SPECIALな冒険記   作:冴龍

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追い詰められた仮面の男

「勝った…伝説の…ルギアとホウオウを相手に…」

「すげぇ…」

 

 自分達は夢を見ているのか、これは本当に現実なのか。

 そう思ってしまう程、アキラとその手持ち達が成し遂げた結果にゴールドとクリスはこれ以上無く驚きを露にしていた。

 自分達ではどう足掻いても勝てなかった存在を彼らは優勢を保ったまま倒してしまった。

 

 強いと言う話は聞いてはいたし、何回か彼らが戦う姿は見ていたが、殆ど相手に主導権を譲らずに倒すとはクリスは想像していなかった。

 ゴールドも”うずまき島”での戦いは、仮面の男に邪魔されなければレッドとアキラは勝てたという確信はあった。

 だけどシバやキョウなどの実力者の加勢があったとはいえ、二匹同時に相手取って誰も倒されることなく疲れるだけで終わったことに感心すらしていた。

 これで残るは――

 

 

 

 

 

「デリバード! ”こなゆき”!」

 

 時間は少しだけ遡り、仮面の男を伴いながら飛行するデリバードは、”ふぶき”には見劣りはする小規模ながらも鋭い風と共に小さな氷の結晶を飛ばしていく。

 今では彼らの戦いの舞台は、ポケモンリーグの会場がある建物内にあるバトルフィールドから瓦礫の山となっている外へと繋がった大穴付近になっていた。

 当初は屋上へと移動しようとしていたが、そこだと狙いを逸らされたルギアとホウオウの攻撃が頻繁に飛んでいて危険だった為、自然と今の形で戦っていた。

 

 戦い始めた当初は手早くジムリーダー達とスイクン達を片付けるつもりであったが、他に繰り出した手持ち達は送り出されたアキラのポケモン達に邪魔され、相手にしているジムリーダーと連携している三匹は昔よりも厄介さが増していた。

 下手に何時もの様に力でゴリ押そうにも、伝説のポケモンであるスイクン達なら力を合わせれば、その本気でも十分対抗される。

 技の強弱や応用を駆使して隙を突いていくのも、ジムリーダー達の経験と状況判断力からの連携で阻止されてしまう。

 

 予想していた以上に彼らは息の合った行動を取っていた。

 

 流石に三匹が同時に動く際はスムーズでは無いものの、それでも三匹は同じホウオウを主と仰ぐ仲間として、ジムリーダー達も各々の能力を信頼して適切な判断と行動で仮面の男を追い詰めつつあった。

 力押しですぐに如何にかするのは無理と仮面の男は判断していたが、だからと言ってあまり時間を掛ける訳にもいかなかった。

 その焦りもまた、彼らが仮面の男を追い詰めつつある要因でもあった。

 

「エンテイ、”かえんほうしゃ”!」

 

 デリバードが技を放ったことを確認するやカツラを乗せたエンテイは口から炎を吐き出して、氷の結晶と冷たい風を一蹴する。

 それに合わせて、マチスの乗るライコウ、カスミと共に動くスイクンが仮面の男の背後や隙を突こうとする。

 ライコウとスイクンが積極的に攻撃を仕掛けつつ、エンテイは氷技を使ってきたら自身が放つ炎で相殺したり、時には冷えた仲間の体を自身の炎で暖める。

 戦いが進むにつれて三人はどう動けば良いのか学び、対応しつつあった。

 

 仮面の男からすれば、一番厄介なのはエンテイだ。

 三人はまだ気付いていない様子だが、エンテイには仮面の男がこれまで磨き上げた特殊な氷の技術を完全に無効化する力を持っている。

 加えて、ホウオウみたいに自身の意思が宿ったような炎も使えるので攻撃に見える炎でも仲間を温めたり力を与えることも出来る。

 

 だが三人はそこまで気付いていなくても、エンテイが相性的にも重要な要と考えているのか、エンテイへ攻撃が集中しない様にしていた。

 他にも、強力なポケモンが全力を発揮した際に呼吸が出来なくなる程のエネルギーが発生しても問題が無いように備えた彼らが持っている小型の酸素ボンベの破壊も仮面の男達は試みていたが、そちらも上手くいっていなかった。

 

 このままではジリ貧だと思った時、大きな音が立て続けに起こった。

 思わず戦っていた四人は隙になることを自覚しながらも各々視線を向けた。

 

 視線の先では、瓦礫の山になっているポケモンリーグ会場にあるバトルフィールドと観客席で、ルギアとホウオウがそれぞれ倒れているのが見えた。

 目にしたのは短い時間ではあったが、それだけで何が起こったのか彼らが判断するには十分だった。

 カスミ達三人は負けていられないとばかりに決意を固め、仮面の男は露骨に機嫌が悪そうな空気を醸し出した。

 

 ルギアとホウオウを与えたカーツとシャムは、確かに伝説の力を存分に振るっていたが、”活かしている”とは正直言い難かった。

 屈辱を晴らしたい存在を目の前にしたことで冷静さを欠いていたこともあるが、最初に戦ったのが力任せに戦っても勝てる相手だったのが良くなかったのと初めからアキラと戦っていればもう少し慎重に挑んでいたかもしれない、と仮面の男は部下の敗因を分析していた。

 ひょっとしたらアキラ達と戦う前に()()()()の所為で変な余裕が生まれてしまったのも要因かもしれないが、奴らが加勢してくるのも時間の問題という仮面の男の懸念は現実のものになりそうであった。

 

 仮にシバやキョウの存在が無くても、アキラなら二匹を意地でも倒して来る可能性の方が高い。

 なので仮面の男が重視していたのは時間稼ぎと如何にアキラ達を消耗させるかだったが、この様子ではどちらも十分に達成出来ていない。

 そんな時、仮面の男は自身の周りが影になっていることに気付く。

 

 上から仕掛けてくるかと思ったが、その予想は正しかった。

 カスミ自身がスイクンから飛び降りる形で飛び掛かって来たことを除けば。

 

「たぁあぁぁぁ!!!」

「なっ!?」

 

 予想外過ぎて仮面の男は動揺するが、カスミは仮面の男の大きな腕を抑える様にしがみ付いた。

 

「このっ、離せ!」

「いいえ! 離さないわ!」

 

 腕を激しく振って仮面の男はカスミを振り払おうとするが、彼女は意地でも離そうとしなかった。

 スイクンとの約束、そしてこの戦いが始まる前にも誓った自分自身への約束。

 当初自分達が戦うと思っていたルギアとホウオウを、アキラは引き受けてくれただけでなく撃破したのだ。

 ここまでされて何も出来ないのはカスミのプライドが許さなかった。例え手足が千切れようと彼女は何が何でも仮面の男を止めるつもりだった。

 

 幾ら振ってもしつこくしがみつくので仮面の男は空いている片腕で殴り付けてでも彼女を振り払おうとしたが、その振り上げた腕を何とライコウが噛み付く形で止めた。

 

「やっぱりな。てめぇのその腕は生身の腕じゃねえな」

 

 確信した様に告げながら、マチスは不敵な笑みを浮かべた。

 自身とライコウが蹴り飛ばされた時点で、マチスは仮面の男に違和感を抱いていた。

 それは端的に言えば、人間にしては頑丈過ぎるのと力が強過ぎるという点だ。

 

 詳しい理由は不明だが、生身でもふざけた力を発揮しているアキラでも肉体的に耐えられない攻撃は盾で防いだり必死になって避けるのに対して、仮面の男は避けはしてもそこまで必死では無かった。

 大男並みの体格であることを加味すると、何かで体を包み込んで大きく見せていたり力を発揮しているのではないかとマチスは考えた。

 万が一、推測が間違っていて腕を嚙み千切ったとしてもマチスは気にしない。そもそも今は非常事態なのと、何より今は離れているが彼はサカキが結成したロケット団の幹部として誇りを今も胸に抱いていた。

 今こうして本来与する筈が無いライコウと対等の関係で組んでいるのも、非常事態だからと言うことも良く理解している。だからこそ、どんな手を使ってでも仮面の男をマチスは倒すつもりだった。

 

 両腕の動きを封じられて仮面の男は苛立つが、それだけではないことに遅れて気付いた。

 自分達の周りを半透明の透き通る様なガラスらしき何かが包み始めたからだ。

 スイクン達を良く知っている仮面の男はすぐに、それがスイクンが作り出すことが出来る特別な結界――”水晶壁”なのを察した。

 一度出来上がれば、スイクンが自らの意思で解除しない限りどんな手段でも決して破ることは出来ない強固な結界が、己を包み込もうとしていた。

 

「デリバード!!!」

 

 そのことを知っていた仮面の男は、()()()()()()()()手持ちの名を呼ぶ。

 仮面の男も含めて直線状の位置になる様にデリバードは動く。それを見たカスミやマチスは、仮面の男とデリバードの狙いを悟る。

 

 仮面の男は自分諸共、巻き込む形で邪魔者を排除しようとしている。

 

 だけど戦っているのは彼らだけでは無い。

 仮面の男の前に、それこそ見方によっては守っているかの様な位置でカツラを乗せたエンテイが降り立つが、彼らが守るつもりなのは仮面の男を抑え付けているカスミとマチスだ。

 

「エンテイ、”かえんほうしゃ”!!!」

 

 持たせることで炎技の威力を上げる”もくたん”によって力を増した炎が、デリバードが放つ猛烈な”ふぶき”と激突する。

 普通に考えれば、幾らこおりタイプ最強の技でも伝説のポケモンであるエンテイが放つ炎に対抗することは出来ないが、仮面の男のデリバードは抗うどころか少しずつ押していた。

 

 本来なら能力では圧倒的に勝っている筈のエンテイがデリバードに押されている。

 にわかに信じがたいが、目の前の光景が事実であったのとカツラは仮面の男の育成能力とデリバードの潜在能力がどれ程のものか戦慄した。

 出来ることなら、かつての自分の様にその力を悪事に向けて欲しくなかったのが本音であった。

 

 だけどそれでも、カツラとエンテイはデリバードの攻撃を防ぎ続けている間に時間を稼ぐことは出来て、”水晶壁”が仮面の男を挟み込むように閉まり、動きを封じることに成功した。

 ”水晶壁”による拘束を見届けて、カスミは自分達の勝利を確信した。

 しっかりと仮面の男の胴体は閉じた”水晶壁”に挟み込まれたことで、腕と足は動かせてもそこから抜け出すことは出来ない。

 それこそ上半身と下半身が千切れでもしない限り――

 

「おおおおおおお!!!」

「なっ!?」

 

 その直後、雄叫びを上げながら仮面の男は”水晶壁”に挟み込まれた自身の上半身を千切った。

 丁度今、そうでもしない限りは抜け出せないとカスミが思っていたことが目の前で起こったことにカツラ、そして仮面の男の腕に噛み付いて抑えていたライコウに乗るマチスも驚愕する。

 

 その動揺が伝わったのか、エンテイが放ち続けていた炎は雪交じりの暴風に押し切られてカツラ共々吹き飛ばす。

 威力そのものはエンテイの炎で弱められていたのと本来の狙いは達成出来なかったが、それでも彼らだけを吹き飛ばすのには十分な威力を保っていた。

 ライコウに乗っていたマチスも、想定外過ぎる事態に動揺し、慌てて次の手を考えた。

 

 ところが行動を起こす間もなく、更なる想定外が起こった。

 

 上半身だけになった仮面の男からデリバードに勝るとも劣らない”ふぶき”が放たれたからだ。

 マチスを乗せたライコウはまともに直撃を受けてしまい、瓦礫の山に体を強く打ち付けながら激しく転がっていった。

 カスミもスイクンと共に”水晶壁”をすぐに解除して仮面の男を止めようとしたが、彼女もまた予想していなかった出来事に襲われた。

 

 千切れた下半身が独立して動き、スイクンとカスミを蹴り飛ばして来たからだ。

 思わぬ不意打ちを受けてカスミは倒れ込むが、遠くへ飛ばしたライコウとマチスを除いた面々にデリバードが更なる追撃、或いは止めを刺そうとした刹那だった。

 

「むおっ!?」

 

 周囲にあった瓦礫が突如として仮面の男に殺到。

 頭部以外の部分を押し固める様に拘束したのだ。

 

 原因はすぐにわかった。少し離れた距離からヤドキングとドーブルの二匹が、念の力を操っていたからだ。

 そして動けない仮面の男の近くにいたデリバードに、仮面の男の手持ちとの戦いを制したジムリーダー達の手持ちであるウインディにライチュウ、スターミーの三匹が挑んだ。

 

 しかしデリバードは焦る様子は見せず、スターミーを”でんこうせっか”の瞬発力で距離を詰めると蹴り飛ばし、ウインディを口から放たれる炎ごと”ふぶき”で容易く吹き飛ばした。

 鍛えられたジムリーダーの手持ち達をあっさりと退け、長い尾を鞭の様に振るって”アイアンテール”を仕掛けるライチュウに対しても両手を氷で覆うと同時に氷柱の様な剣を形成して両腕で挟み込むように防いだ。

 ライチュウはかなりの力を込めていたが、正面から耐えられて表情を歪めた。

 そのまま悠々と弾き返そうとした時、背後からデリバードに襲い掛かる影があった。

 

 即座にデリバードは片手で”アイアンテール”を防ぎながら片方の腕を振るうと、奇襲を仕掛けたゲンガーが手にしていた”みがわり”のエネルギーで形成した紫色に輝く刀と激しく激突する。

 

 二方向から攻撃を仕掛けられてもデリバードは押されることなく余裕で耐えていたが、両手で光の刀を握り締めながら鍔競り合いを演じていたゲンガーは不敵な笑みを浮かべた。

 その姿に不穏な気配をプレゼントポケモンは察知したが、シャドーポケモンが手にしている刀を更に強く握り締めた直後、刀身――或いはゲンガー自身かは不明だったが、”めざめるパワー”による黒い衝撃波が周囲に放たれた。

 威力は低かったもののそれによってデリバードは体勢を崩し、防いでいた”アイアンテール”もかなり勢いを弱めてはいたが滑る様に動かされて頭を叩かれる様に受けてしまう。

 

 隙を見逃さず、ゲンガーはすかさず切り込もうとするもデリバードは苦し紛れに”こごえるかぜ”を使うことで、シャドーポケモンの追撃を中断させる。

 

「むんっ!!!」

 

 そのタイミングで瓦礫と念による合わせ技での拘束を仮面の男は打ち破った。

 それも先程千切れた筈の下半身が再生しているだけでなく、体のサイズを大きくした上でだ。

 間髪入れずに今度は水の渦と瓦礫交じりの念の竜巻が、仮面の男の姿を包み込む様に発生して身動きが出来ない様にするも、それらの渦は瞬く間に凍り付くと同時に仮面の男が放ったと思われる猛烈な”ふぶき”で内側から突破された。

 

 動きを封じようとしても尽く突破されるので、ヤドキングとドーブルはそれぞれ得物を手にして、拘束するのではなくて物理的に仮面の男を黙らせることを選ぶ。

 当然仮面の男とデリバードも気付くが、正面からだけでなく取り囲むように先程軽くいなしたウインディやスターミーも殺到する。

 

 しつこく食い下がる彼らに仮面の男とデリバードは、苛立ちながらも冷静に対応していく。

 入れ替わり立ち代わりで仕掛けてくる彼らの攻撃を捌いては力の差を見せ付けていくが、それでも彼らは攻撃方法や攻め方を変えたりして対抗していく。

 

 中々解消しない状況と彼らのしつこさに、プレゼントポケモンは更に苛立ちを募らせていた。

 特にゲンガーは、さっさと視界から消したかった。

 今ヤドキングが持っているであろう”とけないこおり”は間違いなく自身から盗んだ物だ。自分が持っていたアイテムが敵の手に渡り、その所為で奴らの力が増す要因になっているのが我慢ならなかったのだ。

 

 ゲンガーが振るう紫色に輝くエネルギーの刀を氷柱の刃で防ぐが、シャドーポケモンは空いている片方の手に念の力で瓦礫から鉄筋を引き寄せて、それを振って来た。

 ふざけた戦い方に見えなくも無いが、彼らはそのふざけたことを実戦で使えるレベルで用意しているのだから尚更腹が立った。

 

 奴らは勝つ為――否、敵を倒す為なら使えるものは何だって使い、手段も選ばない。

 

 そうして互いに二刀流での戦いを繰り広げていたが、攻防の末に”みがわり”で生み出した紫色に輝く刀が砕け散る形で消える。

 咄嗟にゲンガーはもう片方で手にしていた鉄筋を投げ付けてデリバードから距離を取ろうとしたが、目の敵にしていた相手が遂に見せた隙をプレゼントポケモンは逃さなかった。

 

 元々ゲンガーは物理攻撃や防御力は低い。仮面の男の手持ちが使う氷技対策の目的もあるが、素手での攻撃力の低さを補う目的も兼ねて得物を生み出していたが、それが失われたのだ。

 攻める好機とばかりに、デリバードは退こうとしたゲンガーに追撃を仕掛けようとしたタイミングだった。

 下がろうとしたゲンガーが唐突に踏み止まって腕を突き出す様に伸ばした瞬間、先程消えたのと同じ紫色に輝く真っ直ぐ伸びた刃がデリバードの鳩尾に突き刺さったのだ。

 

 突き刺さった瞬間、プレゼントポケモンの頭は真っ白になった。

 刃の元に視線を向けると、途中から伸ばされたゲンガーの手首から先が先程まで手にしていた”みがわり”の刃と同じエネルギーの刃に包まれていたのだ。

 全く予想だにしていなかった展開にデリバードは目に見えて動揺するが、ゲンガーは思惑通りに事が進んだのかあくどい笑みを浮かべた。

 

 ”みがわり”のエネルギーを刀という得物の形で凝固させていたゲンガーだが、実はその気になればカポエラーやドーブルみたいにベースにしている技やアイテムの都合で形状が固定されることは無いので、今みたいに手首から先を伸ばす形で固めることも出来るので決まった形状は無かった。

 わざわざ凝った鍔の装飾や刀の形にしていたのはゲンガーの好み――趣味みたいなものだ。

 

 刃がデリバードの体にしっかりと食い込んだのを視覚的にも感覚的に確信したシャドーポケモンは、続けて”10まんボルト”の電流を突き刺した右腕から伝わせて流す。

 強烈な電流を流したことで、生み出す際に消費したHP分のダメージを間接的に受けた刃は消えるが、無防備な状態で相性が悪い攻撃を受けたデリバードは体が痺れているのか動きは鈍かった。

 

 一見すると弱っている様に見えなくもなかったが、余裕そうに振る舞いながらもゲンガーは一切油断していなかった。

 さり気なく”どろぼう”でデリバードが所持していたアイテムである新しい”とけないこおり”を流れる様に奪い取り、まるでおまじないを掛ける様に両手を動かし、フラつくデリバードに更に追い打ちを掛けようとしていた。

 

「何をするこの悪童!!」

 

 そんなゲンガーを仮面の男は大声で怒鳴りつけ、近くにあった自身よりも一回りも大きいコンクリート片を投げ付けてきたので、ゲンガーは目玉が飛び出すくらい驚きながらも回避を余儀なくされる。

 すぐにデリバードの元へ仮面の男が駆け付けるも、直後に跳び掛かったヤドキングとドーブルが”へんしん”したミルタンクが各々得物を手にゲンガーの代わりにデリバード目掛けて振り下ろそうとしたが、仮面の男は二匹の強襲を”ふぶき”らしき攻撃で蹴散らす。

 

 が、彼らは失敗することは想定済みだったのか、ダメージを和らげていたのですぐに立ち直ると何時の間にかまた紫色の刀を手にしたゲンガーと共に仮面の男とデリバードを囲む。

 そして三匹は狙いを絞らせない意図でもあるのか、仮面の男の周囲を回る様に素早い動きで走り始める。

 

 三匹の動きに仮面の男は、デリバードと共にどの方角からも仕掛けられても良い様に身構える。

 手にした得物を振るわれるのも脅威だが、三匹共遠距離からの特殊攻撃にも優れている。

 現にヤドキングとゲンガーは、得物を持たない片手をバチバチと音を立てながら光らせており、どんな攻撃が来てもおかしくなかった。

 

 そうして警戒していた時、囲むように走っていた三匹は一斉に仕掛ける様に動いた。

 対して仮面の男は弱っているデリバードの代わりに迎え撃ったが、相手の手足や胴体が氷で作られていることを知っていた三匹は、そんな仮面の男の行動に動揺することは無かった。

 

 まずミルタンクに”へんしん”したドーブルが振るう”まがったスプーン”を基点にした軸が捻じれたピンク色の巨大スプーンを両腕で全力で防ぎ、氷で出来た薙刀で突こうとするヤドキングの一撃を上体を反らして躱す。

 唯一ゲンガーの接近を許してしまったが、何故かゲンガーは仮面の男に攻撃するのでは無くて、先程デリバードにやったおちょくる様な手の動きを仮面の男に見せる。

 それが意味することを瞬時に察した仮面の男は、すぐさまゲンガーを蹴り飛ばそうとするがシャドーポケモンは即座に距離を取る。

 そうして改めて警戒していた時、突然三匹は瞬間移動するかの様にその場から消えた。

 

「…は?」

 

 あまりに謎過ぎる彼らの行動に仮面の男は思わず目を疑った。

 消え方から見て”テレポート”を使ったと判断出来るが、アキラのポケモン達はやることが毎回突拍子もないことや予測困難なことばかりで、彼らの狙いが全くわからなかった。

 だが自分の認識していた範囲外からとてつもない力が溢れ出すのを感じ取り、慌ててその方角へ顔を向けた。

 

 目を向けた先で、何時の間にか立ち直ったカスミ達がスイクン達と共に今にも技を放とうとしていた。

 彼らの姿を見た仮面の男は、ゲンガー達三匹にものの見事騙されたことを悟った。

 奴らは最初から自分達の手で倒すつもりは無かったこと、奴らの狙いはそもそも時間稼ぎだということにだ。

 

「”ハイドロポンプ”!!!」

「”かえんほうしゃ”!!!」

「”10まんボルト”!!!」

 

 みず・ほのお・でんき

 強力な三タイプの技が互いを邪魔し合うことなく螺旋を描く様に絡み合いながら真っ直ぐ仮面の男とデリバードへと迫る。

 

「おおおおおおおおっ!!!」

 

 一歩出遅れた不利な状況であることを理解しても尚、デリバードだけでなく仮面の男も身に纏っているマントの下に()()()()()()()()()()()()()()()()()が放つ”ふぶき”で全力で対抗する。

 ”とけないこおり”を奪われた影響なのか、デリバードの”ふぶき”の威力は肌で感じ取れるレベルで弱まっていたもののポケモン勝負は戦うポケモンの能力やレベル、トレーナーの技量以外にも、時にはポケモンとトレーナーが放つ気迫が相性差や実力差を覆す時がある。

 

 実際、最初は拮抗どころか押していた。

 だけど何も気迫は仮面の男の専売特許では無い。

 それは戦いを挑んでいるスイクン達やカスミ達も同じだからだ。

 

 スイクン達が持つ高い能力任せにはせず、彼らの力を高めるアイテムを持たせ、今の彼らの状態を把握した上でどのタイミングで同時攻撃をすれば効率良く発揮出来るのかをカスミ達はしっかり考えていた。

 故に高レベルの戦いであればある程、僅かな差が結果を左右することになる。

 

 時間が経つにつれて、デリバードだけでなく仮面の男のマントの下に隠れている存在も何故か少しずつ弱り始め、”ふぶき”の威力も低下し始めた。

 追い詰められた状況ではあったが、既に仮面の男は先程ゲンガーが一体何を仕掛けていたのか悟っていた。

 さっきまでゲンガーがやっていた奇妙な手の動き。あれは”のろい”だ。

 

 ”のろい”、ゲンガーはその技を使うことでデリバードやマントの下にいる別の存在をじわじわと弱らせていた。

 普通なら”のろい”を二回も使うのはかなり危険な行為だが、遠くで他の”テレポート”した面々と備えながらも高みの見物をしているゲンガーは未だに体力に余裕があるのかピンピンしていた。

 確実に何かしらの回復手段を持っているのは明らかだ。あれだけ体力をガンガン消耗する攻撃や行動をしていたのに、ペースが全く落ちなかったことをもっと早く怪しむべきだった。

 

 加えてデリバード以外の伏兵がいることを見抜かれたことも痛かった。

 この追い詰められた極限状態でそれだけ弱体化させられてしまえば、如何にホウホウを相手に互角以上に渡り合えるデリバードやマントの下に隠れている規格外の力を持つ存在と言えど、力を増した伝説のポケモン達の一斉攻撃は厳しかった。

 

「うぉおおおお!!?」

 

 雄叫びなのか叫び声なのか、技の押し合いに負けて体が吹き飛ばされた仮面の男は大きな声を上げながら、デリバードと共にポケモンリーグの会場内の壁に叩き付けられるのだった。

 

 

 

 

 

「…ふぅー」

 

 まだ戦いは終わっていなかったが、少しだけアキラは一息つくと今にも座り込みそうなまでに力を抜くと体を屈めた。

 視覚を始めとしたあらゆる五感で観察したが、目の前で倒れているルギアは完全に沈黙したと判断出来た。

 少し離れたところでは、さっきまで雄叫びを上げていたブーバーが倒したホウオウの胸部の上に座り込んでいるのが見えたのであちらも撃破に成功したのが察せた。

 

「見事だったぞアキラ」

「…ありがとうございますシバさん」

 

 尊敬している人物からの賞賛の言葉にアキラは汗を拭いがら立ち上がると、すぐに軽く頭を下げながら力を貸してくれたことにも感謝をした。

 最後は自分が仕留めたが、シバは対抗意識よりも今の自分の力を称えてくれたことに彼は心底嬉しさを感じていた。

 

 そのタイミングで、ホウオウの相手をしていたキョウがクロバットに宙吊りにされたシャムや休んでいるブーバー以外のアキラの手持ちを伴って二人の元に来た。

 

「複数で挑んでいたとはいえ伝説のポケモンを倒すとは、恐ろしいくらい強くなったな」

「自分でも…ちょっと驚いていますよ。上手く行き過ぎて」

「完全に倒す為の作戦を考えておきながら良く言う」

 

 謙遜気味なアキラにキョウは少しだけ呆れっぽい顔を浮かべた。

 ルギアとホウオウ。人によっては戦う前から降参しても良い程の強大な存在だ。

 そんな存在を相手にアキラは、”もうどく”と言った状態異常でルギアを弱らせていくだけでなく、ホウオウ共々”うらみ”で主力となる技の消耗を早まらせた。

 更には徹底的に顔や足の関節などの身体的な構造含めた弱点を突いていくなど、物理的な面でも本領発揮が出来ない様にしていた。

 

 だけど、どれだけ対策をしてもそもそも戦える土俵に上がれなければ意味は無い。しかし、彼とその手持ち達は余計な小細工無しでも土俵に上がれるだけの力を持っていた。

 そして戦う方も単に力を合わせるだけでなく、陽動や軽い時間稼ぎに流れる様な動きで連携するなど、ここまでチーム戦を意識した野良バトルをキョウは見たことが無かった。

 

「にしても、あっちで戦っているゲンガーは”のろい”も使っている筈なのに随分と元気と見える」

「体力の消耗が激しくなる面々には、予め”じこさいせい”を”ものまね”する様に伝えていますからね」

 

 キョウの疑問にアキラは軽く種明かしを告げた。

 ゲンガー達が”みがわり”を筆頭としたやたらと体力の消耗が激しい技を多用出来たのも、これが理由だ。

 特にゲンガーが使える様になった”のろい”は、一度モンスターボールに引っ込めるなどの対処をしなければ倒れるまで相手の体力を奪い続けるという格上との戦いにはもってこいの技だ。

 伝説のポケモンが相手だと説明出来ない理不尽な理屈で無力化される可能性があったので、使う相手についての注意点やポイントをアキラは伝えていたが、使うタイミングについては手持ちの判断に任せていた。

 ”じこさいせい”の”ものまね”も彼らに任せていたが、ドーブルが”スケッチ”を経由して覚えているのとルギアとホウオウが多用していたので、真似するタイミングには困らなかった。

 

 敵味方問わず、”ものまね”などでその力を利用することはアキラ達の十八番だ。そして多数の敵味方が入り乱れる状況だからこそ、本来使えない技や多用が難しい技は大きな力を発揮する。

 サンドパンやブーバーが”うらみ”を使ってきたり、カポエラーやゲンガーなどの面々が本来覚えない筈の”じこさいせい”を使うなど、誰が想像出来る。

 勿論それだけでなく念入りに対策をすることで敵の本領発揮を防ぎつつ、自分達にとって有利な流れに持ち込んだ上で手持ち達が持つ高い攻撃力で敵を圧倒する。

 

 結果的にアキラの作戦は全て上手く行った。

 そして彼の視線は、キョウが連れて来た人物へと向けられた。

 

「ところで……何でその人を連れているんですか」

「流石に巻き込むのはマズイと思って捕まえるついでだ。何、変なアイテムを所持していないかの確認は済ませているし、取り上げてもいる」

 

 キョウは軽く答えるも、アキラとしては疑問よりも何故助けたという意識の方が強かった。

 ルギアに乗っていたであろうカーツの安否確認はしていないが、状況的に地面に投げ出されている程度であろうなのや巻き込まれても自己責任とアキラは切り捨てていた。

 そんな彼の雰囲気に、昔の彼の事を断片的ながら知っていたキョウは随分と殺伐としている様に感じた。

 同時にその殺伐とした雰囲気が、断定は出来ないものの誰かに似ている気もした。

 

 その時、大きな轟音と土埃を上げて、少し離れた場所にあったポケモンリーグ会場内の壁に仮面の男とデリバードが叩き付けられる瞬間を彼らは目にした。

 少し息を整えたら加勢することを考えていたが、どうやら必要は無かったらしい。

 だけどアキラの想定では、このまま仮面の男がやられるとは考えにくかった。なので最後の詰めとして自分達も――

 

「ッ!」

 

 直後だった。

 アキラは少しのんびりとした考え全てを断ち切って、たった今感じ取ったものに五感を集中させた。

 この世界に来てから、危機的な状況に遭遇する過程で磨かれてきた直感が不吉の予兆――”匂い”や”気配”が変わったことを察知した。

 そしてそれが意味することをアキラはこれまでの経験則から正しく理解した。

 

 戦いはまだ終盤ではない。




それぞれの戦いを制した・・・様に見えて、実はまだ終わっていないことに気付くアキラ。

かなり追い詰めました様に見えますが、戦いはまだ終わりじゃないです。

ゲンガーも他の手持ち同様に”みがわり”のエネルギーを自身にとって使いやすい形として刀の形状に調整していますが、好みや趣味要素が強いです。
その気になれば手首から先へ伸ばす形で纏ったり出来ますので、不意打ちにも使えたり先入観を持っていると騙されやすいです。

度々描いていますが、アキラが連れているポケモン達はほぼ全員が”ものまね”を使えます。
なので野良バトルをしますと、その時点で出ている手持ちや相手が覚えている技を何でも一つは使える様なもので、彼らの厄介さが増している一因でもあります。

次回、逆襲が始まります。
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