SPECIALな冒険記   作:冴龍

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今話は台詞らしい台詞は殆ど無いです。


知恵者達の戦い

 荒々しく落とされた雷から逃れた直後、貫く勢いで前に突き出された氷の刃をゲンガーはギリギリ紙一重で避ける。

 アキラが連れる手持ちの中でも特に高い知性、或いは狡猾さを備えた三匹は、ジムリーダー達が残してくれたポケモン達と共闘して仮面の男が繰り出した彼のポケモン達と戦っていた。

 その一匹であるヤドキングはマチスのライチュウと組み、二匹掛かりで仮面の男のゲンガーを相手にしていた。

 

 相性的に有利と言うこともあったが、異なるトレーナーの手持ちとはいえ相手はゲンガー。

 普段一緒にいる悪童の同族なので基本的な能力や戦い方、手の内はある程度知っている自負があった。

 

 一定の距離を取られれば相性の良いエスパー技や扱い慣れた水技を仕掛け、接近されたら手に持つ得物を振るった。

 薙刀と言う先が重くて長い得物を使っていることから攻撃は大振り且つ外れれば隙は大きいのだが、そこをライチュウが横槍を入れるみたいな形で良い感じで邪魔をしてくれるので詰められ過ぎた場合の懸念もあまり無かった。

 そもそもライチュウの方からガンガン攻めていくので、ヤドキングはねずみポケモンの動きに合わせていたことから攻勢自体は控えめであった。

 

 一方のカスミのスターミーとゲンガー、カツラのウインディとミルタンクに”へんしん”しているドーブルはそれぞれ、ライチュウとは違って友好的なのや知り合いであることを活かし、即興ながら巧みに連携をしてヘルガーやアリアドスと互角以上の戦いを繰り広げていた。

 ヤドキング同様に相手が近付いて来るなら手にした得物を振るい、距離を取るなら特殊技などの飛び技で対抗するなど上手く立ち回っていた。

 

 特にゲンガーとスターミーは、トレーナー同士が昔から知り合いであったのや何かと練習試合をしていたこともあって上手く連携出来ており、相手をしているヘルガーに対しても”かみつく”などの技は近付かなければ使えない為、得物での牽制はかなり効果的であった。

 彼らが手にしている武器が邪魔なのは戦っている仮面の男の手持ち達もわかっていたが、そう簡単に手放させるのは難しいものだった。

 

 そうした攻防が繰り広げられていたが、ドーブルとウインディのタッグはアリアドスを追い詰めつつあった。

 今回仮面の男が繰り出した手持ちでは、唯一この戦いの前から進化していたポケモンであった為、ヘルガーやゲンガーみたいな爆発的な力を発揮出来ていなかったことも理由にあった。

 そもそも、ほのおタイプのウインディが相手の時点で苦戦は必至だ。それでも正面の時は口から、背後に回られたら尻から糸などを出すことで対抗していた。

 

 ウインディの炎を纏った”かえんぐるま”の突進をアリアドスは避けるが、体格に似合わない機敏な動きで横に回り込んだミルタンクは、手にしている軸が捻じれた巨大な桃色に輝くスプーンで殴り飛ばす。

 単純に殴られた際の打撃だけでなく、相性の悪いタイプのエネルギーを纏っているが故にダメージも思っていた以上に受けたものの、何とか持ち堪えたアリアドスはミルタンクが持つ巨大スプーンに対する警戒度を上げる。

 

 何とかしてあの武器を取り上げる必要があったアリアドスは、口と尻の両方から鋭利な糸を吐き出した。

 その糸からミルタンクは身を守るために巨大スプーンを振るって絡め取るが、それこそアリアドスの狙いだった。

 

 糸が十分に絡まったのを見計らい、全身を捻らせてミルタンクの手から武器を取り上げる。

 巨大スプーンは音を立てて離れた場所へ転がっていくが、予想に反してミルタンクはすぐに取りに向かうのでは無く、その姿をすぐさま元のドーブルに戻す。

 

 相手が単に武器頼みではないことや何か仕掛けてるつもりなのを悟ったアリアドスは、ドーブルに対して迎撃態勢を整える。

 ところがアリアドスが注意を払ったにも関わらず、直後に真横からウインディの突進を受けて突き飛ばされる。

 ドーブルにばかり注意していて周りへの警戒が疎かになった結果に見えるが、ウインディが”しんそく”と呼ばれる”でんこうせっか”をも凌ぐスピードで相手を攻撃する技を使っていたので、それに反応するのは無理な話だった。

 

 すぐにアリアドスは体勢を立て直すも、何時の間にかヨルノズクに”へんしん”したドーブルが頭上を舞っており、元の姿に戻るやあしながポケモン目掛けて規模が大きい炎を口から噴き出す様に放った。

 まともに受けてしまったアリアドスだったが、すぐにドーブルが放った炎がただの技では無いことにも気付いた。

 見た目は派手だが威力がそこまで高く無かったので相性が悪くても致命傷にはならなかったが、全身の隅々まで焼かれて”やけど”を負わされる感覚に激しく苦しみ始めた。

 

 たった今ドーブルが放った炎、それはホウオウが使う技である”せいなるほのお”だった。

 

 先程までルギアとホウオウをそれぞれ相手取った時に、二匹が使う技を彼女は”スケッチ”していたのだ。

 伝説であるホウオウが使う技なのもあるのか、思ったよりも効いている様子であったが、コピーしたとはいえポケモンの技は使い手の能力や練度に依存する。

 素の能力が極端に低いドーブルでは、性質までコピー出来ても十分な威力を発揮することは困難なので、今の技だけでアリアドスを仕留め切るのは難しかった。

 

 何とか全身を焼かれる苦しみを耐えたアリアドスは、燃える炎の中から頭上にいるドーブル目掛けて尻から糸を放つことで瞬く間にドーブルを拘束し、間髪入れずに口から”ヘドロばくだん”を吐き出した。

 体を毛玉に包まれた様な状態にされて身動きが取れないドーブルは成す術もなく”ヘドロばくだん”をまともに受けて、生じた大きな爆発にその姿は呑み込まれた。

 

 これでまずは一匹仕留め、相性が悪いウインディに専念出来ると思ったが、すぐにある違和感にアリアドスは気付いた。

 それは爆煙から落ちてきた物が奇妙なことにドーブルの体に巻き付いていた糸の一部だけで、ドーブル自身は何時までも落ちてくるなど姿を見せなかったのだ。

 

 まるで攻撃から逃れたことを示唆する様なものであったが、すぐにその直感が正しいことを知った。

 少し離れたところからウインディがアリアドスへ真っ直ぐ迫っていたが、その背中に先程遠くへ転がした巨大スプーンを両手で抱え込んだドーブルが乗っていたからだ。

 

 実はアリアドスに”せいなるほのお”で攻撃を仕掛けたのは、ウインディが”しんそく”で突き飛ばした時に出来た隙を利用して”みがわり”で生み出したドーブルの分身であり、本体は分身が注意を惹き付けてくれたお陰もあって一貫して得物である巨大スプーンの回収に向かっていた。

 そのことを知らないアリアドスは彼女の行動が早過ぎることに動揺しながらも口から鋭利な糸を放つ次の一手を打ったが、火傷の痛みで狙いが甘かったのでウインディは毛の一部を切り取られたものの大きくジャンプすることで回避に成功した。

 

 大きく飛び上がったウインディの口から放たれた”かえんほうしゃ”の炎をアリアドスは躱すも、不意に軸が捻じれた巨大スプーンが宙に放り出されているのを目にした。

 そしてそれに気付いた時、ウインディの背に乗っていたドーブルが飛び降り、ミルタンクに”へんしん”。巨大スプーンを掴むや相手が対応する前に、重量に従って落ちていく勢いを利用してアリアドスをフィールドが蜘蛛の巣状に割れる程、力一杯に叩き付けた。

 ミルタンクの姿だからこそ発揮されるパワーも有り、桃色に輝く軸が捻じれた巨大スプーンによる一撃に”やけど”状態によるダメージが蓄積していたアリアドスは、そのまま完全に沈黙した。

 

 ドーブルの手でアリアドスがやられたことは、すぐに他にも知れ渡ることとなった。

 その結果、仮面の男のポケモン達は動揺し、逆に彼らと戦っているアキラのポケモン達も後輩に負けてられないとばかりに勢いが増した。

 

 ヤドキングは手にしている氷の薙刀の刀身に当たる部分に螺旋を描く様に念のエネルギーと水を渦巻かせながら纏わせ、そのまま仮面の男のゲンガー目掛けて力強く振り下ろした。

 辛うじて仮面の男のゲンガーは避けるが、薙刀の刃が叩き付けられた瞬間、纏わせた水と念の衝撃が付近を粉砕しながら解放されてシャドーポケモンはモロにその余波で吹き飛んだ。

 

 アキラのゲンガーの方は、両手で握っていた刀を片手持ちにすると空いた方の片手に小さいサイズながらも”シャドーボール”を形成。距離を取っているヘルガーに向けて投げ付ける。

 当然ダークポケモンは悠々と避けるが、逃れた先にはスターミーが回り込んでおり、更には攻撃したばかりのゲンガーもヘルガーとの距離を詰めて挟み撃ちにしていた。

 

 危機的な状況にヘルガーは、相性の良さも考えて最も近いゲンガーに対して牙を剥くも、シャドーポケモンは手にしている刀の紫色の刀身に怪しげな黒いオーラを纏わせていた。

 見たことも無い現象にダークポケモンは動揺を露わにし、狙いが甘くなっていたことで軽々とゲンガーに躱されて、そのまま切り付けられた。

 ゲンガーの一撃で動きが鈍った瞬間、隙を突くように放たれたスターミーの”ハイドロポンプ”がヘルガーを呑み込み、勢いのまま水と共に壁にその体を叩き付けた。

 

 弱点のタイプである技が完璧に決まり、勝利を確信したゲンガーは得意気にスターミーとフィスト・バンプの様なジェスチャーをして互いの健闘を称え合った。

 

 ところが、彼らの戦いはこれで終わりでは無かった。

 

 激しい水の奔流に呑まれて壁に叩き付けられたヘルガーが、全身を水浸しにしながらもしぶとく立ち上がったからだ。

 進化した直後で通常よりも力が発揮出来るからこそ成せることであったが、ヘルガーのしつこさにゲンガーは面倒そうに顔をしかめた。

 だが、ゲンガーとは対照的にヘルガーは表情のみならず全身から怒りを漲らせており、言葉にならない程に怒り狂ったかの様に吠えながら駆け出した。

 

 すぐさまゲンガーとスターミーは迎え撃つ準備を整え、スターミーは”バブルこうせん”、ゲンガーは再び刀身に黒いオーラを纏わせるとそれを三日月みたいな斬撃の形で飛ばした。

 ところがヘルガーは迫る無数の泡状の光線は回避したが、ゲンガーが放った黒い飛ぶ斬撃状の攻撃はそのまま真正面から受けた。

 

 大技を受けたことでかなりのダメージが期待出来る、と思える展開ではあったが、何故かダークポケモンの勢いは全く弱まらなかった。

 スターミーはヘルガーの執念に警戒度を上げたが、ゲンガーだけはまるでイタズラがバレたみたいに露骨に「ヤベッ」と言わんばかりの表情だった。

 

 それもその筈だ。

 ゲンガーが今手にしている紫色に輝く刀は見た目こそ刀ではあるが、実態は”みがわり”を生み出す際のエネルギーを刀の形に上手く押し固めたものだ。

 ちゃんと扱えば見た目通りの切れ味を持つ武器として機能するが、ポケモンの技として分類すれば、基本的に通常の”みがわり”と同じく生み出したポケモンと同じタイプの技だ。

 その為、ゲンガーと同じゴースト・どくの二タイプの性質を有しているが、どれもあくタイプのヘルガー相手には大してダメージが見込めないタイプだ。

 先程飛ばした黒い斬撃も見た目こそ派手ではあるが、その正体は”めざめるパワー”のエネルギーを形を変えて撃ち出したもの、実際の威力はそこまで高くない上にゲンガーが発揮するタイプはあくタイプなのでこれもヘルガーには効き目が薄かった。

 

 つまり、ヘルガーが怒っているのは見た目は派手なのに実際は大して効き目が無い攻撃に騙されていたことであった。

 ゲンガーとしてもハッタリがバレる前に倒したかったが、バレたのなら仕方ないと切り替えるもヘルガーの方が動きは早かった。

 走りながら口から”かえんほうしゃ”を飛ばし、その威力と規模にスターミーは水技での相殺を早々に諦めてゲンガーとは左右に別れる形で躱したが、ヘルガーは舐めた真似をしてくれたアキラのゲンガーを執拗に狙い続けた。

 

 狙いが自分なのを良く理解していたゲンガーは改めて黒いオーラを纏わせた状態で手にした刀を振り、”めざめるパワー”を応用した飛ぶ斬撃を二発連続で飛ばす。

 だが連続で放てる様にしたこともあって、一発の威力は更に低下しているので直撃でもダメージは薄く、今のヘルガー相手では視界妨害程度でしか役に立たなかった。

 

 最後の抵抗とばかりにゲンガーは肉薄して来たヘルガーに対して手にした刀を切り付けるよりも殴り付ける形でぶつけるが、すぐにヘルガーは持ち直してゲンガーに鋭い牙を剥き出して迫る。

 咄嗟に刀を盾代わりに噛み付かせて防ぐが、ヘルガーの”かみくだく”によって呆気無くエネルギーの刀は噛み砕かれてしまい、そのまま”だましうち”の打撃攻撃を受けたシャドーポケモンの体はゴム玉みたいに弾みながら吹き飛ぶ。

 そして勢いが止まらない内に、ヘルガーは”こうそくスピン”の体当たりで止めようとしたスターミーの攻撃を躱して吹き飛んだゲンガーを追い、うつ伏せ状態で倒れているゲンガーに今度こそ牙を突き立てようと襲い掛かった。

 

 その直後、鮮やかな黄色い雷が迸り、ヘルガーを襲った。

 

 発生源は倒れていたゲンガーだ。

 すぐに体を仰向けに転がしたシャドーポケモンは、彼らしからぬ声を張り上げながら伸ばした両手から”10まんボルト”の電撃をヘルガーに放ったのだ。

 ゲンガーが放った強烈な電撃を受けて、ヘルガーの体は再び吹き飛ばされるがゲンガーは攻撃の手を緩めなかった。

 でんきタイプでも無いにも関わらず両手から激しく電撃を迸らせながら立ち上がり、今度こそヘルガーを仕留めようとしていた。

 

 攻撃技の殆どがあくタイプであるヘルガーに対して効果がいまひとつなのばかりなので、今のゲンガーにはエレブーから教わったヤドキングへの対抗策として身に付けた”10まんボルト”が数少ないまともに効く攻撃手段だった。

 しかし、実戦で本気の全力を込めて放った経験は無かったので、ゲンガーは今自身が発揮出来る力の全てを両手から放っている電撃に雄叫びを上げながら込めていた。

 

 だが、ヘルガーの方も諦める気は微塵も無く、その身を電撃に焼かれながらも立ち上がると一歩ずつゲンガーとの距離を詰めていき、その執念にゲンガーは思わず気圧されそうになった。

 ヘルガーが自分に対して怒っているのはわかるが、それ以外にも絶対に屈したくないと言う意地が感じられたからだ。

 だけど、その気持ちはゲンガーも同じだったので、シャドーポケモンは大真面目な目付きで更に気合を入れた。

 

 ところが本腰を入れて攻撃を続けても、ヘルガーは全く屈しなかった。

 攻撃を止めて別の作戦に切り替えようにも、今の攻撃にゲンガーは力を注ぎ過ぎていた。

 こうなったら死なば諸共とばかりに根性論を貫こうとした時、見覚えのある破壊的な光線が二匹を照らすと同時に真横からヘルガーに直撃した。

 

 それは、スターミーが放った”はかいこうせん”だった。

 

 完全に意識の外だった光線を受けたヘルガーは、瞬く間に壁にぶつかると同時に激しい爆発に呑まれた。

 しばらくすると、モクモクと上がる黒煙の中から完全に戦闘不能になったヘルガーの姿が露わになり、それを目にしたゲンガーは疲れた様に座り込んだ。

 スターミーが溜めに溜めた”はかいこうせん”を決めてくれたお陰で如何にかなったが、一対一で戦っていたらタイプ相性も相俟って確実に負けていた。

 否、相打ちには辛うじて持ち込めたと思っているが、強い相手には下手に単独で挑んではいけないことを改めてゲンガーは身に染みていた。

 

 後、最後に見せたヘルガーの執念、その原動力が自分への怒り以外にもあったであろう感情が一体何だったのか、それもシャドーポケモンは少し気になっていた。

 

 ドーブル、ゲンガーの戦いが決着したことで、残るはヤドキングとライチュウが相手にしている仮面の男のゲンガーのみとなった。

 ただ、こちらの方も後少しで終わりそうであった。

 

 積極的な攻撃に関してはライチュウに任せていたのでヤドキングの攻勢は少し控えめであったが、元々身内に慣れていたことや警戒心を持って挑んでいたので、ゲンガーが仕掛けるゴーストタイプ特有の戦いや技を未然に防いでいた。

 ”シャドーボール”などの攻撃技の回避や技での相殺は流石に全ては無理だが、それでも受けてはならない”のろい”は予兆を察知したら仕掛けられない様にしたり、”あやしいひかり”や”うらみ”も防ぎはしても前者に関しては最近受けても目が眩む程度で済むのや後者については状況次第では甘んじて受けた。

 

 ライチュウが鞭の様に振るった”アイアンテール”をまともに受けた仮面の男のゲンガーではあったが、進化直後の恩恵故の有り余る力で持ち直すと逆に”ナイトヘッド”で反撃した。

 目から放たれた黒い雷みたいな光線を真正面から受けて吹き飛ぶライチュウを余所に、ヤドキングは手にしていた薙刀をまるで槍の様に仮面の男のゲンガー目掛けて投げた。

 本来なら上手く真っ直ぐ投げることは出来ないが、念の力で操作しているのか恐ろしいくらい真っ直ぐ直進して飛ぶので、仮面の男のゲンガーは大慌てで体を横に跳ばして避けた。

 

 避けたゲンガーは、薙刀を投げてから何故か体を屈めているヤドキングの姿を見て、先手を打って対処することを考える。が、体を前に動かそうとした時、何故か足が持ち上がらなかった。

 咄嗟に足元へ目を向けると張り付く程度での薄さではあったが、足の裏が凍ったフィールドにくっ付いていたのだ。

 

 急いで元を辿っていくと、足元にはヤドキングが水技を使ったことで水浸しまではいかなくても濡れていた付近のフィールドの表面の多くが凍り付いていた。

 体を屈めたヤドキングの手がフィールドに触れていた為、彼が何かしたのは明らかだった。

 当然仮面の男のゲンガーは凍り付いた足をフィールドから力任せに引き剥がそうとするが、突如巻き起こった水の渦に訳も分からずに呑み込まれた。

 

 その光景を見届けたヤドキングは、フィールドに押し付ける様に触れていた若干凍り付いた手を離した。

 度々水技を使ったことで周囲が水浸しになっていたので、水を伝って足元を凍らせる作戦が上手くいったのだ。

 

 ヤドキングが”とけないこおり”を持っているのは、単に氷の薙刀を生み出せるだけの力を得るだけでなく、こおりタイプの技の威力向上やコントロールをしやすくする意図があった。

 ホウオウを相手に戦っているカポエラーも、自分やドーブルの前例に倣ってポケモン協会から提供して貰った”シルクのスカーフ”を身に付けることで、ノーマルタイプの技である”みがわり”やそのエネルギーで得物を形作るベースにしている”スピードスター”の制御の手助けに活用していた。

 

 敵は手元にある氷で形成した得物ばかりに注意が向いていたが、本来ならそれを使わなくても戦えるだけの術がヤドキングには十分ある。

 そして少しだけ凍った手からゲンガーを呑み込んだ”うずしお”に向けて”れいとうビーム”を放ち、水の渦を丸ごと凍らせることでゲンガーを身動きが出来ない氷漬けで閉じ込める。

 それを確認したヤドキングは、この戦いの終わりが近いことを悟る。

 

 戦う中でヤドキングは、対峙している仮面の男のゲンガーから以前の戦いでは感じられなかった何かの為――譲れないものがあることを感じ取っていた。

 それが一体何なのかわからなかったが、例え何であろうと譲れないものがあるのはヤドキングも同じだったので、彼は一切手を抜くつもりは無かった。

 

 やがて立ち上がったヤドキングは、その両手に青白い光を放ちながら激しくスパークさせ始め、発生させたエネルギーを両手で圧縮する様に光球状に収束させた。

 元々はゲンガーが自分に対抗して”10まんボルト”を身に付けたのに更に対抗するべく編み出した技術だったが、気が付けば意図的に使える様になっていた技だ。

 そして今にも放とうとした時、ヤドキングの横をライチュウが氷漬けになったゲンガー目掛けて駆け出した。

 彼も気付いていたが構うことなく、球状に凝縮したエネルギーを”でんじほう”として開放した。

 

 押し出される様に撃ち出された光球は、一直線に氷漬けになって身動きが取れない仮面の男のゲンガーへと飛んで行く。

 そのままゲンガーが氷漬けにされている氷の塊に今にも命中しようとした時、ライチュウもその頭上から特大サイズの”かみなり”を落とした。

 

 二匹が放ったでんきタイプの大技は、同時に仮面の男のゲンガーを閉じ込めている分厚い氷を砕き、そのまま中にいたゲンガーに直撃。

 正面と頭上の二方向から解放された莫大なエネルギーによって周囲に轟く様な爆音と眩い光が広がり、ゲンガーが氷漬けになっていた地点は真っ黒に焦げ、その中心では黒焦げになったゲンガーらしき姿が倒れていた。

 

 相手がもう動かないことを確認したヤドキングはライチュウに目を向けるが、当のねずみポケモンは手を組む理由は終わったとばかりに素っ気無い態度であった。

 最後の止めでライチュウが動いたのは、ヤドキングの力だけで仮面の男のポケモンを倒すことになるのは許せなかったので最低でも同時攻撃と言う形で仕留めたかったからだ。

 だけど実は、同時攻撃になる様にヤドキングが調節していたことには気付いていなかった。

 

 仮面の男のゲンガーが進化したばかりの個体であるのをヤドキングは認識しており、それ故に警戒度は最大であった。

 実際、倒れてもおかしくない攻撃を何回も受けても立ち上がり、攻撃や動きも優れていたので一対一で戦うよりも連携して戦う必要があった。

 そして仲間に同族がいることもあるが、意識がある状態で戦ったり倒せば()()()()()()()()()()()()。それがゴーストタイプの厄介なところだ。

 

 だからこそ、意識が曖昧な”こおり”状態にした上で大火力を叩き込んで一撃で倒したのだ。

 その大火力にヤドキング自身のみでは心許なかったので、先に自分が止めを刺すように見せれば、対抗意識を持っているライチュウなら手柄を取られてはならないと動くと考えた。

 そして読み通りにライチュウは動いてくれたので同時攻撃と言う形で最大火力を一気に決めて、余計な悪足掻きをさせないまま葬ることに成功した。

 

 ドーブルやゲンガーも無事に各々の敵を撃破したことを確認し、念の力を利用して投げ付けた氷の薙刀をヤドキングは引き寄せて回収すると、欠けた個所などを水と冷気を念の力で操って修繕していった。

 こうして三匹は、アキラによって送られた先での大仕事を見事完遂するのだった。




アキラ達が伝説を追い詰めていた間、ゲンガー達の方は無事に追加任務を達成する。

ゲンガー達が”みがわり”で生み出している得物は、何かしらの追加での工夫が無いと基本的に道具ではあるけど”みがわり”同様にタイプ相性が存在するので、弱点を受けると更に脆いです。

特にゲンガーは、使える技のバリエーションが昔よりも増えたり応用出来るので”見栄え”が良くてカッコイイからとかの理由で奇抜だったり、派手だけど見た目通りの威力では無い奇妙な技を使ったりします。
ただし、それでもある程度は実戦で使えるレベルにしているのが厄介だったりします。

ポケスペの原作で”みがわり”がゲームみたいな人形の形で出される展開がありましたので、人形での”みがわり”を出すか、ちょっと考え中。

ヤドキングも”まがったスプーン”でエスパー技の威力を高めたりしているドーブル同様に、ゲンガーが仮面の男のデリバードから盗んだ”とけないこおり”で氷技の威力や操作性を高めています。

次回、追い詰めた伝説との戦いに戻ります
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