SPECIALな冒険記   作:冴龍

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終わらない災禍

『――! 早く来いよ!』

 

 唐突に聞こえた声に、あやふやだった彼の意識は少しだけ安定した。

 聞き覚えのあるものだっただけに、彼はつい()()()()で返事をしようとしたが、言葉が喉から出る直前に疑問が浮かんだ。

 

 ここはどこだ?

 さっきまで戦っていた筈では?

 

 それらの疑問の答えは、徐々に浮かび上がっていく光景と共に示され、彼はすぐにその意味を悟った。

 本物ではない。状況で言えば走馬灯に近いものだ。

 

 薄っすらと見える姿や輪郭を浮かばせた五人の姿。

 遠い昔、まだ未来が明るく、()()との友情がずっと続くと疑うことなく思っていた頃の記憶。

 

 だけど、それは突然終わった。

 

 何人かは未だに手を振るだけでなく名前も呼んでいたが、彼は応えないどころか背を向けた。

 彼が向き合ったのは、彼らがいる明るい世界では無い。暗くて冷たい世界だった。

 

 こちらの世界の方が良いのではない。敢えてその世界に身を置き、成し遂げなければならないことがあるからだ。

 長い月日が経っても、今でも全てを鮮明に憶えていた。

 

 どれだけ後悔したことか。

 どれだけ情けない己を呪ったことか。

 どれだけあの時間に戻りたいと考えたことか。

 

 己の一瞬の迷い、それによって齎された最悪の結果と聞こえてしまった()

 直後にこの世に生を受けた小さな命を抱いた時に感じた僅かな喜びと深い悲しみ。

 

 だが、そんな後悔と己を呪う日々ももうすぐ終わりだ。

 もう少しだ。もう少しで会える。

 

 そして意識と視界が記憶の世界から、現実の今に戻った。

 叩き付けられた壁に力無く寄り掛かってしまっていたが、目の前には長年に渡って求め続けた願いを()()()()者達がいた。

 諦め切れずに可能性を見出した遠い昔、情報収集も兼ねて遠回しに周囲にその可能性について聞いて回ったことがあったが、どれも最後は似た様な答えで絶望した。

 

 もう戻らない。

 有り得ない。

 

 そんなものは聞き飽きた。何より、自分はあの時死んだ様なものだ。

 取り戻す術があるなら、どんな手を使ってでも取り戻す。

 狂っていると言われても構わない。今まで築き上げたものを失おうが、世界の全てを敵に回そうと取り戻す。

 

 

 親の姿と()()()を知るトレーナーでは無く、本当の親に会わせる為に。

 

 

 

 

 

「や…やったわ…」

 

 叩き付けられてから壁にもたれているかの様に力無く崩れている仮面の男の姿にカスミは興奮を抑えた声で呟く。

 

 ”水晶壁”での拘束が突破された場合の対処法も考えておいて良かったと心底思っていた。

 あまりにも想定外過ぎる出来事ではあったが、それでも一つの手段しか考えずに複数の手段を用意出来たことが功を奏した。

 もしスイクン達が自分達の元に来るのがもっと遅かったら、連携を考えるよりも彼らの力を引き出すことにしか専念出来ず、作戦も即興か事前に用意出来た”水晶壁”くらいしか無かったかもしれない。

 

「やっとだぜ。全くふざけた奴だ」

「明らかに仮面の男の体の大部分は人間の体では無い。恐らく氷で構成されているが、一体どうやって動かしているのか」

「別に構わねえよ。今こうして叩きのめしたんだ。仮面を剥いで腐れ外道の面を拝ませて貰おうじゃねえか」

 

 カツラは仮面の男の力や体について考察するが、マチスはさっさと仮面の男の仮面を剥ぎ取って正体と素顔を確かめたかった。

 勝手に組織のボスを気取り、部下達も操った落とし前をキッチリと付けさせるつもりだ。

 彼はライコウから降りようとした時、壁にもたれていた仮面の男が首を持ち上げ、それからフラ付きながらも幽鬼の如くゆっくりと立ち上がった。

 

「――私には取り戻したいものがある…」

「…なんだ? 今更情に訴えようって魂胆か?」

 

 マチスは怪訝そうな反応を見せるが、仮面の男は気にしていなかった。

 そもそも誰かに伝えているというよりは、自分自身に言い聞かせている様なものだった。

 

「どれだけ抵抗されようとも構わん……どれだけ食い下がれようとも…貴様らに…」

 

 少しずつ、仮面の男から発せられる空気が変わり始めていく。

 呼応する様に倒れていたデリバードもダメージを受けている筈にも関わらず、ゆっくりとだが立ち上がる。

 そんな彼らの恐ろしいまでに冷たくて執念染みた姿に、さっきまで強気だったマチスは思わず一歩下がり、カツラやカスミも身構える。

 

「――貴様らに邪魔されて堪るかっ!!!」

 

 仮面の男が吠えた瞬間、風が起きた訳でも無いのに強風が吹き荒れる様な圧を対峙していた三人は感じ取った。

 

 言葉で止めることが無理なのはわかっていたが、中途半端ではダメだ。

 行動不能、拘束するには完全に意識を奪うまでは決して止まらない。

 そう悟り、意を決して仮面の男を物理的に黙らせようとした時、仮面の男の周囲を包み込むように激しい冷気の竜巻が渦巻いた。

 

 咄嗟にマチスは距離を取ると同時にライコウや手持ちのライチュウと共に臨戦態勢に入った。

 カスミも凍り付く様な冷気を肌で感じていたが、新手の出現を悟っていた。

 仮面の男が冷気の渦に姿を隠す前に、彼の背後に巨大な姿が一瞬だけ見えたからだ。

 

 恐らくあれが、仮面の男の奥の手。切り札だ。

 

 あれだけ強いのに未だに奥の手を隠し持っていたのは驚きであったが、戦いはこれからが本番だと気を引き締める。

 そうして身構えていた時、吹雪と冷気の竜巻から何かが飛び出す。

 攻撃か、と認識して回避しようとしたが、飛び出したものに目を疑った。

 

 何人もの仮面の男だったのだ。

 

 予想外過ぎる光景にカスミとカツラは動揺するが、マチスだけは動揺していなかった。

 既に彼はライコウ共々、どう言われようと物理的に叩きのめすことを考えていたので、一歩遅れる二人よりも早く動けた。

 

「ぶちかませライコウ!!!」

 

 あれだけの狂気染みた執念を見せたのだ。仮面の男はそう簡単にくたばらない。

 どうせ出てきたのは偽物で、何より体は人間の体では無いのだから手加減は不要。それを見越したライコウは最大パワーの”スパーク”を放ち、電撃と衝撃波で迫る複数の仮面の男を蹴散らす。

 

 ライコウの攻撃を受けた何体かの仮面の男は、先程”水晶壁”から抜け出した時の様に砕けた。

 砕けたそれらをマチスは冷静に観察してみると、出てきた仮面の男に似た存在はカツラが言っていた様に全身が氷が出来ている様であった。

 一体どうやって氷で作った人形を動かしているのかと思ったが、竜巻からはまだまだ同じ氷で出来た仮面の男が出て来る。

 

「チッ! どうなっていやがる!」

 

 もう一度技を放って氷人形そのものを破壊していくが、マチスでさえ目を疑う光景を目の当たりすることとなった。

 なんと砕いた氷人形が、まるで砕かれる前に巻き戻される様に再生していくのだ。

 そしてそれが意味することにも彼は気付く、最初に”スパーク”で蹴散らした氷人形も再生して再び自分達に襲い掛かって来たからだ。

 

「どうなっているのよ!?」

 

 カスミ達も事態が呑み込めないまま襲い掛かる氷人形の対処に追いやられる。

 普通に考えれば、砕いてしまえば終わりな筈だ。なのに氷人形達は砕かれても再生して、また襲って来る。

 自由に動く氷人形もそうだが、再生する氷など聞いたことが無い。

 

 そんな彼らを余所に仮面の男を包み込んでいた竜巻が収まると、マントを羽織った仮面の男本人が姿を現した。

 新たに繰り出した手持ちである背中に甲羅の様なものを背負った青い体をした竜の様なポケモンーーラプラスと共にだ。

 

「…いくぞ。取り戻す為の最後の戦いだ」

 

 仮面の男の言葉に、ラプラスは目の前を見据えながら静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 カスミ達と仮面の男との戦いが再開されていた丁度その時、当初彼女達の加勢を考えていたアキラ達の方は別の事に意識を取られていた。

 何故ならば、倒れていた筈のルギアの体が突如として浮き上がる様に持ち上がったからだ。

 今度こそ完全に仕留めた認識があったので彼は驚いていたが、すぐに意識をルギアとの戦闘継続に切り替えた。

 

「全員一斉攻撃だ!」

 

 アキラが声を張り上げると反動で動けないブーバーなどの一部を除き、カイリューを始めとしたアキラの手持ち達は一斉にルギアに対して光線やエネルギー系の飛び技を放つ。

 既にルギアは虫の息と言う認識はあったが、それでも油断無く即座に仕掛けられる最大火力。だけど何かしらの技で防がれることも可能性に入れてはいた為、地味に時間差での攻撃でもあった。

 これらの攻撃にルギアがどう対処するのかと目を凝らしたが、浮き上がったルギアはそれらの攻撃を全て無防備な姿のまま受け、体の各部に生じた爆発による爆煙でルギアの巨体の半分が隠れた。

 

「…は?」

 

 アキラは全く予測していなかったので思わず目を疑った。

 ルギアはもうまともに戦えないくらい弱っていた筈だ。にも関わらず全ての攻撃を真正面から受けた。

 あまりにも呆気無いのが、彼には悪い予感がしてならなかった。

 

 そんな彼の懸念は、残念ながら当たっていた。

 

 それなりの威力、それこそ相性の悪い攻撃も受けたにも関わらず爆煙が晴れてもルギアは浮いた状態を保っていたからだ。

 

 おかしいと思った直後、閉じられていたルギアの眼が圧倒的な圧を放ちながら開かれ、空気が震える程の大きな声で吠えた。

 影響範囲にいたアキラやカイリュー達は思わず耳を塞ぐが、ルギアは巨大な両翼を勢い良く羽ばたかせて、強烈な”ふきとばし”を起こした。

 起こされた強風は凄まじく、シバのハガネール以外のカイリューやバンギラスなどの重量級さえも吹き飛ばされてしまい、アキラ達もシバのてつへびポケモンに身を寄せて隠れることで辛うじて凌いだ。

 

 だが、すぐにそうは言っていられなくなった。

 ルギアが口を開く。何かの技を使うつもりなのはわかったが、肉体動作から次の動きが読める程に鋭敏化した動体視力を持つアキラは、その動きに目を疑った。

 ゲンガーやドーブルが使う”うらみ”とその”ものまね”でPPを減らし、さっき使用不能に追い込んだ筈の”エアロブラスト”発射前の動作だったからだ。

 

 ルギアの口から再び放たれた空気の塊は大砲の様な轟音を響かせ、唯一”ふきとばし”に耐えていたハガネールに直撃する。

 ハガネールは公式で確認されているポケモンの中でトップクラスの防御力を誇るだけでなく、”エアロブラスト”のタイプであるひこうタイプにも相性上有利だ。

 仮に受けたとしても威力を軽減させる工夫をしていたので直撃を受けても今まで大したダメージを受けなかったが、今回は正面からまともに受けてしまったことでその巨体が大きくグラつく。

 

「離れろ!!」

 

 シバが声を荒げると、隠れていたアキラとキョウも急いでハガネールから離れる。

 踏ん張ってはいたものの”エアロブラスト”の直撃を受けたハガネールは、バランスを崩して頭から近くの観客席を押し潰しながら倒れる。

 

 手痛いダメージではあるものの、それだけならシバのハガネールはまだ起き上がれた。

 だが、ルギアはそれだけでは終わらなかった。

 次に大量の水の奔流――”ハイドロポンプ”をルギアは放ち、頭を持ち上げようとしていたハガネールを再び観客席に叩き付けたのだ。

 今度は耐性が薄いだけでなく相性の悪い攻撃を受けたことが致命的だったのか、力を失ったてつへびポケモンの体は叩き付けられた観客席から滑り落ちる様に頭からフィールドに崩れた。

 

「ハガネール!」

 

 シバは呼び掛けるが、既にハガネールは気絶していた。

 何故ルギアが戦える状態になっているのかアキラにはわからなかったが、さっきまでの優勢の流れが一転して悪い流れになり始めていることだけは感じ取っていた。

 そして彼の懸念を感じ取り、即座にカイリューが行動を起こした。

 

 吹き飛ばされた体を起こすと、足腰に力を入れて”こうそくいどう”で銃弾の様なスピードでルギア目掛けて一直線に飛び立つ。

 それ程のスピードを発揮してもルギアはカイリューの接近に反応するが、手を打たれる前にカイリューは勢いを乗せた”かみなりパンチ”でルギアの顔を殴り飛ばす。

 長い首が後ろに曲がる程の威力であったが、すぐさまルギアは持ち直して曲がった首を勢い良く戻し、殴り付けた後に宙に留まっていたカイリューに”ずつき”をかます。

 ヘッドバッドみたいな思い掛けない反撃を受けて、カイリューは逆走する勢いで吹き飛ばされ、フィールドを滑る様に激しく打ち付けられる。

 

「大丈夫かリュット!?」

 

 砂塵で少し見えにくかったが、カイリューが痛そうに頭を押さえているのが見えた。

 手を緩める気は無いのか、追撃にルギアは大きく開けた口から空気を取り込んで、カイリュー目掛けて”エアロブラスト”を吐き出した。

 まずい、とアキラは焦ったが、そこをカイリューを守る様にエレブーが飛び込んで”まもる”を展開した。

 

 圧縮された空気弾が展開されたエネルギーの壁に轟音を伴う程に激しく激突するが、ホウオウの”せいなるほのお”みたいな特殊な性質は無かった為、両者の技が相殺される形で打ち消される。

 だがそれだけではルギアの攻撃は終わらない。またしても”エアロブラスト”の為に空気を吸い始めるが、その顔に黄緑色の光弾や星型の光弾が幾つも集中して当たり、ルギアは顔に小規模で連続して起こる爆発によってようやく怯む。

 

 そこに自らを固定砲台の如く力強く踏み締めたバンギラスが、最大チャージした”はかいこうせん”の一撃をルギアに叩き込む。

 

 大きな攻撃を集中的に受けたルギアは浮力を失ったかの様に落ちるが、それでも完全に力を失っていないのか緩やかだった。

 そして着地するやルギアの体は淡い光――”じこさいせい”に包まれて、先程までの攻防で負ったダメージを回復していった。

 

「”げんきのかたまり”とかの道具を使って回復させたとは思えない。それに戦い方がさっきと違い過ぎる」

 

 ルギアの様子から、アキラはルギアが復活したのは単純な回復では無いと察する。

 ”エアロブラスト”だけでなく”じこさいせい”も使えるだけのPPを切らせた筈だ。なのに何故こうして使える。

 それにこの戦い方、まるで”うずまき島”で戦った時のルギアを彷彿させる。

 

「連れて来たぞ」

 

 ルギア復活の理由をアキラが考えていた時、何時の間にかキョウがベトベトンにカーツを拘束させながら連れて来ていた。

 これだけで今のルギアは、完全にカーツの指揮下から外れていることが誰でもわかった。

 だけど、今ルギアがこうして復活して暴れている原因に彼が関わっているのは間違いなかった。

 

「皆! 戦い方は問わないから無理はせずに時間を稼いでくれ!」

 

 カイリュー達に時間稼ぎをお願いすると、彼らがルギアに各々挑んでいる間にアキラはカーツを睨み付けながらその胸倉を掴んだ。

 

「おいお前、ルギアに何をした」

 

 脅す様にアキラは迫るが、カーツは小馬鹿にした様な表情を浮かべるだけで答える気が無いのは明白であった。

 これだけでもルギア復活に何かしら関わっていることが察せたが、元からムカついていることも相俟ってアキラはその顔面に拳をめり込ませる勢いで殴り付けたい衝動に駆られたが、手持ちのカイリューみたいな乱暴な思考にいきそうなのを何とか抑え付けた。

 

「…どうせ話さないなら別に良い。ルギアがお前の支配下じゃないことや従えていた時よりも手強くなったってことさえわかれば良い」

 

 これ以上こいつに関わるのは時間の無駄だ。

 用が無いとばかりに彼は手を離すと、すぐに思考をルギアの復活理由と今の様子はどういうことなのかを考えることに費やす。

 気絶した筈のルギアが復活したのは”げんきのかたまり”などのアイテムを使ったのが一番考えられるが、それだけではPPが枯渇した技が使える理由や今の野生同然の状態がどうも説明がつかない。

 と言うか、仮面の男の支配下になっていたある種の洗脳状態が完全に解けてるとしか思えないくらいに今のルギアは無差別に暴れている。

 

 アキラは必死に頭を働かせるが、ルギアの今の状態にしたのは何かしらのアイテムを使ったのか、そもそもどういう手段をカーツは使ったのか皆目見当がつかなかった。

 単なる回復アイテムを使ったなら、さっきのバトル中に使えばこっちの作戦は破綻していた。

 そうなると自分にかなり敵意を抱いている彼らが、何故さっきの戦いで使わなかったという疑問が浮かぶ。

 負けたくないなら使わない選択肢は無い筈だからだ。

 ただわかるとすれば――

 

「余計なことをしやがって」

 

 もう一回ルギアを相手に、それも完全な状態で戦うことになったことにアキラは文句を口にする。

 正直に言って、まだ使っていない策はあるが果たして今のルギアに通じるのかと言う懸念がある。そもそもルギアと連戦すること自体、アキラにとって想定外。

 かと言って、まるで野生同然に怒りのままに暴れる今のルギアを放置するのは危険過ぎる。

 手柄云々やこの先ある仮面の男との戦いの事は置いといて、もう一度シバ達と連携をして戦った方が良いのは間違いない。

 

「待てアキラ、ここは俺に任せろ」

 

 そう考えて、もう一度戦いの場へ向かおうとしたアキラをキョウは止めた。

 キョウとしては、一番伝説のポケモンに対する知識や対抗手段を有していると見ている彼を、このまま何も情報が得られていないだけでなく、余計なことに思考を割いたままルギアとの戦いに送るのは好ましくなかった。

 少しでも彼にとって有益な情報を引き出して、戦いを有利なものにしたかった。

 

「さて、こっちの質問に答えて貰おうか」

「………」

 

 ルギアと激しい戦いを繰り広げているアキラの手持ちが出す喧騒を余所に、キョウはカーツに尋問を始めた。

 答えるつもりが無いのは先程のやり取りを見てもわかっていたが、そこは忍びとしての技のみならず人の心理を読み取ったりする駆け引きなどの若いが故にアキラが持たない術を彼は身に付けていた。

 既に目星は付いていた。

 

「黙っていてもこっちはもうわかっているんだよ。ルギア復活の理由は、これだろう?」

 

 黙っているカーツに対して、キョウは見せ付けるかのように小さな巾着を取り出した。

 それは彼がシャムを連行する際に悪足掻きを警戒して、彼女から様々な所持物を取り上げた中にあったものだ。

 それをカーツが見た瞬間、彼の目は少しだけ動揺を見せた。

 これでこの巾着の中身が関わっていることがわかった。そうなれば次は容易かった。

 

「中身は粉…いや何かの灰と言った方が正しいかな」

 

 そしてキョウは説明を続ける。

 彼が何故巾着を挙げたのかは、端的に言えば手にした瞬間から不思議な力と言えるものを直感的に感じたからだ。

 だが巾着の中身は単なる灰。とてもじゃないが力を感じる様な特別なものだとは思えなかったが、キョウにはその正体を知る宛てがあった。

 

 ここまで説明さえすれば――そう考えながら目線をアキラに向けると、彼は何かに気付いた様な顔を浮かべる。

 

「灰……もしかして”せいなるはい”?」

「知っているのか?」

「伝説のポケモンについて調べていた際に、ホウオウの炎で生み出された不思議な物質についての記録がありました。それが”せいなるはい”と呼ばれるもので、弱っていたポケモンが灰を浴びた途端に元気になったという記述がありました」

 

 この世界でアキラが伝説のポケモンについて可能な限り調べた際に、ホウオウが燃やし尽くして灰にしたものには不思議な力が宿っており、弱っていたポケモンが瞬く間に元気になったなどの回復に関連する効果を示す記述を様々な資料で多く見た。

 実物は挿絵含めて無かったので、エンテイが放つ特別な炎みたいなものと認識していたが、瞬く間にアキラの脳内でルギア復活の理由が紐付けられていった。

 ホウオウの力が宿った特別な灰、それが齎す効果は目に見えてわかる完全回復は勿論、その体にとって良くないものも取り除く。

 

 そう、それこそ仮面の男に洗脳される形で無理矢理従わされている状態とかだ。

 

 そこまで考えて、アキラは何故カーツやシャムが回復手段を持ち合わせていたのにやられるまで使わなかった理由を理解した。

 完全回復と引き換えに伝説のポケモンが自分達の制御から離れるからだ。

 最後まで渋るのには十分な理由であったが、同時に彼らの選択にアキラは苦々しそうな顔を浮かべた。

 

「お前、ルギアとホウオウが本気になったらどれ程恐ろしいことになるのかわかっているのか」

 

 単なる完全回復どころか仮面の男の洗脳とも言える呪縛からも解かれたのなら、今のルギアを放置するのはどう見積もっても危険過ぎる。

 伝説のポケモンが本気を出したら、文献で記録されている以上の大災害が起きる可能性がある。

 ここはルギアが力を発揮出来る海から遠く離れた陸地ではあるが、それでも本気になったら何が起こるのかわかったものではない。

 これでホウオウも一緒になって復活していたら、それこそ手に負えない事態になっていた可能性も十分にあった。

 

「……あの御方の目的が達成されることこそ、我らの望み。例え我らを捨て駒として扱おうと、ジョウト地方がどうなろうと、あの御方の目的が達成されるのなら知ったことでは無い」

 

 ところがカーツは知らんとばかりに口を堅く閉ざした態度で、代わりに同じく捕まっているシャムが口を開いたが、仮面の男への度の過ぎた忠誠心とまるで自分達の思い通りにならない世界などどうでも良いと言わんばかりの主張をするのでアキラは眉を顰めた。

 

 だけど一緒に聞いていたキョウは、納得すると同時に少し安心もしていた。

 それは捕まえたシャムも”せいなるはい”が持つ効果を知っていたからだ

 さっきの戦いの最中に使わなかったのは、使えばホウオウは回復と引き換えに自分達の制御下から離れることを知っていたからだ。

 恐らく追い詰められたら最後の悪足掻きに自爆みたいな形で使うつもりだったが、アキラへの過度な敵対心のお陰で使用するタイミングを見誤った。

 

 最後のアキラのポケモン達による総攻撃に巻き込むのは流石に後味が悪いということで捕らえたことも大きいが、幾多の要因が絡んでホウオウの復活と暴走を防げたことに何とも言えなかった。

 様子から見て、これで必要な情報は十分だろうとキョウが思った時、彼は自分達に近付く不穏な気配を感じ取った。

 

 それに気付いたアキラは、即座に背負っていた盾を腕に付けるや剣の様に振るおうとしたが、その前にシバのカイリキーが不穏な気配――近付いて来た氷人形を殴り飛ばした。

 

「アキラ、ここは俺に任せろ」

「この忠誠心が振り切っている連中が余計なことをしないかも俺が見ておく」

「…ありがとうございます」

 

 ジムリーダー達だけでなく自分達にも襲って来た氷人形の相手、現ロケット団幹部の扱いをシバとキョウに任せて、アキラは今ここで自分が成すべきことを再認識した。

 

 万全状態のルギアと連戦することになるのは予想外ではあったが、まだ最悪ではない。

 自分の成すべきこと、わかっていることをアキラは改めて考え、そして固い決意の宿った目を宙に浮いているルギアを相手に空中戦を繰り広げているカイリューに向けるのだった。




アキラ、完全回復したルギアとの第二ラウンドへと挑み、仮面の男は本気を出す。

原作でもそうでしたが、ただでは転ばないカーツ。
実はシャムを連行したキョウの行動はかなりのファインプレーでした。
詳細は不明ですが、カーツとシャムの二人はそれなりに年を重ねた状態で仮面の男の元にいるのが示唆されていましたから、忠誠心の高さを考えるとイツキやカリンと同じ様に誘拐では無くて力を持て余していたのかな、と考察をしています。

”せいなるはい”の効力は第二世代での体力とPPを全て回復するのと同じ扱いです。

次回、アキラ達はルギアとの第二戦に挑みます。
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