンはすぐさまルギア目掛けて駆け出した。

 その体格から想像出来ない身軽な動きで飛び込むと、ルギアの膝に跳び蹴りをかまし、巨大な体が前のめりに傾いたタイミングに跳び上がって腹部に拳を叩き込む連続攻撃。

 更にそれだけでは終わらず、軽快な動きで巨大な銀色の背中に回り込むと、怯むルギアの背中をカイリューは何回も殴り付ける。

 

 激しいだけでなく執拗な攻撃に、堪らずルギアはカーツが肩に乗っているにも関わらず体を激しく振ることで背中にいるカイリューを振り払う。

 放り出されたドラゴンポケモンだが、宙で体勢を立て直すと他の手持ち達がいる場所に着地する。そこを先程やられた何匹ものヘルガーとペルシアン達、更にはマグカルゴとヤドキングが取り囲むが、対抗する様にカイリュー以外のポケモン達も円を描く様に素早く飛び出して構えるのだった。

 辛うじてルギアから振り落とされずに済んだカーツではあったが、その姿を目にした瞬間、これ以上無いまでに憎悪と言っても過言ではない表情を露わにした。

 

 

 遠く離れた場所に引き離し、更には駆け付けられない様にした筈の憎き存在――アキラが円を描いた陣形を組むポケモン達と共に立っていたからだ。

 

 

「――俺はここにいるぞ。やるなら掛かって来い」

 

 腕に付けていた盾の向きを細長い方へと切り換え、鋭利な側面を剣の様に見立てて構えながら鋭い目をした彼は、圧の籠った口調で静かに敵を煽る。

 その言葉を合図にヘルガー達は牙、ペルシアン達は鋭い爪を剥き出しにして跳び掛かり――瞬く間にアキラの手持ち達に返り討ちにされた。

 

「ッ! マグカルゴ、”かえんほうしゃ”!」

「ヤドキング”サイコキネシス”!!」

 

 何匹もいたヘルガーやペルシアンが一瞬にして吹き飛ばされるのを見るや、残った手持ちの二匹にシャムとカーツは即座に攻撃を命ずる。

 圧倒的な力を見せ付けた彼らの姿に、悠長にしていたらやられると直感したからだ。

 

 しかし、異なる方向から放たれた灼熱の炎と念の衝撃波は、仲間達を守る様に前に出たエレブーとバンギラスの二匹の”まもる”によって正面から防がれる。

 そして彼らが体を張って攻撃を引き受けている間に、横からブーバーとカポエラーが間髪入れずに飛び込み、それぞれ手にした得物や遠心力を掛けた蹴りをマグカルゴとヤドキングの頭部の側面に叩き込む。

 

 彼らが繰り出した強烈な一撃は、衝撃で二匹の頭が真っ白になって動きが鈍る程であったが、突っ込んだ師弟の攻撃はそれで終わらなかった。

 二匹に対して、流れる様に続けて素早く繰り出せる格闘技や打撃系の攻撃を容赦無く打ち込んでいき、反撃を許さないまま最後は二匹を蹴り飛ばして戦闘不能に追い込むのだった。

 

 短時間の内に手持ち達をいとも簡単に一蹴したことに、カーツの怒りは更に増す。

 ”スズの塔”での敗北をバネに自身も手持ちも更に鍛錬を重ねたが、それでも彼らを止めることすら敵わない。

 認めたくないが、最後に戦った時よりもアキラ達は力が増している。

 

 だが、すぐにカーツはあることを思い出す。

 自らを鍛えるだけでなく、仮面の男に見出された才を存分に振るえるだけの強大な力をついさっき授かったことにだ。

 

 力には力。

 強い憎悪と怒りの矛先を彼らは目の前の仇敵に向ける。

 

「ルギア! ”エアロブラスト”!!!」

「ホウオウ! ”せいなるほのお”!」

 

 ブーバーとカポエラーの猛攻が止まったのとエレブーとバンギラスの”まもる”の効力が消えたタイミングに、ルギアとホウオウは最大級の技を放とうとする。

 他の手持ちはやられてしまったが、伝説のポケモンさえいれば十分に状況は引っ繰り返せる。

 奴らに一泡吹かせることが出来る。そう考えていた。

 

 しかし、彼らの逆襲は思惑通りにはいかなかった。

 

 ルギアが動き始めたのに合わせて、サンドパンは片腕を持ち上げ、大きく開かれたルギアの口内に向けて爪先から放った”めざめるパワー”を撃ち込む。

 放たれた光弾が口内で爆発して怯んだタイミングで、顔の高さにまで飛び上がったカイリューが大きく体を捻らせて、ルギアの横顔に強靭な尾から繰り出す”たたきつける”を叩き込んだ。

 

 ホウオウの方はルギアの様に攻撃そのものを阻止はされなかったが、ヤドキングとゲンガー、ドーブルの三匹が協力して発揮した”サイコキネシス”で無理やり顔の向きを変えられて見当違いな方へ技を放ってしまう。

 そして技を放った直後の無防備なところを、エレブーと”ものまね”を使ったバンギラスの二匹が同時に”10まんボルト”を浴びせてきた為、苦手な電気技でダメージを受けたホウオウは堪らず後退する。

 

「クソッ! 相変わらず忌々しい!」

 

 一泡吹かせるどころか簡単に対処されてしまったことに、カーツは口悪く吐き捨てる。

 

 実は今回のポケモンリーグ襲撃作戦でのジムリーダー達を隔離する計画は事前にあったものだが、アキラやレッドなどの伝説のポケモンでも危うくなる実力者が現れるのは想定外であった。

 だからこそ、ポケモン協会や警察の動きや考えを読んで、もう使うことが無いであろう拠点にロケット団を集結させて無視出来ない脅威の存在を演出し究極の二択を迫らせた。

 

 そしてこれまでの戦いで得た情報から、彼らが移動手段に”テレポート”を応用した技術を使う可能性を考慮し、そういったポケモンの技を利用した移動手段も封じる対策も講じた。

 ただ、技でも何でも無い地球を一日も掛けずに一周出来る程で飛ぶことが出来るカイリューの純粋な飛行能力を封じる方法については最後まで思い付かなかった為、アキラが奥の手としてカイリューだけでもポケモンリーグの会場へ加勢に向かわせる可能性も考えられていた。

 だけど、それでもどんなに頑張ったとしても彼らがチョウジタウンの外れからセキエイ高原にまで移動するにはかなり時間が掛かると見込んでいた。

 

 だが現実は、カイリューどころか彼らのトレーナーであるアキラも含めた全戦力の手持ちが駆け付けた。

 

 唯一レッドの姿だけは見られなかったが、それでも手持ちの攻撃力と数などのあらゆる面でアキラ達は脅威としか言い様が無い存在だ。

 そして何より、彼らのトレーナーとしての在り方や姿はカーツやシャムにとって腹が立つ存在でもあるので、こうも何重にも施した対策を突破されるのは屈辱以外の何物でも無かった。

 

 彼らが姿を現してからの一連の攻防が一旦終わり、両陣営のポケモン達が睨み合う中、剣の様に盾を構えていたアキラはルギアとホウオウに目を配ると何故か背を向けてどこかへ歩き始めた。

 まるで他に重要なことがあると言わんばかりの彼の行動にカーツとシャムは舐められていると感じたが、ルギアとホウオウを嗾けようにもカイリューを始めとしたアキラのポケモン達が牽制をする。

 何かあれば彼らの全力の一撃が瞬く間に叩き込まれる。それだけでも躊躇うには十分な理由で、彼らは悔しさを滲ませる。

 

 そして伝説のポケモンの対応を手持ち達に任せてアキラが向かった先は、負傷したゴールドとクリス、シルバーの三人を守るかの様にスイクン達と共に立つカスミ達の元だった。

 

「無事にスイクン達と合流することが出来たのですねカスミさん」

「まあね。アンタの手紙をスイクンを持っていた時は驚いたわよ」

 

 自身の元に訪れたスイクンと対話を交わした末に共に戦う事を受け入れた時、カスミはスイクンが手紙を差し出したのに目を疑ったが、その内容にも驚いた。

 

 スイクンと戦い、彼らが自分達の力を引き出す術を持つ優れたトレーナーの力を借りたがっているので、カスミ達のことをスイクン達に教えて推薦したと。

 

 手紙には推薦相手にカツラ、嫌々ながらもマチスの存在を教えたことも正直に書かれていたので、慌てて同じくエンテイのパートナーとして推薦したカツラに連絡を取った時、既に彼の元にもエンテイが訪れていた。

 

「カスミ君から話は聞いてはいたが、やはりエンテイ達が私達の元に来たのは、君が関わっていたのか」

「はい。と言っても、スイクン達の様子を見る限りでは遅かれ早かれ、カツラさん達の存在を彼らは探し出していたでしょう。俺はそれを早めただけです」

 

 これは本当の事だ。

 あらゆる要素を考慮すれば、スイクン達がカスミ達をパートナーに選ぶのは時間の問題だ。だからこそ、少しでも合流する時間を早めれば、元の世界でアキラが知っている以上に彼らは仮面の男と戦うことが出来る筈だ。

 

 改めて事情を知り、カツラは静かに驚く。

 ジョウト地方でロケット団を相手に戦っているという話を聞いていたが、こちらの想像を超えたことをアキラはしていた。

 カツラの方もとある理由があってエンテイを探していたが、まさか誰かの”推薦”という形でやって来るのは予想外だった。

 

 しかし、それは嬉しくもあったが同時にある()()()()()()()()()を思っていたよりも早く失うという複雑な誤算でもあった。

 だけどアキラはこちらの事情はそこまで把握していないのと、元々そのつもりでもあった為、苦渋の決断ではあったがそれでもそうする以外の道は彼には無かった。

 

「やっと来てくれたッスか…遅いッスよ」

「ごめん。”テレポート”が封じられていて、予定していた形で駆け付けられなかった」

 

 力が抜けたかの様に座り込み、遅れたことに安堵交じりながら愚痴るゴールドにアキラは彼と同じ目線まで体を屈めて素直に謝る。

 何かしらの妨害は予想はしていたが、まさか自分達の移動手段を邪魔して、そもそも戦うのを避けようとするとは思っていなかったのだ。

 

「アキラ、お前どうやってここに来た? カイリューに乗って来たのは確かだろうが、あんな音をさせるまでに飛んだら体が耐えられねえぞ」

「”これ”のお陰ですよ」

 

 マチスから質問に、アキラは嫌そうだが端的に腕に取り付けた紺色の盾を示してマチスの質問に答えると、ここに来る前のレッドとのやり取りを彼は思い出す。

 

 

 

 

 

 ”テレポート”が使えないことに気付くと同時に、どこかに妨害をしている原因があることまではアキラは悟ったが、今はそれを探して潰す時間が惜しかった。

 かと言って、今からカイリュー達に乗って飛行したとしても、セキエイ高原に着くにはどう足掻いても時間が掛かってしまう。

 どちらを優先するのが速いのか。アキラは焦る頭をフル回転させていた時、神妙な顔をして考え込んでいたレッドが口を開く。

 

『アキラ、カイリューが本気を出して飛んだらどれくらいの時間で会場に着ける?』

『? 多分そこまで時間は掛からないと思う。だってマッハ2くらいだよ』

 

 そこまで伝えた時、アキラの頭にあることが浮かんだ。

 色々不安はある苦肉の策だが、カイリューのみを急行させてゴールド達に加勢させる手だ。

 ルギアが相手でもダメージを与えられるだけの力を持つカイリューがいれば、それなりに状況を良くすることは出来るだろう。

 彼が提案する内容がそうだと考えたアキラだが、レッドの口からは予想していなかったことを伝えられた。

 

『…お前にまた負担を掛けちゃうけど、カイリューってかなり速く飛べるんだろう? お前だけでも一足早くゴールド達に加勢してくれないか?』

『俺も出来ればそうしたいけど、リュットの最高速に耐えるには専用の移動用のカプセルが必要なんだ』

『え? お前が持っている盾は正にそれなんじゃないか?』

『盾? あっ』

 

 レッドに指摘されて、アキラは今は背負っているさっきまで使っていた盾を思い出す。

 円形の盾と縦長の盾の二種類が合体した様な形状をしているアキラの盾は可変式であるが故に、円形部分はポケモンの攻撃を防いだりする文字通りの”盾”、縦長の部分は側面が鋭利であるのを利用した”剣”みたいな使い方しかしていないが、本来の用途はポケモンに乗って飛行する際に発生する風圧などから身を守る為だ。

 レッドはこれを使うことで一足先に向かうことを言っていたのだ。

 

 使い心地は試したことはあるが、本来の用途とは別の使い方ばかりしていたのですっかり忘れていた。

 流石に盾だけではカイリューが本気を出して飛行するのにアキラの体は耐えられないが、それでも通常よりもずっと速い速度で飛行することは十分可能ではあった。

 

 今が正に、タマムシ大学で貰った盾を”本来の用途”で使う時。

 

 そこまで考えが至ったアキラはすぐに腹を括ると、カイリュー以外の手持ちポケモン達をモンスターボールに戻し、目を保護する意図で持ってきていた飛行用のゴーグルなどを身に付け始める。

 

『レッド、間に合うかどうかわからないけど…』

『間に合うとか間に合わないとか考えなくて良い。今俺達に出来る全力を尽くすだけだ。…絶対に間に合う!!!』

 

 間に合うとレッドは言っているが根拠は無い。

 だけど、根拠が無かろうと強い意志が籠った感情や気持ちがどれほど大きなものなのかアキラは知っていた。

 毎回簡単に諦めているなら、今自分達はここにはいない。

 

『リュット、頼む』

 

 右腕に盾を取り付け、守る面積が広い円形の盾の向きに切り替えたアキラをカイリューは両手でしっかりと抱える。

 そしてドラゴンポケモンが力を入れる様に体を屈めた次の瞬間、爆音と共に周囲に衝撃波にも似た強風を巻き起こしながら飛び立った。

 離れた場所でロケット団の拘束をしていた警察達は、事情を知らないこともあって突然空へロケットの様に飛んでいくそれを唖然とした顔で見上げていたが、レッドだけは轟音と共に飛行機雲の様な軌跡を描きながら決戦の場へ飛んでいく彼らを見届けた。

 

 

 

 

 

 こうして今回駆け付けられたのは、必要な道具を持ち合わせていたことが大きかった。

 飛び立った瞬間からアキラは構えた盾から伝わる風圧や衝撃、身を切り裂く様な風などのあらゆる負荷を構えた盾で防ぎながら耐えた。

 流石にカイリューは本気を出して飛ぶことはしなかったが、それでも普段の状態で飛行するよりも断然速かったので、目まぐるしく景色が変わっていく中でこうして駆け付けることが出来た。

 

「ゴールド、クリス。後は俺達がやるから巻き込まれないところまで下がって休んでいて、後…シルバーやオーキド博士も頼む」

 

 アキラとしてはシルバーがここにいるのは違和感は無かったが、何故オーキド博士がこの場にいるのと怪我をしているのかが謎だった。

 博士が戦いに参加するなんて流れは全然知らないが、今は後回しだ。

 それにゴールドとクリス、シルバーはこの後のことを考えれば――と、そこでアキラはその先について考えることは止めた。

 わざわざその先で最終決戦をやる必要は無い。

 

 今この場を仮面の男(ヤナギ)との最終決戦にして、この戦いを終わらせる。

 

「カスミさん、カツラさん。彼らを助けてくれてありがとうございます」

 

 無茶にも関わらず戦った彼らの姿に助けてくれたことにアキラは頭を下げて二人に礼を言う。

 マチスは自分がハブられていることに文句を言いたくなったが、どうせ文句を言っても聞かないのとそれどころでは無かったので睨むだけだった。

 が、訂正することくらいは良いだろうと考えた。

 

「いいや、あいつらを助けたのは俺達じゃなくてあの二人だ」

「あの二人?」

「気付いていねえのか、あんなに目立ってんのによ」

 

 マチスが親指で示した先に顔を向けると、そこにいた人物にアキラは驚いたかの様に目を見開いた。

 だけど、それも少しの間だけですぐに彼の表情は戻る。

 

「――ルギアとホウオウの相手は()()がします。カスミさん達には仮面の男をお願いしたいです」

「良いけど…大丈夫なの?」

「図体が大きいのと戦うのには俺達は慣れていますから、時間稼ぎや横槍を防ぐくらいは出来ます。それにルギアはともかく、ホウオウが相手じゃスイクン達も戦いたくないでしょうし」

 

 カスミからの指摘にアキラは彼なりの根拠や理由を伝えると、それで話は終わりのつもりなのか、ルギアとホウオウを牽制している手持ちの元へ戻っていく。

 三人は顔を見合わせるが、彼を信じることにしたのか。腕に各々のジムバッジのマークが刻まれた器具を取り付け、デリバードを連れている仮面の男と対峙する。

 

「――話は済んだか?」

「えぇ、アンタの相手は私達よ」

「今までよくも好き勝手にやってくれたな。たっぷり礼をしてやるぜ」

「貴様を倒し、ルギアとホウオウを返して貰おう」

 

 各々言いたいことを仮面の男にぶつけると、カスミ達三人は再びスイクン達三匹の背に乗り、仮面の男もデリバードを伴って彼らと対峙する。

 そうして双方はしばらく睨み合っていたが、やがて何の前触れも合図も無く、彼らは激突した。




アキラ、力任せな方法で現場に駆け付け、対仮面の男対抗戦線に参戦。

アキラに盾を持たせたのは、単なる打撃武器や攻撃を防ぐ以上にかつて断念したこれをやりたかったので、遂にやることが出来ました。
元々出した経緯としては飛行サポート用アイテムでしたし。

次回、両陣営がそれぞれ戦い始めます。
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