SPECIALな冒険記   作:冴龍

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第一章の頃から描きながらも遠回しな表現などに留めていましたが、今話から明確な名称付きでオリジナル技が登場します。
名称の由来については後書きに書いていますが、原作のとある技同様に元ネタは存在しています。
出す機会は少ないと思いますが、今後何回か登場すると思います。


追い求めてきた拳

 体に走る痛みを堪えながら、カスミは激しく動き回るスイクンの背から離れない様にしっかりしがみ付いていた。

 先程デリバードが仕掛けようとした不意打ちは、寸前でスイクンが気付いたお陰で逃れることは出来たものの、それでも傷付けられたことで出来た傷が彼女を苦しめていた。

 しかも次から次へと押し寄せてくる仮面の男の顔を模した大量の氷人形に、彼女達は苦戦を強いられていた。

 

 砕いたり破壊しても、氷人形は際限なく再生してきた。

 

 唯一エンテイが放つ炎で溶かした場合だけ無力化出来るが、その炎も降り注ぐ雨の影響で威力が弱まっていた。

 それらに加えて、仮面の男が連れるデリバードやラプラスの相手もしなければならないのだ。

 そしてデリバードだけでなくラプラスも尋常では無いまでに強かった。

 

 幸か不幸か、氷人形の生成や何かしらの操作に関わっているのかラプラスは積極的に動いていなかったが、氷人形の対処にも力を割かなければならないのでデリバードの脅威は増していた。

 ただでさえ伝説のポケモンを三匹同時に相手にしても戦えたのだ。そんな存在が今では鬼気迫る勢いで、何の躊躇いも無くトレーナーを狙っている。

 そんな押され気味な状況では何時までも耐え続ける方が難しく、遂にデリバードの”ずつき”をまともに受けて、スイクンの体と背に乗っていたカスミの体が宙を舞う。

 

「っ!」

 

 瓦礫が散乱するフィールドをスイクンの体は転げる。そんなスイクンに氷人形が殺到し、袋叩きにしようとする。

 彼女の元にマチスの乗るライコウが駆け付けるが、彼らも数の暴力で劣勢を強いられる。

 それでも彼らが時間を稼いでくれている間に何とかスイクンは体を起こしたが、こちらもマチス達と同様に押し寄せる氷人形に瞬く間に押し切られてしまう。

 

 苦戦する彼らの動向をラプラスの隣で窺っていた仮面の男は、離れた場所で繰り広げられているルギアとアキラとの戦いの行方に目を向けた。

 数と連携を駆使したアキラの手持ち達の総攻撃による大きな爆発があったものの、ルギアは未だ健在であり、彼らの戦いもこの場同様にもうしばらく時間が掛かりそうなのは容易に想像出来た。

 

「…仕方ないか」

 

 まだ邪魔者の多くを倒すことは出来ていなかったが、これ以上この場に残って戦い続ける意義は薄かった。

 何故なら、ポケモンリーグの開催時期を狙って襲撃をした一番の目的すら達成していないのだ。

 彼らの相手を氷人形達に任せることにした仮面の男はラプラスをモンスターボールに戻し、デリバードを伴ってその場から離れる様に猛スピードでポケモンリーグの会場に出来た大穴から外へ飛び出した。

 

「っ! 待ちなさい!」

 

 仮面の男がこの場から去るのをカスミ達は止めようとするが、ラプラスやデリバードなどと言った存在はいないにも関わらず、彼らが生み出した氷人形達が彼女達の行く手を阻んできた。

 ジムリーダーや伝説のポケモンが訳の分からない氷人形の軍勢に苦戦するなど悪い夢だと願いたかったが、こうして行動を制限されているのだから現実であった。

 

「っ! おい忍者のおっさん! その何とかの灰を俺達に使ってくれ!! 頼む!!!」

 

 さっきキョウに難色を示され、アキラにも一旦は止められていたがゴールドではあったが、仮面の男が去るのを見るや再度”せいなるはい”を使わせてくれるように頼み込んだ。

 アキラはルギア、ジムリーダー達は仮面の男が生み出した不死身の氷人形軍団の相手で手一杯の状況だ。

 シバやキョウも拘束した現ロケット団幹部の監視や逸れ氷人形を相手に終わりの見えない攻防を今も続けていたが、そんな誰もが苦戦を強いられている状況で仮面の男が去ったとなれば、ゴールドはもう大人しくしてはいられなかった。

 

「馬鹿か、お前らが仮面の男を追い掛けても返り討ちに遭うのがオチだ」

「時間稼ぎくらい出来る!」

「どれだけ稼げるかわからん時間稼ぎ程度の為に貴重なアイテムを使う訳にはいかない」

 

 改めてキョウは理由を挙げて拒否するが、そんなことはゴールドだってわかり切っていた。だけど、他に仮面の男を追い掛けたり戦うことが出来るメンバーはいないのだ。

 しかし、それでもキョウとしては、貴重なアイテムをこんな”子どもにしては強い”止まりの少年少女の為に使うことに気が進まなかった。

 視界の片隅では何やら不穏な様子を見せるシルバーにも気付いていたので、威勢は良いが無謀と言えるゴールドの主張も相俟ってキョウは頭が痛いとばかりの反応を見せた。

 仮に使うとしたらもっと戦力になるトレーナー、それこそ仮面の男と戦っているジムリーダー達と味方の伝説のポケモン達、またはアキラやその手持ち達に使うべきだ。

 

「……別に良いでは無いか? キョウ」

 

 そう考えたキョウであったが、唐突に氷人形の相手をしている手持ちを指揮していたシバは、ゴールドの頼みを受け入れたらどうかと彼に提案した。

 戦いに関してはストイックでシビアな彼がそんなことを言うのにキョウは意外な反応を見せるが、少し考える素振りを見せた後、彼は溜息にも似た息を吐いた。

 

「……はいはい、わかった」

 

 渋々と言った表情を浮かべながら、キョウはアッサリと対応を変えるやゴールドではなくてシルバーに”せいなるはい”が入った巾着を投げ渡した。

 何故シルバーに渡したのかは、何かしらの拒否を見せれば彼が”せいなるはい”が入った巾着を奪いそうな動きを見せていたからだ。

 唐突投げ渡された巾着を受け取り、シルバーは少しだけ困惑の色を見せた。しかし理由を尋ねる時間も惜しいと判断したのか、彼はすぐさま自身の手持ちだけでなく、ゴールドやクリスの手持ちにも浴びせる様に巾着に入っていた灰を振り撒いた。

 

 普通なら灰を浴びても何も起こる筈は無いが、すぐに目に見える変化が起きた。

 撒かれた灰を全身に浴びた彼らのポケモン達の体から傷跡やダメージが目に見えて消えていき、その効果の対象は振り撒いたシルバー自身や先の戦いで痛め付けられたゴールドとクリス、更にはグッタリしていた筈のオーキド博士も同じで、彼らの体からも不思議と打撲痕などの傷が癒えていった。

 

「傷が…」

「凄い、体から痛みだけじゃなくて疲れも取れていくわ」

「ほう。これは、凄い効果だな」

 

 氷人形を手持ちと共に食い止めながら、キョウはホウオウの炎によって生み出された”せいなるはい”が彼らに齎した効能に驚く。

 これだけの効力を発揮するのだから、アキラとシバに一度は倒されたルギアが完全復活するのも頷ける。そしてルギアみたいにホウオウが復活しなくて本当に良かった、と心底思った。

 それから三人は手持ち達共々、自分自身の体の調子や状態を確認していく。そして万全であることを確認するとゴールドとシルバー、クリスは互いに視線を交わして頷き合った。

 

「儂の事は大丈夫じゃ。気にせず行くんじゃ」

 

 自分の事は気にする必要が無いことをオーキド博士は三人に伝え、彼らは最後にルギアと対峙しているアキラとその手持ち達の状況を確認すると、一斉にこの場から去った仮面の男を追い掛け始めた。

 

「……何故あいつらの頼みを受け入れた」

「それは受け入れたお前も良くわかるだろ」

 

 キョウの質問にシバはぶっきらぼうに答える。

 ゴールドの主張通り、誰もこの場から去った仮面の男を追い掛けないのは不味いと言う考えもあったが、それよりも別の理由の方が大きかった。

 

 まだ若いがオーキド博士に見出されたレッドやグリーンが自分達を凌ぐ実力を発揮し、見出された訳では無いが彼らと関係は深いアキラも実力的にはどうしても及ばないと思われていたが、今では伝説と正面から戦える規格外にまで成長した。

 ならばオーキド博士に見出され、レッド達とも関係が深い三人も今の姿からは想像出来ないが、ひょっとしたら自分達には出来ないことや想像を超える何かを成し遂げるかもしれない。

 加えて”せいなるはい”の効果とその価値を正確に把握しているであろうアキラも、自分達よりも彼らの方に使うことを望んでいる節が見られた。

 

 何より、二人がこの戦いに加勢した理由がルギアとホウオウと言う絶望的なまでに力の差がある相手でも、一歩も引かずに戦い始めた彼らの姿にレッド達の姿を思い出したということもあった。

 根性があることもそうだが、ゴールド達にかつて肩を並べたワタルの野望を止めたレッド達と同様の可能性があることをシバは信じ、託してみたかった。

 

 

 

 

 

「ゴールド、思わず貴方を追い掛けてしまったけど何か策はあるの?」

「ねえ」

「なっ、無いの!?」

 

 倒壊気味のポケモンリーグ会場の通路を走りながら即答したゴールドにクリスは驚く。

 折角手持ち含めて全快したが、自分達では束になっても仮面の男を真正面から倒すのは困難だ。ならば何か作戦を考えてからの方が良い筈だ。

 

「ゴールド、俺もあまりお前のことを言えないが、こうして向かっている間に少しは考えるべきだろ」

「んじゃあアキラが駆け付けるまでの時間稼ぎ、もしかしたらその前にレッド先輩が駆け付けてくれるかもしれねぇけど」

「結局他人任せか…」

「レッド先輩は可能性はあるけど、アキラさんはしばらく無理じゃ…」

「いや、絶対に来る。手持ちが全員ピンピンしているし、仮に殆ど戦闘不能にされてもあの人は来るぞ」

 

 レッドはともかくルギアと現在進行形で戦っているアキラがすぐに来るのは無理だろうとシルバーとクリスは思ったが、ゴールドはどちらかが来ること、何ならアキラはルギアを倒して来るのを確信していた。

 さっき一度撃破していることもあるが、こうして走る前に見た彼らの姿に根拠があったからだ。

 

 横に並んだアキラとカイリューが、互いに右手を遠目でもわかるくらい強く握り締めて何かを整えていたからだ。

 その姿をゴールドは以前見たことがあった。

 あれは、自身がレッドと一緒にタンバジムで修業をしているアキラの元を訪れた時のことだ。

 

 その時、アキラは当時の手持ちの何匹かが使っている”みがわり”を応用した得物の生成などの幾つかの新しい力や技を披露して、第三者視点から見た意見を求めた。

 そして最後の総仕上げを彼は二人の前で披露した。

 

 その総仕上げで、あまりに常識外れ過ぎる光景を見せ付けられたゴールドは、信じられなくてしばらくフリーズしてしまったことを良く覚えていた。

 そしてさっき見た彼らの姿は、その常識外れ過ぎる光景の前に見せていた姿と同じだった。

 そこから導き出されることは一つ。

 

 アキラとカイリューを()()を使うつもりだ。

 

 

 

 

 

 ゴールド達が外へ飛び出した仮面の男を追い掛けていた頃、怒りの雄叫びを上げながら”じこさいせい”による回復で倒れた体を起こしていたルギアを見据え、アキラとカイリューは雨に打たれながらもひたすらに右腕と拳に力を込めて集中していた。

 

 内から込み上がる膨大なエネルギーが、カイリューの右腕に集約されていく。

 

 右腕だけでなく添える様に触れている左手からも感じながら、その過程で様々な記憶が互いの脳裏を過ぎっていくも、一番明確に思い出すのは最近レッドと交わしたやり取りだった。

 

 

 

 

 

 鼓膜が破れるのでは無いかと錯覚してしまう程の轟音と共に、巨大な氷山が音を立てて崩れていった。

 砕かれた氷の塊が崩れていく衝撃で砂埃や冷えて白くなった空気が周囲に広がるが、それを成したカイリューとアキラは気にすることなく腕を振り切った姿勢のままだった。

 少し離れたところで見ていたゴールドは、目の前の光景が信じられないのか口を大きく開いてこれでもかと言わんばかりに唖然としていた。

 

 仮面の男のデリバードから盗んだ”とけないこおり”を所持した状態で氷技の威力や操作具合を確かめたヤドキングが、新しく得た自身の力を確かめるために見上げる程に巨大な氷山を作り上げていたが、その巨大氷山をカイリューは文字通り一撃で粉砕したのだ。

 強いことは知っていたし、レッド以上に力に特化したトレーナーや手持ちを連れていることもわかっていたつもりだったが、ここまでやるとは思っていなかったからだ。

 

 アキラ達は一体何を目指しているのかわからなくなるレベルで、今目の前で彼らがやったことは桁違いだった。

 だが、そんなゴールドとは対照的にレッドは目を輝かせていた。

 

『スッッゲェ!!! そんな凄い技を使える様になったんだ!』

 

 口を開いたレッドの興奮は凄まじく、隣にいたゴールドは反応に困った。

 それはべた褒めされていたアキラも同じだったらしく、少しだけ満足気な表情こそ浮かべていたものの、ようやく体を動かすとまるで手の痛みを少しでも紛らわせるかの様にカイリューと同じ動きで手をブラブラと振っていた。

 

『前々から偶然発揮していたけど、ようやく意識した形で出せる様になった』

 

 強大な光線、破壊的な竜巻、爆発的な鉄拳

 

 以前からカイリューは、追い詰められた時などの極限状況でそれらの力を発揮することが多かった。

 フスベシティの長老との会話を機に慎重に検証などを進めていき、カイリューはドラゴンタイプの力――わかりやすい形で言えば”げきりん”を筆頭とした技を使う際のエネルギーを最大限に開放することで、規格外の威力の技を発揮出来ることがわかった。

 だけど単に”げきりん”を今引き出せる限界まで発揮したとしても、そう簡単に思惑通りにはいかなかった。

 

 現にカイリューとの感覚を共有出来るようにした上で、調整をして可能な限り負担は小さくしつつ威力を損なわない様にしたが、それでも一般的な技ではまず見られないレベルでしばらく尾を引きそうなくらい強烈な反動は残ったままだ。

 フスベシティの長老の忠告や合理性を考えると、他の技を磨いたり安定させた方が負担面や効率は良いが、それでも後先を考えていないとはいえ何かあった時の奥の手として、瞬間的に発揮出来る絶大な力を彼らはモノにしたかった。

 

 レッドはかなり褒めてくれているが、真面目に尋ねればちゃんと評価をしてくれる。

 その上で改善点にやった方が良い工夫を見極めたかった。より威力を高めるべきなのか、それとも反動を弱める方向性にすべきなのか。

 そう考えながらカイリューを経由して感じる手や腕の痛みを紛らわしていたが、レッドの第一声は思っていないものだった。

 

『それで、これって何て名前の技なんだ?』

『…技の名前? 最初に伝えたけど、”げきりん”を最大限に開放して、それを右腕に――』

『いや、どう考えてもあれを普段カイリューが使っている”げきりん”って言い張るのは無理があるぞ』

 

 アキラとしては他の技を使う際の体の使い方と言ったコントロールなどはしてはいるが、どれだけ威力を高めたり工夫を凝らしても”げきりん”の範疇内のつもりであった。

 だけどレッドから見たら、今みたいな巨大な氷山とも言える氷の塊を一撃で粉砕する威力の時点で最早別物。例えるなら”10まんボルト”を”でんきショック”と言い張る様なものであった。

 

 そこまで言われてアキラも納得するが、かと言ってカイリューが発揮したこの技が該当するであろう技名が、()()()()()()()()()()()()()()()()()浮かばなかった。

 忘れ気味ではあるものの、アキラのポケモンの知識はイッシュ地方にまで及ぶが、ドラゴンタイプの技でパンチ系統の技はその時点でも無かった気がする。

 

『アキラとカイリューが世界で初めて思い付いたんだから、新しく技名を付けるってのはどうだ?』

『新しい技名…』

 

 レッドの提案は理に適っている。ベースに既存の技があるとはいえ、ここまで別物なら別の技名にした方が識別や判断がしやすい。

 アキラも考えていない訳では無かったが、レッドに指摘されても気が乗らなかった。

 

 理由は大きく二つある。

 一つ目は良い感じの名前が浮かばない。

 二つ目はアキラ自身、オリジナルと言える技名を付けることに抵抗がある。

 

 一つ目の技名に関してはセンスなどもあるが、時間さえ掛ければ良いのは浮かぶだろう。

 だけど二つ目の問題は、気持ち的にあまり気が進まなかった。

 確かに一部のトレーナーには、相手を攪乱させる目的で既存の技を別の呼び方をするか、独自の形で更に応用や発展させたものにそういう名称を付けるのは少数ながらいる。

 

 今から一年前、イエローが連れている時にレッドのピカチュウが放った”100まんボルト”が良い例だ。

 しかし、アキラとしては未だに一線を引いていた。自分がそういう名前を付けるのは、おこがましいと考えているからだ。

 

『その様子だと、”自分が勝手にそんなのを付けるのはまずい”とかそんなところだろ』

 

 だが、そんなアキラが考えているであろうことはレッドにはお見通しであった。

 ちょっと融通が利かないところはあるものの彼が真面目なことは良く知っているが、昔から奇妙なところで謙虚を通り越して自身を卑下しているところが彼にはあった。

 素直に受けても良い周囲からの評価や栄誉さえも、彼は過大評価と受け止めていることが多々あった。

 そこにアキラが抱えている何かしらの秘密があるのでは、と薄々レッドは考えていたが、今回は触れなかった。

 でもちゃんと納得する理由を持って説得すればある程度は素直に聞くので、アキラを上手く納得させる術もレッドは知っていた。

 

『アキラ、普段から使っている”げきりん”と今使ったのを同じ”げきりん”扱いにしたら、咄嗟の時とか正確に伝える暇が無い状況だとカイリューとかの手持ちは混乱するぞ。特にお前が手持ちに伝える内容って難しいのがたまにあるし』

 

 御尤も過ぎるレッドの鋭い指摘に、アキラも内心では気付いていたが別に良いかと流していたことをハッキリと突き付けられて苦い表情を浮かべた。

 そもそも最近のアキラの手持ち達は、カイリューに限らずそういう傾向が強まってきていた。

 ”みがわり”を応用した各自が扱いやすいと考える得物の生成、ブーバーが実戦レベルにまで仕上げて来た全身に微弱ながら電流を迸らせた高速戦闘形態。

 一つ一つ個別の名称を付ける必要があるかは考えないといけないが、前者はともかく後者は何かしらの名称を付けないと使用タイミングの意思疎通が上手くいかない(勝手に使われるとも言う)可能性もあった。

 

『…確かにそう考えると正式な技名とかは除いて、自分達の中で識別できる名称を付けるべきかな』

『だろだろ。カッコイイ名前を付けようぜ』

 

 妙にワクワクしているレッドにアキラは苦笑を浮かべるが、まだ一心同体の感覚が残っている影響か、カイリューが考えているであろう色んな名前の候補が次々と脳内に浮かび上がっていた。

 無駄に凝ったのやブーバーが欠かさず見ているヒーロー番組や映画に出てくる感じのが多くて、アキラとしてはこの時ばかりは早くこの感覚が途切れて欲しかったが、途切れても余韻みたいなのが残ってしまうのでどの道すぐに切れることは無かった。

 こういうセンスが自分達には無いのも、避けていた要因だ。

 

『俺としては”ドラゴンスペシャル”とか、”スペシャルインパクト”とか――』

『……取り合えずスペシャルの発想から離れよう』

 

 やたらと”スペシャル”を名称に付けたがるレッドに、アキラは苦笑いを浮かべた。

 

 正式な名前にするつもりは無い。あくまでベースにしている技名と分ける為の識別名だが、このままだと変な技名になってしまうので考えるとなると前途多難だ。

 そもそも今は技名を考える時間が勿体無かった。

 

『それなら…カードから名前を付けるか』

『カード?』

『そうそう、アキラも持っているポケモンカード』

 

 その言葉でアキラはすぐにレッドが言いたいことを察した。

 ポケモンカードには既存の技名もあるが、カード特有の名前の技も多くある。レッドはそこから丁度良いのを考えようという提案しているのだ。

 ちなみにこの時、ゴールドは”アキラってカードゲームをやるんだ”と大分失礼なことを考えていたが、当のアキラは気付いていなかった。

 

 変にゼロから考えるよりは、何かから名前を貰うのは有りだ。

 そっちの方がセンス的にも優れているし、何よりアキラとしても心情的にそこまで違和感を感じなかった。

 やはりレッドはこういう時の発想や突破口の見出し方が上手いと感心していたが、ある問題があることに気付いた。

 

『レッド、持っているポケモンカードならクチバシティの自室に全部置いちゃっているよ』

『取りに行かなくても何枚かは憶えているだろ』

 

 レッドの言う通りではあるが、やるからには手を抜きたくないのがアキラの本音だった。

 

『えっと、ポケモンカードなら俺ん家にクリアファイルに入れているのも含めてあっけど、レッド先輩の頼みなら取って来るッスけど』

 

 ゴールドからも提案はあったが、どの道取りに戻る時間が勿体無かったので、一旦タンバジムに戻って体を休めるついでに三人は考えることにするのだった。

 

 

 

 

 

 少し前にそんな出来事があったことを思い出し、意識を現実に戻したアキラとカイリューは目の前で悪鬼羅刹を連想してしまう程の怒りを放つルギアを見据える。

 

 先程までの攻防の最中、そして過去の経験や情報から見て、ルギアの急所や大打撃を与えられると予想される箇所は推測出来た。

 

 爆発的に力を高めるだけでは無く。的確に相手の急所を捉えて、最大限の威力を発揮する。

 

 複数の技を同時に放つ際に生じる制御困難な強大なエネルギー。

 

 自分の体のリミッターが意図せず外れているのとは違うが、制御して使うには火事場の馬鹿力が起こる様にリミッターを一時的に外す必要がある。

 多大な負担になることは承知している。少しずつ体を慣らしてはきたが、それでも本番と同等であろう威力は練習の一回のみ。

 

 以前訪れたフスベシティの長老の忠告は、今でも彼らは憶えている。

 けど、経験してしまったのやいずれ必要になることを考えると余程の理由でも無い限り、あの力を求めるのをアキラもカイリューも諦める気にはならなかった。

 こんなにも早く、必要になる時が来てしまったのだから。

 

 ”メガトンパンチ”を意識して、そこに”げきりん”――ドラゴンタイプが放つエネルギーを集中させていく。

 徐々に握り締めたカイリューの右拳とその腕に、”げきりん”のオーラが集約されていき、眩い黄緑色の輝きを放ち始めていた。

 そしてドラゴンポケモンの右腕がこれ以上無いまでに強い黄緑色の輝きを纏った時、アキラとカイリューは駆け出した。

 

 この時彼らは、これさえ決めれば終わるという、謎の高揚感が湧き上がるのを感じていた。

 それはこういう実戦の場で強大な力を振るう時に感じる万能感とも言えるものであったが、彼らは”今この場でルギアを仕留める”という確固たる決意を抱いており、ある程度走った段階でフィールドを力強く踏み締め、跳び上がった。

 アキラはそこまでの高さでは無いがそれでも自身の身長以上、カイリューに至っては迫るルギアの頭と同じ高さにまで跳び、互いに右腕を大きく振り被った。

 

 元々付ける気は無かった。

 違和感があるのもそうだが、自分何かが考えるなんておこがましい。

 それが本音だ。

 

 だけど、他の技との混合を避ける敢えて名前を付けて意識することで、それが如何に特別なものなのかを意識した方が良いとレッドが勧めてくれたことで忌避感が薄れただけでなく、有用性も見い出せた。

 

 コイントスをして裏表――表なら戦い続けられるが裏ならここで終わり。

 アキラは表――成功して戦い続けるに賭けた。

 否、裏である失敗を引いてここで自分達の戦いを終わらせるつもりは全く無かった。

 そしてアキラは、頭に浮かんだその名を強く意識し、体の奥底から力を込めて叫んだ。

 

 

「”ドラゴンスマッシュ”ッッ!!!」

 

 

 高ぶった激情を乗せた吠える様な声を上げながらアキラは――カイリューは自らの手を握り潰す程に力強く握り締めた眩い黄緑色の輝きを放つ右腕を勢い良く突き出し、その拳は周囲に聞こえる程の鈍い音を伴ってルギアの左頬に突き刺さった。

 殴り付けた瞬間、拳を叩き込まれたルギアの顔は頬から大きく歪んでめり込んだが、それでも尚抗う目でドラゴンポケモンを睨み付けた

 

 しかし、それ以上の反撃が許されることは無かった。

 

 カイリューが右腕に纏う形で集中させていたドラゴンタイプのエネルギーが、ぶつけられた衝撃によって開放されたからだ。

 ルギアの顔がまともに直視出来ない程に眩い黄緑色の閃光に包まれた次の瞬間、常軌を逸した凄まじい爆発とそれに伴った爆風が一気に広がった。

 

 その影響は大きく、しばらくの間ポケモンリーグ会場内は、あらゆるものを吹き飛ばす程の激しい衝撃波に掻き回され、近くにいたアキラのポケモン達だけで無く、シバやキョウも体が飛ばされない様に必死で堪えた。

 

 やがて舞い上がった粉塵と共にそれらの衝撃が収まってから広がっていたのは、会場内にあった観客席を完全に崩壊させる勢いで叩き付けられ、顔にはめり込む勢いで殴られた拳の跡をハッキリと残して、白目を剥いて倒れている動かなくなったルギアの姿だった。

 

 まさかの展開に目撃していたキョウとオーキド博士は言葉を失う程に驚愕を露わにしていたが、唯一シバだけはアキラとカイリューが齎した結果に嬉しそうに満足気な顔を浮かべていた。

 

 被っていた青い帽子を吹き飛ばし、髪をさらけ出して固く握り締めた腕を振り切った姿勢のままのアキラに、その彼よりも前の位置に同じ体勢のまま地響きを立てながら着地するカイリュー。

 ルギアが健在だったら隙だらけな強く握り締めた拳を振り切った体勢のまま、彼らは固まっていたがしばらくしてようやく体を動かし始める。

 

「…うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 そして彼らは雨が降る中でも天を仰ぎ、獣の様に荒々しくも高ぶった感情を破裂させるかの様に激情の雄叫びを共に上げるのだった。




アキラとカイリュー、遂に意識して放てる様になった大技で今度こそルギアを仕留める。

”ドラゴンスマッシュ”
「ポケモンカードe 第1弾基本拡張パック」に収録されていたミニリュウのカードが使える技です。
ポケモンカードには”フリーズドライ”などの後にゲームで登場しているのと同じ名称の技もありますので、そこから持ってきました。

本作内では、以前アキラがレッドとのポケモンカードでのバトル時に出したカイリューのカードが使える技の一つという扱いで、効果などが元とは違いますが一足早く出していました。
作中内で言われている様に、正式な技名と言うよりはアキラ達の中で既存の技との区別や分類が面倒な力を判別しやすくする為に付けるという目的の方が大きいです。

次回、両者が再び相まみえます。
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