SPECIALな冒険記   作:冴龍

155 / 172
切られる奥の手

「何だこいつらは!?」

 

 襲って来る仮面の男が被っている仮面と同じ顔をした氷人形を何体も相手にしながらマチスは叫ぶ。

 氷で作られた人形が自由自在に動いているだけでもおかしいのに、砕いたり破壊してもすぐに再生してまた襲って来る。

 唯一、ほのおタイプであるエンテイが放つ炎で溶かし切ればもう動くことは無いが、それでも次々と新たな氷人形が送り込まれるので状況は変わらない。

 

 カツラはウインディのみならずギャロップも繰り出して最大火力の炎で氷人形を溶かし切ろうとしていたが、何故かエンテイとは違って完全には止まらなかった。

 威力不足に思えたが、カツラはエンテイが放つ炎の特殊な性質を身をもって知っていたこともあって、この氷人形も特別な炎でしか倒すことが難しい厄介な相手であることに既に気付いていた。

 氷人形の方も最も脅威である彼らをさっさと始末したいのか、仕留め損ねた何体かの氷人形がエンテイとその背に乗るカツラに迫った。

 

 それらを対処しようとした時、ミルタンクに”へんしん”したドーブルが手に持った桃色に光る軸が捻じれた巨大スプーンで氷人形達を薙ぎ払う。

 氷の薙刀を持ったヤドキングや紫色に輝く刀を手にしたゲンガーも、カツラとエンテイの元に駆け付けると再生しながらもしつこく動く氷人形を”サイコキネシス”による念の衝撃波で更に遠くへと吹き飛ばす。

 

 トレーナーの指示が無くても適切に動ける彼らの頭の回転の速さと状況判断力にカツラは感心するも、すぐに彼はある異変に気付いた。

 

 頭上を見上げると崩壊していた天井から見えていた先程まで晴れていた空が、今にも土砂降りになりそうな怪しい雲行きに変わっていたのだ。

 ”あまごい”に似ているが、規模や印象含めた圧が明らかに異なる。そしてこの異変が起きた原因についても、カツラは周囲の状況から察していた。

 

「君達! 私達のことは良い! すぐにアキラ君の元へ戻るんだ!」

 

 今のアキラには、ゲンガー達の力が必要だ。

 そもそも彼が三匹をこちらに送り込めたのは、自分達の戦いに余裕があったからだ。

 だけど、今の彼らにはその余裕は無い。

 現にアキラの手持ち達は復活したルギアとの戦いに集中してはいるが、共闘していたシバの手持ち達は一部の氷人形が彼らの方に向かい始めたことやルギアが宙に浮いていて戦いにくいこともあって、役割分担なのかそれらの相手に専念し始めていた。

 

 彼らは力を合わせてルギアとホウオウの撃破に一度は成功したが、抑えられていた本領を発揮し始めた伝説のポケモンを相手に連戦するのは幾ら何でも酷だ。

 それにこのままルギアを戦わせ続ければ、”あまごい”によって雨が降り始める。そうなればエンテイを始めとしたほのおタイプの技の威力は半減してしまって自分達の弱体化にも繋がることをカツラは懸念していた。

 

 カツラの言葉にゲンガーとヤドキングは周囲を警戒しながらもどうするか判断しかねていたが、唐突に自分達の周りに他のポケモン達が増えたことに気付いた。

 それはカスミやマチスも、氷人形に対抗する為に更に自身の手持ち達を繰り出したからだった。

 さっきまで仮面の男が繰り出して来たポケモン達は、どんな戦いをしてどんな風に仕掛けてくるのかがわからなかった。

 だけど氷人形の戦い方は接近しての殴打など大雑把だ。それなら他の手持ちでも奴らに十分に対応出来た。

 

「私達は大丈夫だから、早くアキラのところに戻って!」

「てめぇらの仕事はここにはねえからさっさとトレーナーのところに帰れ!」

 

 カスミ達に促されてようやく決心したのか、ヤドキングとミルタンクの姿を保つドーブルはカスミに頭を軽く下げ、ゲンガーはマチスに対して”あっかんべー”をしながら共にルギアと戦っている仲間の元へと向かう。

 大幅な戦力ダウンではあるが、彼らはアキラの手持ちだ。自身のトレーナーとその仲間達が大変なことになっているのに、それでも尚自分達のサポートをしなくても良い。

 

 仮面の男も重要だが、復活したルギアも放置しては危険だ。

 意図的なものかは定かでは無いが、”あまごい”によるほのおタイプの弱体化や戦力の分散と仮面の男は自身にとって有利な状況を作り出しつつあった。

 

「スイクン、”かぜおこし”!!」

 

 他に繰り出した手持ちのお陰で出来た隙間を掻い潜り、カスミが乗るスイクンが仮面の男と共にいるラプラス目掛けて竜巻を横倒しにした様な猛烈な”かぜおこし”を放った。

 そのまま決まるとは思っていなかったが、想定通り”かぜおこし”は突然目に見えない何かに遮られる形で仮面の男とラプラスには届かなかった。

 

「”サイコキネシス”ね」

 

 ラプラスが使える技ではあるが、本来のタイプでも無いのに高い威力を有するのを見る限りではかなりの練度であることは窺えた。

 敗北寸前にまで追い詰められるまで出さなかった理由も気になったが、あのポケモンを倒せば今度こそこの戦いを終わらせることが出来る。

 

「カスミ君!」

 

 何としてでも倒そうとした時、カツラが声を張り上げたタイミングで何時の間にかデリバードがカスミの背後を取り、両手に生やした氷柱が鋭く光った。

 

 

 

 

 

 一粒の水滴が地面に落ちる。

 やがて落ちていく粒の数は徐々に増えていき、アキラ達が戦っているポケモンリーグ会場内で雨が音を立てて降り始めた。

 雨雲は広い屋内の会場ではなく、会場がある付近の空を覆っており、雨は破壊された天井の大穴から会場内に降り注いでいた。

 

 その会場内を浮き上がる様に飛行しているルギアの頭目掛けて、カイリューが振り上げた両拳を同時にハンマーの様に叩き付けた。

 アキラの手持ちで空中戦が出来るのは限られている。

 一応は飛び技や遠距離攻撃手段を殆どの面々は身に付けているが、それでも本領からは程遠くて直接戦えるカイリューを援護するレベル。高度によっては完全に手出しが出来ない。

 アキラがロケットランチャーを使うのも、愛着が湧いた以外にもそういう手が届かない遠くへ送り込める点に有用性を見出していることも理由にあったりする。

 

 そしてカイリューも自分達の土俵を良く理解しているからこそ、ルギアを地上に叩き落すことに躍起になっていた。

 さっきまで自分達が余裕だったのは、相手が力を出し切れていなかったのと相手を弱体化させることで自分達に有利な条件で戦えていたからだ。それらの要因が一切無ければ、伝説との力の差は大きい。

 

 カイリュー自身の打撃攻撃に地上にいるメンバーの対空攻撃がルギアに決まっていくが、元からルギアは打たれ強いのに加えて”じこさいせい”も問題無く使えるので、ジリ貧な状況であった。

 そんな時、数発の聞き覚えのある轟音が轟いた。

 

 一直線に飛ぶ無数の影、アキラがロケットランチャーで撃ち出した一匹であるサンドパンは両手の爪を重ね合わせて自身を砲弾にして、ルギアの体に深々と両手の爪を突き立てる。

 さっきまでなら爪を通して”どくどく”を注ぎ込む場面だが、ルギアは何時の間にか”しんぴのまもり”を使っており、その加護で状態異常にはならない状態だ。

 続けて撃ち出されたバンギラスとエレブーも全身を使ってルギアに激しくぶつかる。本来なら”すてみタックル”の様な反動系の技みたいなダメージが来るが、肉体的に屈強な二匹は反動を最小限に留めると同時にしがみ付く。

 

 それらをルギアは振り払おうとするが、サンドパンはせんすいポケモンの体に爪を突き立てながら、まるでロッククライミングの様にルギアの巨体を駆け上がっていく。

 当然痛みでルギアは体を揺らしたりして暴れるが、しがみ付いているバンギラスやエレブーが重りになっていることや、優れた体幹によるバランス感覚のお陰でねずみポケモンは振り落とされることなく長い首さえも渡り切って頭部へと辿り着く。

 

 そしてサンドパンは、降り注ぐ雨で体を濡らしながらも爪先からルギアの両目に向けて乾いた砂を大量に浴びせる”すなかけ”を仕掛けた。

 近距離からの思わぬ目潰しをルギアは受けるが、直後にサンドパンがルギアの頭から跳ぶのとほぼ同時に近いタイミングでカイリューの”れいとうパンチ”を立て続けに顔面に叩き込まれた。

 

 降っている雨によって、ルギアは顔を始めとした全身が水で濡れており、”れいとうパンチ”の冷気でルギアの濡れていた顔は瞬く間に薄い氷が張って凍り付いた。

 それも”すなかけ”による大量の砂を目に直接叩き込まれた状態でだ。

 

 容赦無い目潰しによる尋常では無い痛みにルギアは悲鳴を上げて更に体を激しく暴れさせるが、飛んでいるカイリューの体に飛び移っていたサンドパンが追い打ちで”めざめるパワー”の光弾を右手の爪から何発も放った。

 放たれた黄緑色の光弾は、激しく頭を振っている凍り付いたルギアの顔面に正確に命中して、ルギアの頭部は再び爆煙に包まれた。

 

 顔面――それも眼球などと言ったどう足掻いてもカバーし切れない体の構造的な弱点や急所を徹底して突いていく苛烈な攻撃。

 ここから更に攻撃をしまくって地上に引き摺り落とそうとするが、そこは伝説のポケモン。

 目が見えない状態で全身から”サイコキネシス”の衝撃波を放ち、あくタイプ故に無効化出来るバンギラス以外は近くを飛んでいたカイリューさえも弾かれる様に飛ばされる。

 まともに受けてしまったカイリュー達はフィールドに落ちるが、痛がりながらもすぐに打ち付けた体を起こす。

 

 まだしがみ付いているバンギラスは、強靭な顎でルギアに”かみつく”をしており、当人にとっては本気なのだが傍から見ると嫌がらせの様な攻撃をしていた。

 ジムリーダー達の援護に向かっていたゲンガー達もこちらを優先して戻っており、状況が悪いのは変わらないものの着々と反撃するのに必要な戦力や戦い方が整いつつあった。

 

「リュット」

 

 そんな時、雨に濡れながらアキラが起き上がったカイリューの元にやって来た。

 この状況なら、呑気に名前だけを呼ぶ筈が無い。なので彼の意図をドラゴンポケモンは無意識に理解していた。

 

「…ちょっとだけ俺を守るのをお願いしたい」

 

 短いながらも真剣な表情での彼の頼みに、カイリューは神妙な顔付きで頷く。

 

 

 

 

 

 戦いの喧騒から少し離れた場所で降り注ぐ雨に打たれる度に体から蒸発した湯気が絶え間なく湧いていたが、体に水を浴びる不快感を気にせずブーバーは足に力を入れて立ち上がった。

 体に雷を駆け巡らせて身体能力――特に素早さや俊敏性を高める技術の反動で体がまともに動かなくなっていたが、ようやく回復して来た。

 足元では先程負かしたホウオウが力無く倒れているが、ブーバーはまだ物足りなかった。

 

 もっと強くなりたい。

 

 止めを刺したのは己だが、それでも他の仲間との協力があったからこそ出来たことだ。

 カイリューは、ほぼ独力でスイクンを打ち負かした。

 こんな時も単独撃破に拘るつもりは無いが、それでも何時の日か独力で伝説のポケモンを倒すことを実現させる為にも、もう一度他の手持ちと協力して伝説のポケモンと戦うつもりだった。

 

 体の感覚を確かめ、”ふといホネ”を背負ったブーバーは足腰に力を入れると、ルギアと戦う仲間達の元へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 戻って来たゲンガー達三匹はすぐさま手にした得物でルギアを攻撃するなど戦いが激しさを増した中、アキラとカイリューは一旦戦いの場から一歩引き、雨に打たれながらお互いに横に並んだ状態で気持ちを鎮めようとしていた。

 今彼らは、お互いに今この瞬間考えているであろうことや感じていること、更には体の力の入れ具合や呼吸するタイミングなども合わせるべく、意識を集中させていた。

 

 それは彼らがタンバジムのシジマの元で修業を重ねる最大の理由でもある”トレーナーもその身を鍛えて感覚を研ぎ澄ますことで、ポケモンと心を通わせる”、その極致とも言える一心同体の感覚へ至る為の試みだ。

 

 そんな彼らの姿は、目を閉じていることもあって傍から見て精神統一をしている様に見えた。

 しかし、落ち着けようにも喧騒が大きいのと滾る感情などと言った他の考えを消してまで集中することは出来なかった。

 

「…やり方を変えるか」

 

 何も余計な雑念を消した上で、カイリューが考えていることを突き詰めていくのが必須な訳では無い。

 最も重要なのは、過程ややり方はどうあれ、心を通わせることだからだ。

 他にも方法はある。と言うか、寧ろそちらの方がアキラとしては合わせやすい。

 

 彼がやり方の変更を考えた直後、ルギアは口を大きく開けて自分達を狙った”エアロブラスト”を放ってきた。

 さっき目潰しをした筈だが、”じこさいせい”のお陰で視界が回復したのだろうか。

 アキラとカイリューは忌々しそうに舌打ちをすると、揃って横に大きく跳んで空気弾を躱した。

 

 さっきまでの戦いなら、”うらみ”や”どくどく”などの状態異常を使った弱体化作戦で弱らせることは出来た。

 現に戻って来たゲンガー達も、攻撃しながらどさくさに紛れてあの手この手でルギアを再び弱体化させようとしていた。

 

 しかし、今のルギアは”しんぴのまもり”による加護や空中を浮遊して距離があること、そして何より全ての呪縛から解放されて怒り狂っているのが影響しているのか、先程までとは違ってそれらの手段は効果が薄いか通用しなかった。

 この時点で、ルギアを弱体化させることやそれを前提に考えた作戦は軒並みダメなのは察せた。

 

 そもそも、アキラ達が考えている弱体化系統の作戦はある程度の持久戦前提だったので、一度戦った後にもう一度同じことをするには体力的に厳しいものだ。

 

 故にアキラ達が取った選択肢は、短期決戦。

 それも伝説のポケモンを力で捻じ伏せるという、自分達の得意分野であるが同時にルギアもその強さを存分に発揮出来る土俵でだ。

 

 下手な保険無しの真っ向勝負。

 勝てば最小限の消耗、負ければ以降の戦いには参加出来なくなる。

 博打に見えるが、アキラ達には勝てる勝算はあった。

 先程サンドパンとカイリューが仕掛けた目潰しの様に、相手の弱点や急所を突いて行く物理的な攻撃は通じていた。

 なので、力押しの攻撃でも相手の弱いところを的確に突いていくつもりだった。

 

 だけど、力で捻じ伏せると言っても程度は有れど準備が必要なことには変わりない。

 

 攻撃を避けた後、彼はカイリューと一緒に走りながらルギアの動向を意識しつつも可能な限り別の事に意識を向けていた。

 今カイリューが考えていること、走り方を始めとした体の動かし方、それらを可能な限りアキラは脳内に浮かべて自らの体を実際に動かしてトレースを試みていった。

 そしてそれらの試みはアキラだけでなく、カイリューも同じことをしていた。

 

 師であるシジマの指導下で行った様々な鍛錬や試行錯誤、そして経験のお陰で精神を統一した状態や互いに次の一手を読みながら行う手合わせ以外にも、彼らは自分達が求める領域に至れる様になっていた。

 変わらず時間が掛かるのと少し面倒な要素もあるが、こうして戦っている状況ならこちらの方が一番良いかもしれないので、そんなことを彼らは気にしていなかった。

 

 軽い準備体操代わりにカイリューが両手の関節を鳴らすと、アキラもそっくりそのまま同じ動きをする。

 アキラが駆け出せば、カイリューも寸分も狂わず同じタイミングで走り出す。

 彼らが走る先には、ルギアを相手にあらゆる方角から攻撃を仕掛けるアキラの手持ちと抵抗するかの様に両翼を振り回しながら首を激しく動かすルギアが、今も激しい戦いを繰り広げていた。

 

 そんな状況でもルギアは彼らの接近に気付くが、仕掛けられる前にアキラとカイリューは力強く踏み込む。

 飛び込む様に動くことで一歩だけ前へ踏み出す形で、吐き出された”エアロブラスト”をギリギリで避ける。

 

 狙いは足の関節

 

 ルギアの巨体を支える足をアキラは視界に収めてそう考えた瞬間、アキラと一緒に走っていたカイリューは”こうそくいどう”で加速してルギアへ突っ込む。

 そしてアキラは足を止めると同時に片足で支えながら、大きく足を振り上げて回し蹴りの様な動きをする。

 同時に突撃していたカイリューもアキラと同じ体勢――翼を利用して少し宙を浮く形ではあったルギアの膝に回し蹴りを叩き込む。

 ドラゴンポケモンの攻撃にルギアは顔を歪めるが、既にカイリューはアキラと共に次の行動へと移っており、彼らは互いに似た様な目付きでルギアを見据えていた。

 

 

 

 

 

「アキラさん、何をやっているのかしら」

 

 ルギアと戦いながらアキラとカイリューがやっている行動に、クリスは思わず疑問を零す。

 彼らは互いに離れていたり、ズレなど少し異なっている時はあるが、同じ動きを続けている。

 近くには他の彼の手持ち達もいるが、どう動けば良いのか指示などのトレーナーらしい動きを見せないアキラに不満や不安を見せるのは一匹もいない。

 逆に何かしらの害や余波が、アキラ達に来ない様に立ち回っている様にさえクリスには見えた。

 

 彼がやっている動きに何かしらの意味があることはわかるが、どういう目的でやっているのか皆目見当が付かなかった。

 実際、彼女の様に知らない人から見たら今のアキラの動きは奇妙なものだ。

 だが、知っている者が見れば、彼は何を狙っているのかはわかった。

 

 ゴールドは知っている者の一人であったが、期待半分不安半分なのが正直なところだった。

 今彼らがやっているのは、カイリューとトレーナーであるアキラが互いの体の感覚や考えを共有した様な状態にする為の試みだ。

 詳細は把握していないが、上手く行けば滅茶苦茶に強いカイリューにアキラと同等の人間離れした反射神経や未来を読んでいるとしか思えないまでの鋭敏な動体視力を付与出来るとか何とか。

 

 それが実現したスイクンとの戦いでは、互角に渡り合っていたスイクンを突然圧倒するようになったのを彼をこの目で見ていたので、かなり強いのは確かだ。

 

 問題は巨大なルギアを相手にどこまで通用するのかという点だ。

 アキラとカイリューがスイクンを圧倒出来たのは、スイクンが自分達とほぼ同程度であったことで彼らの土俵である接近戦でその力を存分に発揮出来たことが大きい。

 自分達よりも体格が何倍もあるルギアが相手では、同じように接近戦でその力を最大限に振るうのは難しい。

 

 そんな中、さっきまで体を休めていたブーバーが突如として戦いに乱入し、飛び蹴りの形で放った強烈な”メガトンキック”でルギアを横顔から大きく弾き飛ばした。

 遂にカイリューに次ぐ実力を持つひふきポケモンも加勢して、シバやキョウのポケモン達は際限なく再生する仮面の男を模った氷人形を相手にしていたので、戦いは本格的にルギアvsアキラの手持ち達の総力戦になった。

 

 今のルギアには下手な小細工が通じないと悟ったのか、この時点でアキラのポケモン達は連携による絶え間ない攻撃やルギアの急所狙いに方針を変更していた。

 誰かが攻撃すれば、他はルギアの注意や狙いを絞らせない様に立ち回り、必要とあればエレブーやバンギラスによる守りの用意もあった。

 それだけでもこの状態を維持出来れば、いずれルギアを倒せるのでは無いかと期待出来るまでにルギアを翻弄していた。

 

 だが、伝説のポケモンは甘くは無かった。

 

 数の利を生かしたアキラのポケモン達が仕掛ける攻撃にイタチごっこなのを悟ったルギアは、両翼を大きく広げる。

 ”ふきとばし”を仕掛ける前の動作であったので、阻止しようとカイリュー含めた面々が攻撃を仕掛けたり接近するが、一瞬でルギアの目が一際青く光る。

 直後に全身から強烈な”サイコキネシス”の念の衝撃波が放たれて、ルギアを狙った技は弾かれる様に軌道を変えられ、直接打撃を仕掛けようとしたのは接近出来なくて跳ね返される。

 そしてそのままルギアは巨大な翼を羽ばたかせて、自身の体に群がる敵対者を暴風で吹き飛ばしていく。

 

 当然カイリューだけでなく可能な限り近くにいたアキラも例外では無く、彼の体は瓦礫が散乱しているフィールドを転げていった。

 幸い散らばっている瓦礫に彼は頭をぶつけずに済んだが、それでも体の至る所を強く打ち付けたからなのか痛みで表情を歪ませていた。

 そんな彼と苦しくなってきた状況を見て、ゴールドは我慢が出来なくなってきた。

 

「おい、忍者おっさん。その”せいなるはい”を俺達のポケモン達に使ってくれないか」

「は?」

 

 唐突なゴールドの申し出に、逸れ氷人形の対処をしながらルギアの動向も気にしていたキョウは肩をすくめる。

 

「今おっさん達はアキラに力を貸せる様な状況じゃねえ。だったら、俺達のポケモンにその灰を使ってもう一度戦えるようにしてくれねぇか」

「お前達にこれか…」

 

 ゴールドが語る提案にキョウは難色を示す。

 アキラの話が事実なら、今”せいなるはい”が自分達の手元にあるのは大きい。なんせボコボコにされたルギアが完全復活したのだ。

 それ程までの効能を秘めたアイテムなら、この戦いで大きな役割を果たしている戦力がやられてしまった際に完全回復させることが出来る切り札的な役割が期待出来るのだ。

 そんな貴重な代物をオーキド博士が目に掛けているだけの実力不足の少年少女の手持ち達の回復に使う気にはなれなかった。

 

「まだ来るなゴールド!!!」

 

 キョウの気が進まないことを察したゴールドが言葉を続けようとした時、会話が聞こえていたのかアキラは張り上げる様な大きな声で制止を求めた。

 

「お前達が”せいなるはい”を使うのは良いけど、使ったとしてもまだ来る時じゃない。そもそもここでゴールド達が余計な消耗をする必要は無い!」

「っ、けどよ!」

()()()()()()()()()()()!!」

「…え?」

 

 アキラから発せられた声にゴールドは違和感を感じた。

 言っている内容自体、アキラが口にしそうなものではあったが、妙に荒っぽいのと何故か声色が微妙に別の誰かと重なっている様に聞こえたからだ。

 そして奇妙なことにアキラ本人も、自分が言ったことが上手く理解出来なかったのか、惚けた顔で何度か目を瞬かせた。

 そのタイミングで体を起こしたカイリューが横に並ぶと、彼らは何故か己の手を見つめ始め、互いに左右の手を何度も握り締めたりをする。

 その姿はまるで()()()()()()()()()()()()()()かの様な動きであったが、一通り確認し終えたのかアキラは不敵な笑みを浮かべた。

 

「こいつはここで、()()()()()

 

 カイリューと共にルギアを見据えて大胆な宣言をアキラはしたが、内容含めて浮かべた笑みは彼らしくないものだった。

 そんな彼らの姿に何故かゴールドは、どことなくアキラはカイリュー、カイリューの方がアキラの様な不思議な印象を受けるのだった。




アキラとカイリュー、ルギアを倒すべく切り札を切る。

弱らせる小細工が通じないのなら、相手の弱点を物理的に突いていきながら攻撃していくゴリ押しです。
シジマの元で修行を重ねたり、コツを教わったことで時間は掛かりますがそれでも偶然が多かった以前よりも意識的に彼らは一心同体の感覚へ至れる様になっています。

次回、アキラ達の大攻勢。

更新再開後も本作への感想や評価を送って頂き、本当にありがとうございます。
感想以外にも評価時の一言が付いているのやメッセージ含めて全て目を通しています。
本作を読んで下さっている方々の反応やメッセージが届いているのを見る度に凄く励みになるのや気付かなかった新たな視点や解釈に発見などもあって、嬉しくて趣味でももっと頑張ろうという気持ちが沸き上がります。

改めて本作を読んで下さっている読者の皆さんと感想や評価を送ってくれた方々に感謝します。
まだしばらく更新は続けられますが、これからもよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。